医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 一念発起!

 馬庭恭子


 ぐんと冷え込んで,もう窓の外では,濃淡の木々が風に揺れている。
 日々は過ぎ,いつの間にか「がん2年生」を迎えた。抗がん剤の副作用による手と足のしびれは,変わらない。ずっとこうかもしれないと思うと気が滅入るので,「きっとよくなるわ」と思って暮らしている。訪問看護も,退院して1年間やってこれた。感動の看取りもできた。
 患者さんやその家族の思いが,本当に肌に染みいるように理解できる。やっぱり病気になったおかげだと思う。今まで,現場でたくさんの学びがあった。いつかその学びを,形にして地域のたくさんの人にお返ししたいと考えていた。
 在宅緩和ケアを特化した形で7年間。おかげで,訪問看護ステーションは軌道に乗り,順調に回っている。
 「ここで勝負?」に出ようと決意する。後進に所長の任を譲り,教育担当で非常勤ナースになり,必要な時間を捻出する。しかし,周りのみんなは,「いったい何をするの?」とけげんな表情。
 「生き直すつもりで,市民派の政治に取り組むわ」
 「えー」
 みんなは目が点になって,絶句する。
 「まだ,早いんじゃない? がんは3年みなくちゃ」
 「本当ににやりたいことなの?」
 「向いてるわ。ぴったり!」
 さまざまな反応があった。
 「地域の健康問題で解決できることがたくさんあるの。私が専門家としても施策に直接意見を言うことができるのよ。やるわ」
 と宣言し,早速行動に移る。前から目をつけていた,店閉まいした洋服屋を借りる。前面ガラスのショーウインドウがあっていいかんじ。
 選挙管理委員会へ政治団体届けを提出する。後援会の立ち上げをする。長いつきあいの友人がいろいろな人を紹介してくれる。1人ひとりと顔合わせをし,自分の取り組みたいことを伝える。後援会事務所に1人,2人と出入りしはじめて,手伝ってくれる人が出てきた。まったく政治の世界など知らないことばかりで,たくさんの手引き書を読みまくる。インターネットで全国の女性議員の活躍を読む。気に入った議員たちには,直接電話をかけて,意見やヒントをもらう。「なるほど,なるほど」と感心することばかりである。今までつちかってきた,「ひと,もの,かね,情報」をマネジメントする能力は使える。しかし,自分のかねとなると……そうだ,カンパでいこう。40年来の友人から,かっこいいスーツを借りて,ポスター用の写真を撮る。東京にいる高校の時の同級生が,デザイン関係を担当してくれる。あとは時間をかけて,たくさんの人に会うことだ。
 桜が咲くか散るか。どちらでも失うものはない。
 世界が広がることには間違いはないのだから。