医学界新聞

 

《特別編集》

書評特集・循環器関連

入退院を繰り返す慢性心不全の臨床 ●開業医のための循環器クリニック 第2版
PCI 治療戦略に活かすPTCA・ステントの病理カラーアトラス
●劇症型心筋炎の臨床 チーム医療のための呼吸循環管理マニュアル
●肺塞栓症診療のポイント どんなとき疑い,予防,初期治療をどう行うか
●はじめての心電図 第2版 ●実践 人工心肺


増加する慢性心不全患者への確かな指針

入退院を繰り返す慢性心不全の臨床
和泉 徹,麻野井英次,小玉 誠 編集

《書 評》木全心一(東京厚生年金病院長)

変化する心不全患者のイメージ

 心不全の診断や治療は,近年急速に進歩した。このため,心疾患の終末像であり,きわめて予後不良と考えられていた心不全患者の予後・心機能・運動耐容能が改善され,心不全患者に持つイメージが変わってきている。この進歩にもかかわらず取り残された問題があり,その中の最大が「入退院を繰り返す慢性心不全」患者である。本書は,この問題点に焦点を定めて記載している。
 第I章は,「入退院を繰り返す慢性心不全の病態生理」である。この中の「臨床像について」を,和泉徹先生が自分のデータを基に記述している。日本の心不全の治験のデータから,日本人では基礎心疾患として虚血性心疾患が少なく,拡張型心筋症が多く,予後がよいのではないかと言われていた。この疑問に対して,欧米と基礎疾患の比率には差はないが,死亡率や心事故率は低いかもしれないと述べている。ただ,日本では大規模の統計がなされておらず,答えを出すために関係者の今後の努力が望まれる。
 診断の分野で特に重要な進歩は,BNPが高値の患者では病態が悪く,予後も不良なことが明確になり,日常臨床に取り入れられたことがあげられる。この分野で最も活躍している,蔦本尚慶,木之下正彦先生が自分のデータでこれらの事実を明確に示している。BNPの血中濃度を200pg/ml以下に保つように治療することが,慢性心不全の患者が入退院を繰り返さないための1つの指標と考えられる。

急進展が予感される心不全の治療

 第II章は,「難治性心不全の臨床」であり,第III章の「具体例で示す対処法」で具体的な重要問題を個々に取り上げ詳細に記載している。例えば,左室縮小形成術についての須磨久善先生の記載がある。左室が大きくなりすぎると,左室壁にかかる応力が大きくして,このため病態が悪化し死亡に至るのが心不全の経過である。これに対して,左室を縮小して悪循環を断ち切ろうとする手術が,BatistaやDorの手術である。日本でも試みられたが,施設間で成績が異なり,効果が疑問視されていた。ところが須磨先生が,左室は一様に障害されるのではないため,障害が強い部位を切除するとよくなることを示してから評価がよくなった。
 また補助循環・補助心臓について,長年この分野で研究を続けてきた中谷武嗣先生が記述している。われら内科医にとっても,自分で操作できるIABP(大動脈内バルーンパンピング)やPCPS(経皮的心肺補助法)が導入されたことは,急性期を乗り切る大きな手段として,そのありがたさを身にしみて感じている。
 さらに,「慢性心不全における不整脈治療」は難しい問題で,多くの大規模臨床試験で抗不整脈薬を用いると,かえって予後が悪くなることが示されている。この問題について川名正敏先生らは,自験例を基に見解を述べている。特に,心室性不整脈については,アミオダロンや植込み型除細動器の有効性を述べている。
 「具体例で示す対処法」は,この他にもいろいろと役に立つ記載が多くみられるが,ACE阻害薬,ARB,β遮断薬など広く使われている薬物療法の使用法や効果についても,個別の記載があったほうがよかったのではと思う。
 最後の第IV章の「新しい治療への胎動」では,永井良三先生らが細胞移植法を紹介している。遠い将来の話のようだが,Isner先生らの開発した血管内皮増殖因子(VEGF)を,血行再建のできない心臓にカテーテルを用いて注入し,小血管を再生する試みがなされ,よい結果が得られている。日本でも阪大などで,HGFを閉塞性動脈硬化症などに用いて有効性が証明されており,近い将来に心不全の治療が急進展する予感を感じる。
B5・頁224 定価(本体5,000円+税)医学書院


