医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医学教育の変化に対応した病理学教科書

標準病理学 第2版
町並陸生 監修/秦 順一,坂本穆彦 編集

《書 評》北村幸彦(阪大大学院教授・生命機能研究)

 本書は,医学部の学生と研修医のための病理学教科書である。初版が出てから5年を経過するが,第2版はこの間の医学教育の変化に対応して改訂されており,またこの間の医学研究の進歩もよく取り入れられている。さらにこの第2版からは,図がすべてカラーになっている。分担執筆の教科書では,どうしても各々の執筆者の個性のために本全体の統一が損なわれがちであるが,本書では編者らの努力により統一性がよく保たれている。

文字通り現在の〈標準病理学〉教科書

 監修,編集,執筆の先生方の顔ぶれからもうかがわれるように,本書には,現在のわが国で病理学の教育に携わる人々の多数意見が集約されており,文字通り〈標準病理学〉の教科書である。「総論」では,分子生物学による病理現象のメカニズムの記載が,従来の形態学による記述に加えられており理解しやすい。また,「各論」は主に形態学的記述であるが,チュートリアル教育の教科書として対応できるよう工夫がこらされている。
 病理組織標本の顕微鏡写真の多くは,適切で美しい。ただ掲載されている病理組織の写真の中には,職業的病理形態学者には意味があるとしても,医学部学生や病理科以外の研修医には不要と思われるものもある。例えば,唾液腺のWarthin's tumorは形態学的には特徴的でおもしろい腫瘍である。しかし,私の浅学のためかとは思うが,少なくとも私には,医学部学生や研修医がその形態を知る必要性が不明である。
 写真の美しさに比べて概念を理解させるための表やシェーマの中には,もう少し工夫があったほうがよいものも見受けられる。
 あまりほめてばかりではいけないと思い,私のつまらない意見も書いたが,総合的には大変よくできた教科書として推薦できる。価格もリーズナブルである。
B5・頁836 定価(本体11,000円+税)医学書院


時代に即した腎臓内科学教科書の決定版

標準腎臓病学
菱田 明,槇野博史 編集

《書 評》川口良人(神奈川県衛生看護専門学校附属病院長/慈恵医大客員教授)

 2002年6月に日韓共同で開催される第14回サッカー・ワールドカップの初日と同じ日に本書の書評依頼が手元に届きました。世界で最も強いいくつかの地域代表チームが覇権を争うわけですが,日本のチーム力が世界に通用するかどうかが問われる貴重な機会でもあるわけです。

世界に通じる腎臓病学教科書

 ちょうど,ワールドカップを観るのと同じで,本書の内容が日本語で書かれていても,これを英文に翻訳した場合に世界に通用する水準であるのか否かを想定して評価をしてしまいます。本書が対象としている同程度の読者層を想定して英文で書かれ,しかも数年ごとに改訂されるマニュアル,テキストは少なくありません。しかし腎臓病学,すなわち病態のみならず,生体制御に果たしている腎臓の役割から腎疾患をわずらう患者の生活指導に至るまで,平易に,しかも重要なポイントを網羅している内容の豊富さにおいて,本書は他に類を見ないものであると思います。それぞれの項目を分担執筆した執筆者は,現在診療と教育を担当している最も活動的な現役の世代である故に,時代に即した記述がなされています。それは,各章末に付記されている「学習のためのチェックポイント」という設問に,的確に解答できるだけの内容が本文に述べられているということで証明されるでしょう。この設問は,さらにその章で学んだことを反芻する目的にとどまらず,設問に対して自分の思考を構築するトレーニングの課題としてふさわしいものであります。実際に臨床の場においては,臨床情報の整理とそれらの評価から導き出される可能性のある診断,およびそれを裏づけるために必要な検査を策定するという作業が,最も重要な作業工程でありますが,この自己学習にも役立つものと思います。

