医学界新聞

 

「第123回医学書院看護学セミナー」開催

「看護のヒヤリ・ハット1万事例の分析から明らかになったこと」


 川村治子氏(杏林大学)を講師に迎えた第123回医学書院看護学セミナーが,さる7月11日,広島市の広島県民文化センターで開催された。今回のテーマは,「看護のヒヤリ・ハット1万事例の分析から明らかになったこと」。
 川村氏は,近著『ヒヤリ・ハット報告が教える内服与薬事故防止』(医学書院刊)の中で,「多忙で複雑な医療現場にあって,組織的な医療事故防止の重要性は切にわかっていても,暗中模索の出口がみえない課題と感じる人は多い。“医療事故学”あるいは“医療完全学”を学んだ人は誰もいないのだから,“組織的な事故防止体制の確立”という言葉でいうのは簡単であるが,確信を持ってそれを率いていける人はどれだけいるだろうか」と述べている。
 今回のセミナーでは,氏が主任研究者となっている厚生科学研究「医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究」(平成11-13年度)の成果を基にして,「総論」として「2つの医療事故防止の考え方」,また「各論」として,(1)注射エラー,(2)内服与薬エラー,(3)注射と内服与薬エラー発生要因の違い,(4)新人の注射エラー,(5)転倒・転落,(6)輸血エラーに分けて報告。
 前記「研究班」の調査によれば,「ヒヤリ・ハット1万事例(正確には全国300床以上の218施設,27領域における11,000事例)」を領域別に見ると,(1)注射(31%),(2)転倒・転落(16%),(3)内服与薬(13%),(4)チューブ類の管理(6%),(5)誤嚥・誤飲(3%)の順になる。
 そして,最も多い「注射エラー発生の主たる要因」としては,(1)情報伝達の混乱,(2)エラーを誘発する「モノ」のデザイン,(3)患者誤認を誘発する患者の類似性と行為の同時性,(4)準備・実施業務の途中中断,(5)不正確な準備作業動態,不明瞭な作業区分,狭隘な作業空間,(6)タイムプレッシャー,(7)病態と薬剤の一元的理解の不足(薬剤知識の不足),(8)新卒者の臨床知識・技術の不足,などがあげられる。
 また,氏が指摘する「内服与薬エラー発生にかかわる内服薬特有の5要因」と対応策は,別掲の表のようにまとめられる。

●表 内服与薬を混乱させる5つの要因へのシステム改善の考え方と対応策

(1)複数の処方者の存在による混乱⇒主治医以外の処方薬の臨床的意義と,開始日・服用終了予定日・更新日に関して,受け持ち看護師以外がみても把握できるような整理
(2)与薬管理上,質的に異なる複数の薬剤の存在による混乱⇒患者の病態と与薬の一元的理解の促進
(1)患者の病態を把握しやすい看護方式
(2)与薬内容の変更・中止と関連づけた病態変化に関する記録の充実・記録形式の工夫
(3)一元的理解を促進する院内教育の充実
(4)与薬3部門のコミュニケーションの強化による病態・治療・薬剤情報共有(電子カルテや病院情報ネットワークの構築が必要)
(3)投与時期・時刻・回数・量の異なる複数の薬剤の存在による混乱
(4)薬剤科からの払い出し形態・薬剤の剤形の違いによる混乱⇒病棟で配薬単位に分ける必要がなく,与薬内容全体が視覚的に捉えられ,薬剤名にもなじみやすい払い出しの形であるカセット方式が用法・用量の混乱,払い出し形態の混乱を少なくする。ただし,カセットは受け持ち看護師単位で配薬時にベッドサイドまで持ち運べる小型・軽量のものでなければならない
(5)複数の保管場所の存在と保管形態上の問題による混乱
(1)保管状況が把握しやすい患者単位の保管
(2)冷所など別場所に保管する薬剤も何がどこに保管されているかを明らかにしておく
(3)変更・中止薬は別の場所に保管か薬剤科に返却

『ヒヤリ・ハット報告が教える内服与薬事故防止』<医学書院刊>より)