医学界新聞

 

教育と実践の連携と充実をめざして

第12回日本看護学教育学会開催


 第12回日本看護学教育学会が,さる7月30-31日の両日,丸山知子会長(札幌医大保健医療学部)のもと,「ケアの時代の看護学教育-教育と実践の連携と充実をめざして」をメインテーマに,札幌市のロイトン札幌を会場に開催された。

教育と臨床,双方の現場から

 今学会では,217題の一般演題発表の他,会長講演「ケアの時代の看護学教育」や米国看護学教育の重鎮を招聘し,「創造力のある教育者と意欲的な学習者」(米・カソリック大 エリザベス・マクファーレン氏)と,「看護におけるクリティカルシンキング」(米・イースタンミシガン大 ゲイル・ルーベンフェルド氏)の2題の講演が行なわれた。また,日本側からは,「看護」以外の領域から2名による教育講演「教育的ケアリングとは何か」(新潟大教育人間科学部 齋藤勉氏),「学ぶことは真似をすること」(獣医師・写真家 竹田津実氏)が企画された。
 また,シンポジウム I「時代を超えて看護学教育で伝えたいもの-ケアリングの視点からの看護学実習」(座長=日本赤十字看護大 筒井真優美氏,済生会横浜市南部病院村上美好氏)では,「ケアリングは未だ定義のコンセンサスが得られていない」としながらも,看護学実習をケアリングの視点で取りあげた。同 II「よりよいケアの実践のために-コミュニケーションを通して」(座長=上越教育大 五十嵐透子氏,札幌医大病院 鈴木康世氏)では,臨地実習にみられる学生の課題と教育サイドに求められることとして,(1)臨地実習への強い,時には過剰な不安と緊張への対応,(2)相手に関心を向けることができる,(3)教育的指導を受けることへの抵抗の軽減,など8点をあげ,シンポジウムへの問題提起とした。
 なおその他にも,「学習者参画型の授業方法」,「看護実践の質を保証するための教育評価のあり方」など6つのテーマによる交流セッションなどが行なわれた。

創造的な教育者とは

 招聘講演「創造力のある教育者と意欲的な学習者」を行なったマクファーレン氏は,「ケアリングカリキュラムは,教える側と学ぶ側の双方にとってのケアリングアプローチが必要で,その認識がクリエイティブな教師と意欲的な学生のパートナーシップの発展をみた」と述べ,ケアリングカリキュラムが従来の教師-学生の役割改善を促した要因となっていることを指摘した。
 一方で,情報(IT)技術の飛躍的な発展などの社会的,技術的要因から,授業・学習のパラダイムが大きく変わってきている現状にも注目し,今後のパソコン,インターネットによる授業の可能性を示唆した。
 その上で氏は,「変化する看護師の役割」として,(1)多様な場面での実践,(2)ヘルスケアチーム全員との協働,(3)経費抑制手段の実行,(4)上級看護師としての準備のためのさらなる教育を求める,などの資質を備えなければならないことを指摘。また,そのためには「(1)教育的プログラムのアウトカム,(2)望ましいアウトカムを促進する教授方略,(3)新しい技術を学習環境に統合していく,(4)認知・情意・精神運動といった学習領域に注意を向ける,などに焦点をおいた変化が必要。教師はこれまでの『教壇の賢者』から,『傍らにいてくれる指導者』へと変わらねばならない」と述べた。
 さらに創造的な教師の特徴として,(1)学生とかかわりあう,(2)生涯学習に打ち込む,(3)有能な教師として前進するために,自己をアセスメントすることを保証する,(4)学生の学習ニーズに合わせた教授方略および学習活動を採用する,などを指摘した。

時代を超えて伝えたいもの

 またシンポジウム I では,安酸史子氏(岡山大),野並葉子氏(兵庫県立看護大),佐藤エキ子氏(聖路加国際病院)が登壇。
 『ケアリングカリキュラム』(1999年,医学書院)を著した安酸氏は,ケアリングの本質について,「人とのかかわりでの『癒し』『癒される』関係を通して体得できるものであり,教育するには難しいが,学生には伝えたい内容。教師・学生との関係性においては,対話,もしくは教師が対象者とのかかわりをモデルとなって実践することで,また学生が対象者とのかかわりで実感することを通して育まれていくもの」と紹介。その上で,「ケアリング教育の場としては,看護学実習が最もふさわしい場である」と位置づけた。
 また氏は,ケアリングカリキュラムは,「看護教育界は長年,行動主義のカリキュラムモデルが主流であったが,1980年代に米国でカリキュラム革命が起こり,ケアリングを中心に置いた教育が模索された結果誕生した」と解説。看護学実習における体験が,学生に多大な影響力を持つことを指摘した。
 佐藤氏は,臨床現場の立場から「ケアリングの5つのC(compassion;思いやり,competence;能力,confidence;信頼,con-science;良心,commitment;コミットメント)」を紹介し,新卒ナースのサービス提供者としての義務目標とした。また,臨床能力の育成は,基礎教育だけでは不十分であり,経験の少ない新卒ナースのために,「サマープログラム」を実施していることなどを報告した。
 なお,次回は明年8月2-3日の両日,田村正枝会長(長野県看護大)のもと,長野市のビッグハットで開催される。