医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


やっと出会えたターミナルケアのバイブル

〈総合診療ブックス〉
死をみとる1週間

柏木哲夫,今中孝信 監修/林 章敏,池永昌之 編集

《書 評》細谷朝子((株)スーパーナース在宅看護サービス事業部・看護師)

 ついに,日本でもこのような専門書が出版される時代がきたのか……。これが,まず医学書院の〈総合診療ブックス〉『死をみとる1週間』を手にした時の正直な気持ちでした。私が死をみとるということに関心を抱いたのは,もう14年くらい前の入院体験で,それがきっかけでホスピスナースを志したのですが,当時書店の専門書のコーナーへ行っても,ホスピスという言葉も,ターミナルケアという言葉もほとんど見当たりませんでした。それが,ここ数年書店の看護書籍のコーナーには,内科,外科などと同じように専門の本棚ができるほどになりました。それでも,現場ですぐに役立つ本となると,なかなか「これだ!」と思う本とは出会えませんでした。

大切な現場ですぐ役立つ

 ところが,本書は編集のことばにもあるように「死についての包括的な本」であり,「死=医師の敗北という呪縛から逃れるために,死をいかに迎え,医療者としてどう対応するか」具体的に解説されています。特に終章の座談会は,最近話題のスピリチュアルペインについて,非常に興味深い内容が記されていました。また,実際現場で悩んでいた内容が多く,うなずきながら読んだのですが,この本はぜひ医師の方々に読んでいただけたらと心から思います。今まで私は10年近くホスピスの仕事に関わってきて,いつも感じるのは医師の方々にとって,やはり死=敗北というイメージが強いのだなということです。そのことが,「みとり」という大切な場で周囲に与える印象を大きく左右しているように感じられます。
 本書が,「みとり」に関わる方々の手にいきわたり,1人でも多くの方が,安らかなその人らしい最期を迎えることができますように,心から願ってやみません。また,私自身これから臨床現場で悩んだ時や迷った時,すぐに手に取れるようにして,同僚や後輩にも勧めようと思います。
 ターミナルケアに関わる者として,まさにバイブル的良書に出会えたことに感謝しています。
A5・頁180 定価(本体3,700円+税)医学書院


自分の拠って立つところを根底からくつがえされる

《シリーズ ケアをひらく》
物語としてのケア ナラティヴ・アプローチの世界へ

野口裕二 著

《書 評》中木高夫(日赤看護大教授)

 ナラティヴ・アプローチはおもしろい。いままでの自分の拠って立つところを根底からくつがえされた気分なのだが,それでもなお爽快な後味を残すからだ。これはいったい何なのか?

衝撃的な3つの実践例

 ナラティヴ・アプローチを説明するために,本書の中で3つのナラティヴ・セラピーの実践例が紹介されてている。
 まず,ホワイトとエプストンの《外在化とオルタナティブ・ストーリー》。問題状況があるとしよう。その原因が自分の中にある(内在化)と考えると,いままでの自分を否定し,自分を変えなければならず,苦しい。原因を外に求める(外在化)と,自分は苦しまなくてもよいが,なんでも他人のせいにすると見られてしまう。そこで,ホワイトたちは〈問題そのもの〉を外在化し,問題の存続に立ち向かったり,問題を無視したり,問題に振り回されないというような,いままでと違った〈ユニークな結果〉を体験するということに着目した。
 専門家は,「問題の原因はこれだから,こういうふうにしなければならない」というような専門的知識に裏づけられた〈ドミナント・ストーリー〉を押しつけるが,そうではなく,クライアントがユニークな結果にもとづいて〈オルタナティブ・ストーリー〉を誕生させるのを見守ることが要求されることになる。
 2つ目は,グーリシャンとアンダーソンの《「無知」のアプローチ》。専門家というものはクライエントの生きる世界について〈無知not-knowing〉なのだということを自覚するところから始めようというのだ。となると,従来の専門家観にもとづく実践は,専門的知識を駆使して〈クライエントの生きる世界〉を専門家の世界に翻訳することに過ぎないということになる。
 3つ目が,アンデルセンの《リフレクティング・チーム》。家族療法ではワンウェイ・ミラーを用いた専門家による観察が定番といってよいほど普及しているが,この〈観察する側〉と〈観察される側〉という構造を逆転させ,専門家をクライアントに観察させるという構造もセラピーの中に組み込もうというのだ。病棟のナース・ステーションの中での会話が,患者さんに筒抜けになるというような状況を考えれば容易に想像がつくだろう。

