医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


自殺は予防し得るか? 自殺学の第一人者による緊急提言

医療者が知っておきたい自殺のリスクマネジメント
高橋祥友 著

《書 評》朝田 隆(筑波大教授・精神医学)

 精神科医である以上,私の医師としての経験内容は一般科医の場合とは多少とも異なるかもしれない。もちろん,精神科医ならではと自負できる醍醐味も多い。逆に固有の危機的経験としては,担当した患者さんの自殺がある。
 主に医師になりたて時代の経験だが,何より辛い思い出がある。今でも当座の茫然自失ぶり,周囲から批難の声が聞こえてくるような被害妄想にさいなまれたことをありありと思い出す。

医療スタッフのための自殺に関する実践的な手引き書

 さて,著者高橋祥友先生はわが国における自殺学の権威としてつとに名高く,すでに幾多の名著を著わされている。しかし,本書はそれらとはまた異なった特徴を持つ。すなわち,精神科医はもとよりプライマリケア医,看護スタッフにとって自殺に関する実践的な手引き書となっている。
 本書の構成は自殺の実態に始まり,誰に自殺の危険が高いか,病気になることと自殺の関係へと進む。これらの基礎知識の上で自殺予防におけるプライマリケア医と看護スタッフの役割と限界が,また自殺を考えている人への対応法が説かれている。

感銘深い自殺が起きた後の周囲への対応法

 自殺が起きてしまった後の周囲への対応の章は,ことに感銘深い。ここではまず遺族への心のケア,また群発自殺いわゆる後追い自殺について,学校では教わらない医療者必須の心得と知識が簡潔にまとめられている。
 つぎに医療者への対応が述べられているが,ここは圧巻であった。実は私は著者の後輩である上に,私がはじめて患者さんに自殺された当時,山梨医科大学病院で一緒に勤務していた。激しい心の動揺の中で,この危機に耐えてこそ真のプロと思ってはみても,声を上げて泣きたかった。その時著者から患者さんの死からしか学べないことがあること,この自殺を謙虚に再検討する態度をおだやかに諭していただいた。忘れられない体験であるが,そのエッセンスがこの章に記されている。
 このように,本書の基礎には著者の実践がある。自殺の予防,自殺への介入,そして遺された人々への心のケアが簡潔明瞭にまとめられた医療者必読の書になっている。
A5・頁188 定価(本体2,600円+税)医学書院


医療コスト面からの循環器疾患用薬剤の選択は白眉

開業医のための循環器クリニック 第2版
五十嵐正男 著

《書 評》松村理司(市立舞鶴市民病院副院長)

継続して貫ぬかれているすばらしい出版のコンセプト

 『開業医のための循環器クリニック』の第2版が出版された。第1版の出版から6年が経過している。コンセプトはすばらしいままである。
 第1は,病歴と身体所見と外来検査についての記述がとても標準的なこと。第2は,治療薬の種類がかなり絞り込まれていること。付録「外来で使用する循環器疾患用薬剤」で取り上げられている薬剤の種類が少ないのは,著者は「薬剤の使用に関して頑固な保守主義者」のせいとされるが,私には「使用薬剤を自家薬籠中のものにされている卓越した臨床医」の姿しか見えない。第3は,開業医にとっての診断と治療の守備範囲が,個々に具体的に述べられていること。ということは,当然ながら病診連携にも中身が要求されることになり,「V.送り先病院の評価」も手厳しくなる。
 第1版以降の新知見も,必要に応じて取り上げられている。「慢性心不全に対するβ遮断薬治療」(91頁),「急性冠症候群」(119頁),「発作性心房細動での心筋の電気生理的および構造的リモデリング」(156頁),「高血圧の予防,評価,治療に関する米国ナショナル合同委員会第6次勧告」(170頁)といった具合である。それ以外にも,「心疾患患者と風邪」(179頁)といった項目が新たに加えられているが,何といっても第2版の目玉は,「II.循環器疾患用薬剤の選び方」の新設にある。

