医学界新聞

 

第28回日本診療録管理学会開催


 第28回日本診療録管理学会が,さる9月19-20日の両日,奥村秀弘会長(天理よろづ相談所病院長)のもと,「よい診療録はよい医療の証-医療の信頼性をめざせ」をメインテーマに,奈良市のなら100年会館で開催された。
 今学会では,会長講演をはじめ,特別講演 I「医の先達に学ぶ-ウィリアム・オスラー卿と貝原益軒翁」(奈良県立医大学長吉田修氏),II「米国における医療過誤防止の努力」(前ハーバード大 李啓充氏)を企画。また,シンポジウム I「よい診療録作成のための各職種の役割とその教育」,II「診療記録の未来像-米国に習うべきか,新しい道を開くべきか」などが行なわれた。

次の犠牲者出さないために

 特別講演で吉田氏は,「医業はビジネス(商い)ではなく天職である。それは常に人類同胞に対する自己犠牲,献身,愛そして優しさを医師に求めている。ひとたび医師が,単なるビジネスのレベルに落ちると,感化力は消えてしまい,人生の光はぼやけてしまう」との,オスラーの言葉を紹介。80歳で『養生訓』を著わした貝原益軒の言葉を引用し,オスラーの『平静の心』との共通点を,習慣,思想などから見出した。
 また,李氏は「医療過誤防止」に関し,日本での問題として,(1)医療過誤の質のお粗末さ,(2)社会に医療の質を保証するための制度がない,(3)国家対応の欠如,(4)医療過誤の調査法が標準化されていない,などを指摘し「人は誰もが間違える。次の犠牲者を出さないためにも,JCAHO同様の組織が早急に望まれている」とした。

日本の診療記録の未来像を問う

 「診療記録は米国に習うべきか」を主軸に,電子カルテの意義や,診療録の役割,情報開示などの視点から論議されたシンポジウム II(座長=北大 櫻井恒太郎氏,国立病院九州医療センター 阿南誠氏,写真)には,佐藤正子氏(日鋼記念病院診療情報管理部),井上悦子氏(佐賀医大看護学科),吉原博幸氏(熊本大病院医療情報部),加藤済仁氏(加藤法律事務所),遠藤弘良氏(厚生労働省),湊小太郎氏(奈良先端科学技術大)が登壇し,それぞれの立場から発言。特別講演に引き続きコメンテーターとして登壇した李氏は,各演者の発表を受けて,「米国診療記録の『形式』だけを真似るだけではだめ」とし,(1)診療記録に関するルールを明確にする=守らなければペナルティを課す,(2)診療記録に関する教育を充実する=学生のうちからトレーニングを徹底する,などをあげて,医療の質を社会に保証する制度の確立や,医学部改革の必要性を強調した。