随所に著者の医療哲学やキラリと光る診療上のヒント

開業医のための循環器クリニック 第2版
五十嵐正男 著

《書 評》綾部隆夫(綾部医院)

レジデント教育に携わった著者の経験が反映

 早いもので,本書の初版の書評を担当してから6年が経ったことになる。著者は,長年にわたり聖路加国際病院にあって,臨床心電図学,特に不整脈の診断・治療の面で全国に広く知られた方であり,不朽の名著『不整脈の診かたと治療』(医学書院)は,現在第5版が刊行されている。著者は,1987年より湘南の地で循環器専門の開業医として,地域医療に取り組んでおられる。
 大都市の教育病院での豊富な臨床経験に加え,第一線の開業医としての視点から書かれた本書には,著者の医療哲学やキラリと光る診断・治療上のヒントが随所に散りばめられている。そして,長年にわたりレジデントの教育に携わった著者の経験に裏づけされた本書の記述は,大変わかりやすく,かつ,具体的な記載は治療指針としてとても有用なものとなっている。

自家薬籠中の薬を言及

 初版の書評で取りあげた「送り先病院の評価」の章は,一部修正され,第2版でも存続されている。病診・病病連携や第三者による病院評価に関心がもたれるようになった今日,とても重要なことだと考える。辛口で知られる著者らしく明快な記述である。
 第2版では,「循環器疾患用薬剤の選び方」の章が新設されている。医療保険制度の変化とともに,先発の一流メーカー品に比べ薬価の安い後発品(いわゆるジェネリック薬品)が注目されるようなった。費用対効果を考えた時,後発品の使用は医療の現場における1つの大きな流れになるであろう。この考え方に沿った薬剤の選び方について,本章と付録「外来で使用する循環器疾患用薬剤」の項で,著者の薬剤を選択するにあたっての方針がわかりやすく説明されている。また,次々と新薬が発売される中にあって,評価の確立された薬剤について,その特性に習熟するとともに,内科医として文字通り自家薬籠中の薬を持つことの大切さに言及しいる。
 本書の骨格をなす循環器疾患についての病態生理の説明,診断,治療にあたっての要点など,簡潔で明解な記述は初版からそのまま引き継がれている。第一線の開業医にとって,まさに座右に置きたくなる循環器疾患の解説書である。
 最後に,聖路加国際病院時代から開業医としての今日まで,常に新しい知識の吸収とその敷衍に努力を傾けてこられた著者の臨床医としての生き方に満腔の敬意を表したい。
A5・頁240 定価(本体3,600円+税)医学書院


PCI治療のための画期的病理アトラス

PCI治療戦略に活かす
PTCA・ステントの病理カラーアトラス

延吉正清 監修/井上勝美 著

《書 評》光藤和明(倉敷中央病院主任部長・循環器内科)

冠動脈インターベンションの最前線の内容

 著者の井上勝美氏は,冠動脈インターベンションの最前線で実際の手技を行なっている現役のインターベンショナリストでありながら,かつ国際的にも活躍している臨床病理学者である。この希有なる存在の筆者が物したこの書物は,他には得難い表現方法と内容とを持っている。
 例えば,冠動脈の輪切りを並べてあたかも冠動脈造影で観察されるかのごとくの図は,一見古代の宝石を並べたかのごとくに見えるが,横に示された冠動脈造影の写真と比べてみると,なるほどその部位の同定がわれわれ読者にも一目瞭然であり,右に示された顕微鏡写真でその部位の詳細を一気にとらえることができる。躍動感あふれるコンピュータグラフィックを見ているような臨場感があるのである。病理学者である著者のインターベンションに対する動的な姿勢そのものを表現しているようで興味深い。
 内容においても標本を冷静に観察するとともに臨床家の疑問に応えるべく沈着な分析を行なっている。しかも一般臨床家にもよく理解できるように平易に説明されている。われわれも著者に検体を送って検討していただいたことが何度かあるが,その結果のレポートたるやすさまじく,数百枚に及ぶスライドとその1枚1枚に対する微に入り細を穿つ詳細緻密なコメントであった。臨床活動を行ないながらそれだけのことをする,その才能と努力と誠意に対して畏れに似た敬意は抱くものの,素人の悲しい消化不良を味わった記憶がある。しかし,この書物ではずいぶんと我慢をしてやさしく書いてくれたものだと感心しているし,消化不良を解消してもらって感謝もしている。

