医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


「小児医療から成育医療へ」のたしかな指針

小児科学 第2版
白木和夫,前川喜平 監修

《書 評》柳澤正義(国立成育医療センター院長)

 本書の初版は,日本小児科学会が100周年を迎えた年,1997年に発行された。学生向けの教科書ではなく,小児科医のための小児科学書,いわば『Nelson's Textbook of Pediatrics』のような本をめざしたものであった。実際,多くの小児科医や研修医の机上におかれて折に触れて参照されたものと思われる。それから5年が経過して,本年,早くも第2版が発行された。筆者には非常に短く感じられるこの5年間であったが,この間の医学,医療の進歩は非常にめざましいものがあった。ヒトゲノム解析が完了してポストゲノムの時代に入り,疾患の診断,治療も新しい展開をみせるようになってきた。また,情報技術の急速な進歩によって画像診断の精度の向上もめざましいものがあった。
 このような状況を背景に本書第2版は,白木和夫,前川喜平両先生の監修は変わらないが,編集者,分担執筆者は大幅に交代し,一段若い世代の力の結集によってでき上がったものである。もちろん,それぞれの専門領域においてわが国を代表する方々であり,適切な執筆者が選ばれている。内容がさらに充実したものとなっているのは言うまでもないが,編集面においても項目立てが整理され,すっきりしたものとなっている。また,医学・医療の進歩に伴って新たに加えられた項目も多い。初版の「小児婦人科」が第2版で「女性医学」となったのは,時代の趨勢によるものであろう。当然といえば当然であるが,初版に比べより完成度の高いものとなっている。

方向転換を模索する小児医療

 第2版の発行された本年,2002年3月1日に,国立成育医療センターが開院した。「成育医療」という新しい理念に基づく医療を先導する新しいナショナルセンターである。ここでは,小児医療,母性・周産期医療に加えて,生殖医療,胎児医療,思春期医療,小児慢性疾患を有する成人の医療まで,従来の診療科の枠を越えて,幅広く包括的な医療が行なわれている。現在のわが国は,社会のさまざまな仕組と同様に医療も改革を迫られている。その中で小児医療も転換を余儀なくされ,転換の方向を模索していると言ってよいであろう。「小児医療から成育医療へ」ということも方向の1つであり,第2版の頁を捲っているとそのような変化もところどころに感じられる。小児医学・医療全体の動きとともに本書の今後の展開を期待したいところである。
 いずれにしても常に座右に置いて,日常の診療の中で活用すべき本であり,すべての小児科医に心からお勧めしたい。
B5・頁1696 定価(本体26,600円+税)医学書院


劇症型心筋炎の最新知見を提示

劇症型心筋炎の臨床
和泉 徹 編

《書 評》河村慧四郎(阪医大名誉教授・内科学)

心肺補助循環療法の導入による救命率の向上

 劇症型心筋炎は,初発症状として感冒様症状に消化器症状を伴うことが多く,急激な心不全,心原性ショック,不整脈ないし心静止をきたし,従来の内科的療法には抵抗性を示し,大抵は致死的転帰をとる急性心筋炎として理解されてきた。しかし近年,心肺補助循環療法〔経皮的心肺補助装置(PCPS)や補助人工心臓(LVAD)など〕の導入により救命され社会復帰が可能となった症例の報告が増加し,本疾患に対する新たな救急医療のあり方が問われる事態になった。この趨勢に呼応し,日本循環器学会学術委員会は,和泉徹教授を班長とし全国規模の「心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎の治療と予後に関する調査研究」を展開し,計52症例の調査結果を基に心肺補助循環装置の運用ガイドラインをも含めた報告(1997-1999年度報告)を行なった(Jpn Cir J 2000; 64 Suppl III: 985-992, Cir J 2002; 66: 133-144)。
 今回新刊の『劇症型心筋炎の臨床』(和泉徹編集)は,上述の調査研究の基盤となった詳細な臨床データの内訳を中心に,診断,病因,病理,劇症化の要因,治療,長期予後などの諸項目につき,適切な文献的考察を加えて解説したもので,劇症型心筋炎の基礎と臨床の現状を理解し,今後の問題点を検討する上にも役立つまことに時宜にかなった書物である。なお,巻末に多数の症例報告が提示され,本疾患が多様多彩な臨床像を呈することを理解しやすい編集となっている。
 本書の目次は,「I.総論」,「II.劇症型心筋炎を診断する(A.臨床像,B.診断)」,「III.劇症型心筋炎を知る(A.病理,B.病因,C.病態生理,D.劇症化へのメカニズム,E.慢性期病態と長期予後)」,「IV.劇症型心筋炎の治療(A.急性期治療のプロトコール,B.慢性期治療のプロトコール,C.ステロイドパルス療法,D.γグロブリン大量療法,E.IL-10療法,F.抗ウイルス療法,G.補助人工心臓使用)」,「V.私の劇症型心筋炎経験例(A. PCPSにより急性期は救命できたが重症心不全で死亡した1例,他5例)」,「VI.特異な病態を示した劇症型心筋炎例(A.拡張型心筋症類似病態に移行した劇症型心筋炎例,他5例)」と,索引(和文,3頁;欧文,1頁)よりなる。
 各章の執筆は,上述した調査研究班の構成員が分担し,随所に3年間の調査研究の豊富な経験と討議内容の反映がうかがわれる。

