医学界新聞

 

〔レポート〕米国における臨床研修の質を保証

――ACGME(卒後医学教育認可評議会)の役割

岸本暢将(ハワイ大学・内科研修医)


 2004年に行なわれる日本の臨床研修制度改革,義務化を前に,米国の医学教育・研修制度が,昨今非常に脚光をあびている。その理由の1つに,全米いずれのプログラムで研修を行なっても,研修終了時にはある一定水準以上の臨床能力を身につけることができるということがあげられるが,これに大きく貢献しているのがACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認可評議会)という機関である。今回このsite review meeting(実地評価会議)に参加する機会を得たので,少し触れてみたい。


研修プログラムを評価・認可するACGME

 全米に存在する研修プログラムはACGMEの認可なしには,国からの補助金も得られず,また,研修終了後に受験する専門医試験の資格も取得できないために研修医が集まらないことになり,病院にとっては死活問題となる(日本では厚生労働省が研修指定病院という形で認可を行なっているのとほぼ同様であろう)。
 プログラムがACGMEから認可されるためには,ある一定の基準を満たしていなければならない(詳しくはwww.acgme.orgを参照)。これらは,研修医の権利,教育機会を確保するのが主な目的となっている。この基準(内科)を少しご紹介すると以下のようになる。
(1)指導医は,1年間に平均して20週間以上は研修医の教育にあたること。そして,指導医は常に最新の医学知識を身につけられるよう,勉強会に参加する義務があり,また,指導医は研修医の精神的なサポートをしなくてはならない。
(2)Teaching Programとして,指導医による最低週に3日の回診(最低計4時間半以上),Journal Club, Ground Roundsなどを含めた,教育のための充実したConferenceの設置,また,基礎研究を行なえる環境をつくること。また,これも非常に大事なことだが,指導医から直接(基本的には毎月)書面でのEvaluation(評価)を受け,フィードバックを受ける権利も義務づけられている。外来教育については,3年間を通じ週に最低半日の継続した外来を持つこと,そしてそこでは必ず指導医からの教育を受けることも義務づけられている。内科以外の科においても,一般内科医として必要最低限の他科の知識を得ることができるようにしなくてはならない。
(3)教育を行なう病院は,24時間アクセス可能な図書館,カルテ管理室など,常に過去のX線を含めた検査データをみることができるよう義務づけられている。また研修医は単なる静脈ライン確保者,採血者,運搬者となるのではなく,病院側は24時間これらを行なう入院患者サポーターを配置しなくてはならない。
(4)研修医は,病棟研修時の当直は3日おき,週に合計80時間以上入院患者の診療業務にあたってはいけない。1年目の研修医は,24時間で新入院患者は5人まで,48時間以内で8人まで,全受け持ち患者数は12人を超えてはいけない。また週に必ず1日の休暇が義務づけられている。

ACGMEによる研修プログラムの認可更新

 ACGMEの認可を受けるために上記以外にも細かく基準が設けられ,これらの基準を満たしたプログラムは2-5年に1度認可の更新が行なわれる。私の所属するハワイ大学内科研修プログラムでは,1997年以来,今年が再認可の年となっており,この過程を実際体験することができた。
 まず5月中旬頃に,内科プログラムに所属する1-3年目までの全学年の研修医約50人がACGME出題の150問程度のアンケートに答える。これは,上記にあげた基準に関しての質問であり,実際プログラムがどのようであるかを細かくチェックする。例えば,
(1)週に80時間以上働いているか?
 Yes or No, average time
(2)指導医は回診をし,教育を行なっているか?
 5段階評価
 などである。もちろん研修医はみな正直に答えるのが前提で,指導医,プログラムの責任者などはこのアンケートの結果を見ることはできない。このアンケートは終了後直ちに封をし,直接ACGMEに送付する。今回はその集計をもとにSite Review Meetingが開かれることとなったのである。

研修医・指導医の代表と議論
研修の質を厳しく評価

 このMeetingに参加するのは,ACGMEの代表1名,プログラム側は,研修医の投票により選出された各学年の研修医3-4名,そして,同様に選ばれた指導医5-6名である。指導医と研修医のMeetingは別々に行なわれる。ACGMEの代表はMDまたはPhDの有資格者で,全米で約20名程度おり,MDはProgram Director経験者などが引退後,フルタイムでACGMEに雇われているそうである。
 MeetingではACGMEの代表者が,われわれ研修医代表者に質問する形で約2時間程度行なわれた。大きく分けて,以下の3段階であった。
(1)5月に全研修医に行なったアンケートの集計結果をもとに,基準を満たしていない,または,それに限りなく近い問題に関して,実際どのようであるか,改善する必要はあるかなどを議論する。もし改善する必要の有無が分かれた場合は多数決を行なう。
(2)ハワイ大学内科プログラムの長所と短所についての議論。
(3)5年前に行なわれた同様のACGME Site Review Meetingにて改善する必要があると判断された問題に関して,実際改善されたかどうかなどの議論。
 このMeetingでの結果をもとに,ACGMEの基準を満たしていない,またそれに限りなく近い問題で改善する必要がある,と結論が出たものに関しては,9月に行なわれるACGMEの認可会議[この認可会議は,アメリカ医学協会(American Medical Association)を含めた大きな3つの団体からそれぞれ5-6人計20名近くの代表者がボランティアで参加している]において議論され,その結果が最終的にプログラム側に通知される。
 例えば,もしその問題がプログラム認可の上でかなり重要な問題である場合,次回の再認可期間は短縮され2年後となり,この再認可時までに問題を改善するという形となるか,それほど重要な問題ではない場合は,5年後再認可時までに改善ということとなる。プログラムはこの期間中に問題解決を行なうのである。もちろん重要な問題解決ができない場合は,次回再認可時,認可取り消しとなる(毎年平均1個所のプログラムが認可を取り消されるようである)。

厳格な第3者評価が研修の質を保証する

 このように米国にはACGMEという非常に厳しく,かつ,研修プログラムでの研修医の教育機会や権利を確保する第3者機関が存在し,米国臨床研修のスタンダードを保っているのである。それから,このような監査機関だけでなく,指導医は研修医の指導にあたり,2-3年目の研修医は1年目を指導し,1年目は学生を指導するという屋根瓦式の教育も,臨床研修のスタンダード保持には非常に有効であり,ぜひとも日本でも採用するべきではないかと考えている。


岸本暢将
1998年北里大学医学部卒業
98-2000年沖縄県立中部病院にて内科研修
00-01年在沖縄米国海軍病院でインターン
01年-現在ハワイ大学内科研修医