医学界新聞

 

第40回日本癌治療学会が開催される

「がん治療の原点を求めて」をテーマに




 さる10月16-18日,第40回日本癌治療学会が,海老原敏会長(国立がんセンター東病院長)のもと,東京・千代田区の東京国際フォーラムで開催された。
 「がん治療の原点を求めて-創造的医療の展開」をテーマに掲げた今学会では,「患者個々の主体性を尊重し,医療者の独創性を大切にするというがんの診療の原点に立ち返り,日本から世界に発信できる国際性のある創造的医療を目指す」という海老原会長の示した考えのもとで企画され,自らがん体験を持ち,医療の受け手という立場からがんについて語った三笠宮寛仁親王殿下による特別講演,教育講演3題,指定シンポジウム5題,公募シンポジウム10題,ワークショップ30題の他,第3日目には日米のスペシャリストによるASCO-JSCO Joint Symposium“The Front Edge of Clinical Research on Cancer”が開催され,充実したプログラムとなった。
 なお,毎年,長年がんの臨床に多大な貢献をした医療者に与えられる中山恒明賞は,「食道がんの外科治療」の功績が評価され,掛川輝夫氏(国際親善総合病院)に授与され,受賞記念講演が行なわれた。


根治性を損ねず,機能を温存する

 「がんの外科療法に求められるもの」をテーマに会長講演を行なった海老原氏は,自らの経験と成果を基に,頭頸部領域におけるがんの外科療法の最前線を紹介した。
 その中で海老原氏は,症例を示しつつ,口唇のがんについては,「従来,放射線治療しかないと思っていたが,外科療法だけでかなりやれる」,舌癌についても「舌を残すことにより,構音,嚥下がよくなる」など温存療法の実例を示しつつ「まだまだ工夫の余地がある」とした。一方,下咽頭・頸部食道がんへの治療については,「咽頭温存手術例の累積生存率は現在67%だが,手術が一般化することにより,生存率が下がらないようにすることが課題だ」と指摘。また,頭頸部領域では,「次の(別の)がんができてきた時にどう治療するかを考えて治療を行なっている。なるべくシンプルな外科的治療を用い,放射線治療という切り札を残しておきたい」との考えを述べた。
 根治性を損ねず機能を温存する,頭頸部領域の外科療法について,海老名氏の外科医としての到達点が示された講演となった。

基礎と臨床の間にある「ハードル」

 指定シンポジウム1-1「がん治療開発の課題とその克服(breakthroughへの手がかり)-基礎医学からの提言」(座長=東大鶴尾隆氏,国立がんセンター 廣橋説雄氏)で,「トランスレーショナルリサーチ:現状と今後の展開」と題して講演した杉町圭蔵氏(九州中央病院)は,冒頭で「以前は日常で使用する薬剤の多くが日本製だったが,年々外国製のものが増えている。医療機器についても日本のものが減ってきている」と指摘。「高齢化,技術の発展に伴い,遺伝子診断,遺伝子治療,再生治療,低侵襲手術といった新たな医療を推進することが必要になってきている。日本では基礎と臨床の間にハードルがあり,優れた基礎的な研究が臨床に持ち込まれない現状がある。本来,大学病院や国立研究所などは高度先端医療を実施する先端的な機関として,すぐれた研究を臨床の場に持ち込む橋渡し的な役割を担うはずだが,必ずしも十分に機能していない。」と日本の基礎,臨床研究の現状について述べた。

「ハードル」をなくすために

 氏は,自身が班長を務めた文部科学省の「体系的な高度先端医療等の在り方に関する調査研究班」による調査について述べ,その結果見えてきた問題点として,(1)研究者が論文のみを重視し,研究結果を医療に役立てるという本来の医学研究の目的を見失っている,(2)大学の臨床系スタッフは臨床,教育と多忙で,研究の時間が割きにくく,大学の研究を支えているのは主に学位取得を目的とした大学院生や研究生である,(3)研究費が効率的に配分されているか疑問,(4)臨床系,基礎系,理工系研究者の連携が不足しており,自分の研究パートナーが見つけにくく,相互交流の場も少ない,(5)研究者の流動性が欠けている,(6)医学研究活動に対する社会的理解が不足しており,大企業や国民からの大型の寄付や投資が得られにくい,の6点をあげた。
 さらにトランスレーショナルリサーチを推進するための方策として,(1)優れた研究者の育成のため,環境,研究費,研究者に対する待遇のそれぞれを整える,(2)トランスレーショナルリサーチを実践する場である「高度先端医療開発センター」を医学部ではなく病院の中に設置する,(3)文部科学省,厚生労働省,経済産業省や企業からの大型のグラントを効果的に配分する,の3点を提言した。
 講演後の議論の中で氏は,「基礎と臨床の結びつきで最も重要なのはお互いの研究者の信頼関係であり,これがうまくいけばトランスレーショナルリサーチなどといまさら言う必要もない」とした上で,「ただ,今後は大きなプロジェクトを組んだ場合,それなりのシステムが必要である」との見解を示した。