垣間みる自家薬籠中の循環器疾患用薬剤

 その心は,「安くて良い薬を選ぶ」ことである。実際には,「(1)新薬は原則として選択しない。(2)再評価のすんだ薬剤を選択するが,同じような薬効の薬がいくつかあるならば,単価の安い薬を選択する。(3)発売後年数を経て,ジェネリック薬品が出ているものは,信頼できるものを見つけ,それを選択する」となっている。さらに踏み込んで,ジェネリック薬品についての一家言を吐かれた後,自身の処方例について具体的な価格もあげて述べられている。著者がここにこだわるのは,序にあるように,「医療のコストという意識をいつも念頭に置き,医療を与える側も,受ける側も医療費を少しでも減少させる努力を真剣に行なわねばならない時がきた。……外来治療では薬剤費が大きなウェイトを占めているので,それを少しでも減らそうとする努力が必要である。必ずしも必要でない薬剤を処方から外すことの他に,安くともよく効く薬を探しだし,それを処方することが必要である」という認識に基づいている。儲けに走らず,いたずらに政治的にならずに,市民の健康を科学的に守ろうとする姿が,市井の医者に透けて見える。
 医学の内容以外でほっとさせられることに,「何が何でもEBM」といったかたくなな態度が一切ないこと,各章の初めに(ご自身作成の)挿絵があること,表紙を遠くから見ると,著者らしい姿が浮かび上がることなどがある。
 私事になるが,発作性心房細動(らしきもの)の持ち主の私は,drug cocktail療法(ジソピラミドとプロプラノロールの頓服)を愛用させてもらってきた。それが第2版ではなくなっているのだけが,気になる。「五十嵐先生,続けてよろしいのですよね?」
 すべての開業医,プライマリケア医,かかりつけ医,家庭医,総合診療医,広く研修医,病院勤務の一般内科医,さらに循環器専門医にも本書の一読を勧めたい。
A5・頁240 定価(本体3,600円+税)医学書院


評判の高いメイヨーの精神科レジデントプログラムを集約

レジデントのための精神医学 第2版
David A. Tomb 著/神庭重信 監訳

《書 評》澤 明(ジョンズ・ホプキンス大助教授・精神医学部門/神経科学部門)

 この『レジデントのための精神医学』第2版は,神庭教授ご自身が所属され教官を務めておられたメイヨー大学(Mayo Univ.)において,必携の本として考えられているものであるそうだ。第1版が日本に翻訳されたのは,約10年前であったが,今回精神医学の発展に伴い改訂された第2版の翻訳が完成するにあたり,私は大きな期待をもってこの本を再度ひもといてみた。

「論理的」に構成され,臨床の場で「具体的」に役立つ教示

 この本の最大の特徴は,臨床の場で「具体的」に役に立つ教示が,実に「論理的」に構成されているということである。臨床における「具体性」とは,多くの場合「論理性」とは相反しがちなものであるが,これらを実にうまくまとめている点は注目すべきであろう。これは,そういった意味では,まさにポケットブックとしては,最大の効果を示している。
 私は精神医学の本としては3つのタイプを併用して持つことが,最も生産的であると考えている。データベースのようにありとあらゆる知識,知見が網羅されている分厚い成書と,精神医学の考え方(個々の知識というよりは,精神科医療に生かされるさまざまな学問体系の関連についての考察)についてまとめた2冊はまず必要であるが,これらは初学者にとって現場とのかかわりを見出すことは難しいことだろう。この二者をバランスよく臨床の場につなげられるようなコンパクトな本を3つ目のタイプとして考えているが,まさに,この『レジデントのための精神医学』第2版は,それに該当する。
 米国においては,医師研修「レジデント」の場を選択する際には,学生は出身医学校とは関係なく自分自身の興味,将来の方向性を検討して,それに最もよく合った大学病院を求める。学生も選択されるが,大学も選ばれる立場にあり,「レジデントプログラム」を評判の高いものにするためによき研修マニュアルの作成,よき教科書の選定が注意深く行なわれている。
 米国の医学校の頂点の1つメイヨー大学は,よき臨床教育で知られるが,この大学でこの本が必携として用いられていることも,この本の良質を保証するだろう。精神科医療に携わる若手には,特にご推薦申し上げたいと思う1冊である。
A5変・頁340 定価(本体4,000円+税)MEDSi


子どもの精神科のアウトラインを知るために絶好

臨床家が知っておきたい「子どもの精神科」
こころの問題と精神症状の理解のために

佐藤泰三,市川宏伸 編集

《書 評》中根 晃(都精神研)