インターベンショナリストのための座右書

 インターベンショナリストにとって,自らが行なった治療の帰結を日常的には,冠動脈造影法という動的な方法で確認する。病理学的にメカニズムを含めて示されることは,日ごろの疑問を解くための決定的な意味を持つことが多いが,自らの症例のみではその数は限られており,一定の結論は出しにくい。この書物のように多くの症例を背景にしたアトラスは,大きな重みを持っている。
 この書物は,これからインターベンションを始めようかという初心の医師からベテランのインターベンショナリストまで,広く座右におくべき本であると思う。またインターベンションにかかわる技術や看護師,さらには臨床病理(心臓に限らず)を志す医師や技師にも幅広く読んでほしい本である。
A4・頁100 定価(本体9,500円+税)医学書院


浮き彫りにされた劇症型心筋炎の全貌

劇症型心筋炎の臨床
和泉 徹 編

《書 評》岡田了三(群馬パース学園短大学長)

 劇症型心筋炎は,Fiedlerの「びまん性間質性心筋炎」4例の剖検報告(1899年)により,経過の短い致死的心筋炎として確立された疾患概念である。3例の小円形細胞の浸潤する型と,1例の巨細胞が目立つ例が含まれている。後にP. D. Whiteが著書『The Heart』の中にその英文要約を紹介して,ウイルス性心筋炎として矛盾するものはないと記載したことにより,広く世界的に認知されてfulminant myocarditisと称されるにいたった。

心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎治療の集大成

 発症してから重症化への経過が,急速でショックまたは不整脈死に終る症例と,何とか急性期を切り抜けると見事に回復して,ほぼ正常の生活を長期にわたって続けることが可能な症例に分かれることは,評者も繰返し経験している。その経過の特異性のため急死例では,医療訴訟に持ち込まれることもあり,病者の家族,受持医ともども苦慮する事態を招くことになる。
 和泉徹教授が,1997-2000年の3年間に日本循環器学会学術委員会「心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎の治療に関する調査研究班」の班長として,本邦における52例を蒐集,整理された結果が本書に結実したわけである。
 分担執筆の著者たちは,この研究班の班員であり,本書には貴重な経験が十分に書き尽くされており,現時点での劇症型心筋炎の全貌が浮き彫りにされているので,循環器専門医を標榜する臨床医および研究者にとって必読すべき1冊である。

どこにあるのか単なる急性心筋炎と劇症型の分岐点

 心筋炎は,病原となるウイルスなどの性質とホストの免疫能が両々あいまって複雑な病態を示す厄介な疾患であるが,心筋内の小細血管またはリンパ管経由で病原が働くと,まず間質炎が始まり,激しい炎症が発生して心機能が低下しても,実質の構成成分である心筋細胞への深達度が浅く,その病変が可逆性であるか,心筋細胞の脱落が最少限に留まれば,心機能回復の望みがあるわけで,1-2週間の機械的循環補助装置の使用意義が存在することになる。本書では,単なる急性心筋炎と劇症型の分岐点がどこにあるのか? 臨床例のみならず動物実験で得られた心筋傷害を促進する各種サイトカインやNOなど各種生理活性物質の役割がわかりやすく解説されており,今一歩で劇症型の早期診断が可能になりそうな迫力を感じさせる点,真に心強い次第である。
 機械的循環補助装置を使用できるのは,今日では習熟したスタッフを抱える循環器専門病院に限られるので,劇症型の疑いを生じた時点で早急の救急搬送が必要であるが,ステロイドなど心筋炎の内科的早期治療に使用,ことに議論のある薬物についても触れられている。その上動物実験から有効性が示唆されて人体へも応用可能な新しい治療法に方向性が与えられている点,貴重な指摘と言える。また末尾に症例提示があることは,これから循環器専門医を指向する若い医師にとっても実践上役立つ情報が満載されているので,ぜひとも一読をお勧めしたい。
B5・頁176 定価(本体5,500円+税)医学書院


