医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


患者や家族側の思いにぴったり対応したQ&A

セカンドオピニオン
精神分裂病/統合失調症Q&A

高橋清久 監修/朝田 隆 編集/むさしの会 協力

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院理事長)

 本書は,国立精神・神経センターの高橋清久総長の図らいで,医療を提供する病院のスタッフと1999(平成11)年4月に発足した「むさしの会」(入院中または退院された患者とその家族の会)の会員の方々との両サイドの共同作業としてまとめられたものである。
 この病院では,3年前から毎月1回,患者と家族のために講演会が計画されており,その会での講演の後の質問とその応答の記録がまとめられた。医師や看護師,その他の専門職が,患者側に病気や病状や患者の対応について述べた言葉をそのまま本にすれば,日本には26万人とも言われる精神分裂病(2002年1月からは統合失調症という病名に変更された)の患者や家族に非常にわかりやすい学習書となろうという発想がなされて,この本作りが病院側と「むさしの会」との共同作品として誕生することになった。そこで,高橋総長の指導の下で,同病院で精神科医長を6年間務め,この「むさしの会」を直接指導された朝田隆先生(現在筑波大学精神医学教授)が,編集責任者となって,A5判184頁の本書が医学書院から刊行されるに至ったのである。

医療側と家族会の絶妙の調和-膝を打つ答えが満載

 「まえがき」は,高橋総長と家族会の「むさしの会」代表の風間美代子さんのお2人が書いておられる。
 総長は,国立精神・神経センター武蔵病院の理念,「私たちは,ご家族と力を合わせて,患者様が病気や障害を受け入れながら克服して,こころ豊かで明るい未来を送るための支援を致します」と語られ,風間美代子さんは,「本音で尋ね,本音で答えられたわかりやすいこの記録集を,この病気をもつ当人や家族,そして病人を支える友人たちにも読んでもらいたい」と書いておられる。
 一般に,病気の解説書は表通りから家の中を覗くように,通り一遍の医学的記事の解説に終わるものが大半で,その家を裏から見た,ありのままの病む患者や家族の心の中身は,取り扱われていないことが多い。ところが,本書を読むと,この「むさしの会」に出席した方々はまるで最寄りの会で気楽に尋ねたりおしゃべりしているような気がして,患者の家族は自分以外にもこんなに多くの人が同じ問題をもって,互いに助け合っている姿が実感されるようである。
 本書は,6章からなる。1章には,「精神分裂病とは」,2章は,「病院では何をするのか」,3章は,「医師とのつきあい方」,4章は,「家族はどうしたらいい?」,5章は,精神分裂病の研究はどこまで進んでいるか」,6章は,「生活を支えるために大切なこと」となっている。特に6章には,(1)親亡き後,(2)年金・手帳など,(3)就労・社会復帰,(4)医療の確保,(5)生活支援・生活保護について書かれて,理解するのに必要な資料は表としてつけ加えられている。
 質問に対する医療者側の答えのほかに,患者や家族から,悩んでいる症例の具体的記載が19例紹介され,そのほか看護師やカウンセラー,その他の医療者側からヒントになるコラムが6か所に書かれている。医学の専門用語が使われているところは,欄外にその言葉の注釈がつけられている。
 本書できわめて特徴とされることは,返答は精神科医師のほかに,看護師,精神保健福祉士,作業療法士,全国精神障害者家族会連合会事務局長,その他「むさしの会」のメンバーによって書かれていることで,その執筆者の数は30名にも及んでいる。

生きるセカンドオピニオンの記載

 私がもっとも興味を感じたのは,同じ病状や経過や予後の質問に答える医師が必ずしも1人でなく,2人の医師が別々の答えを書いている箇所が,あちこちにあることである。すなわち,本症には,答えは1つではなく,別の答えもあり,患者の指導や家族の方に納得させる説明も,答える複数の医師の間では多少違うということである。本書を読むと,この病気は患者1人ひとりにより,治療も対応の仕方も,社会復帰も一律にはいかないということが医師にわかる。1人の医師でなく,他の医師の答えも紹介されていることや,看護師は医師とは多少違った角度から答えがくるということなど,それがセカンドオピニオンであり,いろいろの方から意見を聞きたいと思う患者や,家族の側の思いにぴったり対応する本ということができるのである。
 医学や看護の専門書は,数知れず多く出版されているが,異なる医療提供者から,また医師でも複数の医師がそれぞれ答えている本はきわめて稀と考え,本書が患者と家族のほか,いろいろの医療者にも読まれることをお勧めしたい。
A5・頁184 定価(本体1,800円+税)医学書院


