医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


今こそ求められる小児科医のアイデンティティ

《総合診療ブックス》
はじめよう臨床医にできる子育てサポート21

山中龍宏,内海裕美,横田俊一郎 編集

《書 評》横田俊平(横市大教授・小児科学)

「子育てサポート」マインドを持って診療にあたる

 今,小児科医のアイデンティティが求められている。医療は人の生死にかかわり,健康の保持にかかわる技術であるとすれば,社会が共有する重要な財産であると言える。そうであれば,子どもにかかわる小児科は,何にもまして社会の中でその技術を生かし,子どもにかかわる社会の動きを汲み取り,子どもの発育を支えるものであるべきで,小児科医の役割とは子どもの代弁者(アドヴォカシー)として社会に発言していくと同時に,子どもを取り囲む環境の改善に取り組むことにある。
 子どもの第一の身近な環境は,両親であり家族である。妹弟の面倒をみることなく少子化時代に育った子どもがすでに親になり,腕に抱いた子どもがはじめて抱いた子どもという時代にあって,親が子育てに戸惑っている。人が育つのは,人との関係の中においてのみであることを知っている小児科医は,子育ての現場に踏み込んで戸惑う親を支える役割を担うことになる。子どもに寄り添い,そして親に寄り添う。子育てサポートは,小児科医が小児科医であることを自己認識する契機でもある。

豊穣な香りを散りばめた内容

 しかし,子育てに黄金律はない。本書はこの原則に立って,経験深い著者たちのその濃厚な抽出物を豊穣な香りとともに散りばめたものである。本書の特徴は,それぞれの著者の生活に密着した思考の柔らかさ,著者たちのふだんの顔がみえるところにある。生活とは,毎日の工夫である。もっと父親が子育てに参加するにはどうしたらよいか。お腹の赤ちゃんもすでにお母さんと会話を始めているはずだ,ならば産院へ出かけていって妊婦さんの心配に耳を傾けよう(プレネイタルヴィジット)。乳幼児健診こそ子育てサポートのよい機会である。「ことばの発達は?」,「こころの発達は?」,「離乳食は?」,「おむつは?」親の心配は尽きず,著者たちの研究も尽きるところを知らない。
 著者たちは,決して高みから言葉を発しない。子どもの観察から自分の工夫を形にし,その形にさらに工夫を加える。「そうか」と納得し,それでは自分もやってみよう,と必ずや心動かされる工夫があちこちにみえるだろう。特に若い小児科医に本書を推したい。そして自分自身の「子育てサポート集」を作ってもらいたいと思う。
A5・頁256 定価(本体4,000円+税)医学書院


ロマンとヒューマニズムにあふれた痛快循環器診療書

開業医のための循環器クリニック 第2版
五十嵐正男 著

《書 評》石村孝夫(日本内科学会内科専門医会顧問)

コストの面から医療の本質を突く

 このたび,五十嵐正男先生の『開業医のための循環器クリニック』の第2版が出た。第2版のポイントは,先生も序文で述べておられるように,これからのわが国の医療は,コストを抜きにしては語れないということである。その中で,いかに無駄を省いた良い医療を行なうかを念頭に置いて初版の改訂を行なったとのこと。医療の本質は何か,コストのかからない医療すなわち低レベルではなく,逆に無駄の多い医療こそが,わが国の問題点であることを鮮明に突いておられる。おりしも2002(平成14)年10月より老人医療も定率負担となり,まことにタイムリーである。

循環器外来におけるあらゆる場面に対応

 実際の内容であるが,「病歴からの評価」では,自覚症状から診断するポイントが書かれている。多数の自験例に裏づけられているので,ふつうの内科診断学の本よりはるかに実用的。「診察からの評価」では,患者の第一印象だけである程度診断がつくことを強調,まさにベテラン医師の真骨頂と言える。「診断と治療」の項では,心不全の診断に「ANPは値段が高すぎる,これをみなくても臨床的に診断できる」など,歯切れがよい。虚血性心疾患では,冠動脈造影は狭心症の疑いの患者にすべて行なうべきではない,というのも大賛成である。長期予後にも言及,日本人にとって本当に適切な治療は何か,むやみやたらとPTCA,ステントを行なって医療費を押し上げることは問題で,「循環器専門医」に猛省を促している。
 きわめつけは薬剤の選び方で,「安くて良い薬を選ぶ」とある。薬価まで載っている徹底ぶりである。「送り先病院の評価」も大切なポイントで,患者さんを紹介する際の病院の選び方を詳述,いかに開業医に選ばれる病院になるか,患者さんに満足してもらえる医師になるか,本項は大学教授,大病院の医師も必読である。その他,外来でよく見る不整脈の治療法,白衣高血圧の扱い方など,ちょっと知っておきたい知識から,大規模スタディに基づく最新の知見,治療方針なども収載し,外来におけるあらゆる場面に対応できるようになっている。
 やれ電子カルテだ,医療のIT革命だとの議論も結構だが,近頃,患者の顔もろくに見ず,ましてや心聴診など一切しない「循環器医」が巷に増えているのは,由々しき問題である。本書は「開業医のための」とあるが,循環器の専門外来を行なうのに,開業医も大学病院も何ら違いはなく,したがって本書は開業医のみならず,学生を教える立場の大学教授から研修医に至るまで,すべての循環器医,循環器の患者を診る必要のある医師にはぜひ一読していただきたい。
 全編に五十嵐先生一流のロマンとヒューマニズムが流れ,本のボリュームも適当で,読み物としても痛快である。
A5・頁240 定価(本体3,600円+税)医学書院