医学界新聞

 

連載(全5回)

院内感染対策のストラテジー

第3回 資格取得への道のり(1)
五味晴美ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院
日本医師会総合政策研究機構在米研究員


2498号よりつづく

 今回から2回にわたって,米国における感染症科専門医,感染制御担当官の資格認定までの過程を紹介する。

感染症科専門医の役割

 図1に示すように,米国では,感染症科専門医の役割は大きく2つに分けられる。1つ目は,臨床上,その医療機関の全科と共同で,感染症科的疾患に関与し,相談業務を行なうこと(コンサルテーション)である。2つ目は,院内の感染制御の中心であるICT(Infection Control Team)のリーダーとして,院内のあらゆる感染制御に関する問題に対処していくことである。
 また,感染症科の米国での位置づけについて,以下の図2を参照してほしい。
 米国では,臨床の感染症科が,1960年から70年代にかけて発達し定着した。臨床の感染症科は,基礎医学の微生物学とはその専門性を異にするものである。感染症科は,大きく成人を扱う内科の中の専門科,あるいは小児を扱う小児科の中の専門科として,医学部および各医療機関に存在している。例えば,筆者は成人の感染症科医であるので,成人の感染症関連の疾患に,全科と共同して診療にあたった。つまり,成人の感染症科医は,成人の感染症を持つ,各科に入院中の患者(内科,神経内科,外科,整形外科,心臓血管外科,眼科,耳鼻科,外傷,熱傷,など全診療科)を診察,治療することになっている。小児にも同様に小児の感染症科医がいて診療にあたる。
 1972年には,成人の感染症科は,内科の中のsubspecialtyとして認知され,他の内科の中の10の専門科とともに専門医制度および専門医試験が開始された。小児科にも同様の専門医制度が存在する。



米国における感染症科専門医の資格保持者

 図3のように,米国で成人の感染症科医として胸を張って働けるまでには,医学部卒業後最短で5年を要する。小児科では,最短で6年を要する。米国の臨床医の臨床能力を支える特徴の1つは,感染症科医といっても,成人を扱う場合は一般内科,小児を扱う場合は,一般小児科の研修を終了していることが必要とされている点である。研修のシステムとして,広く浅く臨床的なアプローチを学び,一定のレベルに達しなけば,より狭い分野の高度に専門性を要求される研修には進めないようになっているのである。
 米国には一体どのくらいの感染症科医がいるのであろうか。では,米国内科専門医学会(American Board of Internal Medicine:ABIM)がhttp://www.abim.orgで公開している2001年1月現在のデータを使用した。過去にABIMが発行した専門医資格の保持者を最新の郵便あて先住所をもとに計算された専門医数が上記である。で,米国の内科以外の各専門医資格保持者は,内科専門医資格者と重複していることに注意が必要である。したがって,感染症科医数は,米国で内科の専門医資格を保持し,かつ郵便あて先が有効な者を表している。現在実際に診療している者とは限らない。日本のデータに関しては,日本の感染症科以外の数字は,厚生労働省の,2001年の「医師,歯科医師,薬剤師調査」による。感染症科の欄の数字は,日本のICD(Infection Control Doctor)制度協議会が2002年4月現在で認定したICDの数である。
 のように,米国にはこれまで約5000人弱の感染症科医(成人)が専門医資格を保持していることがわかる。数字では,日本は約半数の2000名がICDとして認定されている。しかしながら,次回述べるように日米では,専門医資格を取得するのに必要な研修内容は大きく異なるのである。(日本のICDの取得については,本稿第2回を参照




つづく