医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


短期的に効率よく学べる優れた神経解剖学入門書

神経解剖カラーテキスト
A. R. Crossman,D. Neary 著/野村 嶬,水野 昇 訳

《書 評》中野勝磨(鈴鹿医療科学大教授・解剖学/三重大名誉教授)

 本書は,1995年に初版が発行された『Neuroanatomy―An Illustrated Colour Text』(Churchill)の改訂第2版の翻訳書である。一般に,神経解剖学は興味深いが難解で,勉強するのが大変であると思う学生が多いようで,これも著者が初版の序で述べているように,必ずしも必要でない膨大な量の知識が学生に不当に要求されてきた経緯によるものかもしれない。コアカリキュラムとして何を採択するかに視点を置き,基礎科学と臨床医学の統合の重要性を考慮しながら,本書は書かれたようである。新しい事項を最大限に取り入れながらも,記載文をできるだけ少なくするよう努め,読者の理解を深めるためにきれいな図版が多く挿入されている。なによりも,訳文が平易で,大変読みやすい。翻訳者の配慮が感じとれる。

きれいな図版,臨床的概念も身につく

 本書は,A4判212頁の小冊子であるにもかかわらず,内容は深くきわめて満足度の高いものである。各章には要約・要点を明示し,神経疾患の理解に役立つ臨床事項が要領よく記載されており,基礎と臨床との接点が明白にされ,神経解剖学の学習の動機づけとなる。巻末には,用語解説が加えられてあり,これも初心者には役立つ。脊髄に関しては,伸張反射や屈曲反射がわかりやすく記載されている。脳神経と脳神経核はかなり詳しく述べられ,脊髄および脳幹神経回路と臨床像との関連がよく理解できる。視床下部・大脳辺縁系に関して,これほど要領よく簡潔にまとめられた書は他にはみられない。大脳基底核の記載では,新しい事項が多く加えられ,大脳基底核疾患の病態生理について,読者の理解を深めるであろう。視床については,大脳基底核および小脳からの入力関係の記載が本書にしてはやや物足りない感があるが,学生の習熟には十分である。大脳半球と大脳皮質の章では,大脳皮質の機能・病態が明瞭に解説されている。
 随所に掲載されている標本のカラー写真はすばらしい。特に,脳底動脈の標本は脳幹に分布する細血管まで鮮明に表示され,神経管の形成段階の走査型電子顕微鏡像も臨場感が伝わり,さらに,脳の外観,スライス標本はきわめて鮮明で,本書をより一層魅力的にしている。訳者の野村嶬教授はコメディカルの教育に,水野昇名誉教授は京大の医学生の教育に,ともに長年従事してこられた。短期間に効率よく,神経解剖学を学ぼうとされる,コメディカル・医学生には,本書は最適の好書である。
A4・頁212 定価(本体5,500円+税)医学書院


標準教科書に新たに加わった腎臓内科学の決定版

標準腎臓病学
菱田 明,槇野博史 編集

《書 評》黒川 清(東海大総合研所長・東海大教授)

 このたび,医学書院から菱田明,槇野博史編の『標準腎臓病学』が出版された。医学書院からは,〈標準教科書シリーズ〉として,基礎,臨床各科別にすでに30数冊の教科書が発行されており,学生,研修医の間で愛読され,版を重ねている。内科に関する標準教科書は分野別に企画され,本書は感染症学,血液病学,神経病学,呼吸器病学,循環器病学に続いて発行されたものである。

腎臓病学全体がわかりやすく読める教科書

 腎臓病学は,主として生理学的観点から理解する流れと,形態や炎症および免疫学的観点から眺める流れがあるが,腎臓の生理と生態を生理学的観点を中心として眺めてきた菱田教授と,形態や免疫学的観点からみることを中心としてきた槇野教授が共同して編集することに,本書は腎臓病学全体をわかりやすく読める教科書となっている。本書はまず「総論」で,腎臓の働きとその病態,疾患について全体像が明らかになるよう書かれている。腎臓の異常がどのように発見されるか,異常を発見した場合どのように考えて鑑別診断を進めていくか,治療としてどのようなことが可能かなど,腎臓を専門としない医師にとって,「総論」のみを読むことによっても腎疾患の全体像が理解しやすい構成になっている。また「各論」には,腎疾患の1つひとつについて,疾患概念,臨床的特徴,診断,治療と要領よくまとめられていると言える。

