医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


がん化学療法看護のベスト・パートナー

患者の「なぜ」に答えるがん化学療法Q&A
渡辺 亨,飯野京子 編

《書 評》足利幸乃(日本看護協会神戸研修センター・
 認定看護師教育課程がん化学療法看護担当)

 本書は,がん化学療法看護への関心とニーズが高まっているこの時期タイムリーに刊行されました。本書のベースは,2002年『看護学雑誌』(医学書院)の1月号,5月号に掲載されたがん化学療法に関する特集ですが,刊行のスピーディさには驚きを隠せません。本書の重要なコンセプトの1つに,編者の渡辺亨先生が強調されている相互性(interactive)というものがあります。本書の特色である「Q&A」は,その相互性を強く意識した構成になっています。また,分子標的療法などの新しいトピックスに対しても応えており,がん化学療法の今という時期に対してもinteractiveな本となっています。

読み込んでほしい本書の内容

 本書は,26のQ(questions)とA(answers)が2部に分かれています。I部は,抗がん剤治療を受ける患者さんがよく持たれるQと,それに対するAであり,II部は,抗がん剤による副作用症状のマネジメントに対するQ&Aです。26のQは,国立がんセンター中央病院で抗がん剤治療にかかわる看護師の協力を得て作成されたもので,臨床的にも内容的にも重要でよいQがそろっています。そのQに対する答えは,この質問の答えはこうですという表面的なものではなく,それぞれQの意味と,どうしてその答えになるのかという「なぜ」が解説されています。この解説の中に,臨床腫瘍学や抗がん剤治療に関する必須の基礎知識,最新の症状マネジメントの考え方やガイドラインが反映されています。
 本書のもう1人の編者である飯野京子先生は,「抗がん剤治療を受ける患者の質問から逃げたり,患者のニーズにそわない情報提供や患者教育をしている看護を責任ある看護と呼べるだろうか」と看護を問うています。これが本書の2番目の重要なコンセプトであり,読者がこの本を読む目的となります。26のQ&Aをよく読み込み,その内容を自分の言葉で話すことができるまでになれば,抗がん剤を受ける患者さんやご家族からくるいくつかの質問に確実に答えられるようになるでしょう。また,読者が抗がん剤について持たれている疑問のいくつかに対して,「わかった」,こういうことだったのかという答えが得られるかもしれません。
 抗がん剤治療にかかわるナースにとって,臨床腫瘍学,抗がん剤についての知識を持つことは不可欠ですが,それらの勉強をする上で適切な本は数少ないです。よい質問とよい答えは,知識の意味づけと獲得にいたる一番の近道です。本書は,がん化学療法のエッセンスを知りたいと思うがん化学療法領域で働くナース,がん化学療法についてもう一度知識の整理をしたいと考えているナースに強く勧めたい本です。読みやすい本ですが,内容は要点をついて充実しています。26のQをご自身のQと重ねあわせながら,本書の内容が臨床で使える知識となるまで読み込んでほしいと思います。
A5・頁168 定価(本体2,000円+税)医学書院


「右肩下がり」にあふれ出る言葉たち

べてるの家の「非」援助論
そのままでいいと思えるための25章

浦河べてるの家 著

《書 評》石田昌宏(日本看護連盟常任幹事)

 企業の本質は,「ゴーイング・コンサーン(going concern:継続事業体,永久事業体)」である。大学院にいたころに私はそう習った。
 企業は顧客,関連会社,取引先との相互関係なくしては存在しえない。また労働者を継続して雇用し,長期的な耐用年数を持つ設備投資を反復している。これらのことは,企業が将来も継続して存在することが認知されているから安心して行なわれるのである。なくなることがわかっている企業に人は就職しないし,銀行もお金を貸さないし,取引先も早く遠ざかろうとする。もし前提として企業に継続性がないとすれば市場システムが崩壊する,という理論だ。
 確かに右肩上がりに成長していく世界観の下では,ゴーイング・コンサーンは成り立つだろう。しかし今日の日本経済ではないが,生産人口の減少,消費の限界という言葉が代表するような右肩下がりの環境下では,企業は永久に継続するという前提は成り立たたず,経営学はゴーイング・コンサーンに代わる新しい概念を見つけなければならない。そう,右肩下がりの生き方を。

なぜこんな事業体が年商1億なのか?

 『べてるの家の「非」援助論』を読みすすめると,言葉が生き生きとあふれていることに驚いた。
 《「諦めること」……それをべてるでは生き方の高等技術としてとても大切にしています》
 《「安心してサボれる会社づくり」が僕たちの会社の理念です》
――どうみても浦河べてるの家は,ゴーイング・コンサーンを無視している会社だ。経済学的に見れば“本質がない企業”となる。それなのになぜか,こんな事業体が北海道の浦河という町で年商1億円をあげ,町の経済を牽引している。

なぜ再発をくり返しても「順調」なのか?