自分の説明モデルを,限界を含めて理解する

 言葉がわれわれの生きる社会をかたちづくるという《社会構成主義》に基礎を置くナラティヴ・セラピーについては,「聴くこと・語ること」というテーマで医学界新聞の座談会(第2391号,6月12日発行,医学書院のホームページhttp://www.igaku-shoin.co.jp/で読むことが可能)を行なった時に,本書の著者である野口裕二さんから教わった。
 その著者が,専門性に対する従来の考え方を根底からくつがえすアプローチを提案していることは,上述の3つの実践例からも明らかである。
 かといって,従来の専門家の仕事を完全に否定されたとも思えない。専門家が専門知識を持たないということは考えられないし,それにもとづいて実践を行なうこともとがめられる筋合いのものではない。問題はアプローチである。
 最終的には,クラインマンの《説明モデル》を紹介しているところで著者が述べているように,おたがいの説明モデルの妥協点を探すのではなく,相手の説明モデルに最大の敬意を払い,相手の説明モデルをより深く理解するのと同時に,自分の説明モデルを(その限界をも含めて)より深く理解することから,たがいの了解を生成させることが必要なのであろう。そのためのナラティヴ・アプローチである。

了解不能な「専門性」を打破する試み

 看護過程・POS・看護診断の普及に精力を注いできた身としては,専門用語は問題の外在化のよい武器となると思う。また,患者さんのことをもっと深く知りたいという無知のアプローチは,患者さんの生きる世界を共有するための姿勢として,看護過程を実践するうえではなくてはならないものだ。診療情報提供のおどろくほど簡単な実践である《バラマキ型診療記録開示》は,リフレクティング・チームの診療記録版である。名古屋のみなと生協協立総合病院では,1日2-3時間,診療記録を患者さんのベッドの上に配布して,患者さんに自由に閲覧してもらっている。この病院ではまさに専門家の語りを患者さんに受けとめてもらっているのである。
 なぜ,爽快なのかわかった。いままで専門性だと信じて閉じこもっていたぼくたちの殻を,このアプローチがいとも簡単に打ち砕いてくれたからだ。
A5・頁216 定価(本体2,200円+税)医学書院


“ベイツの診察法”ポケット版ついに翻訳出版

ベイツ診察法ポケットガイド
Lynn S. Bickley,Robert A. Hoekelman 編集/山内豊明 訳

《書 評》伴 信太郎(名大教授・総合診療部)

 身体診察法の教科書および参考書として,おそらく世界でもっとも利用度が高いと思われるBarbara Bates氏の『Bates' Guide to Physical Examination and History Taking』(LWW)第3版のポケット版の翻訳がついに出版された。

太鼓判の押せる翻訳者に翻訳書

 翻訳者は,名古屋大学保健学科基礎看護学の山内豊明教授である。看護の世界でもフィジカル・アセスメントとして診察法の教育が積極的に導入されるようになってきている昨今,そのニーズに合致しているのみならず,医学生の教科書としても定評のある本書は,その利用はきわめて幅広いものとなるであろう。評者も身体診察法教育のための教科書やビデオの作成に携わっているので,強力なライバルの出現である。
 ところで,山内教授はきわめてユニークな経歴の持ち主である。新潟大学医学部を卒業後,内科・神経内科の臨床に8年間従事した後,研究者として渡米中に進路を変更,ニューヨーク州ペース大学看護学部を卒業し,米国でRegistered Nurseの資格を取得された。その後,1998年にはオハイオ州のケース・ウエスタン・リザーヴ大学看護学部で看護学博士を取得されている。医師で看護学の教育に携わっている人は少なくないが,このように両方の領域をきわめている方はごくわずかであろう。看護教育に従事する医師の中には,時々複雑な立場に立たされて戸惑っている方もいらっしゃるが,山内教授はどこから見ても文句のつけようがない。資格的にそうであるというだけではない。お会いして話しをすると,非常な人格者であることもわかる。今後の日本の看護教育をリードしていく逸材であることは,間違いないと思う。
 他著の書評ならば,ここで本の内容も紹介しなければならないところであるが,身体診察法の本ならどのようなことが書かれているかは,読者にはおおよその想像がつくと思うし,ましてや“ベイツの診察法”であるので,あえて紹介はしない。
 訳語として,訂正を要すると思われるものが多少見られるが,特に理解の妨げになるほどのものではなく,今後の改訂の時に修正していっていただけるものと思う。
 本書は,医学生,医師,看護学生,看護師,その他の幅広い医療従事者の身体診察法の学習の参考書・教科書として太鼓判の押せる本である。
B6変・頁294 定価(本体2,900円+税)MEDSi