腎臓病学の若手リーダーが執筆に参画

 また本書は,編集の菱田,槇野両教授をはじめ,わが国の腎臓病学の若手リーダーの多くが分担して執筆している。分担執筆は,各執筆者の得意な分野を書く点で優れていて,本書でもそうして特徴は生かされている。一方で分担執筆は,内容自体や対象とする読者の認識が執筆者によって異なることがあって,通読することが困難な場合も少なくない。しかし,本書では2人の編集者が原稿に繰り返し目を通し,編集者同士,また編集者と著者との意見交換が繰り返し行なわれたということであり,このような努力があって全体として1つのまとまりを持った書となっている。
 腎臓の病気は,腎臓内科医のみならず,小児科医,泌尿器科医も診ており,その対象疾患,患者の年齢などによっては担当する診療科が明らかな場合もあるが,一方オーバーラップする部分も少なくない。実際に診療する立場を意識し,腎臓内科医にとって必要な泌尿器科的疾患,小児科で多く診られる腎疾患についても章が設けられ,腎疾患を診る現場に役立つ1冊である。
 また,主な読者層としての医学生を意識し,図表を多く使用し理解しやすく作られている上に,自ら学習の理解度をチェックできるよう各章ごとに「学習のためのチェックポイント」がまとめられており,医学生(に限ったことではないが)として学習すべきことは確認することができる。腎臓病に関する教科書は多いが本書は好書と言える。お勧めである。今後はさらに読者の要望などを広く受け入れ,版を重ねていくことを期待している。
B5・頁376 定価(本体5,500円+税)医学書院


求められる総合診療マインド育成に最適

〈総合診療ブックス〉
総合外来 初診の心得21か条

福井次矢,小泉俊三,伴 信太郎 監修/松村真司,北西史直,川畑雅照 編集

《書 評》木村琢磨(国立病院東京医療センター・総合診療科)

浸透しつつある“総合診療マインド”

 近年,医療を取り巻く状況は複雑かつ多様化し,医療への窓口である総合外来の必要性は,多くの医師に総論的には理解されつつある。そして,総合診療,家庭医療,Generalist,プライマリ・ケアなどそれぞれ名称は違っても,共通した“総合診療マインド”も浸透しつつあると言えよう。
 しかし,いざ総合診療の臨床を実践すると,困難であることも多く,私自身,日々,疑問や不安に思うことも多い。総合診療の役割はいまだ不明確であり,特に総合診療のフィロソフィを十分に持った指導医が少なく,教育が不十分であることと相まって,若い医師が総合診療を志すことへの不安や,総合診療が理解されにくい要因になっているのではなかろうか。
 このたび,医学書院より『総合外来初診の心得21か条』が上梓された。本書は,本邦で総合外来を実践している有数の臨床家により執筆された“総合診療マインド”を持って外来で臨床を実践するための初めてのガイドブックである。

期待される総合外来における診療と教育の質向上

 本書では,患者の問題解決に必要な情報収集能力や,感度・特異度を意識した論理的思考のコツが満載されているが,EBM偏重ではなく,患者の解釈モデルや満足度の視点も忘れてはいない。特に,既存の診療科ベースに臓器別教育を受けてきた者にとって戸惑うことが多い横断的マネジメントや,生物医学的アプローチで解決できない健康問題への対応が豊富で,随所で外来診療教育にも触れられ興味深い。
 項目は,わが国の外来で高頻度のプロブレムから選ばれ,鑑別診断に頻度,緊急性,重要性が考慮されているため実践的で,経験の乏しい者が検査前確率を推定して行動を起こすのに有用である。
 もちろん,総合外来の機能は地域の特性,診療の場,医師の臨床能力などで異なる。本書はあくまで心得であり,マニュアルではない。総合診療の発展には質の高い臨床の実践が不可欠であり,主治医として患者のアウトカムに責任を持つために,続編として「再診の心得」,「病棟診療の心得」などもぜひ期待したい。
 本書が,総合外来に携わるすべての臨床医と,外来研修の場における医学生・研修医,指導医の座右の書となり,わが国の総合外来における診療と教育の質が向上し,近い将来,「臨床総合診療医学」ともいうべき学問体系が確立されることを期待したい。
A5・頁316 定価(本体4,000円+税)医学書院


臨床検査における情報科学・医療情報学教科書の完成版

《臨床検査技術学》
[15] 情報科学・医療情報学 第3版

松田信義,岸本光代 著

《書 評》神辺眞之(広島大大学院教授・病態臨床検査医学)

