医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


高次神経機能障害に関する最近のトピックスを解説

高次神経機能障害の臨床はここまで変わった
宇野 彰,波多野和夫 編

《書 評》種村 純(川崎医療福祉大教授・医療技術学)

 本書はタイトルが示すように高次神経機能障害に関する最近のトピックスを解説している。多くの海外文献にあたらずとも斯界の最新動向を得られるので,入門の段階を過ぎて自ら勉強を進めようという方には,適当な参考書である。

「認知神経心理学」的観点からのリハビリテーションへの展開

 本書の特徴は,「認知神経心理学」的な観点を強く打ち出していることにある。中枢神経系の,特に連合野の機能に関する臨床・解剖学が従来の神経心理学の基本的方法論であった。これに対し,内的な処理・操作を認知心理学の方法に基づいて確認し,さらにその神経基盤を求めようとすることが従来とは「変わった」点と言える。
 本書が扱う問題は高度に学問的で,理解しやすいわけではない。しかし,図表を多用するなどの工夫をしていて,わかりやすくする努力がなされている。この認知神経心理学は,読み書きの障害に関する分析から始まり,他の障害に広げられていった。英米では,この動向がいちじるしく発展しており,専門雑誌も出されている。
 認知的方法の長所の1つに,リハビリテーションへの展開に示唆が得られる点がある。リハビリテーションでは,残存した機能を利用して障害された機能を改善させることになる。「脳の局所病変によりこのような症状が出現する」という知識だけでは,このような介入の計画は立てられず,本書に示されるような詳細な分析がきわめて有効である。
 本書の各章でリハビリテーションにも言及している点は,治療者にとって大きな魅力であり,失語症などに関する章に,その有効性が明らかにされている。しかし,どの分野でも認知神経心理学の方法が,十分に認められているわけではない。言語,読字,地理認知,空間無視の問題では,神経基盤と認知課題の詳細な分析との間に見事な対応関係が見いだされている。一方,痴呆,記憶,学習障害という,従来は神経心理学的アプローチが困難であった分野でも成果をあげているが,まだこのような理解は広まっていない。
 本書が,これらの分野の臨床家に広く受け入れられることを願っている。
A5・頁176 定価(本体3,800円+税)医学書院


消化管の画像診断を向上させるための必読書

内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
下部消化管

多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治 著

《書 評》飯田三雄(九大大学院教授・病態機能内科学)

 多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治の4氏によって執筆された『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-下部消化管』が,このたび出版された。1年前に出版され,破格の売れ行きを示していると言う『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-上部消化管』の姉妹書である。本書も,以下のような理由から上部消化管編以上に好評を博することは間違いないと考える。

厳選された症例で語る下部消化管疾患のすべて

 内視鏡,X線にかかわらず消化管の画像診断学を向上させるには,検討に耐え得る資料がそろった症例をできるだけ多数経験することに尽きる。その際,著者の序文にも書かれているように,1人の医者が自分で経験できる症例数は限られているので,他人の症例を見聞きすることが大切である。このような目的から全国各地で消化器関連の研究会が多数開催されており,著者らが常連の大阪の大腸疾患研究会や,東京の早期胃癌研究会もその1つである。これらの研究会では,1例1例についてX線,内視鏡,病理所見の対比が徹底的に討論され,診断力の向上に大いに役立っている。本書の執筆代表者,多田正大博士は,早期胃癌研究会の機関誌である雑誌『胃と腸』の編集委員長を長年務められた消化管診断学の権威者である。そのため,本書にも『胃と腸』誌の基本的な編集方針を随所に垣間みることができる。すなわち,呈示された内視鏡写真はいずれも美麗かつシャープであり,また適宜挿入されているX線や病理などの内視鏡以外の画像もすべて良質なものが厳選されており,画像をみているだけでも楽しくなる。
 本書は4章から構成されており,最初の2章で内視鏡検査に必要な局所解剖や,正常内視鏡像などの基本的事項が述べられており,比較的経験の浅い内視鏡医にも理解しやすい内容となっている。そして,後半の2章では,腫瘍性および炎症性疾患別に,病変の種類,分類,鑑別診断のポイントが解説され,最後に内視鏡所見別に実際の症例が呈示されている。

