医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


総合診療医をめざす人への羅針盤

〈総合診療ブックス〉
総合外来 初診の心得21か条

福井次矢,小泉俊三,伴信太郎 監修/松村真司,北西史直,川畑雅照 編集

《書 評》阿部正和(慈恵医大名誉教授・内科学)

 「総合外来」,「総合診療」という言葉は,しばしば聞かれる時代となった。それでも今なお,それを担当する人たちのことを「なんでも屋」とか「振り分け医」とか呼んで,高く評価されていないと思う。私は,これこそ内科医の担当すべき領域と考える。しからば内科医とは,いったいどういう存在なのであろうか。

内科医とは

 私が内科診療の第一線を退いてから,かなりの歳月が経過した。しかし,今でも思う。「内科医とはいかなる存在か?」ことに最近のように「専門別の診療体制」ができてからは,なおさら深刻に考えさせられる。内科学が包括する領域は,きわめて広い。そのすべての専門家になることは,もちろん不可能である。しかし,内科医には内科医としてのプリンシプルがあるはずである。東京慈恵会医科大学の建学の精神は,「病気を診ずして病人を診よ」である。内科医こそは,まさにこの精神に則って診療に当たるべきであろう。私たちの前にあるのは病気ではない。病に苦しみ,悩む人がいるのである。
 ここに紹介する本のタイトルは,〈総合診療ブックス〉『総合外来 初診の心得21か条』である。総合外来を担当する医師とは,どういう医師か。また何をめざすべきか。それは,どんな患者が目前に現れても,その人にふさわしい対応ができる基本的な内科的思考を身につけていて,患者のために適正に診療できる人でなければならない。ただし,私個人としては,これに1つの条件がある。なんでもいいから,1つの専門分野を持っていたほうがいい,ということである。その専門分野を土台に据えて,患者全体を診る。肉体的・精神的側面のみならず社会的環境も含めて診ることである。

本書の内容

 本書は,以上のような意味で,「総合外来」を担当する医師にとって,まことに優れた書であると言える。この分野の先駆者である,福井次矢,小泉俊三,伴信太郎の3先生監修のもとに,現に総合外来を担当している気鋭の臨床家である,松村真司,北西史直,川畑雅照3先生が編集されている。
 まず「刊行のことば」と「編集のことば」,次いで末尾の「Appendix1」を読むようにお勧めしたい。医療の世界で,「総合外来」あるいは「総合診療」がいかに必要な存在であるかがよくわかる。
 具体的内容は,まず冒頭の「ベストプラクティス 総合外来初診のアプローチ10」から始まるが,この部分を読むだけでも本書の価値は十分にわかる。次いで「総合外来初診の心得21か条」が,それぞれ統一したスタイルで書かれている。たいへんスマートであり,きわめて読みやすい。さらには各章のところどころに,Case,Note,メール・アドバイスなど参考になる一口解説がのっている。編集者の気の利いた智恵袋が気持ちよく発揮されている。
 また,付録(Appendix)がきわめてよい。「総合外来を把握するための10の質問」で18頁にわたって小泉,伴先生が回答されている。しかもその後に福井先生によって「総合診療研究会の設立趣意書,総合診療の理念」が述べられている。まさに一読に値する有意義な部分と言えよう。

希望と推薦

 一言希望を言わせてもらえば,「総合外来」,「総合診療」という呼称について,将来もっとよく吟味していただきたいということである。これからの医療を背負って立つ若い臨床医の方々が,「よし,これならひとつ取り組んでみよう」という思いを抱かせるような魅力ある名称を考えていただきたい。私自身は,もう一度原点に戻って,単に「内科」,あるいは「一般内科」という名称はいかがなものかと,ひとりひそかに思っている。
 自分は内科医であると称している方々,また近い将来内科医になろうと志望する方々,さらにもっと幅広く看護師の方々もぜひ本書を読んで,「総合外来」,「総合診療」の有する理念を正しく把握していただきたいと希望してやまない。
A5・頁316 定価(本体4,000円+税)医学書院


見直しせまる心疾患のphysical examinationの重要性

心疾患の視診・触診・聴診 CD付
心エコー・ドプラ所見との対比による新しい考え方

大木 崇 監修/福田信夫 著

《書 評》吉川純一(阪市大教授・内科学)