 《べてるの良いところは……ぐちゃぐちゃなところ! 人間関係がドロドロしているところ!》
 《記念すべき最初の集いのタイトルは「偏見・差別大歓迎! けっして糾弾いたしません」》
 《看護婦さんは患者さんが退院する時にこういいます,「予定どおり再発するかもしれないね」と。そして,「再発しても順調だよ」と》
 私は精神障害者の社会復帰・社会参加をめざした活動をしていたことがあるが,こんな言葉は過去の私の中にはなかった。リハビリテーションといえば,ドロドロはすっきりさせ,偏見差別はなくし,再発は予防する,だったはずだ。
 それなのに,なぜべてるの住民たちは順調に暮らしているのだ? 全国各地で講演をしているのだ?

「弱さ」を認めた時「語り」が生まれる

 読み終えて納得した。べてるの家の中はぐちゃぐちゃだ。ではどうしてぐちゃぐちゃかというと,メンバーが自分自身のことを「語る」かららしい。語るエネルギーがべてるの家をかたち創っている。
 そして,語ることが許されているのは,「降りる生き方を認め」,「ありのままを肯定し」,「弱さを大切に」する場を意識して用意しているからだ。
 このぐちゃぐちゃの中に,新しい本質が隠されていると思う。混沌から秩序が生まれるように,ぐちゃぐちゃの意味を言葉で表現した時に,その本質は人々の前に姿を見せる。この本はそんな意欲的なチャレンジの成果だ。医療福祉関係者だけではもったいない。企業社会のあり方に行き詰った人にもぜひ読んでほしい。
A5・頁256 定価(本体2,000円+税)医学書院


ロービジョンケアの理論と実践をわかりやすく解説

ロービジョンケアの実際
視覚障害者のQOL向上のために

高橋 広 編集

《書 評》東 清巳(熊本大・教育学)

 「目から鱗」という表現が,ぴったりの読後感である。
 視覚障害者のQOL向上のための訓練と援助(第4章)で「見えることと見ることの差異」という表現が出てくる。本書では「見ること」について,ロービジョン者の障害の中でも,特に大きな問題である視野障害を取り上げ,視野拡大訓練により周辺部の情報をとらえることができること,同時に全体像を結びつけて意味ある情報に変えられること,と説明している。
 ふだん私たちが何気なく見ていることと,何が見たいか自覚することにより見えてくるものは違う,ということと相通じる部分があるように思われる。もちろんロービジョンケアにおける「見ること」の意味あいは,このような感覚的なことではなく,科学的な訓練により獲得される視機能であることは言うまでもない。

ロービジョンケアはキュアからケアまでを包括する

 第1章は,障害者が持つ機能をプラスにとらえ,QOL向上に向けて障害者本人の意図にそったかかわり合いが,援助のポイントであると述べている。さらに重要なことは,患者本人が「自分の見え方」を知ることであり,ニーズに合わせた光学的補助具などの選択と日常生活に根ざした訓練が大切であるとしている。第2章では,ロービジョンケアに必要な基礎知識が解説されている。解剖・生理学的解説にとどまらず,視覚は経験や訓練により発達すること,「みる」という言葉が持つ意味の多様さ,つまり視覚が生きていく上で欠かせない感覚であることを再認識させられる。第3章は,補助具の選択と視機能の増強について,写真を多用しわかりやすく解説している。加えて機器の取り扱い業者や盲導犬育成協会など,すぐにでも活用できる情報が提供されている。第4章は,保有視機能向上のための訓練に加え,視覚以外の感覚を意識して能動的に用い始める意味と方法を解説しており興味深い。第5章は,歩行訓練士・生活指導員である山田信也氏による分担執筆章で,日常生活援助(歩行訓練,調理訓練,整容,レクリエーションなど)について詳説している。同氏の視覚障害者の生活再構築に向けた基本姿勢と,それを裏づける知識の豊富さに驚かされる。また保助看法にある療養上の世話と重なる部分も多く,第9章の看護師の役割とどう違うのか,危機感さえ覚える章である。
 第6章の視覚障害者の年齢別対応では,援助者の観察力や感性の重要性が強調されている。また,発達課題に応じた心理的ケアについてもかなりの紙面が割かれており,ロービジョンケアへの基本的スタンスがうかがえる。
 本書の全体に流れているものは,ロービジョンケアがキュアからケアまでを包括するもので,医療の本来的なものであるという強い確信であり,視覚障害者の保有視機能を最大限に活用し,QOLの向上をめざすということである。また従来の眼科医療への反省も踏まえ,「21世紀は治療とケアの時代であると確信している」とも述べており,その21世紀のケアの中心的担い手となる看護学生はむろん,医師・医学生にも一読を勧めたい。
B5・頁216 定価(本体3,200円+税)医学書院