社会復帰可能な症例に伴う社会的関心の高まり

 劇症型心筋炎の疫学は不詳であり,心筋炎劇症化の成因も不明である。近年,本疾患の症例報告数は少なくないが,実際の患者数はさらに多いと考えられる。劇症型心筋炎の根治療法のめどはまだ立っていないが,PCPSで急性期を乗りきれば心機能改善が望め,社会復帰可能な症例もあることに社会的関心が高まり,最近は本疾患患者の早期対応に関連した医療訴訟の事例もまれではない。既往歴に心疾患のない健常者が,感冒様症状から緊急に循環器専門の救急救命医療を迫られることになるので,プライマリケアにおいても,本疾患の早期診断の技量が問われる時代である。なお,本書で詳述されているPCPSを用いた本疾患52名については,30名(58%)が社会復帰可能であったが,その後3年間の追跡で再入院3名(10%),再燃1名(3%),死亡3名(10%)がみられ,本疾患の長期予後の改善についても今後検討を要する。
 本書は,劇症型心筋炎の現状と近未来の臨床的・基礎的課題に関する情報が豊富で,循環器専門医をはじめ,プライマリケアから3次救急医療の担当医,さらに循環器疾患の病理学,免疫学,感染症などに関心のある研究者にも広く推奨される好著である。
B5・頁176 定価(本体5,500円+税)医学書院


子育てサポートマインドを持って診療にあたるヒント満載

《総合診療ブックス》
はじめよう 臨床医にできる子育てサポート21

山中龍宏,内海裕美,横田俊一郎 編集

《書 評》安次嶺 馨(沖縄県立中部病院副院長・小児科)

 臨床の第一線ですぐに役立つ《総合診療ブックス》シリーズに,新たな本が加わった。シリーズ15冊目であるが,小児科関連では4冊目で,『はじめよう 臨床医にできる子育てサポート21』というユニークなタイトルの本である。編集者は山中龍宏,内海裕美,横田俊一郎の3氏で,いずれも小児科診療の第一線で活躍する著名な小児科医である。
 「出生前育児指導-プレネイタルビジット」,「ことばの発達へのサポート」,「乳幼児の睡眠に関するサポート」など21のトピックスについて,日本外来小児科学会などで活躍する気鋭の書き手たちが,豊かな経験から編み出した子育てサポートについて述べている。
 各項目の見開き頁には,執筆者の紹介と診療風景の写真が載せてある。年代記述式の略歴とパスポート用の写真という一般の紹介の仕方に比べて親しみを感じさせ,執筆者の素顔の見えるレイアウトになっている。
 各項目は,冒頭に「子育てサポートマインドで日常診療を変える」,「子育てサポートの知識・技能を見直す」という共通項に要点を箇条書きで示す。ついで,関連するケースを1-2例提示し,そのテーマについて解説する。さらに「ケースの教訓」で,執筆者が事例にどのように関わったか,具体的な対応について学ぶことができる。

個性が強くにじみ人生観も投影された豊かな内容

 記述はきわめて平易で,看護師や保育士,また医学生や看護学生にも十分理解できる。しかも,執筆者の個性が強くにじんでいて,1人ひとりの小児科医の人生観が投影されている。経験の浅い若い人には,先輩のアプローチを学ぶ書であり,経験豊かな小児科医には,自分とは異なる他の医師の手法が参考になるであろう。
 急性期医療,専門医療に多忙な小児科医にとっても,小児医療の原点とも言える子どもとその生育環境に思いをいたす格好の書であり,小児医療に従事するすべての職種の方々に,ぜひ,読んでいただきたい本である。
A5・頁256 定価(本体4,000円+税)医学書院


“かゆいところに手が届く”きわめて実践的編集

腎機能低下患者への薬の使い方
富野康日己 編集

《書 評》小池隆夫(北大大学院教授・免疫病態内科学)

