医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


腎臓病を専門とする第一線臨床家を対象とした実践書

専門医のための腎臓病学
下条文武,内山 聖,富野康日己 編集

《書 評》浅野 泰(自治医大教授・腎臓内科学/日本腎臓学会理事長)

明確な目的をもった編集

 腎臓病に関する書籍は多数あるが,対象読者を研修医にしているのか,一般実地医家か,それとも腎臓病を専門とする医師にしているのか明確でないものが多い。それぞれの立場からすれば,「帯に短し襷に長し」である。そんな中で,本書は第一線の腎臓病患者を診察している腎臓専門医や,それをめざしている研修医を対象とするという明確な目的をもって編集されたものである。
 それだけに,本書の内容も最新の情報や治療指針のみならず一部進行中の研究内容まで披露されており,かつよく整理記載されている。

臨床と密着した充実した内容

 一方,一般的な書籍とは異なり臨床と密着した内容とする編集方針もあって,腎臓の構造や生理学的な基礎事項を記載する章はなく,研修医には若干もの足りなさを感じるかもしれない。しかし,このことに関しては,他にいくらでも見るべき書籍はあり,本書の目的とした臨床に密着した内容の充実がなされているので,読者も満足してくれるものと思われる。特に小児から成人にまたがる疾患については,それぞれの項で「小児科の視点」を加えたことは他に類を見ない優れた視点となっている。患者側からすれば,乳幼児,小児,成人と連続してかかわってきた同一疾患にかかわらず,そのつど主治医が変更となり,また時には治療方針の変化から不安となるのは当然のことである。小児科医と内科医との間の連携をもっと深めるべきであると日本腎臓学会でも長らく叫ばれてきたが,この点に着目されて計画されたことも,本書の優れたところと言えよう。
 なお,執筆者には新進の次世代の腎臓病学を担う若手も目立ち,それはそれで頼もしい限りであるが,細部まで見証すると,使用された図表の出典が明らかとなっていないものがある。往々にして若手の,また日本人の疑りやすい点であるが,まったくのオリジナルの図表でない限り(以前に用いた自著の図表であっても),許諾も含めて出典を明らかにしなければならないことは,ぜひともシニアの先生方から指導していただきたい。
 以上を除けば,本書はこれまでにない編集方針と内容で作製されたものであり,腎臓病の専門医,またそれをめざす研修医に良書としてぜひともお勧めしたい書である。
B5・頁536 定価(本体15,000円+税)医学書院


DSM-IVの提唱する人格障害の正確な概念把握に役立つ

SCID-II DSM-IV II軸人格障害のための構造化面接
Michael B. First,他 著/高橋三郎 監訳/大曽根 彰 訳

《書 評》越野好文(金沢大大学院教授・脳情報病態学)

 DSM-IIIは,1980年に米国精神医学会に登場した。わが国では,高橋三郎先生が中心になり,「DSM-III診断基準の適用とその問題点」と題したDSM-IIIを紹介する論文が,1980年10月から「臨床精神医学」に掲載され始めた。先生が中心になって始められたフィールドワークに参加させていただき,先生自ら金沢の地にご説明にこられたのも今となっては懐かしい思い出である。

診断革命もたらしたDSM-IIIと多軸評価システム

 精神科の診断に革命といってよいほどの変化をもたらしたDSM-IIIの意義は,いろいろあげられている。その1つに多軸評定システムがあり,I軸 臨床疾患,臨床的関与の対象となることのある他の状態,II軸 人格障害,精神遅滞,III軸 一般身体疾患,IV軸 心理社会的および環境的問題,V軸 機能の全体的評定(GAF)の5つの軸に基づき,包括的に患者に対応することができる。この中でII軸は,人格障害と精神遅滞を記録するものであり,また,顕著な不適応性の人格特徴および防衛機構を記録しておくためにも用いてよいとされる。人格障害を独立した軸として取りあげることによって,症状のはなばなしいI軸疾患に注意を集中するために見逃されがちな人格障害や精神遅滞が,存在する可能性を考えることが保証される。
 本書は,DSM-IVの多軸評定システムII軸にあたる人格障害を診断するための構造化面接であるSCID-II(『Structured Clinical Interview for DSM-IV Axis II Personality Disorders』,(American Psychiatric Publishing, Inc., 1997)の全訳である。
 SCID-IIは,3つの部分からなる。最初にSCID-IIの歴史,構造などの解説と,DSM-IVで規定された人格障害に関する詳細な症状記載と,臨床場面で行なう質問の解説がある。次に,被検者が記入するSCID-II人格質問票がある。この質問票を用いることで,その後の臨床面接で尋ねるべき質問項目を絞り込むことができ,II軸診断のために必要な面接時間が節約できる。最後に,実際に臨床場面で使用する各人格障害診断のスコアシートがあり,質問に対する被検者の答えが各人格障害の診断基準に適合するか否かが,詳細に吟味される。
 人格障害は多くの精神科医になじみが薄いせいか,II軸は臨床において十分活用されているとは言えないようである。SCID-IIには,人格障害の臨床像が具体的に生き生きと記載されており,人格障害への理解が深まる。本書を手にして,知識の乏しさ,なじみの薄さのゆえに,多くの人格障害を見逃していたのでないかと反省させられた。