タイムリーな電気けいれん療法の実践的ガイドブック

米国精神医学会タスクフォースレポート
ECT実践ガイド

A Task Force Report of the American Psychiatric Association 著
日本精神神経学会 電気けいれん療法の手技と適応基準の検討小委員会 監訳

《書 評》高橋清久(国立精神・神経センター総長)

ECTを安全かつ有効に行なうための貴重な情報

 本書は,米国精神医学会タスクフォースがまとめた電気けいれん療法(ECT)に関するレポートの翻訳であり,ECTを巡る「治療,トレーニングと資格のための推奨事項」という副題がついている。
 翻訳には,日本精神神経学会の電気けいれん療法の手技と適応基準の検討小委員会(委員長:本橋伸高)があたっている。日本精神神経学会は,米国精神医学会から出されている各種のガイドラインをはじめ多くの翻訳を精力的に行ない,わが国の精神科医師らに貴重な情報を提供してくれているが,その努力にまず敬意を表したい。
 電気けいれん療法については,現在,わが国では賛否両論がある。かつて,この療法が純粋に治療としてではなく,患者さんに対して懲罰的に使われたといった忌わしい歴史もあって,本治療法に対してある種の偏見が残っている。しかし,その治療効果と安全性については多くの報告がなされ,適応もパーキンソン病など身体疾患にも拡がっている。特に麻酔下で行なわれる修正型ECT(modified ECT)になってからは,その安全性は増している。さらにごく最近であるが,外国で使用されている短パルス波刺激装置が医療機器として厚生労働省から認可されたため,これからはわが国でも電気けいれん療法が促進されるであろう。短パルス波刺激装置を用いることにより定電流のパルス列を定量的に供給し,それをモニターすることが可能であるため,個々の患者さんに適した電気量を投与するといったきめ細かい治療法も可能となる。本書もこの治療器を使用することを推奨する立場で書かれており,このような時期に本書が刊行されたことは,まさにタイムリーと言えよう。
 本書は,ECTに関する必要にして十分な情報が盛り込まれている。16章からなるが,その主な内容は,「ECTの適応」,「循環器系・中枢神経系・呼吸器系など重大な危険を伴う身体状態」,「高齢者や妊婦など特殊な患者群に対するECTの施行」,「心血管系や遷延性けいれんなどECTの副作用」,「施行前に行なうべき評価」,「ECTコース中の薬物の使用」,「インフォームド・コンセント」,「必要な治療スタッフ」,「ECT施行に必要な場所・設備・備品」,「実際の細かな治療手技」,「転帰の評価」,「初回ECTコース終了後の治療」,「文書化(記録として残すべき事項)」,「教育とトレーニング」,「治療チームの各職種の資格認定」などである。これらに加えて,「同意および患者情報文書サンプル」が付録として加えられている。これは,急性期と継続・維持期の療法のそれぞれについて同意説明文書がサンプルとしてのせられており,ECTを新たに開始する際には大いに参考になるであろう。
 本書の最大の特徴は,非常に使いやすく書かれているという点である。扱われている内容は,まさに本手技を使うものが知りたい事柄であり,また知っておくべきことである。各章の最後には推奨事項として,簡潔な要約がついており,この要約だけを読んでも本書全体が理解できるようになっている。

望まれる修正型ECTの普及

 本書は修正型ECTについての報告書であり,非修正型は対象としていない。翻訳者代表がその序文で,20年前に英国では非修正型のECTが行なわれたことに対して,精神科医が一斉に非難したというエピソードを記載している。わが国でも早くECTがすべて修正型となり,さらに最近になってようやくわが国でも認可された短パルス波刺激装置を用いた治療が普及することが望まれる。その時に座右に備えるべきが本書である。本書によってECTが正しく使われ,いろいろの症状に悩む患者さんの有効かつ迅速な治療につながれば,患者さんとその家族にとってはもちろんのこと,治療者にも大きな福音となろう。
B5・頁200 定価(本体5,800円+税)医学書院


すぐれた臨床家が培った強迫性障害臨床の英知

強迫性障害 病態と治療
成田善弘 著

《書 評》上島国利(昭和大教授・精神医学)

 強迫神経症は,その特異な症状や,治療の困難さゆえ長く精神科医の興味と関心をひいてきた。近年,漠然と推測されていた生物学的な病態生理学がしだいに明らかになるにしたがい,新たな観点からの治療的接近が行なわれ,一定の成果が得られるところから再び脚光を浴びている。名称もDSMによるObsessive Compulsive Disorder(以下OCD)「強迫性障害」が一般的となっている。