 超高齢化社会の到来が現実になり,加えて糖尿病患者の急増などにより,腎機能が低下している患者に遭遇する機会も増えてきた。また,腎機能は正常でありながらも,現在投与している薬がどの程度腎機能に障害を与えるのか悩むことは,日常臨床ではしばしば経験する。

投薬に際しての疑問や注意点がたちどころにわかる内容

 このたび富野康日己教授が編集され,ご自身と順天堂大学医学部腎臓内科のスタッフによって執筆された『腎機能低下患者への薬の使い方』という実に実践的でかつ有用な本が上梓された。私から申すまでもないが,富野教授は,IgA腎症の世界的な権威であられる。数年前『IgA Nephropathy; from molecules to men』と題する研究の集大成を〈Contributions to Nephrology〉(Karger)に,ご自身の単著で上梓され,その内容の豊かさに圧倒されたことが記憶に新しい。今回のテキストは,それとはがらりと趣が変わり,まさに“かゆいところに手が届く”編集で,きわめて実践的であり,われわれがしばしば遭遇する,腎機能低下患者への投薬に際してのさまざまな疑問や注意点が,たちどころにわかる内容になっている。

大変役立つ「ワンポイントアドバイス」

 「腎と薬物療法」,「腎と薬物動態の基礎知識」の2章からなる総論と続く8章に及ぶ各論から構成されている本書の最大の特徴の1つは,腎機能低下時における各種薬剤の使い方を,見開き2頁にコンパクトにまとめてある点である。薬剤名と常用量ならびにその薬剤の腎排泄率が簡潔に記述されており,続いて腎機能低下時の処方例や副作用ならびに相互作用の要点が書かれている。特記すべきは,「ワンポイントアドバイス」が全薬剤につき述べられていることであり,これが大変に役立つ。まず最初にこの部分に目をとおし,投与する薬剤の基本的知識を再確認するとよい。
 本書の約半分が,抗生物質と降圧剤を主体とした循環器薬で占められていることも,日常臨床でこのような薬剤が使用されることが多い現実に即している。アミノグリコシドはもとより第三世代セフェム系,キノロンさらにはニューキノロンにも記述が及んでいる。また腎機能障害時に使われることの多い各種ACE阻害薬や,最近のアンジオテンシンII受容体拮抗薬も記載されている。
 腎臓病一般に使用する治療薬が,副腎皮質ホルモン,免疫抑制剤,利尿薬程度しか存在しないにもかかわらず,日常臨床で遭遇する腎機能低下患者はきわめて多く,さまざまな注意が必要であることは皮肉な現実ではあるが,本書は大きさも手ごろで,日常臨床にきわめて有用であり,研修医や一般医家に広くお勧めしたい。
B6変・頁292 定価(本体3,800円+税)医学書院


薬理学・臨床薬理学書の歴史に残る名著改訂

Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics 第10版
Hardman J. G.,Limbird L. E. 編

《書 評》中野重行(大分医大教授・臨床薬理学)

実に60年の長きにわたって燦然と光り輝いてきた出版物

 薬理学・臨床薬理学となんらかのかかわりを持ちながら仕事をしている研究者・臨床家にとって,バイブルのごときGoodman & Gilmanの『The Pharmacological Basis of Therapeutics』の改訂第10版が出版された。5年ぶりの改訂で,相変わらず約2000頁以上の大著である。初版が出版されたのが1941年,実に60年の長きにわたって燦然と光り輝いてきた出版物である。
 このたび,医学書院より「書評」執筆の依頼をいただいた。何しろ膨大な一書であるため,読みとおした上で書評を書くのは不可能である。また,歴史に残る名著である本書の書評執筆など,筆者には荷が重過ぎる。そこで筆者が今まで本書をどのように利用してきたか,つまり個人的な「使い方」の一端を紹介して,その責を果たしたいと思う。
 第1の利用の仕方は,とにかく「くすり」についてわからないことがあれば,まずひもといてみるという使い方である。本書には薬に関する情報が満載されている。例えば,最近,臨床試験の起源に関心を持ち調べたことがある。英国海軍軍医のLindが壊血病に対して柑橘類が予防効果を持つことを比較試験により明らかにしたのが1747年,今から250年以上も前のことである。ビタミンCの個所をみると,同定されたのは1907年であるから,比較臨床試験の歴史は160年も遡ることになる。わが国ではじめての比較試験は,脚気が食事で予防できることを明らかにした日本海軍軍医の高木兼寛の業績(1880年)であるが,ビタミンB1の個所には,その化学構造式が明らかになるのが1936年と記されているから,約半世紀も前であることがわかる。当時は主流であった脚気感染説の誤りを明らかにできたのは,臨床試験のおかげである。このように調べたいことがあれば,まず本書をひもといている。日常的に手軽な薬の百科事典代わりに使える点がありがたい。
 第2の利用の仕方は,本書巻末に掲載されている薬物動態値の表の利用である。臨床における薬の合理的な使い方を考える際のみならず,臨床薬理学的研究計画を組む際にも,臨床的に重要な薬物の薬物動態値の平均値と標準偏差値の記載された表は,きわめて有用である。
 第3の利用の仕方は,本書が基礎的な薬物の情報を網羅しているだけでなく,合理的な薬物利用の原則を踏まえて書かれているため,臨床で基本的な疑問が生じた時の解決の糸口を得るために使えることである。小児への抗生物質の筋肉内注射により発生した大腿四頭筋拘縮症が,1960年代に社会問題となった。筆者の敬愛する小児科医が精力的に調査を進めた結果,筋注部位も問題であることが判明した。筋注の適正使用部位は大腿側面であり,大腿前面は大腿四頭筋拘縮症が出やすい。筋注の適正使用部位が大腿側面であることは,当時のわが国の薬理学教科書には記載されていないが,このGoodman & Gilmanの本には明確に記載されていたのである。