チーム医療に不可欠の呼吸循環管理のエッセンス満載

チーム医療のための呼吸循環管理マニュアル
塚本玲三,相馬一亥 編集

《書 評》堀 進悟(慶大助教授・救急部)

求められる医療のインフラストラクチャーの強化

 日本人の特性かもしれないが,個々の医療従事者の技量は優れていても,チーム医療は必ずしも得意ではない。そのために,さらに統合的な機能を求められる病院が,必ずしも市民の高い評価を得られない場合がある。診断・治療の進歩や医療需要の増加などのために医療の現場が過剰に忙しくなっていることが,基本的な医療の質を低下させる可能性が懸念される。医療にかかわる基本的な事項に関して,医師のみならずコメディカルを含めた医療従事者の教育,理解が均一ではないことが,無用の垣根を作り,この問題の解決をさらに困難にしている。将来を見据えて,今こそ医療のインフラストラクチャーを強化する必要がある。すなわち,医療従事者全体に対して,共通の理解の基に医療を行なうための教育を強化しなくてはならない。希望に燃えて医療の道に進んだ若人が,相応しい時期に必ずしもよい教育に恵まれず,相変わらず「一部のみに詳しい」医師,医療に積極的にかかわれないコメディカルが今日も作られ続けているのではないだろうか?

要領よくまとまっている呼吸循環管理の実際

 『チーム医療のための呼吸循環管理マニュアル』は,救急室や集中治療室で勤務する若い医師,コメディカルスタッフを対象として,呼吸循環管理に関して理解しておくべき知識と技量とを要領よくまとめた冊子である。編集者の塚本玲三氏は米国の呼吸器病学を本邦に導入され,また相馬一亥氏は北里大学救命センターで文字通り呼吸循環にかかわる重症患者の治療方針を指導されている専門医である。お二人ともに,若い医療者の教育に強い熱意を持たれ,項目を慎重に選定してこの本を作成された。さて,本書の内容は,「呼吸循環不全の病態」,「呼吸・循環管理の基本手技」,「呼吸管理」,「循環管理」,「疾患別呼吸循環管理の実際」と要領よく区分されている。研修医やコメディカルが救急室,あるいは集中治療室などで勤務する前に,あらためて本書に目を通すことによって,知識や治療手技のエッセンスを整理することができると思われる。大づかみに言えば,本書は救命に必要な知識と技術をまとめたACLS(Advanced Cardiac Life Support)の日本版,あるいは教育目標を提示したプログラムと言うことができるかもしれない。循環よりも呼吸管理に,救急室よりも集中治療室での医療に重点が置かれている点が,本書の特徴である。
 小冊子として読みやすく工夫されたために,この本の読者は記載された項目の個々について,理解が深まるとともにさらに疑問を持つ場合,あるいは物足りなく思う場合などもあるはずである。例えば,第2章の「開胸心マッサージ」の適応については,筆者も若干疑問を持たざるを得ない。しかし,この本をきっかけとして,読者と他のチームスタッフとの間に議論が生まれ,より深い理解につながることを期待したい。
A5・頁200 定価(本体3,000円+税)医学書院


ズバリ解決 肺塞栓症診療のすべて

肺塞栓症診療のポイント
どんなとき疑い,予防,初期治療をどう行うか

国枝武義 著

《書 評》白土邦男(東北大教授・内科学)

明らかに増加に転じた肺塞栓症

 肺塞栓症は,従来わが国では少ないとされてきたが,近年の高齢化社会と生活様式の欧米化にともなって,最近では明らかに増加している。
 本書は,肺塞栓症の研究ではわが国の第一人者でもある著者の長年にわたる経験をもとに書かれたものである。簡便にしかもポイントをおさえて要領よくまとめられている。また,ところどころに本症に関連した事項についての解説が加えられており,本症の理解を容易にしている。それゆえ本書は,一般臨床家にもわかりやすく書かれた書と言える。
 肺塞栓症は,すべての臨床科で経験し得る疾患であり,しかも重症例では急死する場合もあり得る。また一方では,本症を疑わない限り診断が難しい疾患でもある。しかも本症の発生には医原性の要素を含んでおり,訴訟問題にも発展しかねない一面を有している。以上のような理由から,第一線の臨床の場で働く医師は,本疾患への理解を深めておく必要がある。このような意味からも本書は,必読の書の1つと言える。