求められるSCID-IIの活用

 臨床研究では,診断基準を満たす例を対象とすることが前提となる。そのためにSCID-IIが有用なことは言を待たない。診断基準を完全には満さないが,何らかの性格傾向の強い人に対してSCID-IIをどう活用するかが今後の課題であろう。例えば,薬物療法をはじめとする精神科治療法の発展はめざましいが,人格障害が共存すると治療転帰が劣るという報告が多い。診断基準を満たす場合に劣らず人格障害の傾向のある場合にも,治療転帰に影響する可能性があり,治療の際に考慮が求められる。SCID-IIにより人格傾向の特徴を把握することは臨床上の有用性が高い。
 訳者は本書が初学者に役立つと述べているが,多くの精神科医は人格障害に関しては初学者といってよいのではなかろうか。ということで本書は,DSM-IVの提唱する人格障害についての正確な概念を得るのに役立つことから,まず精神科医に熟読してもらいたい。さらにはコメディカル,医学生,研修医のみならず,司法関係者にもぜひ活用していただき,人格障害への理解を深めてほしいと願う。
B5・頁160 定価(本体3,800円+税)医学書院


精神科QOL研究の羅針盤

精神疾患とQOL
Heinz Katschnig,Hugh Freeman,Norman Sartorius 編集/中根允文 監修

《書 評》大森哲郎(徳島大教授・精神医学)

 病いのみでなく病人をも診ることが,古来良医の条件である。病人をも診るとは,病人の心理を配慮し,その人の社会生活をも視野に入れて疾患を診ることであろう。他の領域はいざ知らず,精神医学においては,疾患に悩む人間を切り離しては疾患概念そのものが成立しない。QOLの定義において重視される主観的安寧(subjective well-being)や社会的機能という観点は,精神科臨床に本来含まれている観点である。しかし,精神医学も他の臨床領域と同様に,時代の影響下にある。診断基準,症状評価,治療手順の標準化や国際化は,個人の個性や地域社会の特殊性などを切り離したところで成立している。基準にしたがって診断し,手順にしたがって投薬し,尺度の点をつけて症状の改善をみるという研究からは,患者の心理全般や社会生活面の評価が抜け落ちるかもしれない。また,治療形態の変化や治療戦略の充実は,治療方針の選択の際に新たな指標を必要としている。例えば,精神分裂病の病院治療では症状軽減が第1目標であったが,外来治療では地域社会で安定した生活を送る能力が重要となる。幻覚妄想の消失と入れ替わりに生活能力を減退させれば,患者のQOLはむしろ後退するかもしれない。

精神医学におけるQOL研究のあらゆる側面を網羅

 欧米各国の33名の専門家を結集した本書は,精神医学におけるQOLに関する現時点での到達点と問題点を余すところなく伝えている。
 全体は,6部構成全24章からなり,「第1部 序論」,「第2部 概念的問題」,「第3部 評価と測定」,「第4部 さまざまな精神疾患におけるQOL」,「第5部 治療と管理の問題」,「第6部 政策と計画立案」,と論述が進み,QOL研究のあらゆる側面を網羅している。QOLが精神医学と近縁であるがゆえに,精神医学領域におけるQOL概念の位置づけと評価方法がかえって難しくなる。
 第3部までが,概念と方法を扱っているのはそのためであろうし,その後の各論部分でもしばしば方法論に立ち返った議論が盛り込まれている。
 第7部には,訳者ら自身によるWHO-QOLの日本での使用経験と,痴呆介護者のQOLに関する国際共同研究が具体的に紹介されている。
 QOLが精神医学にも豊かな成果を付加する概念であり,しかし,まだ研究も実践も緒についたばかりであることが本書を読むとわかる。入念な論考の集積である本書が訳出された意義は大きい。日本におけるQOL研究の羅針盤となるだろう。
B5・頁376 定価(本体7,600円+税)MEDSi