 このたび,福田信夫先生の新しい著書に接し,著者の能力もさることながら著者の並外れて優れた医学的センスに触れることができ,大変喜んでいます。この著書は,聴診器で聞く音が心臓の血行力学的現象を忠実に反映しているという事実を,心エコー・ドプラ法を駆使して見事に証明しています。聴診は経験の積み重ねによる学問ではなく,まさしく科学そのものであることを語りかけてくれます。

恐ろしい現実-心疾患の視診・触診・聴診教育の不毛

 本書のタイトルである『心疾患の視診・触診・聴診』が,きわめて重要な診断手法であることは,言うまでもありませんが,全国の大学で何人の教官がこれらを学生に教えられるかということを考えた場合,身の毛のよだつ思いであります。すなわち,大変恐ろしいことですが,現在の大学の多くの教官は,本格的にこの基本的診断学を教わった形跡はありません。したがって,ちゃんとした実習を受けたこともないはずです。このような教官が学生に心臓病の診断学を教えたとしても,学生が理解できるはずはありません。若い医師が聴診をしなかった場合,何が起こり得るかを考えてみましょう。特に,虚血性心臓病に対応する医師は聴診器を持っていません。CCUで心筋梗塞患者に発生する急性僧帽弁閉鎖不全を見逃すことになります。心室中隔穿孔も見逃すか診断が遅れます。急性心膜炎も当然診断できません。恐ろしいことですが,少なからず現実に起こっている事柄です。

心エコー検査に聴診器を持つ必要性

 また,聴診器を使わず心エコー検査に取り組むと,大動脈弁狭窄や心室中隔欠損を見逃す可能性が高いと考えます。多くの時間をかけて功の少ない心エコー検査が繰り返されることになります。心エコー検査を担当するものは,医師であっても技師であっても,聴診器を持たねばなりません。
 さて,そのような目で本書を見つめてみると,実にパワフルに身体所見獲得の重要性を,この本は語りかけてくれています。特に親切なのは,臨床現場における実際の録音を音楽CDとして付録につけられたことであります。本書はこれにより,より実際的なマニュアルとしての地位を不動のものにしております。
 ふと覗いた序文に,徳島が生んだ天才心臓病医,故松久茂久雄先生に対する暖かくて尊敬のこもった著者の気持ちが記載されていました。松久先生も,天国で著者の力作の完成を喜んでおられるものと確信しています。
 本書が多くの人に読まれ,聴診を含むphysical examinationが見直される大きな礎になってくれることを願っています。
 同様の書を刊行した時に,恩師坂本二哉先生からいただいた言葉を思い出しております。「本書が広く江湖に迎えられることを祈りたい」という序文をいただきましたが,まったく同じ言葉を贈り,坂本二哉先生とともに本書の刊行をお祝いしたいと思います。
B5・頁304 定価(本体9,000円+税)医学書院


病態の総合的理解をめざした病理学教科書

標準病理学 第2版
町並陸生 監修/秦 順一,坂本穆彦 編集

《書 評》高橋雅英(名大大学院教授・病理病態学)

病因と病態の体系的な理解に役立つ

 装いを一新して,『標準病理学』第2版が刊行された。今回,図の総カラー化が行なわれたことにより,多くの医学生,病理を学ぶ医師にとって初版本に増して魅力ある教科書が実現した。改訂にあたり新たな執筆者が加わることにより,内容の充実と整合性が図られ,完成度の高い教科書をめざした編者の意欲が感じられる。
 医学生は病理学の講義の中で,はじめて多くの疾患に出会うことになる。それぞれの疾患の病因と病態,そして病変の形態的変化を体系的に学習できる教科書が求められていた。5年前に出版された『標準病理学』の初版は,「総論」と「各論」がバランスよく1冊にまとめられ,まさに待望されていた教科書の出現であった。今回の改訂では,ミクロおよびマクロの図の総カラー化が実現し,病理組織学アトラスとしての役割も十分果たす教科書になっている。