 児童・思春期の精神的問題は,成人の精神疾患をモデルとした精神医学の体系では対応できないことはよく知られている。例えば,思春期のうつ状態は従来型の抗うつ薬は奏効しきれない。そこに児童青年精神医学の存在意義があるわけであるが,ここで注意したいのは,親は自分の子どもを精神疾患だと思って受診させるのではないことである。そのため,全国各地の小児医療センターに精神科クリニックが開設され,小児医療の一環として運営されている。しかし,スペースやスタッフ機能が十分でなく,全方位の精神科診療を提供しにくいという難点を持っている。本書の執筆者の多くが所属している東京都立梅ケ丘病院は長年,広範囲にわたる子どもの精神科の臨床を実践している。本書は,その実績に立って書かれた臨床家のための手引きである。

日常の臨床の中で編集,洗練された懐の深い記述内容

 どの教科書でも総論ではそのあるべき姿が書かれているが,それはすでに年月を経てしまって,現実とはかけ離れたものになっていることが多い。本書は,それを日常の臨床の中で編集し直して,洗練された形で記述している。「治療的対応について」の章では,年齢や発達段階に応じた個所プログラムの提供や医療体制の中での教育についても言及している。
 「具体的対応の仕方」の章の「精神療法的対応」の項はユニークである。子どもの精神科での作業療法士の多岐にわたる活動についての記述は,わが国ではおそらく本書が最初であろう。また,「子どもによく見られる精神症状の見方」の各章では,代表的なものについて年齢ごとの特徴が書かれている点は精神科医にとっても,小児科医にとっても大いに参考になる個所である。
 各論にあたる「子どもによく見られる精神疾患とそれらへの対応」の章は,ICD-10に沿って記述した関係上,年齢による細かい特徴は記されていないが,つぎの「子どもの精神科におけるいくつかの問題」の章の「家族と治療」の項は,受診に際して,入院に際して,家族の受けとめ方などと,具体的に述べながら家族の窮地の救いへと論を進めていく手法は本書の圧巻である。また,連携に関する各項目では,教育との連携が詳しく述べられ,司法との連携にも触れているのも本書の懐の深さを示している。
 本書の各章は,要点がよくまとめられているので,子どもの精神科のアウトラインを知るための絶好の書に違いない。
A5・頁288 定価(本体3,200円+税)医学書院


よりレベルの高い腎臓専門医をめざすための座右の書

専門医のための腎臓病学
下条文武,内山 聖,富野康日己 編集

《書 評》酒井 糾(北里大名誉教授)

 このたび,医学書院から発刊された,『専門医のための腎臓病学』は,日本の腎臓学会でご活躍中の先生方によって執筆されたもので,実にバランスよくしかもアップデートの知見をも網羅した内容となっており,読む者にとっては,まさにこれこそ座右の書となるものである。下条文武教授,内山聖教授,富野康日己教授,お三方の見事な編集に敬意を表したい。

医学・医療の視点から将来を見据えた内容

 本書は,企画から発行までわずか13か月という稀に見るスピードで作られた本と聞いているが,内容的にはすばらしいものとなっており,腎臓病学の全般を医学・医療の視点はもとより,各々の将来を見据えた内容でまとめられている。これぞまさしく21世紀初頭を飾るにふさわしい専門書として,きわめて意義深いものを感じている。20世紀終盤の四半世紀から21世紀にかけての腎臓病学の基礎的進歩が,どれほど臨床医学のありようをエキサイティングにしたかはどの切り口を見ても明らかであるが,そうした時代背景を持つ学問領域をそれぞれの執筆者がわかりやすく記述されている。
 本書の特徴は,大項目として「症候編」と「疾患各論」の2部構成でまとめられている点である。編集の熱のこもった序文からうかがい知れるところであるが,腎臓病学の新しい知識をどのように患者の診療に生かすか,特にそれらを踏まえて臨床医に求められる新しい知識の増幅をいかにして求めやすくするか,こうしたきわめて高いレベルの要求を満たそうとする姿勢が随所に見られる。一節を借りれば,「腎臓専門医には,蛋白尿・血尿など尿異常の解析から,腎生理学と水・電解質代謝の理解,腎生検などによる一次性・二次性腎疾患の診断と治療管理,末期腎不全に対する透析治療と腎移植まできわめて広範囲にわたり,かつ高度のものが要求されるようになっている」とした文言で編集の思いが綴られており,読者に対するメッセージがその通り伝わってくる。