急性肺塞栓症の初期治療の重要性

 本書では,まず肺塞栓症の一般的な知識について述べた後,急性肺塞栓症と慢性肺塞栓症の違い,わが国と欧米との違いについて記述している。つぎに臨床上特に問題になる致死性急性肺塞栓症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症について論じている。致死性急性肺塞栓症は,深部静脈血栓症の合併症としての観点から論じられ,本症に影響を及ぼす基礎疾患や危険因子についても言及している。後者の慢性血栓塞栓性肺高血圧症は,これまで原発性肺高血圧症と同一視されがちであったが,両者の差を詳細に述べている。
 急性肺塞栓は,前述のごとく診断の難しい疾患の1つではあるが,本症をまず疑い,念頭において診断にあたることの重要性を強調している。さらに胸部X線写真と心電図における疑い症例の選別のポイント,血液ガス,心エコー,肺シンチグラム,肺動脈造影,また最近普及し,本症の診断を容易にしたCT,MRIの所見を簡潔にまとめている。
 本症の急性期では,全身状態の管理,再発防止の上から初期治療の重要性を指摘している。また重症例における非薬物療法,外科的療法についても論じている。
 慢性肺塞栓の治療においては,最近注目されている肺血栓内膜除去術について述べている。これは国内でも限られた施設でのみ行なわれているきわめて難しい手術であるが,成功例では著明な改善が得られる。
 肺塞栓症は,大部分が深部静脈血栓症の合併症として発症することより,本症の予防は深部静脈血栓症の予防ということになる。それゆえ1次予防,2次予防の面より深部静脈血栓症予防の薬物療法,非薬物療法,さらには下大動脈フィルターの適応などが論じられている。
 本書は肺塞栓症の臨床を簡潔に,しかも重要なポイントをわかりやすく解説した書である。本症が,各臨床科目にまたがる疾患であることから,臨床家は一読しておくべき書であろう。
A5・頁144 定価(本体3,000円+税)医学書院


心電図教育のプロ中のプロが執筆した入門書の決定版

はじめての心電図 第2版
兼本成斌 著

《書 評》村松 準(湘南東部総合病院・臨床教育部長/前北里大教授)

 高精度のハイテク診断技術が用いられるようなった現在においても,日常臨床における心電図の診断学的価値は不変である。
 このたび,畏友兼本成斌博士が『はじめての心電図』第2版を医学書院から出版された。
 兼本博士は,東海大学内科助教授を経て茅ヶ崎市に内科・循環器科クリニックを開設されご盛業中であるが,循環器病学に対する真摯な姿勢は変わることなく,現在でも内科学会総会や臨床心臓病談話会などに積極的に演題を発表されておられる。
 本書の第1版が,11年前(1991年)に出版されて以来,多くの医学生,研修医およびコメディカルの方々に受け入れられ,現在にいたっているとうかがっている。