患者を念頭においた編集構成

 全体の構成についてですが,まず最初に生体において「腎臓は何をしているのか」を明確にし,つづいて腎の構造,機能について説明されていることは,腎臓病学の入り口としてきわめて適切であります。腎疾患の症候論でも,「どのような機会に腎疾患が発見されるのか」から症候論が始まるのは,患者を念頭においた編集であり好ましいものです。
 あえて苦言を呈すれば,いくつか物足りないところもあります。例えば,急性腎不全のところで,最近のradiological intervention, angioplastyにおいて,その頻度が増加しているatheroembolic acute renal failureについて,もう少し詳細にとり上げるべきではないでしょうか?紙面の都合もあり,ここではこれ以上触れませんが,次回改訂時に検討していただきたい箇所が他にもいくつかあります。しかし,本書の総合的評価としては,医学生はもとより,専攻が決定していない後期研修医,腎専門医をめざすレジデント,腎不全医療にかかわるコメディカルスタッフの教科書として適切な手引書と言えましょう。
 評者が勤務する病院において,近く始まる卒後4年目の後期研修医の腎臓病クルズスを本書に沿って行なってみたいと計画しています。本書は,彼らが,生体制御機構において広い範囲にわたり腎臓が主役を演じていることや,腎臓病がもたらす多彩な臨床像について理解し,加えて治療のためには広範囲な知識が不可欠であること,さらに学際的治療の重要性についてまで理解することができるテキストであると考えます。
B5・頁376 定価(本体5,500円+税)医学書院


静的視野測定のすべてを網羅した名著

緑内障診療のための
自動静的視野計測

Douglas R. Anderson,Vincent Michael Patella 著
北澤克明,山本哲也 監訳/岐阜大学医学部眼科学教室 訳

《書 評》松本長太(近畿大助教授・眼科学)

 本書は,D. R. Anderson,V. M. Patella両氏の共著である『Automated Static Perimetry』(Mosby)第2版を岐阜大学医学部北澤克明名誉教授,山本哲也教授ならびに同眼科学教室のスタッフの多大なる努力により日本語訳されたものである。

実践に即した緑内障診療のための視野検査

 視野検査に関しては,古くから教科書的に書かれた洋書が多く発行されてきた。特にこの10年間,自動視野計の普及に伴い視野検査は,その理論,測定方法,結果の評価法のすべてにおいて大きく変化し,それに伴い自動視野計を対象とした多くの洋書が発行,改版されてきた。視野検査は,眼科医のみならず多くの眼科スタッフが日々行なう重要な検査であるにもかかわらず,残念ながらこれら最新の視野検査に関する洋書の翻訳はなかなか行なわれてこなかった。
 今回翻訳された『Automated Static Perimetry』は,Humphrey視野計を中心に自動視野計の基本的な理論を徹底的に理解し,自動視野計を臨床的に使用する際のガイドとなることをめざした書籍であり,視野に関する視覚心理物理学の基礎,視野検査の基本理論にはじまり,視覚系の解剖学的特徴と視野異常の関係,閾値検査におけるいろいろの測定アルゴリズム,実際の臨床における検査法の選択,測定結果の解釈に至るまで静的視野測定のすべてを網羅した名著である。

視野検査の疑問を解消

 今回の日本語版の発行にあたっては,あえて全訳ではなく,特に緑内障診療に必須と考えられる項目に対し重点をおいて翻訳されており,よりコンパクトで実践に即したスタイルとなっている。しかしながら,本著の大きな特徴でもある非常に多くの実際の臨床症例の視野は,ふんだんに取り入れられており,自動視野計による静的視野の測定結果の読み方を理解する上で,たいへんわかりやすい構成となっている。また各章それぞれにおいて,豊富に参考文献が引用されていることも本著の特記すべき特徴であり,視野に関してより知識を深めるさいの大きな手助けとなる。
 この『Automated Static Perimetry』第2版の日本語訳は,日ごろから視野はなかなか難しいと感じているわれわれ眼科医にとって,待望の1冊となるであろう。さらに,眼科医以外の視野検査に従事する多くのスタッフにとっても,本書はたいへん読みやすい構成となっており,日々行なっている視野検査に対する多くの疑問が解決すると思う。ぜひ一読をお勧めしたい。
B5・頁192 定価(本体8,000円+税)医学書院


心エコー図を通して疾患に迫る思考過程を開陳

心エコー・ドプラ法の臨床 第2版
大木 崇 編集/大木 崇,森 一博,岩槻哲三,山田博胤,福田信夫 著

《書 評》坂本二哉(日本心臓病学会「Journal of Cardiology」創立編集長)