 松田信義教授が,《臨床検査技術学シリーズ》の『[15] 情報科学・医療情報学』の第3版を出版されました。本書は7編から構成されていて,第1版,第2版に比べてパソコンなどの最新情報・技術も加えられ,より整理・体系化され,わかりやすくなりました。『情報科学・医療情報学』に関する教科書の完成版と言ってもよいでき映えです。

パソコンなどの最新情報・技術が付加され,より実用的に

 第3版は,第2版に引き続き岸本光代先生との共著で,より実用的になり,身近になりました。
 すなわち松田教授による基礎・応用の解説に加えて,岸本光代先生が担当された実習編が充実しているのが特徴です。「基礎的解説編」は,「第1編 情報の基礎知識(情報とは何か」,「第2編 コンピュータの基礎知識」から構成され,「応用編」は,「第3編 情報通信ネットワークシステム」,「第4編 情報処理システム」,「第5編 検査情報システム」が見事に集約され,わかりやすく紹介されています。そして第7編に先述の「実習編」がまとめられ,病院検査部の検査技師,医師,研究者,看護師などが実際に使っているパソコンの基本ソフトである「Windows98」の基本操作や「Word2000」を使った文章作成実習,「Excel2000」による表計算グラフ作成実習があり,パソコンのマニュアル代わりにもなります。
 さらに第3版の特徴として,最近,実際の業務に多用されている,パソコンの通信機能について詳しく説明されている点があげられます。「第3編 情報通信ネットワーク」にまとめられていますが,「第2編 外部接続インターフェース」も参考になります。
 本書は情報科学,医療情報学の発展の歴史,コンピュータ技術など情報科学技術の発展の歴史が随所に記載されており,興味深く,一気に読むことができ,臨床検査に情報科学を応用した先駆者である,松田信義先生でしかできない力作です。
 本書は現在,臨床検査技師をめざす学生の教科書に活用されていますが,加えて臨床検査技師,若き医師,研究者,看護師,薬剤師必読の書として推薦します。
B5・頁208 定価(本体2,000円+税)医学書院


骨・関節の撮影法の実際と読影を解説したロングセラー

骨・関節X線写真の撮りかたと見かた 第6版
堀尾重治 著

《書 評》寺山和雄(信州大名誉教授)

驚くべき単著

 私はいろいろな著書に関与してきたが,すべて共著であって単著は1冊もない。本書は,広範な骨・関節領域のX線写真の撮影と読影について,計460頁を堀尾先生お一人で執筆されたことは驚きである。計664枚の図もすべて先生ご自身が描かれたということを医学書院編集部から聞いて,さらに驚いた。本文と図すべてが完全に統一されていて,すっきりしているという全般的印象を受ける。

X線像の読影基本

 X線読影の時には,(1)氏名日付など患者属性の確認,(2)撮影されている部位,特に左右の確認,(3)撮影方向,(4)写真の濃淡,(5)写真のコントラスト・ピントなど,写真そのものが診断に十分耐えられるものであるかどうかをまず判定すると教わり,私もそう教えてきた。骨・関節の読影としては,(6)骨の輪郭の断裂や不整,(7)骨の内部構造すなわち骨稜の乱れ,抜け落ち,硬化などの異常,(8)骨と骨の相互関係の異常,(9)軟部組織陰影の腫脹などを,落ち度なく,読みとることをルチーンの手順としてきた。診断に耐えないと判定した写真は再撮影を依頼し,時には撮影室まで出向いて注文をつけた。患者さんの診療が遅くなり,X線技師からうるさがられたものである。しかし,このやりとりの結果,技師の腕前が上がり,私の診断精度も上がった。
 九州厚生年金病院放射線室の技師長をながく勤められた著者が,いかにして質のよいX線写真を撮影することに取り組まれたかということは,本書の細密画を見ればよくわかる。多分,医師側から再撮影のオーダーがでる前に,自分が納得いかない写真は医師側に提出することなく,再撮影されたのではないかと推察される。何故ならば,X線写真を細密画化したすべての図は,良質の写真と完璧な読影能力がないと,描けない図であるからである。

