医学界新聞

 

「医療改革は現場からの提言で」をテーマに

第52回日本病院学会が開催される


 第52回日本病院学会が,さる6月20-21日の両日,秋山洋会長(虎の門病院顧問)のもと,「医療改革は現場からの提言で」をメインテーマに,東京・台場のホテル日航東京で開催された。
 今学会では,日本病院会,日本医師会,日本病院学会の3団体による会長講演3題を企画。中山耕作氏(日本病院会長)が「古いトルコ小紀行(手は心の窓に)」を,坪井栄孝氏(日本医師会長)が「近代医療の選択肢」を,秋山洋氏が「崩壊する資本主義と医療の行方」と題する講演を行なった。
 また,今学会ではアジア地域を中心とした諸外国の病院会長らを招聘し,Lawrence Lai氏(アジア病院連盟会長・香港)による特別講演(1)「An Alternative Healthcare Reform-TO DO NO HARM」をはじめ,英・米からは,同(2)(3)「Medical Trainingによる国際協力」が行なわれた。また,国内演者による特別講演は,同(4)「科学・技術進歩の光と影」(第26回日本医学会総会会頭 杉岡洋一氏),同(5)「日本の医療はこれからどうあるべきか」(医事評論家 行天良雄氏),同(6)「次世代の医師を育てる病院」(藤枝市立病院名誉院長 阿曽佳郎氏),市民公開講座として行なわれた同(7)「みんな地球に生きる人-地球という宇宙船」(歌手・エッセイスト アグネス・チャン氏)など,計7題が企画された。
 さらに,昨年の学会(第51回,聖マリア病院理事長 井手道雄会長,福岡市)で試みられた,これまでの「診療部門」「看護部門」「薬剤部門」などの病院に勤務する医療職種間の枠を廃し,あらゆる医療職が同一の場で議論を行なうという形式を,今学会でも踏襲。「医療経済・制度・税金」,「病院管理・業務の効率化」,「医療の質向上」,「患者満足と職員満足」など12セッションに分かれた一般演題発表では,病院の医療職が一堂に会し論議が行なわれ,「物事の二面性を考えていきたい」と企画されたシンポジウム8題では,医療消費者も登壇し意見を述べる場もあった。


●医療職間の枠を取り払い,国民を交えて論議

 今学会でのシンポジウムは全8題。「看護の質を保持することは経営面と大きなかかわりがある」として企画された,(1)看護の質と経営(座長=虎の門病院看護部長 宗村美江子氏)。病院が直面する大問題である上に,単に病院の経営基盤だけからの問題ではなく,経済面を含めた病院医療全体の検討が必要と位置づけた,(2)安全・危機管理と医療経済(座長=上都賀総合病院名誉院長 大井利夫氏)。医療サイドからの無駄の検証を行なうところから提言が始まると企画された,(3)医療の無駄を洗い出す(座長=中野総合病院長池澤康郎氏,後述)。現在の医療機関の機能分化などのあり方を見直し,予防・医療・介護の関連性を,医療行政,病院,診療所の視点から提言しようとした,(4)疾病予防から医療・介護への軌道-機能の流れと連携(座長=済生会神奈川病院名誉院長 山本修三氏)。「患者(顧客)満足と職員満足は双方向的に干渉し合うものであり,両者を結びつける方程式はない。医療における顧客満足は他産業から学ぶことは多い」とのことで,専門コンサルタントをはじめ,看護,病院経営,心理学の立場からのシンポジストで議論された,(5)患者満足と職員満足(座長:カレス・アライント理事長 西村昭男氏)。さらに日本病院会統計情報委員会の緊急報告フォーラムとして,(6)激震「診療報酬改訂の影響-平成14年度診療報酬改訂の影響度調査分析」(座長=上記委員会委員長中後勝氏)が行なわれた。
 また,市民公開講座と位置づけた(7)国民の悩み・病院の悩み(座長=亀田総合病院特命副院長 牧野永城氏)は,「国民と病院間にある不信,対立の構図は,互いに不幸なこと。双方が置かれている現実の悩みをつき合わせるべく,率直な意見が出せる場が必要」との目的のもと,医療側からは,日野原重明氏(聖路加国際病院理事長),森功氏(医真会理事長),西村昭男氏が,また利用者(国民)の立場では,清水とよ子氏(医療消費者ネットワークMECON代表),南砂氏(読売新聞編集局),中島みち氏(ノンフィクション作家)が登壇した。
 さらに1995年から開始,同学会の恒例となっている中小病院シンポジウムは,これまで「中小病院経営戦略」と題して行なわれてきたが,第7回目となる今回は,テーマを改めて,(8)「中小病院シリーズ・パート VII:中小病院の歩むべき道-輝く病院づくりのために」(座長=上飯田第二病院名誉院長 福田浩三氏)として行なわれた。