プロ中のプロをめざすために最適

 今や腎臓病学は内科,小児科,泌尿器科はもとより周辺医科学のプロフェッショナルに対しても共創の場が提供されており,まさしく基礎医学から臨床医学におよぶ相互連関が広がりをみせている学問領域である。しかし何としても臨床の場で腎臓病患者を診療する臨床医はもちろん,これから腎臓病専門医をめざそうとする若い医師にとっては,本書がプロフェッショナルとしての力をつける上に最適の書となることは,間違いないものと信じる。特筆すべきは,小児科の視点を数多く取り入れたこと,そして随所に小児科医の追記がある点もネフロロジーをトータルにとらえるとした狙いが感じられる。また,血液浄化療法,腎移植といった20世紀治療医学の双璧をそれぞれ独立して取り入れたのは,腎臓病学とした書名にあっても治療医学の重要性を加味されたものとしてきわめて意義深く感じられる。
 本書は,21世紀のわが国の腎臓専門医と,それをめざす先生方の座右の書であると確信するとともに,本書が広く活用されることを祈念してやまない。
B5・頁536 定価(本体15,000円+税)医学書院


医療者に必要なロービジョンケアの精神と実践を解説

ロービジョンケアの実際
視覚障害者のQOL向上のために

高橋 広 編集

《書 評》田淵昭雄(川崎医大教授・眼科学)

ロービジョンケアとは

 本書はロービジョンケアとはどういうものか,どうあるべきか,その根底に流れる精神は何かなど,ロービジョンケアに対する編者らの根本的な考え方が随所に感じられ,読者に共感を与えるだけでなく,そこまでかかわっていく勇気のようなものを与える。もちろん,ロービジョンケアに関心を持ち,実際に自分でも施行してみようという方,すでに始めているがもっとよい方法がないかと悩んでいる方,視覚障害の原因となっている多くの眼疾患それぞれに応じたロービジョンケアを知りたい方,などロービジョンケアの入門書としてだけでなく実用書としての価値が高い。
 第1章の「視覚障害者とQOL」において,ロービジョンケアの必要性と意義を知ることができる。第2章の「ロービジョンケアに必要な基礎知識」では,一般的な眼科検査解説ではなく,視覚障害者の特徴を意識した眼科検査の解説があり,実際の臨床に非常に役立つ。第3章から第5章までは,「各種の補助具」(第3章),偏心固視訓練など「保有視覚の有効利用訓練」(第4章),「日常生活援助」(第5章)が記述されているが,実際の患者さんを目の前において解説されているようで非常に説得があり,また応用しやすい。特に日常生活援助では,歩行,食事,調理,身だしなみ,着衣,居住環境,排泄就寝,コミュニケーション,そして余暇についてまで多くの頁を割いているのがいい。

求められる施設中視覚障害者への対応

 第6章は,「視覚障害者への年齢別対応」で,乳幼児から学童・中高校生,成人,高齢者までのそれぞれの年齢時期におけるロービジョンケアの特徴と具体的な対応の仕方が紹介されている。それぞれが異なっていることは当然であるが,どのように異なるべきかをわかりやすく示しており非常に参考になる。第7章「代表的な疾患とその対応」は,現在視覚障害の原因となっている糖尿病網膜症,緑内障や網膜色素をはじめその他10種類の疾患について,その対応の仕方を解説しており,専門外来でのロービジョンケアを考えておられる方には必読である。第8章は,「他の障害をもった人への対応」で,より慎重かつ適切なケアを具体的に示している。そして,最後の章である第9章「病院内での視覚障害者への援助(看護の立場から)」は,眼科看護師だけでなく,眼科医およびその他の眼科医療関係者はぜひとも読んでいただきたい個所である。眼科施設でありながら「視覚障害者への心遣いができていない」というようなことがないようにしたいものである。
 本書は,冒頭にも記したとおり,ロービジョンケアをこれから始める方々には欠かせないものとしてお勧めしたい。また,ロービジョンケアの精神を理解するにも適している。そして本書を読まれて,眼科医療施設でのあり方を新しく,よいものにしていただきたい。
B5・頁216 定価(本体3,200円+税)医学書院