深く広い知識の裏づけによるX線写真の細密図

 X線写真上で異常所見を指摘して説明しても,学生や患者さんにはよく理解されないことがある。しかし下手なポンチ絵であっても,図解すればわかってくれる。X線写真には無限の情報量があり,しかも透過光で見ていることがわかり難い原因であろう。図解は読影者が必要な情報を抽出し,単純化しているのでわかりやすくなる。
 後縦靭帯骨化症の知識が普及し始めた頃のことである。東京大学整形外科で保存されていた20年前の頚椎X線写真を再検討した結果,知識普及後と同じ頻度の症例が確認された。すなわち後縦靱帯骨化症の存在が念頭になかったために,見逃されていたのであるが,読影者に知識がなければ写されている所見が見えないという典型例である。著者が描いた細密画は丹念に必要なX線所見を描写していて,きわめてわかりやすい。深く広い知識の裏づけがあって,初めてできた仕事と思っている。
 X線フイルムには,表裏に感光剤がぬられていて,コントラストが強く,透過光で観察するのに適している。しかし印画紙に焼き込む時に,シャウカステンで観察した時と同じ印象の画像を作ることは難しい。私が関与した整形外科教科書においても,不鮮明なX線写真がかなり含まれている。これらは細密画にしたほうが読者にわかりやすくなることを本書は教えてくれた。
 著者は,整形外科,脳外科,耳鼻科,眼科,口腔外科などを独学で勉強されたという。正常解剖や病的解剖の図解は,要点がもれなく書き込まれていて,簡明である。例えば,上腕骨外顆骨折における骨片回転転位の図は患児の親に説明する好適な図解である。日常臨床で使われる読影補助線やX線分類ももれなく図解されている。1986年の初版以降に普及したCT像,MRI像についても,それが有用と思われる部位・疾患を選択して記述されている。整形外科医である筆者の立場からみて,本書は整形外科疾患のX線診断について必要かつ十分な知識が図解されていると評価できる。すべての整形外科医に確信をもって推薦する。
B5・頁460 定価(本体6,200円+税)医学書院


エビデンスを探し,評価し,新たに生み出すために

臨床医のためのEBMアップグレード
森實敏夫 著

《書 評》上野文昭(大船中央病院部長・内科)

 数年前からわが国でもEBMという言葉が流行りとなったが,まだ誤解・曲解に基づく批判や誤用が少なくない。その一方で,老若を問わず賢明な臨床医たちはその本質を鋭くとらえ,支持する立場に回り始めた。すなわち,個々の患者の問題点に対して,最も適切な医療を提供しようというEBMの本質に対しては,臨床医として反論の余地がないからである。

いざという時に悩み多いEBM

 しかし本質の理解が,そのまま実践に結びつくわけではない。最適の医療を提供するためには,できる限りよいエビデンスを得なければならない。これまでに出版されたEBMの入門書はいずれも優れたものであり,的確なガイドとして役立っている。それでもなお情報の収集(ステップ2)と吟味(ステップ3)は,骨の折れる作業であり,広汎な臨床疫学的知識を必要とする。日常診療では,二次情報ソースを活用しながらこれらのステップを簡略化する方法も是認されるが,いざという時には本格的に取り組みたいし,少なくとも知識と技術だけは有しておきたいものである。これまで臨床疫学を学習する機会を得なかった臨床医は,一歩先に進めずに悩むことも多かろうと思われる。
 このたび,『臨床医のためのEBMアップグレード』と題された本書を目を通したが,まさにこのような悩みの解決策として価値の高いことが判明し感銘を受けた。「医学情報へのアクセス」や「医学知識を得る」のセクションは,本格的なEBM実践に必要な知識の宝庫である。また,「研究する」のセクションは,これからの研究者にも役立つが,逆に医学論文を評価する上でも重要である。

EBMを一歩先に進める内容

 豊富な内容を網羅してあるため,通読すればやや難解に映るかもしれない。しかし実際に必要とする場面で参照するならば,むしろ懇切ていねいな記載に感謝することであろう。唯一欲を言えば,評者が日頃活用しているUp-To-Dateにかんする記載にもう少し頁を割いてほしかったが,これは個人的願望にとどめておきたい。
 いずれにしろ本書は,EBMに入門して一歩上をめざす臨床医,またはEBMの本質を理解するも臨床疫学を学ぶ機会の少なかった臨床医にとり格好の書として推薦したい。おわりに特筆すべきは,本書の結語である。単にEBMのユーザーに終始せず,常に創造する医師であることを求める森實敏夫博士の信条を,EBMを実践する者の志をアップグレードする言葉として心に刻みたい。
B5・頁240 定価(本体4,500円+税)医学書院