認定医試験にも配慮された内容

 この症例呈示は,全体の約2/3にあたる頁数が割かれており,本書の最重要部分と言える。1例が見開き2頁にわたって記載されており,左頁に2枚の内視鏡写真(大部分は電子内視鏡写真)とその所見の解説,右頁に診断名とともに,病理肉眼・組織所見や超音波内視鏡・X線所見など診断の根拠となる画像が示されている。しかもポピュラーな疾患から比較的稀な疾患まで多種類にわたる疾患が呈示されており,かなり経験を積んだ内視鏡医にとっても役立つ内容となっている。また,これから消化器内視鏡学会の認定医試験を受験予定の医師にとっても,左頁の内視鏡写真だけをみて,所見や診断の成否を試すことができるように配慮されている。
 本書では,原則として2頁で4症例が呈示され,右頁の端に疾患の解説がコンパクトに箇条書きで記載されている。比較的ポピュラーな疾患であればいろいろの内視鏡所見を呈し,何度も登場する。例えば,潰瘍性大腸炎をみると,発赤,アフタ様病変,全周性潰瘍・びまん,縦走潰瘍,不整形潰瘍,敷石像,炎症性ポリープ,血管透見の消失ないし低下など15項目の所見について15例が呈示されているが,疾患の解説は重複がないように配慮されている。また,左頁の内視鏡写真とともに,腫瘍性疾患については病変の存在部位と大きさ,炎症性疾患については年齢,性,主訴が記載されており,内視鏡写真の読影を自身で試してみる際の参考となるように工夫されている。
 このように,本書は,初心者からベテランに至るまでのすべての消化器内視鏡医にとって,大変参考になる必読の書である。カラー写真で埋めつくされているわりには価格も手頃であり,ぜひ購読されることをお勧めしたい。
B5・頁208 定価(本体12,000円+税)医学書院


めざせ!国際スタンダードの臨床研修

小児科レジデントマニュアル 第2版
安次嶺 馨,我那覇 仁 編集

《書 評》小林陽之助(関西医大教授・小児科学)

必須のポイント-急性期ケアやコモン・ディジーズの治療・処置

 「週刊医学界新聞」第2495号(2002年7月22日)のトップ頁を飾る座談会記事「〈国際スタンダードの臨床研修をめざす〉沖縄県立中部病院のアメリカ式臨床研修」をご覧になった読者も多いことと思う(もしまだなら,ぜひご一読いただければ幸いである)。
 小児科医であり副病院長をお務めの安次嶺馨先生のご司会で,我那覇仁小児科部長はじめ小児科スタッフの方々が参加して,同病院の臨床研修の概要が主に小児科を中心に展開されている。その記事を拝読すれば,アメリカ式臨床研修をめざそうとすれば本マニュアルが生まれるにいたった背景,またその必要性が容易に理解されよう。
 本書の特徴は,急性期ケアやコモン・ディジーズの治療・処置について,その場で役立つ,というのが大きなポイントである。
 本書がまず小児救急の重要17項目,ついで小児疾患の配列で組まれていることからも,この方針がうかがわれる。さらに新生児疾患,小児保健にも多くの頁があてられ,小児・新生児医療に携わる医療従事者,コメディカルスタッフにも役立つよう工夫されている。
 記述内容は要を得て簡潔,しかも必須事項は網羅されている。これは,執筆者が同小児科スタッフや研修修了者であることにもよるのであろう。しかしそれ以上に,同院の研修医教育の中で交わされる活発なディスカッションの蓄積により,何が必要かを十分熟知されているからこそ可能になったものと思われる。各項目末尾の参考文献も最新の重要なものが選定され,しかも文献内容のエッセンスが記され,自学自習に便利なように配慮されているのはありがたい。

卒後臨床研修の高い水準をカバー,日本のHarriet Laneに

 同病院の臨床研修は,現在厚生労働省が考えている卒後臨床研修の1つのモデルにもなっている。
 日本各地から意欲ある若い医師が同病院で研修を重ね,彼らが執筆陣に加わって数年後にはさらに内容が充実した第3版が出版されるものと期待したい。
 本書は,日本の『The Harriet Lane Hand-book, The:A Manual for Pediatric House Officers(Johns Hopkins Hospital, Mosby)』に準えられている。元祖は初版以来半世紀を超えたが,この『小児科レジデントマニュアル』も版を重ね,洛陽の紙価を高められるよう祈念している。
B6変・頁528 定価(本体4,500円+税)医学書院


時代を超えたベストセラー麻酔科学教科書

標準麻酔科学 第4版
吉村 望 監修/熊澤光生,弓削孟文,古家 仁 編集

《書 評》稲田英一(新葛飾病院副院長)

