第12回世界精神医学会(WPA)横浜大会が開かれる
第12回世界精神医学会(World Psychiatric Association:WPA)横浜大会が,さる8月24-29日の5日間にわたり,Juan J. Lopez-Ibor大会長(スペイン),大熊輝雄組織委員会委員長,鈴木二郎大会運営委員長のもと,横浜市のパシフィコ横浜において開催された。「Partnership for Mental Health-手をつなごう心の世紀に」をテーマに掲げ,アジアでは初の開催となった今回の大会には,世界111か国から6200人におよぶ参加者を得た。
同大会では,4題のプレナリーレクチャーをはじめ,26題の招待講演,305題のシンポジウム,61題のワークショップの他,1400題あまりものポスター発表の場で,精神医学関連の各疾患の他,組織・サービス・トレーニングの問題など,幅広い議論がなされた。また,スペシャルイベントとして,(1)「イワン・イリッチの死」(トルストイ)の舞台,(2)「ある精神病患者の自殺をめぐる模擬裁判」,(3)「コミュニティ・ベースのケアを多角的に検証するロールプレイ」が企画された他,5つの市民公開講座も開催され,一般市民を含めた多くの来場者が集まり,精神疾患についての知識と理解を深めた。
■「手をつなごう 心の世紀に」をテーマに


WPA総会での議論
本大会開催中の26日に開催されたWPA総会において,日本精神神経学会より提案された「横浜宣言」が採択された(別掲)。また,世界的な関心事となっている中国での法輪功学習者に対する精神医療の乱用疑惑問題についても同総会で議論された。
27日の記者会見でLopez-Ibor会長は,「来年にも調査チームを現地に派遣する」と表明するとともに「中国精神医学会は調査に協力的である」とする一方,「現在,中国精神医学会は乱用の事実を認めていない」と述べた。
【横浜宣言-Yokohama Declaration(要旨)】
日本精神神経学会は,アジア太平洋地域やアフリカ諸国において適切な診療を受けていない精神疾患患者が多数いることを考慮して,WPA加盟国,特にアジアの加盟国に対し,以下の点を勧告する。
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根深い精神障害者への差別
日本ではこれまで「精神分裂病」と表わされ,本年よりその訳語が「統合失調症」となった「Schizophrenia」に対する差別の問題は,WPAが取り組んでいる最も大きなテーマの1つである。27日に行なわれた連続シンポジウム「The Global Programme against Stigma and Discrimination Because of Schizophrenia(Part1, 2)」(座長=Norman Sartorius氏,Lopez-Ibor会長)では,世界各国で行なわれた差別解消のためのプログラムについて報告され,活発な議論が展開された。Schulze Beate氏(オーストラリア)は,患者自身が差別によって受ける影響として,(1)社会的に隔絶される,(2)職につけない,(3)患者自身が自尊心を失ってしまう,などの例をあげた。その上で差別によって社会に復帰できない悪循環が生じているといった調査結果を報告し,患者の家族に対しても,(1)「育て方が悪かったのでは」など,統合失調症に対する責任を追及される,(2)治療が保険でカバーされない場合もある,(3)患者が職につけないため,親に金銭的負担がかかる,といった影響があると指摘した。Lopez-Ibor会長は,精神障害者への偏見について「一般市民の病気に対する正しい知識が足りないことが原因」とし,「病識を深めるためのセミナーなどを開催するプログラムが効果的である」と述べた。さらに,「医療従事者の中にも差別の意識が存在している」と指摘し,この問題が根深いものであることを示した。
Baumann Anja氏(ドイツ・Heinrich-Heine大)は,メディアを利用したプログラムとして,統合失調症患者を題材とした,「The White Noise」,「A Beautiful Mind」の2本の映画を上映し,その後にパネルディスカッションを行なった例を報告。その結果,参加者に対する教育効果が得られたとして,「映画上映は差別解消のためのプログラムの一助となる」と結論した。
また,Arboleda-Florez Julio E.氏(カナダ・クィーンズ大)は,精神障害者と警察官との接触で多くの問題が生じているとして,警察官を対象としたプログラム例を報告。精神障害に対してどのようなアプローチをすればよいのかを理解させ,差別意識を警察官から払拭することの重要性を示唆した。
報道のあり方
同日(27日)の午後に行なわれた市民公開講座「精神障害に対する差別をなくすための市民フォーラム-なぜいま『統合失調症』なのか」(司会=日本精神神経学会理事長 佐藤光源氏)では,市民の立場と医療者の立場からそれぞれ発言があり,中井和代氏(全国精神障害者家族会連合会相談員)は,「統合失調症」への病名変更をきっかけに,相談時に自分の病名を言える患者が増えたと報告。名称変更の効果が具体的に表われた例を示した。パネルディスカッションの議論では,マスコミによる報道のあり方について「凶悪事件のたびに精神科への通院歴を報道し,それで話が終わってしまうのは問題だ」との声が上がり,小坂功氏(神奈川県精神障害者連絡協議会)は,「精神障害に疑いがかけられるたびに,全国の精神障害者が(差別が助長されることを)どんなに心配しているか考えてほしい」と訴えた。