連載 第5回 | 再生医学・医療のフロントライン | ||
末梢血管の再生
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閉塞血管に対する遺伝子治療

血管新生にはプロテアーゼによる基底膜や間質マトリックスの消化,血管内皮細胞の遊走・増殖,さらに内皮細胞間の再接着と管腔形成というステップが必要であるが,その中でも内皮細胞の増殖にかかわる因子はきわめて重要な役割を果たしている。近年の分子生物学の進歩は,VEGF(血管内皮増殖因子)などの血管新生因子の存在を明らかにし,これらを用いた治療の可能性を示した(治療的血管新生)。
1994年より米国ではVEGF遺伝子を用いた慢性閉塞性動脈硬化症に対する遺伝子治療が始まっており,良好な効果をあげている。血管新生活性を有する増殖因子としては,VEGFだけでなく,FGF(fibroblast growth factor)やHGF(hepatocyte growth factor)などが報告されている。
遺伝子治療の実際
前述したように,遺伝子を用いた血管再生による閉塞性動脈硬化症の治療は,米国・ヨーロッパでは広く実施されている。わが国でも2001年6月より,国内で発見されたHGF遺伝子を用いた閉塞性動脈硬化症とビュルガー病患者に対する遺伝子治療臨床研究がわれわれの施設で開始されている。われわれは安静時疼痛や虚血性潰瘍を有し(Fonatine III/IV),他の治療法のない患者の下肢に1か月ごとに2mgのHGFのnaked plasmidを筋注した(図1)。現在ステージ1の6人の患者のデータがまとまった段階だが,血管造影でHGF遺伝子投与部位に一致した有意な血管陰影の増強が確認される一方,全例で0.1以上のABI改善(5人中5人:Efficacy rate=100%),もしくは疼痛の改善においてVASスケールで1cm以上の改善を認めている(6人中5人:Efficacy rate=83%)(図2)。また,潰瘍も25%以上改善を示した患者は,4人中3人であった(図3)。一方で,VEGF遺伝子治療では60%の患者に見られたと報告されている投与部位の浮腫は認められなかった。現在までの成績では,VEGF遺伝子治療より有効性が高く,安全性に優れる可能性が示されつつある。2002年2月より高用量のHGF遺伝子の投与も設定されたステージ2の16人の患者に対する治療も始まっている〔この治療に関してはホームページ(http://go.to/idenshi)を参照〕。

