医学界新聞

 

「暮らしの中の保健・医療・福祉」をテーマに

第40回日本病院管理学会が開催される




 第40回日本病院管理学会が,さる11月1-2日の両日,舟谷文男会長(産業医大)のもと,「暮らしの中の保健・医療・福祉-地域の情熱と行動」をメインテーマに,北九州市の北九州国際会議場で開催された。
 今学会では,特別講演「都市経営と保健・医療・福祉」(北九州市長 末吉興一氏)をはじめ,学術シンポジウム I「少子社会における医療のパラダイム転換-地域社会の安全ネット強化のために」(司会=おかもと小児科 岡本裕一氏,産業医大 岩政琢氏),同 II「医療人材育成の政策科学」(司会=横浜鶴ヶ峰病院 田中卓雄氏),および一般市民の参加も可能とした公開シンポジウム「21世紀のケアネットワーク-医療の役割を問う」(司会=舟谷会長)と,公開講座「介護保険制度の見直し-質の向上をめざして」(司会=前朝日新聞論説編集委員 稲垣忠氏)が企画された。
 その他,(1)高齢者医療と医療経営の課題と展望,(2)科学的病院経営手法の開発,(3)看護の質と業務改善,(4)医療情報システムはどうすれば役に立つのか,の4分野での課題発表36題に加え,一般演題91題の発表が行なわれたが,本号では,学術シンポジウム I の内容を報告する。


小児医療が抱える課題

 学術シンポジウム I は,少子社会における医療の役割を再認識することをねらいとして,1.小児救急医療,2.児童虐待防止の視点からの地域社会の安全ネット整備,3.産科医と小児医の連携,4.地域行政からみた政策課題に焦点をあてて討論を行なうことを目的に企画。
 1.に関しては,市川光太郎氏(北九州市立八幡病院救命救急センター)が「小児救急医療体制変革の視点」を口演。全国的に社会問題となってきた小児救急医療体制について,高度医療の発達や専門医志向による一般小児科医の減少からみられる「小児救急医療学体系化の欠落」,小児科廃止,病棟閉鎖の出現による地域基幹病院への一極集中化による「小児医療不採算性の存在」など,現在問題となっている背景を述べた。また,日米間の小児初期救急医療の特徴をあげ,急病や事故に遭った子どもたちを24時間365日,小児病院救急部で扱う北米の小児病院に比し,日本の場合は救命救急センターに小児科医が不在のため,搬送された児は成人救急医療の中で扱わざるを得ない実態も明らかとした。
 氏はその上で,理想の小児救急医療システムとして(1)成人救急医療体制とは別枠での体制再構築,(2)小児総合医療施設での広域救急医療体制,(3)空白時間の撤廃と24時間365日体制,(4)初期救急への開業医参加の義務づけ,(5)行政・医師会・小児科医・住民および見識者の参加による小児救急医療協議会での検討と評価,(6)小児集中治療学の体系化・均一化の普及,啓蒙と研修体制の確立,(7)医師・ナース・救命士などの専門性の確立などをあげた。
 また,2.については,井上登生氏(井上小児科医院)が「地域における小児科の役割」と題し,児童虐待事例とのかかわりの経緯を「児童虐待をめぐる地域臨床活動の実際」として提示し,連携のポイントと実践上の戦略的方法を解説した。
 一方3.では,高島健氏(北九州市立医療センター)が周産期医療の抱える問題として,産科分娩施設の施設間格差,地域医療体制,専門医不足,産科医と小児科医の意識格差(産科医は分娩で終了,小児科医は産科医の後始末),などを指摘。これらのことから,周産期医療の課題として(1)産科医と小児科医との連携が促進されることにより,医学的予後の向上や育児不安の解消が期待される,(2)両者の連携を促進させるためには,産科医と小児科医が周産期医療を一貫して担う意識を持ち,緊密なコミュニケーションと医療情報交換を行なうとともに,病院・診療所間の連携強化や出産前小児保健医療の導入を行なう,(3)小児科医の新生児診察への参加,をあげた。
 さらに4.においては,西岡和男氏(九大大学院)が地域の中での医療・行政の役割認識や,小児科医の機能分担,保健所の役割などについて解説。「小児医療も公的補助が適用されるべき」と強調した。