 大木君のこの本は第2版である。第1版(1987年)の書評を私が書いたことは確かだが,その内容は手許になく,具体的なことは残念ながら記憶から去ってしまった。しかし,良い本だと思ったことは事実で,洛陽の紙価を高めることを望むと書いたような気がする。つまり,よく読まれて紙の値段が高くなるという意味である。さて,激動する超音波医学を反映して,この13年の間にどれだけ内容が変わったか,興味津々,頁を繰ってみた。

目覚ましい心エコー図方法論の進歩

 実際,この本の初版と第2版との間に起こった心エコー図方法論の進歩はまことに目覚ましい。初版では僅か8頁の第1章(基礎的事項)が30頁にも拡大し,経食道心エコー・ドプラ法,ハーモニックイメージング法,コントラスト心エコー法,ストレス心エコー法,血管内エコー法,ドプラガイドワイヤ法に到るまでの方法論が要領よくまとめられている。現在,心エコー図に親しんでいる人は,使用している機械の性能いかんにかかわらず,この位の知識を持っている必要があろう。
 第2章(心エコー・ドプラ図記録の実際)は紙幅の割りには内容がよりup-to-dateとなり,挿図も取り替えられて,より美しくなっている(図形学では美麗な図を得ることが何を措いても重要である)。著者はこれらの記述の中において,単に診断機器による方法論の進歩に力点を置くよりは,常にそれらによって何をいかにして導き出すかについて腐心している。これは我々を単なる“machine doctor(MD)”から本来の“medical doctor(MD)”に引き戻す上に大切なことである。
 第3章は各種心疾患に関する各論で,後天性弁膜症(85頁)に始まり,その他もろもろの後天性心疾患(10頁),先天性心疾患(138頁:この中には胎児心エコー法も含まれる)に到る。この章は文章よりも図(美しい図である)が豊富で,全体が非常に読みやすい。ただ,数カ月前に出された吉川純一著のテキストに比べれば,虚血性心疾患の項が著しく僅かである(17頁)。これはむしろ旧版のそれより短い位であるが,読んでみると過不足は全くない。臨床医はこれで足りるであろう。
 第4章,第5章は短いが,心不全と不整脈が扱われていて,新しいところでは閉塞性肥大型心筋症のペーシング治療にまで及んでいる。

著者の思い入れが伝わってくる好書

 文献は各章の最後に各疾患ごと,また旧版と異なり引用順に記載されており,参考に供する上に大変便利である。
 全体を通覧するに,本書は,簡潔だが必要不可欠の項は詳しく,全体が総花式になっていないこと,図が美麗で,分かりやすいように文字が入り,また模型図も適切で理解しやすいことなどから,心エコー図を通して疾患にいかに迫るかを考える上に絶好の書と言える。執筆に際しての著者の思い入れも伝わって来る好著である。広く推薦したい。
B5・頁472 定価(本体19,000円+税)医学書院


改定された国際標準の精神疾患分類のバイブル

DSM-IV-TR  精神疾患の診断・統計マニュアル
精神疾患の分類と診断の手引
The American Psychiatric Association 原著/高橋三郎,大野 裕,染矢俊幸 訳

《書 評》北村俊則(熊大教授・神経精神医学)

 精神疾患の診断と分類において米国精神医学会発行のDSM最新版を用いることは,研究場面だけでなく,臨床場面でも日常語となってきている。DSMには,通称maxiと呼ばれている分厚いバージョン(『精神疾患の診断・統計マニュアル』:日本での通称はマニュアル)とminiと呼ばれているポケット版(『精神疾患の分類と診断の手引』:日本での通称はミニD)である。

本書(maxi)の通読は,精神科医の必須条件

 miniは,診断基準部分だけを掲載しており,診察室に常備するには大変便利である。しかし,そうした診断基準をどう取り扱えばよいか,個々の項目は何を示しているのか,そうした疾患はどのような人口統計学的特徴を有しているのか,どのような家族発現様式や経過を示すのか,他の疾患とはどのように鑑別するのか,といった事柄はすべてmaxiに記載されている。精神疾患の診断は,精神以外の専門家も行なうようになってきた。精神科医が誇りを持ってその専門性を標榜するのには,maxiを通読することが必須条件である。
 最近の精神医学の進展に伴い,これまでのDSM-IVの解説部分を変更する必要性が出てきた。その改定作業の結果が,DSM-IV-TRである。1980年のDSM-III以降,この20年間に3回の改定・加筆が行なわれたことになる。「診断の大原則がそうそう簡単に書き直されてはたまるものか」という意見もある。しかし,「診断の大原則がそう簡単に書き直されないような領域は,よほど硬直した制度を持っているか,何の学問的進歩のない領域であろう」とも反論できる。われわれの世代が,学生の時に習った血清肝炎という診断名を,いまだに使用している医師はいない。進歩についていく気力を失ったものは,引退するべきであろう。

