医学界新聞

 

第50回日本心臓病学会が開催

「Fighting Heart Disease Together」をテーマに




 さる9月9-11日,第50回日本心臓病学会が,菱田仁会長(藤田保健衛生大)のもと,名古屋市の名古屋国際会議場において行なわれた。今回のメインテーマは「Fighting Heart Disease Together」。
 本学会は1970年に「臨床心音図研究会」として誕生し,今回で50回目を迎えた。これに因んで,学会の歴史を振り返る会長講演の他,学会50回目を記念したフォーラム「心臓病診断学の卒前・卒後教育はいかにあるべきか」(阪市大 吉川純一氏,JR総合病院 羽田勝征氏)では,きたる臨床研修必修化を見据えた講演が行なわれた。
 また学術集会ではW. Bruce Fye氏(アメリカ心臓学会長,テレカンファレンス方式で参加)ら,世界の第一線の臨床医が講演をした他,シンポジウムでは臨床と遺伝子研究,冠動脈再狭窄予防などが,またパネルディスカッションでは,高齢者の心血管手術の緒問題や,心血管疾患の1次・2次予防の模索,心房細動,慢性心不全など,臨床の最前線のトピックが取り上げられた。
 なお,チーム医療の充実を目的としたコメディカルセッションでは,「心臓移植をめぐる諸問題」や「クリティカルケアの問題点とその対策」が企画された。


心電学会との合同開催

 今学会は,第19回日本心電学会と合同で開催され,特別企画として合同シンポジウム「心不全における不整脈の基礎病態と治療戦略」(司会=慶大 小川聡氏,阪大堀正二氏)と,合同ライブデモンストレーション(司会=虎の門病院 山口徹氏,東医歯大難治研 平岡昌和氏)などが行なわれ,多数の参加者を集めた。
 合同ライブデモでは,豊橋ハートセンターでPCI(冠動脈インターベンション)が,また名古屋第二赤十字病院ではカテーテルアブレーションが,実際に患者さんの協力のもとに行なわれたが,会場となったホールには多くの参加者が詰めかけ,本領域への関心の高さをうかがわせた。
 なお,PCIには鈴木孝彦氏(豊橋ハートセンター),西川英郎氏(山田赤十字病院),平山治雄氏(名古屋第二赤十字病院)が,カテーテルアブレーションには伊藤昭男氏をはじめとする名古屋第二赤十字病院循環器内科のメンバー,および山田功氏(尾張病院)が術者として参加。またコメンテーターには国内外からのゲストが多数壇上に集い,ライブの映像を見ながら活発な意見が交わされた。

冠動脈再狭窄の予防をめぐって

 2日目に行なわれたシンポジウム「冠動脈再狭窄予防の展望」(司会=山口徹氏,藤田保衛大 野村雅則氏,写真)では,冠動脈再狭窄というインターベンション最大の問題を克服すべく,最先端の研究が紹介された。
 最初に奥村健二氏(名大)は,内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)のアミノ酸配列を変える遺伝子多型(eNOS Asp298)を持つ場合に再狭窄率が高いことをつきとめ,再狭窄の原因である内皮増殖がホモシステイン代謝やNOとの関連を明らかにし,治療への応用を示唆した。
 伊藤良明氏(川崎社会保険病院)と尾崎行男氏(愛知医大)はそれぞれ,IVUS(冠動脈内エコー)を用いたステント治療を紹介。伊藤氏はエンドポイントを用いたIVUS guided stentingの効果を,また尾崎氏はIVUSを用いて,特に小血管におけるPCI治療の有用性を示すとともに,両者ともにIVUSが再狭窄予防に貢献することを明らかにした。一方,大谷朋仁氏(大阪警察病院心臓センター)は,血管内視鏡を用いて,プラークの色調が再狭窄の指標になることを示した。特に,濃黄色プラークを有する病変は再狭窄率が高く,薬物によるコレステロール管理で黄色プラークが消失することを示し,このような病変へのPCIの治療戦略として薬物療法が必要とした。

薬剤コートステントの効果

 米国・スタンフォード大で薬剤コートステントの大規模試験「SIRIUS」()に携わった森野禎浩氏(板橋中央病院)は,薬剤コートステントの効果とその問題について概説。欧州でのRAVEL試験,アメリカにおけるSIRIUS試験などの動向から,本ステント使用により施行後6か月再狭窄は著しく減少し,内膜増殖を抑制するなどの好結果を報告する一方で,血栓性閉塞や再狭窄なども報告されはじめ,「薬剤コートステントの安全性や有効性の確立には,もっと時間が必要」と指摘した。
 最後に,岡田正治氏(滋賀県立成人病センター)は,日本で初めて冠動脈ステント内再狭窄に対する血管内放射線治療(44症例・49病変)を行なったところ,全例に合併症もなく安全に施行でき,3か月後の再狭窄率はきわめて低値だったことを提示。有効な治療法となる可能性を示唆した。
 総合討論の場では,薬剤コートステントの使用に関することが話題となった。薬剤コートステントの価格は,ヨーロッパでは2300ユーロとベアステント(従来のステント)の3倍の値段(日本円で25万円ほど)。これは,日本の現行のベアステントよりも安いが,格差を考慮すると日本では100万円近くなる。演者に,「薬剤コートステントがもし日本で使えるようになったらどう使うか」との質問には,「患者全員」と「再狭窄の起こりやすい部位」と意見が分かれたが,司会の山口氏は,「これだけの価格になれば,誰にでも使えるとはならない。慎重に適応基準を考える必要があるのでは」と述べた。

●編集室註:2001年の欧州心臓病学会で発表されたRAVEL試験では,免疫抑制剤シロリムス(商品名ラパマイシン)をコーティングしたステントを用いた群が,ベアステント群に比べてステント留置6か月後で再狭窄率は0%,イベント発生率も大幅に抑制すると報告された(欧州では今年,シロリムス・コートステントが発売となった)。
 また学会終了後,米国で開催されたカテーテル心血管治療学会(TCT2002)で,RAVEL試験と同様にシロリムス・コート・ステントを用いたSIRIUS試験の結果が報告された。冠動脈1枝病変患者1058人を対象に,PTCA後9か月のイベント発生率と,8か月後の再狭窄率を評価したところ,どちらもベアステントに比べて著しく抑制された結果となった。