連載(全5回)
院内感染対策のストラテジー
第4回 資格取得への道のり(2)五味晴美 | ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院
日本医師会総合政策研究機構在米研究員 |
今回は,米国で感染症科医になるために必要とされている研修内容を具体的に紹介する。
感染症科医になるための研修
現在,米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America: IDSA)は,公式見解として,次のような研修内容を推奨している。米国での感染症科のトレーニングは,次の3通りがある(IDSAホームページ=http://www.idsociety.orgを参照)。(1)臨床医コース 最低2年必要
(2)臨床研究者コース 最低3-4年必要
(3)基礎研究者コース 最低3-4年必要
研修病院を決める際,自分はいったい上記のどのコースに進みたいかを受け入れ先と通常話し合うことになっている。(1)は,一生臨床のみに専念したい人向け(研修終了後は,開業する道),(2)と(3)は,臨床または基礎で研究することを臨床業務とともに行ないたい人向け(通常,大学教育機関に勤務する)である。上記IDSAは,この(1)(2)(3)のコースに共通して必要な12か月の臨床研修内容と,残りの必要期間で各コース特有の研修内容を決めている。
各コース共通の12か月の臨床研修内容は,以下のようである。
(1)感染症科コンサルテーション:最低250症例を経験すること
(2)疫学:院内感染対策に必須の知識として学ぶことが推奨されている
(3)微生物学:臨床微生物学の実践経験が必要(微生物検査室へローテーション)
(4)性行為感染症の診療
(5)臓器移植,骨髄移植患者,その他の免疫不全患者の感染症の経験
(6)外来(最低18か月のHIV患者の外来も含む)
(7)生命倫理
(8)週に最低2時間は,感染症関係の症例検討や教育カンファレンスが義務
(9)HIV患者の入院ケア
これに加え,研修するのが望ましいとされている内容は,以下の事項である。
(1)旅行者医学,旅行者外来
(2)抗菌薬の院内の利用状況調査および使用制限
(3)外来フォローにおける抗菌薬の静脈注射治療
(4)リスクマネージメント
(5)医療経済学
また,表で各コース別の研修内容を示す。これもIDSAのホームページを参照のこと。
米国の感染症科専門医の研修内容は,非常に多様な側面を含み,将来的な方向性も加味したうえで,提供されている。
表 感染症医各コースの研修内容 | ||||||
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感染制御担当官(Infection Control Practioners: ICP)の研修
米国では,感染症科専門医と協力し,あるいは独立して医療機関の感染対策にあたる担当官ICPが存在する。ここでは,このICPの専門研修と専門資格について述べる。ICPは,前述したが,感染制御に携わる担当官の総称である。つまり,ICPは,その人の役職,資格にかかわらず(医師,ナース,薬剤師,臨床検査技師,臨床疫学専門家など)感染制御担当官に使用される呼称である。実際には,ナースの資格を持つ人が多いようである。このICPに,米国感染管理従事者学会(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology: APIC)の関連団体である病院感染制御および疫学認定委員会(Certification Board of Infection Control and Epidemiology:CBIC)の認定制度がある。これは,米国内のさまざまな資格を認定する委員会(National Commission for Certifying Agencies)の承認を受けた公式な資格である。ICPの認定は,1981年に開始され,その認定資格は,CIC(Certification in Infection Control)と呼ばれる。このCICというICPとしての認定資格を取得するには,試験を受ける必要がある。
試験の受験資格には,臨床検査技師,医師,ナース(看護師,RN)としてライセンスを保持するか,または学士の学歴が必要である。それに加え,一定の実務経験が受験に必要とされている。ICPの研修は,毎年APICが講習会を4日間集中コースとして提供している。このCIC認定制度の詳細は,http://www.cbic.orgを参照。1999年には,CICの認定試験を511名が受験した。
米国では,臨床の感染症科としての専門医教育,院内の感染制御担当官としての研修および認定制度が確立しており,現在もこの分野に専門性を持つ人材を輩出し続けている。
(つづく)