医学教育の新たな試みに対応

 「総論」では,病態の基本的な理解のための記述に加え,分子生物学の発展に基づく最先端の病気の発症メカニズムについても,適切な図とともにわかりやすく解説されている。医学教育に導入されようとしているコアカリキュラムにも対応できる内容になっており,病理学が基礎医学教育と臨床医学教育を橋渡しする役割を十分意識した構成になっている。「各論」では,病変の形態的変化の解説に主眼を置きつつ,「総論」と同様に疾患の病態形成に関する最新の知見が加えられ,疾患の本質の理解を助けている。
 近年の生命科学の進歩により,学ぶべき医学知識は膨大になり,これまでの詰め込み型の教育方法の限界が明らかになってきた。1つの解決策として少人数による問題解決型の教育方法が提唱されるようになり,基礎医学と臨床医学を関連づけて学ぶ臓器別統合的カリキュラムが行なわれている。一方で,上記したような基本的内容を重点的に履修させるコアカリキュラムの導入が進められつつある。今後,医学系大学・学部においてその教育理念に基づいて,さまざまな医学教育カリキュラムの取り組みが,独自に進められると予想される。本書は,このような医学教育の改革に十分対応できるよう編集されており,医学生に「病理学とは何か」,「病気の本質とは何か」を学ぶ意欲をかきたてる最適な教科書である。
B5・頁836 定価(本体11,000円+税)医学書院


学生を微生物学の世界に惹きつける魅力的な教科書

標準微生物学 第8版
山西弘一,平松啓一 編集

《書 評》中根明夫(弘大教授・細菌学)

 1981年に出版された初版から第8版に至る21年間に,エイズをはじめとして,微生物学の教科書を塗りかえる新たな発見や問題が発生し続けている。微生物学を教える立場の人間は,常に新しい知見の獲得にアンテナをめぐらし,それを正確に学生に伝えていかなくてはならない。そこで,『標準微生物学』第8版をそのような観点から第7版と比較してみたいと思う。

拡がりをみせる新興・再興感染症

 まず,第8版「序」が第7版とはまったく異なる。昨年秋に勃発した米国の生物テロから始まり,新興・再興感染症のさらなる拡がりにかかわる現代社会の問題が指摘されている。研究面のトピックでは,大腸菌,結核菌,出血性大腸菌など全遺伝子シーケンスが明らかになった。微生物学研究の知見・技術は,ヒトを含む生物学発展へ大きく貢献してきたことを称えている。
 また,「序論」では,第8版として新たに,市中感染症としてのMRSA(市中獲得MRSA),新型インフルエンザの発生,企業の衛生管理体制の杜撰から2000年6月に発生した,黄色ブドウ球菌エンテロトキシンによる15,000人にも上る食中毒事件の意味するもの,以前から懸念されていたBSEの国内発生,セラチアやエンテロバクターによる院内感染の発生と止むことのない薬剤耐性の問題,などを取りあげている。また,これらの内容が教科書随所に盛り込まれている。これは,第7版から第8版へ改訂するわずか3年の間にも微生物学に関するさまざまな事項が学問的にだけでなく,社会的にも大きな衝撃を与えていることを如実に物語っている。

細菌の形態やコロニーがカラー化しよりリアルに

 さて,それ以外の部分で列挙すると,カラー図版がすべて電顕写真に変わり,微生物のリアルな姿が印象づけられる。
 「細菌学総論」では,「生きてはいるが培養できない菌viable but non-culturable bacteria」,「全ゲノム解析情報からみた細菌の代謝の特徴」の項が設けられた。
 「細菌学各論」で多くの細菌の写真がカラーとなり,細菌の特徴が理解しやすくなっている。ボツリヌス毒素の説明で「地上最強の生物毒素」の部分が太字化されたのは,生物テロを反映している。マイコプラズマの章に,培養細胞を扱う時に問題となる「細胞培養とマイコプラズマ」の項が追加された。現在感染病理・感染免疫の研究が盛んになっているが,真菌学の分野でも「真菌症の成立機序」の項が設けられたことに,微生物学研究の潮流を感じる。
 「ウイルス学総論」では,化学療法の項で,抗インフルエンザ薬としてノイラミニダーゼ阻害薬が登場し,抗インフルエンザ薬として記載されていたリバビリンがHCVの治療に用いられることから,「広範囲に有効な抗ウイルス薬」となったことが印象深い。
 「ウイルス学各論」では,ロタウイルス,カリシウイルス,アストロウイルスといった下痢症ウイルスやプリオンの部分が拡張・追加されたのは現状を反映している。
 私は講義で学生に,「自分に合った教科書を選びなさい」と常々言っている。そのためにはいろいろな教科書を見比べる必要があるし,そうしてほしいと思っている。『標準微生物学』は,より多くの学生に合うように編まれた教科書であり,学生を微生物学の世界に惹きつける魅力的な教科書であることを再認識した。
B5・頁576 定価(本体6,800円+税)医学書院