●医療制度改革問題と医療の無駄の排除

医療の性善説を信じて

 学会長講演を行なった秋山氏は,「医療は教育,宗教とならび財政問題が第一義に論議されるべきではない」として,「医療財源に重きを置いた安易な医療制度改革」に疑義を呈する発言を行なった。氏は,「医療の経済財をしての特質」に,倫理性や不随意的需要,不確実性などをあげ,「国民の希薄な費用意識は問題だが,無駄は医療だけでなく巷にあふれている。市中経済感覚では医療は成り立たない」と述べた。
 さらに,「医療制度の運用については,保険者,医療提供者,非保険者側にも資本主義的思考への偏向があり,現在の医療政策破綻につながった」として,その「資本主義思想の誤謬による医療の歪み」に,(1)more and moreとegoismの誤り,(2)競争原理導入の誤り,(3)自然的思考の喪失,(4)欠如する正義・倫理性を医療にのみ求める,(5)「非経営医療」と「営利企業」合作の医療費,の5点を指摘。(1)に関しては,生き残らなければならないために,「イケイケドンドン」の医療経営になり,破綻を招く一方となったが,これは医療者と患者の共犯でもあることを強調した。
 一方,医療政策評価の3原則に,(1)公平なアクセス,(2)高い水準,(3)低い医療費をあげ,「この3者間には『あちらを立てればこちらが立たず』の悩みがある」と指摘。その上で,「医療政策決定に現場からの関与が少ないことを危惧する。乱診乱療がなくなるという,医療の性善説を信じたい」と述べ,正確な免責の必要性を前提とした保険方式から税方式への転換を提言。その理由に,(1)疾病予防の個人的努力の評価が困難,(2)遺伝子要因の関与,(3)職域意識の崩壊,(4)疾病・加齢は全国民の不可避的災難,(5)世代を超えた連帯,をあげた。
 なお,特別講演を行なった行天氏は,事前のテーマ「病院経営は虚業ではない」を,「日本の医療はこれからどうあるべきか」に変更して講演。戦後のGHQによる占領統治時代のアルバイトで経験した,ディスポ製品の「捨てる文化」との接触によるショックなど,自身が医療とかかわった50年の生活を省みながら話を展開し,豊かさへの発展過程とともに,医療がなぜ限界を迎えたのかを解説した。氏は,限界の要因を,(1)疾病構造の決定的変化,(2)生命科学の進歩,(3)診断の向上と治癒の限界,(4)皆保険定着による社会的権利化と指摘した。

患者の医療参加も必要

 シンポジウム(3)では4人が登壇。
 まず,下村健氏(健保連副会長)は,「現在の診療報酬制度には無駄がある。合理的で効率的な医療保険システムの構築が必要」とした上で,「制度の無駄は医師会等の組織団体が改善をし,個々の無駄は個人医や医療機関の努力で,患者は医療への理解を深め,参加・協力すること」が無駄の排除につながると指摘した。次いで糸氏英吉氏(日本医師会副会長)は,今回の診療報酬改定に関連し,「国民のほとんどが納得していない改定には,日本医師会としても反対せざるを得ない。財政的なつじつま合わせが行なわれている現状は残念」と発言。国によるマネジドケアが行なわれずに,国民や医療現場に責任転嫁をさせている現状を批判するとともに,「国民を含めて医療の無駄の排除を考えるべき」と強調した。
 また,石井孝宜氏(石井公認会計事務所長)は,「1000人の職員を抱える診療機関は,営利・非営利を問わず経営感覚が要求されることを認識する必要がある」と指摘。今後の自己管理機能の必要性を強調した。さらに中佳一氏(東名厚木病院理事長)は,医療行為,医療提供体制,患者,医療制度,診療報酬制度,医療経営など,それぞれについての無駄を列挙するとともに,「権限と責任を持った公平な競争が無駄を省く道となる」などと述べた。