診療,講義,論文執筆などあらゆる点で有益

 筆者は医師になって4-5年後から本書を購入するようになり,改訂版が出るごとに買い求めている。本書を通読する気にはならないが,診療,講義,論文執筆などに際して身近に置いておくと有益である。
 数年前に日本臨床薬理学会で教科書『臨床薬理学』(医学書院)を編集することになった際,筆者はその編集実務を担当した。その際に記載内容はもとより,用語の使い方も含めて折に触れて本書を活用した。その他にも多様な使い方が,読者それぞれあるものと思う。
B5・頁2148 19,000円(税別)
Mcgraw-Hill社/医学書院総代理店


理学療法士集団の未来に向けての真摯なメッセージ

理学療法の本質を問う
奈良 勲 著

《書 評》沖田一彦(広島県立保健福祉大助教授・理学療法学)

 組織とか社会といった集団の性格は,ひとくくりにして語られることが多い。しかし,集団の持つ性格や方向性は,そこでリーダーシップをとる人間のそれに強く影響されている。逆に,そうでない集団が長続きしないことを,われわれはよく知っている。
 本書の著者は,1989年に日本理学療法士協会の会長に就任して以来,今日に至るまでわが国の理学療法士の強力なリーダーとして活躍してきた人物である。本書を読めば,著者がどれほど個性的な考え方で時代をリードしてきたかがわかる。
 本書は,全4章20節からなる。おもしろいのは何と言っても第1章と第4章である。なぜなら,その文章の多くが,一人称,すなわち「私は」で書き始められているからだ。医学・医療の業界で少しでも文章を書いた人間であれば,これにどれほど勇気がいることかおわかりだろう。それには“責任”が伴い“自信”が要求される。しかし,1960年代においてすでに,著者にはその両方が備わっていた。そうでなければ,(あの時代に)アメリカの大学の理学療法学部を卒業し州の資格試験に合格した後,せっかく就職が決まった病院を,「職員のヒゲ(著者のトレードマーク)は許可されていないので剃ってほしい」と言われたことで辞職したりはしない。読者は,第1章においてすでに,著者がリーダーとなる必然があったことを了解する。

後進に残した課題

 考えてみてほしい。30年前のわが国の理学療法がどのような状況にあったかを。筆者の覚えている20数年前ですら,少なくともそれは,哲学だの大学院だのと言う状況とは程遠かった。当時,アメリカから帰国した著者には,その状況を変えなくてはならないという強い信念があったはずである。そのあたりの事情は,第2章に詳しい。また,それを実現するために,理学療法(士)にどのような科学的背景が必要になるかを論じたのが第3章である。
 この第3章に書かれた内容については,妥当なものもあればそうでないものもあるように感じる。浅学を省みずに言えば,こんな時代だからこそ,第4章に「理学療法士の詩」として掲載されている自作の詩の一節として,「それでも修行に修行を重ね痛みも分かる感性が養われ 患者の信頼をときたま受ける そのときの感激が忘れられず 安い給料に泣き泣き耐えてきた」と表現されている理学療法(士)の哲学や価値を,第3章の内容と区別せずに表現してほしかったという思いはある。
 しかし,それは著者が後進に残した課題なのだと思う。『理学療法の本質を問う』とは,われわれ自身に向けて発せられた言葉にほかならない。だから,本書は単なる“読み物”ではない。われわれには,1人の人間が「愛している」と表現する集団の未来に向けて書かれた本書に対峙し,そこに込められたメッセージを読み解くことで,自分たちの手で未来を切り開いていく責任がある。
A5・頁176 定価(本体1,900円+税)医学書院