視覚化され自然に生化学の知識が吸収できる臨床検査教科書

《臨床検査技術学 全17巻》
[8] 生化学 第2版

菅野剛史,松田信義 編集/亀井幸子,小島洋子,原 諭吉,松本暁子 著

《書 評》高木 康(昭和大助教授・臨床病理学)

 生化学は,血液や免疫あるいは微生物など臨床検査の主要領域と比較して,中・高校で学習している部分も多く馴染みやすい基礎学問である。しかし必ずしも十分に理解されているとは言えず,化学反応や代謝マップは苦手であるとする学生も少なくない。これは記憶だけを強調する教科書が多く,興味をひく記載あるいは将来的な臨床検査への展望を記載している教科書が少ないためであろう。

明確化された教育目標

 今回,《臨床検査技術学》の『生化学』が亀井幸子先生らにより改訂された。本書を拝読して,いくつかのすばらしい点に気がついた。まず,他の教科書と比較して図表が多いことである。今回の改訂により2色刷となり,この図表が要領よく本文を説明している。本文も平易な言葉でわかりやすく書かれており,理解しにくいとされる「癌の生化学」,「遺伝の生化学」の項についても,自然に知識が吸収されるようになっている。
 次に「キーワード」と「学習の要点」である。昨今,医学教育においては,一般目標(GIO)と到達目標(SBOs)を設定することが行なわれている。本書の「キーワード」と「学習の要点」は,そのまま各項でのSBOsに相当し,これらの活用範囲は大きい。また実習については,臨床検査室で実際に使用する測定法について要領よく記載されており,将来身につけるべき手技や基本的知識を効率よく習得できるようになっている。
 序文には,「日常的な臨床検査や,国家試験という短期的な視野では,あるいは活用の機会が少ないかもしれないが,生化学のよりよい理解のために重要な役割を果たし,卒業後も役に立つことを希望している」と記されているように,本書は,卒業後での知識の整理や講義・講演での知識のまとめにも適している。最近の知見を取り入れたために,学生が学習すべき内容から大きく逸脱した「教科書」に比較すると,多少の卒後の習得事項はあるものの,適切な内容と記載である。技師学校の学生諸君が座右に置き,卒前の学習に,また卒後の技師生活での学習に大いに役立ててほしい。
B5・頁196 定価(本体4,200円+税)医学書院


言語聴覚士のための新しい教科書

言語聴覚士のための基礎知識 耳鼻咽喉科学
鳥山 稔 編集

《書 評》長谷川恒雄(日本失語症学会名誉会員)

 最近,鳥山稔編集『言語聴覚士のための基礎知識-耳鼻咽喉科学』が出版された。編集者は,衆知の耳鼻咽喉科学における言語・聴覚領域の権威の1人である。これまで言語聴覚士の資格制度の実現のために日本耳鼻咽喉科学会から医療言語聴覚士資格制度推進協議会に委員として参加され,長年にわたって積極的に盡力されたことからもわかるように,言語聴覚士の意義やあり方に精通され,養成教育や業務の質の向上に強い熱意を持っておられる。
 言語聴覚士は,人間のみに特有である言語によるコミュニケーション障害を中核とし,関連領域の障害を含む対策を扱う専門職である。したがって,これらの障害がどれほど日常生活活動や社会生活活動に重大な影響をもたらすかを知るとともに,機能改善とQOLの向上に必要な言語・聴覚の構造,機能,障害,治療,リハビリテーションなどの専門知識が必修である。限られた養成教育期間の中で学習する耳鼻咽喉科学の知識は,専門課程で修得する知識に著しく影響するところから,専門科目と密接に結ばれる明確で理解しやすい教科書が必要になる。本書は,この見地から耳鼻咽喉科学の中から,言語聴覚士に必要な基礎知識にしぼって,広く知られている学識経験の豊かな分担執筆者による記述構成となっている。