人体解剖学の世界的名著の翻訳,名著の名訳

ヴォルフ-ハイデッガー人体解剖カラーアトラス〈全2巻〉
〈第1巻〉系統解剖学・体壁・上肢・下肢
〈第2巻〉頭頚部・胸部・腹部・骨盤部・中枢神経系

Petra Kopf Maier 編集/坂井建雄 訳

《書 評》松村讓兒(杏林大教授・解剖学)

新たに加わった「解剖体」実習の最高の伴侶

 解剖体実習のあり方は,共用テストやコアカリキュラムの実践とともに,これからの医学教育において根幹をなす課題です。ここにさまざまな意見が提示されていることは周知の通りですが,忘れてならないのは,医学を学ぶ者にとって,解剖体実習が「人体から直接情報を取り込む最初の機会」であるという事実ではないでしょうか。しかしながら,学生に限らず「直接情報を取り込む」のは決して容易なことではありません。まして学生にとって,解剖体実習は,本当に「最初の機会」なのです。ですから,学生にとっても私たちにとっても「実習の手助け」となる資料が必要となります。そのために多くの実習書や解剖学書が利用されていますが,学生たちの必需品は何といっても「図譜」です。見知らぬ土地で地図が必要なように,人体解剖という初めての世界では,図譜は学生にとって「命綱」とも言える存在なのです。
 その「解剖体実習」の最高の伴侶ともいうべき図譜が,今回新たに1つ加わりました。『ヴォルフ-ハイデッガー人体解剖カラーアトラス』(全2巻)です。原著は『Wolf-Heidegger's Atlas of Human Anatomy』(S. Karger,1953年初版)の第5版で,本書はその日本語版として翻訳されたものです。第5版は新訂版ですが,初版以来の目的はしっかりと受けつがれており,本書にもその信念が貫かれています。「序」に記されているゲーテの言葉「あらゆることのうちで,もっとも困難なものは何か?もっとも容易に思えることである:眼によって,あなたの眼の前にあるものを見ることである」を読み返すと,本書がいかに「直接情報」を重視しているかが伝わってきます。そして,これまでの改訂版がこの信念を損なうことのないよう,細心の注意を払って作成されてきたことがうかがわれるのです。
 しかし,本書は思い出の復刻版というわけではありません。実際に開いてみれば,多くの分野で積極的な改革を図り,現代医学に対応できる内容を実現したことは明らかです。解剖標本の新たな写真はもとより,医療画像が多数加えられ,対応する図版を並置するなど,臨床にも対応できる図譜となっています。特に図版と写真とのバランスは絶妙で,必要な情報を的確に得られるように配慮されているのは,学生ならずともうれしい限りです。このことが,本書に,改訂版というより新しいタイプの図譜という印象をもたらしているのかもしれません。

求められる人体の再発見

 この名著の翻訳は,順天堂大学の坂井建雄教授の手によるものです。本書からは,坂井教授の解剖学全般にわたる学識,解剖体実習への情熱,そして言語への深い造詣があふれ出してくるようです。また,坂井教授は,解剖体実習についても確固たる信念のもとに実践されており,その姿にはWolf-Heidegger教授の信念と通じるものがあります。本書の翻訳を決意されたのも,そんな想いに共感されたからに違いありません。
 このように,本書は数少ない「名著の名訳」であり,医学・医療に関わるすべての人にお薦めしたい図譜と言えます。現在,医学を学んでいる方々が,本書によって人体を再発見し,改めて「直接情報を得る」ことの重要性を見つめていただけることを切に願うものです。
(第1巻)
A4変・頁362 定価(本体8,000円+税)MEDSi
(第2巻)
A4変・頁492 定価(本体10,000円+税)MEDSi