医学界新聞

 

第17回日本国際保健医療学会が開催

「生けるものとの共存社会」をテーマに


 第17回日本国際保健医療学会が,川端眞人会長(神戸大)のもと,さる8月1-3日の3日間にわたり,「生けるものとの共存社会」をテーマに,神戸市の神戸大学100周年記念会館他において開催された。国際保健,国際医療協力に関係する医療従事者やNGO関係者等が多数参加し,それぞれの活動・調査等について,ワークショップや一般講演の場で報告・議論した。
 また,学会の最終プログラムとして市民公開講座が企画され,(1)「アフガニスタン医療協力の18年」(ペシャワール会 中村哲氏),(2)「HIV/AIDSが育ててくれるもの」(がらくた座 木島千草氏)の2題の講演が行なわれ,一般市民を含めた多くの参加者を集めた。

地域のニーズに合った支援を

 「途上国での感染症対策への提言-リアリズムの観点から対策の推進を」をテーマとした会長講演の中で川端氏は,世界の感染症で特にエイズ,結核,マラリアの3疾患について,患者数のうち途上国の占める割合が,エイズで92%,結核で84%,マラリアでほぼ100%となっていることを紹介したうえで,これらの3疾患への対策のためには,すでに有効な介入手段がわかっているものの,必要な年間予算が合計して81億米ドルにのぼることから,貧困にあえぐ途上国にとって厳しい予算であることを示唆した。
 氏は,現在行なわれている感染症対策について国によって背景が異なるにも関わらず,個人の健康がグローバリゼーションの中に入ってしまい,それぞれの国ごとの問題として対策が講じられていないと批判。この結果,「医療供給者と消費者である感染者との距離が埋まらず,感染者への供給が届かないため,未だに前出の3疾患が問題とされている」と述べた。さらに氏は,感染症対策への3つの柱として,Interventions,Services,Behaviorを提示。中でも特にBehaviorの研究が重要であるとした。その上で,速効性,効率性を優先し,地域のニーズには必ずしも合致していない国際機関・援助組織による勧告が感染症対策政策の決定に重要なウエイトを占めており,政策を決定する側も地域の情報が枯渇しているといった問題を指摘し,「政策の決定には体験に基づいた情報が必要である」と訴えた。

現地での経験をもとに

 市民公開講座では,「アフガニスタン医療協力の18年」(ペシャワール会 中村氏),「HIV/AIDSが育ててくれるもの」(がらくた座 木島氏)の2題の講演が催された。
 中村氏は,1984年にハンセン病の治療支援のためパキスタンに渡って以来の,パキスタン,アフガニスタンにおける自身とペシャワール会の活動を紹介。ペシャワール会は,中村氏のパキスタンでの医療活動を支援する目的で結成され,1984年より現地活動を開始し,現在も医療支援活動の他,水源確保作業等の活動も行なっている。
 氏は,講演をまとめるにあたり「海外医療協力に特別な方法はない」と述べ,個々の患者にそれぞれ制約がある点については日本での医療と変わらないことを強調した。

HIV/AIDSへの偏見をなくして

 木島氏は,冒頭でHIV/AIDSについての知識を紹介する人形劇を披露。続いて,1畳分の布にAIDSによって亡くなった患者の遺品を縫いつけた「AIDSメモリアルキルト」を紹介しながら,それぞれの患者についてのエピソードを語った。そのうえで,「社会の偏見がHIVを見えにくくしている」と述べ,医療従事者の中にも根強いHIV感染者,AIDS患者への偏見や差別をなくしてゆく必要性を訴えた。