 麻酔科学の教科書は数多くあるが,本書はその名の示す通り,麻酔科学の「標準」的教科書である。初版が1987年に出版されて以来,ほぼ5年ごとに改版され,ついに第4版となっていることからも,本書が時代を超えたベストセラーであることがわかる。

麻酔科学を実践的な血の通った学問として親しみやすく

 何が本書をベストセラーとしているかには,いくつかの理由がある。まず,第1は,平易で生き生きとした記述と,豊富な図表である。教科書を生き生きと書くことは難しい。本書は,40名あまりの執筆者による共著であるが,それぞれの執筆者が自分の得意とする領域について,自分自身の興味や情熱を注いで記述していることが,本書を生き生きとしたものにしている大きな要因であろう。「麻酔科医の一日を追う」という章では,麻酔科医の一日の仕事振りが,朝のカンファランス,手術室,手術室外での麻酔管理,集中治療室,ペインクリニックなどの臨床的な場のみではなく,公開講座などでの啓蒙活動や動物実験の風景まで30枚あまりの写真入りで紹介されている。ともすれば理論的な話に傾きがちな麻酔科学を,実践的な血の通った学問として親しみやすいものにしている。
 本書のカバーしている内容の広さも,本書の人気を支える理由であろう。「麻酔関連薬物」,「麻酔管理を含む周術期管理」,「各科麻酔」,「合併症を有する患者の麻酔」など,麻酔に関連した知識が網羅されている。「脳死判定」や,「臓器移植の麻酔」,「AHAガイドライン2000に基づく心肺蘇生法」など,新しい知見も豊富に含まれている。さらに,本書の最後には麻酔関連領域の知識として,「ペインクリニック」,「緩和医療」,「集中治療」,「救急医療」,「救急蘇生」,「中毒」などについて独立した章にまとめられており,麻酔科医が関与する領域の広さもよく示されている。

麻酔指導医試験にも有用

 記述は平易ではあるが,その内容的な深さも,読者を引きつける理由であろう。学生には難しいと思われる知識も含まれているが,そういった高度な知識がなければ,麻酔科学への興味も浅いものになってしまうおそれがある。私のお気に入りは,「Tea・Time」である。教養的な示唆に富んだ記述がそこかしこに見られる。息抜きにと思って読んでいると,はっとして姿勢を正させられることも多い。
 本書は,医学生を主な対象としているが,内容の深さやまとまりのよさからみて,麻酔指導医試験を受験する卒後3-5年目の麻酔科医にも有用な教科書と考えられる。
B5・頁576 定価(本体6,500円+税)医学書院


封印された「家族の物語」を解く

DVと虐待 「家族の暴力」に援助者ができること
信田さよ子 著

《書 評》田辺 等(北海道立精神保健福祉センター)

 精神科医療や心理臨床では,目の前のケースに臨床的誠実さを貫こうとすると,しばしば社会や家族のあり方を考えざるを得なくなる。しかし大多数の臨床家は,立ち現れたクライエントの事例性に応答していくことで,作業の枠組みを,個人の治療,癒しの作業へと限定していく。そもそも,ほとんどのセラピストは,疾患モデル,医学モデルに依拠した治療者の役割に自分を限定している。
 しかし信田さよ子は,そうではない。医療やソーシャルワークやカウンセリングという営みの中で,問題の本質の何かが封印され,問題を語る文脈がすり替えられることを,彼女は断固として拒否する。あたかも生理的な嫌悪であるかのようだ。こうして信田さよ子は,考えることで,書くことで,戦う人になる。

援助者の否認と荷担

 本書『DVと虐待』は,日々の臨床活動の中で「家族の中の暴力」に直面した著者が,社会を,家族を,男女関係を,女性の生き方を,考え抜こうとしている過程でできたものである。
 この主題は,いわば“おどろおどろしい家族の物語”である。心の病理を扱う臨床家といえども,しばしばこの問題からは顔をそむけたくなる。書評子自身が,児童虐待防止の民間運動に協力したささやかな経験でもそうであった。例えば,看護や保育に携わる人たちが,実母が実子に加えた数々の虐待の傷跡を見ていながら,虐待という事実を認知することに躊躇し,当の実母が別の場面で見せた子どもへの愛情味ある1つの仕草,1つの発言で,すべてを否定してしまうのである。専門職の側も,問題を否認したくなるのだ。
 しかし著者と彼女の主宰する相談室は決して問題を看過しない。著者は言う。
 “ドメスティックバイオレンスの被害者は,しばしば「当事者性」を持てていない。だからこそ問題の認知には教育が必要である。それは心理臨床における中立的態度を超える。なまじカウンセリングやケースワークを学んでいると,プライバシーを尊重し自己決定を尊重する。それは閉じられた家族システムの権力構造を維持し,加害者に荷担する立場になることだ”