強迫性障害の研究の到達点と臨床

 本書は,長年にわたりOCDの研究と治療に従事されている成田善弘氏によるもので,過去から現在までのOCD概念の変遷,成因,治療法の進歩などが要領よく,明解にまとめられている。その論述は,科学的厳密さの中に,著者の人柄を彷彿とさせるような誠実さ,謙虚さ,人間的なやさしさに溢れている。OCD研究の現在における到達点が明らかにされていると同時に,明日からの臨床に役立つ実践的な治療法が具体的に解説されており,有用な情報が数多く提供されている。
 その内容を順を追って紹介すると,以下のようになる。I章は,「OCDの概念」であるが,この章の最後に,「強迫は人間存在の本質に由来する現象であり,不安定な世界に無力で有限な存在としての人間の実存的状況が反映されている」と述べられているのが印象深い。II章は,「OCDの臨床」であるが,著者らがすでに1974年に提唱した「巻込み型」の解説がある。治療にも関与する類型であり,臨床的にも有用である。III章は,「OCDの関連疾患」であり,うつ病,分裂病や他疾患とのcomorbidityやスペクトラムとしてのとらえ方の紹介がある。OCDが分裂病に移行するかという疑問にも否定的見解が述べられている。
 IV章は,「病前性格」であり,著者のOCDの病前性格を層構造としてとらえ,強迫症状は,強迫的性格が中核の葛藤を防衛しきれなくなった時に発症するという考え方が主張されている。V章は,「OCDの成因」である。生物学的研究の最前線が明解に紹介されており,双璧をなす精神分析的研究の歴史もわかりやすい。臨床家としての著者の見解は,折衷的に考えざるを得ないと述べられており,公平でバランスのとれた考え方と言えよう。
 VI章の「現代の青年期患者と強迫」では,青年の持つ強迫的な特性は消失しつつあり,「強迫」の時代は終わりつつあるかという記載がある。VII章の「OCDの治療」では,精神分析的理解を根底に据えてはいるが,行動療法,認知行動療法,森田療法などの影響を受け,さらに薬物療法も併用する折衷的な著者の治療姿勢が解説されている。また家族への援助,初回面接,精神療法のストラテジーも臨床現場での実践が十分書き込まれている。

強迫性障害のすべてが丹念に

 以上紹介したように,本書はOCDのすべてが丹念に公平に多数の引用文献とともに解説されているが,各章の終わりには著者自身の見解が明解に述べられており,OCDに対する著者の考え方や臨床実践が実感される。
 本書は,OCD研究や治療に携わる多くの臨床医にとり,きわめて有益な良書であり,一読をお勧めしたい。
A5・頁168 定価(本体2,800円+税)医学書院


世界の精神医療の共通語(DSM)最新版刊行

DSM-IV-TR    精神疾患の診断・統計マニュアル
精神疾患の分類と診断の手引
The American Psychiatric Association 原著/高橋三郎,大野 裕,染矢俊幸 訳

《書 評》中根允文(長崎大大学院教授・病態解析制御学)

 DSMシステムが,さまざまな見解はあるにしても,精神疾患の診断・診療にとって多大な貢献を果してきたことは紛れもないことと思う。しかし,日本においては,多くが『精神疾患の分類と診断の手引』(以下,ミニD)の利用に止まっており,その適用にはそれなりの効用があるであろうが,一方では落とし穴や誤用も少なくないことを知っておくべきである。ここにTR版が刊行されたことは,日本人利用者にとっても相応の意識がもたらされるのではなかろうか。

世界的広がりを示してきたDSM

 APAのDSMシステムにかける熱意には,驚嘆させられる。開発当初のDSMは,ほとんど注目されなかったものの,DSM-III(1980)以降,およそ7年に1回の割合でなされた改訂はめざましく,各版のレベルでそれぞれに批判は出されてきたにせよ,徐々に世界的な広がりを示してきた。DSMの歴史は,これまで詳しく総説されているので省略し,ここでは,DSM-IVからDSM-IV-TRへの改訂についてのみ触れる。今回のDSM-IV-TRは,いわゆる診断基準のレベルでは,DSM-IVとほとんど変わっていない。TRがText Revisionであることからわかるように,いわゆる「解説」部分の改訂が中心なのである。
 膨大なボリュームからなる『精神疾患の診断・統計マニュアル』(以下,マニュアル)には,診断基準以外に,「診断的特徴」,「病型」,「特定用語」,「鑑別診断」,「関連する記述的特徴と精神疾患」,「関連する検査所見」,「関連する身体診察所見と一般身体疾患」,「特有の文化,年齢,性別に関する特徴」,「有病率」,「経過」,そして「家庭発現様式」といった項に基づいて解説されている。
 今回のTR版は,これらの中で「関連する記述的特徴と精神疾患」以降の項について,M. B. First博士をTR版にかかわる専門小委員会の委員長として,1992年以降に得られた情報をもとに大幅に改訂されたものである。その大きな目的は,DSM-IVからDSM-Vへの改訂の架け橋であるにしても,その前段階としてDSM-IVの教育的価値を高めるためということである。ただ,「鑑別診断」についても,パニック障害やチック障害などいくつかの疾患については,より包括的な鑑別が可能なように拡充されている。
 この改訂にともなう変更点は,「マニュアル」の付録Dにまとめてある。