臨床に即し診断的流れにそった構成,臨場感あふれる文体

 今回の改訂にあたり,大項目を5本の柱,すなわち,「I.心電図の基本を学ぶ」,「II.心筋梗塞と心電図」,「III.電解質・薬剤の影響を理解する」,「IV.不整脈の心電図を読む」,「V.その他の心電図検査・人工ペースメーカー」に分類し,頭の中ですっきり整理できるように配慮されたという。一見,ユニークな分類にもみえるが,臨床に即した診断学的流れの結果生まれた構成と言えるのだろう。
 本書は,全編を通じ臨場感あふれる文体で説明がなされており,あたかも著者が側にいて,著者の声が直接聞こえてくるようである。特徴は,「わかるためのポイント」が箇条書きに平易に記載されていることである。さらに特筆すべき点は,自験例から厳選された明瞭な心電図波形および要点をつかんだ自作の2色刷シェーマが,実に整然と呈示されていることである。これらは本書にすばらしい息吹きを与えている。
 臨床心電図の基礎的な事項に関しては,本文で必要かつ十分に要点が記載されている。少し込み入った基礎的または臨床的事項および特異な病態については,「Note」でまとめて述べられている。各章の終りにある「まとめ」および「セルフチェック」は,各章で得られた知識や記憶の確認に有用であろう。
 なお,最近注目されているトピックスとして,Brugada症候群,植込み型除細動器(ICD),automated external defibrillator(AED),心筋イオンチャンネル病,Sicillian Gambit分類なども取り上げられ,解説されている。
 巻末の「用語解説」は,初めて心電図を学ぶ人たちに大いに役立つであろう。また「セルフアセスメント53題」では,過去6年にわたって出題され公表された医師国家試験問題が新しい設問形式に改変され,心電図も自験例に入れ替えられて,すっきりした形で呈示されている。解説もていねいでわかりやすく,著者のきめ細かい配慮がうかがわれる。

初心者に魔力を持った心電図の入門書

 著者は,長年にわたり東海大学内科で心電図を講義し,研修指導に携わってきたプロである。本書はまさに初心者の心電図教育のノウハウを熟知したプロが書いた入門書である。
 「心電図は難しい」とか「わかりにくい」とか言われるが,本書ではそのような心配なしに,初心者を容易に心電図の世界に入り込ませてしまう魔力を持っている。そう思わせる著書である。心電図を初めて学ぼうとする医学生,研修医,コメディカルの方々に心からお勧めできる好著である。
B5・頁240 定価(本体4,500円+税)医学書院


臨床工学技士のための待望の人工心肺必読書

実践 人工心肺
南淵明宏 著/茨木 保 絵

《書 評》小野哲章(神奈川県立衛生短大教授)

 すべての人工心肺にかかわる人たちのための,待望の書が出ました。新進気鋭,「あの著名な」南淵先生が,自らの体験をもとに,人工心肺装置を使った心臓手術のAからZまでを,先生の手術よろしく,非常に手際よくまとめています。特に,心臓外科医と表裏一体の関係にある,人工心肺装置のエキスパートである「臨床工学技士」の業務を余すことなく伝えています。
 医学はサイエンスであり,アートであると言われます。
 心臓手術は解剖・生理・病理のエビデンスに基づく科学的知識と,経験と勘とそして時に「ひらめき」に基づく,芸術的技術があいまって,初めて「成功」に結びつきます。南淵先生は,これにハートが必要なことを強調しています。「患者のために」-すべてはここから始まることを。サイエンス・アート・ハートの中に,これにかかわるすべての職種が,信頼関係のもとに協力関係を築くことによって,患者の期待にこたえられるのだと。
 「臨床工学技士」は,「呼吸・循環・代謝にかかわる生命維持管理装置の操作および保守点検を業とする医療国家資格」です。

執刀医との完全なる信頼関係を築くために

 特に心臓手術では,執刀医との完全なる信頼関係の中で,その技術を全うすることによって,心臓手術を成功に導く重要な職種です。指令塔である執刀医の意のまま,あるいはそれを先読みしながら,装置と患者の状態に神経を集中し,自ら習得した知識と技術をフルに発揮して,執刀医とともに「勝利の美酒」に酔うため全力を尽くすのです。この信頼関係は,単なる仲よし人間関係で生まれるものではありません。豊富な知識と完全な技術に裏打ちされて,初めて生まれるものです。プロ同士の信頼関係なのです。そのためには,臨床工学技士には最大限の「勉強と訓練」が要求されます。本書は,その「目標」を明確に示しています。「何をどれだけ知って,どれだけ習熟すべきか」を示すHow-to本でもあるのです。
 随所に,ていねいでわかりやすい「イラストとマンガ」(驚くべきことに,同僚の産婦人科医 茨木保先生の手になるものです)と,実に広範で深い医学的基礎知識に基づく「簡潔な説明」が散りばめられた,宝石のような小冊子です。白衣のポケットにいつもしのばせ,繰り返し熟読することをお勧めします。
A5・頁152 定価(本体3,600円+税)医学書院