臨床直送の「戦場訓」

 著者は,自身の思考のプロセスを露にしたまま,ひるむことなく書き進み,いわば“臨床の畑からの取れたての産物”を,泥のついたままに産地直送してみせた。
 彼女は眼の前で起きている暴力の構造を許さないし,なぜその構造が継続,維持されてゆくかの疑問を考え抜こうとする。文献の渉猟をして,誰がこう言った彼がこう言ったという論文を著者は書かない。ケースに向き合った経験を自分の頭で考え抜くことが知性であり,誠実ということだと信じている。
 こうして得られた知恵が戦場訓のように提案されているが,実は,それはアルコール関連問題における豊かな臨床経験に裏打ちされている。

日常診療の裏に「DVと虐待」が潜んでいないか

 医師が“直接の問題”として,DVや児童虐待に関与することは多くないのかもしれない。しかし日常の診療での,アルコール・薬物依存,解離性障害,パニック障害,抑うつ,摂食障害,ひきこもりの問題の裏に,あるいは,子どものチックや多動や夜尿の問題の裏に,実は,外には語れない“封印された家族のストーリー”として,しばしばDVと虐待がある。
 20世紀初頭,フロイトの症例が心的現実としてエディプス葛藤を体験し神経症を患っていたのだとしても,21世紀の初頭では,親からの強姦や夫からの暴力の被害を実際に体験した人が,いろいろの解離性障害となってクリニックを受診しているのだ。
 本書は,明解な主張,歯切れよい文体,美しい表紙絵からなる。理解しやすく,パワフルで美しい。著者がよく現れている本である。
A5・頁190 定価(本体1,800円+税)医学書院


女性診療科の実地臨床に役立つ優れた1冊

《Ladies Medicine Today》
婦人科検査マニュアル
データの読み方から評価まで

倉智博久 編集

《書 評》小西郁生(信大教授・産科婦人科学)

 本書は,女性診療科(婦人科)の実地診療において用いられている主要な臨床検査について,その方法のみならず,データの読み方や評価,さらに検査にあたっての重要なポイントをわかりやすく解説した,厚さ約1cm,全232頁のソフトカバーの書物である。

専門外来に対応した検査項目

 目次をみると一目瞭然であるが,本書では,いろいろの検査が並列的に記載されているのではなく,第I章には婦人科腫瘍の検査,第II章に生殖生理の検査,第III章に女性内科の検査,そして第IV章に感染症の検査というように,女性診療科の個々の専門外来に対応した形で検査項目がまとめられているところに大きな特長がある。特に,近年,女性診療科における更年期外来の重要性が増していることから,女性内科の検査を独立させた意義は大きいものと思われる。また,不妊症にかかわる多種類の検査が非常に上手に整理され,適度に詳しく解説されており,私など生殖医療の専門外の者にとってきわめてわかりやすい内容になっていると思う。
 また,個々の検査について詳しく読み進めてみると,女性診療科の医師またはその科の検査技師が自ら行なう検査,特に「細胞診」,「組織診」,「頸管粘液検査」,「精液検査」などでは,その方法や手技,および検査を実際に行なう上での注意点が実にていねいに記載されているのに気づく。すなわち,現実に検査を行なう者の立場に立って書かれているところが,本書のもう1つの特長と言える。

Problem-orientedの検査

 さらに,個々の検査の解説だけではなく,problem-orientedの形で,例えば,「排卵時期の予知方法」,「黄体期の評価法」,「不育症検査」といった項目が設けられている。すなわち,そのような検索を必要とする患者が来院した場合に本書を参照すれば,ただちに検査計画を立てることができるようになっている。これは,非常に便利である。できればこのようなproblem-orientedの項目を,婦人科腫瘍の章においても入れていただきたかったようにも思われる。しかしながら,あくまでもコンパクトであることが本書がめざすところであり,その意味では必要十分な内容と言える。
 以上のように,本書は女性診療科の実地臨床においてただちに役立つ優れものであり,外来にも1冊,病棟にも1冊備えておきたい書であると言えよう。
B5・頁232 定価(本体7,800円+税)医学書院