馴染みやすく理解しやすい翻訳-長年の訳者らの熱意の集積

 日本語版については,DSMの出版と改訂のほとんどすべてに長い間かかわってこられた高橋三郎滋賀医科大学名誉教授が,「マニュアル」の序文に記しておられるように,本改訂のオリジナル版における修正箇所を一々探し出して翻訳していく作業の大変さに加えて,さらにDSM-IVの和訳文すべてが見直され,全体の体裁にも手直しがなされている。訳者らの多大な熱意と入念さのもと,また馴染みやすく理解しやすいものになり得たと言えるのではなかろうか。ミニDの簡便さは確かであるが,それのみを前提に判断していては,DSMシステムの全貌を知ることはできない。ことに今回のTR版については,ほとんど既版との違いを認識できないであろう。DSMシステムへのコメントや批判を口にする前に,今一度「マニュアル」に注目する必要があろう。今回のTR日本語版の出版を期に,関心のある疾患群からでも,「マニュアル」をぜひ一読されることを勧めたい。

    

DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル
B5・頁920 定価(本体19,000円+税)医学書院
DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引き
B6変・頁320 定価(本体3,800円+税)医学書院


きわめて実践的なリエゾン精神医学の良書

コンサルテーション・リエゾン精神医学ガイド
James R. Rundell,Michael G. Wise 著/松浦雅人,松島英介 監訳

《書 評》保坂 隆(東海大助教授・精神科学)

 コンサルテーション・リエゾン精神医学は,今や他科の医師や看護師などの間でも,「リエゾン」という言葉が一般用語化されるほど定着してきた。実際わが国では,1988年に日本総合病院精神医学会が設立され,2002年には,認定医制度が発足するまでに発展してきた。この間,この領域に関する書籍も10冊程度生まれてきた。しかし,今回の『コンサルテーション・リエゾン精神医学ガイド』(『Concise Guide to Consultation Psychiatry』の邦訳版)は,これまでわが国で出版された書籍とは体裁が異なり,ポケット版とまではいかないまでも,持ち歩けるような大きさに仕上がっている。これが原書のシリーズがコンサイス・ガイドと言われるゆえんである。

好ましいコンサルテーション依頼頻度順の説明

 内容的な特徴は,監訳者の前書きによると,(1)この領域のすみずみまで余すところなく紹介している点,(2)新しい医療環境下で新たに生じた精神科的問題も包含している点,(3)DSM-IVに準拠している点,などである。
 このうち監訳者は,(1)に関して「コンサルテーションにおける医事法学的問題」までも含んでいることを指摘している。確かにそのとおりで,従来の書籍では触れられなかった点が,単独の章として説明されていることは,ユニークでありかつ臨床家にとっては重要である。しかし,例えば,守秘や法的対応能力と判断能力などはそのまま,わが国の臨床でも使えるが,「身体的治療を拒否する権利」や「医学的助言に反して署名した上での退出」などは微妙な問題を残したテーマであり,米国のものをそのまま適応するわけにはいかない。また,この章に関して言えば,「蘇生拒否指示」はそのまま邦訳だけ書くのではなく(Do-not-Resuscitate order)のような原文を添えておく必要があるだろう。「事前指示」も(advance directives)を併記しておいたほうがよいと思う。
 本書では,精神症状の評価法に続いて,せん妄・痴呆・うつ病・不安と不眠・身体表現性障害などの順番,すなわち実際にコンサルテーション・リエゾン精神医学で依頼される頻度順に精神疾患が説明されている点が非常に好ましかった。しかも,それぞれの頁数も頻度順に割り当てられている。
 本書は,コンサルテーション・リエゾン精神医学の臨床にとっては,きわめて実践的な良書だと思われる。
A5変・頁280 定価(本体3,800円+税)MEDSi