褥瘡対策未実施減算に向けて
-褥瘡管理をより科学的に,そしてより実践的に
「第4回日本褥瘡学会学術集会」開催にあたって
真田弘美(金沢大学医学部保健学科教授・第4回日本褥瘡学会学術集会長) 「褥瘡」は看護師にとって最も身近な創傷です。日本では,四半世紀以上前から看護の先達により褥瘡研究が行なわれてきており,褥瘡予防やケアはたいへん重要な研究課題として,多くの研究者やET・WOCナースが積極的に取り組んできました。その過程の中で,看護師の専門性は褥瘡予防にあり,発生後の褥瘡管理は多職種とのコラボレーションがあってはじめて成功するのだということを実感してきました。
このように,最も古くから褥瘡予防を唱え,努力してきた職種である看護師が,きたる8月30-31日の両日,金沢市の石川県立音楽堂,他で開催されます,第4回日本褥瘡学会学術集会の会長を,看護職として初めて務めさせていただくことを大変光栄に存じております。
本紙上では,褥瘡管理を取り巻く厳しい現状を説明し,今回の学会の趣旨と具体的な内容を紹介させていただきます。
褥瘡管理を取り巻く現状-褥瘡対策未実施減算
現在,日本の褥瘡有症率は,老人を対象とした病院では約8%と報告されています。褥瘡は患者の安寧を脅かすばかりでなく,今後の老齢人口の増加とともに,医療費の高騰といった社会的問題となっています。この解決手段として厚生労働省は,今年度の診療報酬改定において褥瘡評価を取り上げ,褥瘡対策チームを編成しない病院に対しては,全入院患者の基本入院料を本年10月から5点減算する施策を打ち立てました。具体的な内容は,(1)専任の医師,看護師からなる褥瘡対策チームを編成すること,(2)褥瘡対策に関する診療計画書を作成し,褥瘡対策を実施すること,(3)体圧分散マットレスを適切に選択し,使用する体制が整えられていること,があげられています。この変革期において,日本の病院では上記3つの内容に対する至急の対処が望まれていると言ってよいでしょう。
第4回学術集会の趣旨と内容
日本褥瘡学会は,従来「床ずれ」と言われてきた病態を「褥瘡」という疾患としてとらえ,科学的な管理方法を確立し,そして他職種とのコラボレーションにより,褥瘡の発生をゼロに近づける方策を模索することを趣旨としています。そこで今学術集会では,「褥瘡管理をより科学的に,そしてより実践的に」をメインテーマとして,プログラムを企画しました。また,今年度は昨年を70題上回る221題の演題応募があり,この褥瘡対策未実施減算の影響を大きく受け,その関心の強さを物語っているものと思われます。
なお,今学術集会では,上記したメインテーマに沿い,大きく3つの視点からプログラムを構成しました。
1.褥瘡対策チーム編成
その基盤となる褥瘡管理のガイドラインを策定すべく,リスクアセスメントと褥瘡部評価方法についてのシンポジウム,および外科的チームの編成や症例を通してのコラボレーションについて実践を踏まえたパネルディスカッションを計画しています。また,今回は褥瘡チーム編成に関する一般演題数が33題と最も多く,効果的な褥瘡管理に向けての活発なディスカッションが期待されます。
さらに,褥瘡管理に必須となる機器の最新情報を得る機会として,体圧分散用具,薬剤・ドレッシング材,栄養,スキンケア,測定機器など多岐にわたる展示を行ないます。
2.褥瘡管理の新しい展開
日本の褥瘡管理の将来を見据えるために,褥瘡発生を予測する方法(ブレーデンスケール)を開発,確立した米国のバーバラ・ブレーデン博士や,褥瘡の医療経済に卓越した新進気鋭の研究者であるコートニー・ライダー博士に講演をお願いしました。
また,教育講演では褥瘡治療や工学的な視点での体圧分散方法について最新の方法を提示していただきます。さらに,イブニング,ランチョンセミナーも企画するなど,より科学的にかつ実践的な内容での充実を図ります。
3.21世紀の「新老人」をめざして
さらに,特別公開講演の演者として,現代の老人のさまざまな問題を解決する道標として,ミリオンセラーとなった『生きかた上手』などを著された日野原重明氏(聖路加国際病院理事長)をお招きいたします。
一般参加の方々とともに,先生ご自身が定義された「新老人」(75歳以上の自立した老人で,老後の生き方を自らの勇気を持って選択し,過去のよき文化や習慣をそれぞれの家庭や社会に伝達し,次の時代をより健やかにする役割を担う,などを目標としている)からの熱いメッセージを拝聴したいと思います。
このように,今学術集会では,「褥瘡」に取り組んでいる方々へ,明日からの実践に新しいエネルギーを充填できるような内容を組み込んだつもりです。加賀百万石の伝統を継承する金沢で,皆様のご参加を心からお待ちしております。
●第4回日本褥瘡学会学術集会プログラム【メインテーマ】褥瘡管理をより科学的に,そしてより実践的に◆会期:8月30-31日 ◆会場:石川県立音楽堂,金沢全日空ホテル(参加は,事前受付はなく当日受付のみで,学会員の有無を問わず参加可能) 【プログラム】 ◆会長講演:褥瘡管理をより科学的に,そしてより実践的に(真田弘美) ◆特別公開講演:21世紀の新老人(聖路加国際病院 日野原重明氏) ◆特別講演:The Braden Scale for Pre‐dicting Pressure Sore Risk: Predictive Validity Studies(米・クレイトン大 Barbara Braden氏) ◆招聘講演:Evidenced-Based Pressure Ulcer Prevention and Management:The United States Perspective」(米・エール大 Courtney. H. Lyder氏) ※ともに同時通訳あり ◆教育講演:難治性皮膚潰瘍の成因と治療(金沢大大学院 竹原和彦氏) ◆同:工学からみた物理的リスクファクタ(PRF)とその計測(北大大学院 高橋誠氏) ◆コンセンサスシンポジウム:褥瘡発生要因の抽出とその評価(司会:京大大学院 宮地良樹氏,真田弘美氏) ◆宿題シンポジウム:DESIGNの臨床評価(司会:川崎医大 森口隆彦氏,聖路加国際病院 南由起子氏) ◆パネルディスカッション:褥瘡の外科的チーム-術前・後の創管理と看護(司会:金沢医大 川上重彦氏,金沢医大病院 濱田悦子氏) ◆同:褥瘡対策チーム編成に向けて-コラボレーションにおけるその専門性と調整(司会:群大 石川治氏,聖路加国際病院 佐藤エキ子氏) 【申込み・問い合わせ先】 ●日本褥瘡学会事務局 〒162-0802 新宿区改代町16 (株)春恒社内 TEL(03)3269-6051/FAX(03)3269-6068 E-mail:jokusou@shunkosha.com ●第4回日本褥瘡学会学術集会事務局 〒920-0942 金沢市小立野5-11-80 金沢大学医学部保健学科内 TEL&FAX(076)265-2513 E-mail:junkosgm@mhs.mp.kanazawa-u.ac.jp http://www.jspu.org/ |