言語聴覚士に必要な基礎知識が効率よく獲得できる

 内容は,胎児発生から耳鼻咽喉器官の発生のしくみにはじまり6章から構成されている。「第1章 耳科学」では音と音声,聴覚・前庭系の解剖,生理,検査,主な聴覚・前庭・平衡系の疾患の症候,診断,治療がわかりやすく解説されている。この中で聴覚障害の項は,豊富な学術と経験に基づく平易で詳細な解説が印象に残る。「第2章 鼻科学」,「第3章 口腔・咽頭科学」では鼻,副鼻腔,口腔・咽頭の解剖と機能,検査,主な疾患の症候,診断,治療が簡明に述べられている。この中で構音障害の項は,長年にわたって研究された業績を通じ,明確でていねいに集約されており注目したい。「第4章 喉頭科学」,「第5章 気管・食道科学」では,呼吸・発生・発語系と気管・気管支・食道の構造と機能,検査,主な疾患の症候,診断,治療などについて各項目ともに必要な知識が要領よく述べられている。この中で摂食・嚥下障害の項では,豊富な臨床経験なくしては得られない知識が記述されており,感銘する。「第6章言語聴覚士に関する法律とその運用」では,法律の概要と関連法規,言語聴覚士の社会的意義や業務その他が記載されていて,言語聴覚士とは,そして何を業務とする専門職かを明確に知るうえで重要である。

随所にみられる言語聴覚士の業務に役立つ知識

 なお,各章の項目にみられるA quater practice,Note,コラムは,それぞれの項目の知識の理解,整理,補完のうえで貴重である。
 本書は,言語聴覚士のために選ばれた耳鼻咽喉科学であって,養成校の教科書あるいは参考書として高く評価するとともに積極的に推薦をしたい。また言語聴覚士にとって業務に役立つ知識が随所にみられる。さらに医師をはじめ保健,医療関係の専門職や学生に対しても有益な知識が示されているところから,ぜひ一読することを勧めたい。
B5・頁256 定価(本体3,800円+税)医学書院


生まれかわった内科の臨床必携データブック

内科レジデントデータブック 第2版
山科 章 編集

《書 評》小林祥泰(島根医大教授・内科学)

 本書は,初版から13年目の大幅改訂を行なった,いわば21世紀に生まれ変わった内科の臨床必携データブックであり,レジデント,内科認定医には必須のデータが詰まったポケット辞書である。

臨床のグローバル化に対応したデータ内容

 Evidence based Medicine(EBM)が急速に普及しつつあり,EBMには疾患の定義や診断基準の共通化,症候の重症度分類の標準化が必須である。これらが標準化されなければ,日本の中ですら違う言葉で話しているようなもので,EBMを活用できない。グローバリゼーションの進む国際社会では,あらゆる基準の標準化が進められている。特に欧州連合(EC)では統合に伴って,医療関係でも広範な標準化が行なわれつつあるという。それからみれば日本の中で基準などを統一するのは,はるかにやさしいはずである。
 日本でも米国のように外部評価が義務づけられ,病院のランキングがなされるような時代が目の前に迫っている。病院の医療内容比較には,同じ診断基準,重症度基準で診断され,治療結果を標準化された基準で評価されたデータが必須である。電子カルテが普及する前に言葉の統一,分類基準や重症度の標準化を推進する必要がある。すでに日本内科学会認定内科専門医会では,電子カルテに用いられるコード化された症候の国際分類の翻訳作業を開始しており,近いうちに病名のICD-10分類のように症候名も統一されて,国際語として通用するようになると思われる。
 一方,重症度分類に関しては,いろいろの分類が使われていたり,きちんとしたものがなかったりして標準化は大変である。しかし,これをやらなければ重症度をそろえて,病院間比較を行なうことができない。この点で,現在国内外で比較的標準的に使われている疾患分類や重症度分類,判定基準などを多く取り入れた本書は,単なる正常値が記載されているデータブックと異なり,EBMに有用なハンドブックである。また,どのような分類にもベストというものはない。目的によって,あるいは好みによって変わってくるが,最も汎用されているものをとりあえず標準として,現場で使ってもらう必要がある。例えば,心雑音のLevineの強度分類はみんなが使うので,「Levine V」と言えばすぐわかる。しかし,重症度スケールにしても日ごろ使い慣れないものは忘れて曖昧になってしまう。この点でも,正確な分類や基準をすぐに確認できる本書は,大変便利である。

いざという時の助っ人として

 さらに専門外の画像診断,機能解剖図譜も,全身をみる機会の多いレジデント,内科認定医にとって重要である。治療ガイドライン,腎障害や妊娠時における薬物の投与法,脳死判定基準,感染症関連の法律まで網羅しており,いざという時の助っ人として頼もしい本である。生活活動強度の区分は,自分の生活評価にも役立つ。最後に380頁のBody Mass Index(BMI)を求めるモノグラムで自分の数値を入れてみた。肥満ではあるがRiskはlowと出た(ほっとした)。
 結論:この本はなかなかの優れものであった。
B6変・頁440 定価(本体3,500円+税)医学書院