医学界新聞

 

ITを高齢者の友として

第7回日本老年看護学会が開催される


 第7回日本老年看護学会が,さる11月3-4日の両日,太田喜久子会長(慶大)のもと,神奈川県・藤沢市の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスを会場に開催された。
 今学会では,19群75題の口演,11群66題の示説による一般演題発表の他,会長講演「老年看護方法論の確立をめざして」やシンポジウムA「情報社会における老年看護の可能性」,同B「老年看護援助方法と効果性の追求」を企画。また,同学会の研究活動推進委員会による「実践の場と教育機関の共同研究の推進」など,3テーマによるインフォメーション・エクスチェンジや,「新しいコミュニケーション-高齢者の情報化」など6グループからの活動紹介展示も行なわれた。


実践と研究の協働で開発する看護方法論

 会長講演を行なった太田氏は,「老年看護方法論」について(1)老年看護とは,(2)老年看護の生い立ち,(3)「科学の知」と「臨床の知」,(4)老年看護学における方法論の開発,(5)老年看護方法論に含まれる要素,の視点から考察。「老年者の持つ潜在力をどう引き出すかを検討するのが老年看護」とした上で,(3)に関しては「科学は人の豊かさを増した反面,コントロールできない危険性も有している。科学と異なる新たな知の必要性が「臨床の知」を産んだとも言える」と述べた。またその違いについて,「科学の知」には普遍性が求められるが,「臨床の知」では個々の場や空間の現実が重要になることなどをあげ,前者は「仮説,演繹的推理,実験,検証の反復」によるものであり,後者は「直感・経験・類推の積み重ね,経験の構造化」で形成されると指摘。
 さらに氏は,看護実践者との連携のもとに研究開発した「せん妄ケアモデル」を紹介し,「老年看護方法論の開発は,実践と研究における専門家の協働作業によって行なわれる。一方,高齢者とともに生きる社会を作るためには,多様な価値観を受け入れつつ,高齢者と高齢者を取り巻く人々が互いに支えあう関係であることを認識していく必要がある。老年看護の専門家にとっては,方法論を開発することと,高齢者とともに生きる社会を作ることが,看護職者として,かつ1人の人間として,相互に連動する歩みであることが望まれる」とまとめた。

ITは高齢者をどこまで援助できるのか

 「高齢者にとって,IT化の波は最も遠い存在であるように思われているが,情報が少ない高齢者には,IT化によってもたらされる情報は,自分の健康のため,できる限りの自律的な生活を維持するために,より重要なものとなっている。急速に進展しつつある情報化社会の中での老年看護のあり方を考えたい」との主旨で企画されたシンポジウムA(座長=東海大 深谷安子氏,慶大 森田夏実氏)では,大川加世子氏(コンピュータおばあちゃんの会代表),中村哲生氏(エムイーネット),水谷信子氏(兵庫県立看護大),宮川祥子氏(慶大)の4人のシンポジストが登壇した。
 まず大川氏は,1997年に発足した「コンピュータおばあちゃんの会(URL=http://www.jijibaba.com)」を紹介。開設当時は,手技・視力ともに衰えている老人にはITは使えないという一般の認識があり,「正気?」とまで言われたが,パソコンは今や老齢者の心の孤独感を癒す機器となっている,などのエピソードを語った。また,「会話は生きていくための最高の栄養素である」と述べるとともに,「ジジババにはできっこないとの認識は改めてほしい。一番の幸せは自分のことを自分でできること。最期まで凛として生きていきたい」との望みを語り,参加者に「60歳になって晩年を考えるのでなく,若い時代から確実に訪れる衰えのことを考えて準備をしておきましょう」とのメッセージを投げかけた。
 また中村氏は,コンピュータと電話回線を融合した遠隔医療の1つである「CTIを活用した看護システム」を紹介。その概要を解説し,約1000名の患者を有する7診療所での運用の実際を報告した。さらに水谷氏は,北海道栗山町でのテレビ電話による支援システム「いきいきコール」を紹介。7名のボランティア協力員と8名の町保健師の運用実態を述べた。
 一方宮川氏は,藤沢市が慶大キャンパスやNTT東日本などと共同で開発している「e-ケアタウンふじさわ」を紹介する中から,「老年看護におけるITを利用した情報流通の可能性と課題」を発表。「この試みは,総務省の『e!プロジェクト』の介護福祉分野における実証実験に選ばれたもので,ITを生かした看護と介護の充実をめざしている」と紹介。ITを活用して「看護と介護がゆきわたり,安心して暮らせる町づくり」をめざすe-ケアタウンプロジェクトは,2004年まで開発事業(e-Japan事業の一環)が進められるが,(1)ヘルスアッププログラムや,(2)ファミリーケアプログラム,(3)介護プログラム,(4)専門家スキルアップ講座,(5)市民健康講座,(6)ケア情報セキュリティなどが,インターネットを通じて市民に提供されるようになることを紹介した。

老年者の援助方法確立のために

 なお,シンポジウムB(座長=東女医大水野敏子氏,茨城県立医療大 堀内ふき氏)では,「老年者の援助方法確立のためには,現在どのような取り組みがなされているのか,何がわかってきたのか,わかっていないことは何かを明確にしていく必要がある」として,3人のシンポジストから,(1)摂食・嚥下障害患者の食行動(ナーシングホーム気の里 田中靖代氏),(2)寝たきり予防(弘前大 田高悦子氏),(3)ユニットケアと地域社会(きのこ老人保健施設 武田和典氏)の視点で,具体的な援助方法が紹介されるとともに,その有効性が述べられた。本シンポジウムにおいては,実践者と研究者が連携して効果的な援助方法を蓄積し,共有の財産とすること。そのためには,さまざまな実践を言語化していくことの重要性が指摘された。
 次回は明年11月8-9日に,兵庫県立看護大(会長=同大 水谷氏)で開催される。