魅力的な付録の記載

 DSM-IV-TRを見直して個人的に興味をひかれたのは,「付録」である。「付録」は,単なる「つけたし」ではない。今後の精神科診断の方向性を示していることを改めて痛感した。付録のBは,「今後の研究のための基準案と軸」となっており,いくつかの魅力的な提案がなされている。ここは,お勧めのセクションである。この1つが,防衛機能尺度defensive functioning scaleである。力動的精神医学が長く使ってきた防衛機制が列挙されている。従来のII軸カテゴリーに対する批判は多かった。意識化のメカニズムを想定することが,精神療法の立ち上げに不可欠だったことや,自己記入式調査票や投影法によるテストなどで,ある程度再現性のある判断結果が得られることを考えれば,防衛機制をDSMシステムで取り上げるのも当然であろう。また,GAF得点を,対人場面と職業的場面に分割する提案も,臨床でGAFを用いる際に感じる不具合を解消するものであろう。
 すでにmaxiを通読した方々には一瞥をお勧めするが,まだmaxiを読んでおられない皆様には,この機会にmaxiを熟読いただくことを勧めたい。1980年のDSM-III刊行以来の翻訳を指揮してこられた今日,高橋三郎滋賀医科大学名誉教授とそのグループによる訳文は,さらに読みやすくなっている。精神疾患のnosologyに関する最先端の知識を1冊で得られるのであれば,19,000円は安いものだ。
 医局の書棚にmaxi1冊! 医師のポケットにmini 1冊!

    

DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル
B5・頁920 定価(本体19,000円+税)医学書院
DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引き
B6変・頁320 定価(本体3,800円+税)医学書院


習得できる系統的な広い知識と画像診断のレベル把握

ケースレビュー 泌尿生殖器の画像診断
Glenn A. Tung,Ronald J. Zagoria,William W. Mayo-Smith 著/鳴海善文,中村仁信 監訳

《書 評》杉村和朗(神大大学院教授・放射線医学)

 ここ10年くらいであろうか,画像診断に関する学会,研究会ではfilm interpretation sessionが好評を博している。集客を必要とする演題がある場合は,その前後に持ってくるのが運営上のコツである。最初は,病名をあてることを競い合っていた。その後は,本来の目的である診断のプロセスが重視され,最近は治療に対する考え方をというようなところまで踏み込むようになっている。細分化され過ぎている臨床医学を,症例を中心に統合していくには,格好の方法であると考えられる。これが,競争心を煽るというだけではなく,知識の整理に役立つということがあって,多くの賛同を得ている原因になっている。
 さて本書であるが,基本的には症例に学ぶというスタイルをとっている。見開きの右頁に症例写真を提示し,それに関する設問がいくつか用意されている。次頁にその回答と解説が述べられ,最後に参考文献ならびに参照文献が記載されている。これによって,基本的な知識の習得と,専門的内容の把握に役立つようになっている。設問は,疾患の診断にとどまらず,生理,病理,生化学的知識,発生学,解剖学を始めとして,横断的な内容について問いかけられている。読者は,個々の症例から,系統的に広い知識を自然に習得できる。

楽しみながら泌尿生殖器画像診断の実力をチェック

 もう1点,本書の特徴として,提示されている症例が,難易度別に「入門編」,「実力編」,「挑戦編」に分けられている点にある。「入門編」は,放射線科をめざす研修医にとって最適のレベルである。症例写真は超音波,造影検査,CT,MRIと多岐にわたっており,放射線科専門医を受験する5-6年目の医師にとって,「実力編」,「挑戦編」のレベルに達しておくことは必須であろう。
 写真の質はおおむね良好であり,診断上問題となることはない。各項目の訳は正確であることに加えて,日本語として読みやすく体裁が整えられている。鳴海博士が,全体を詳細に読み直し,統一した文章にされたためであろう。訳本として非常に重要な点であり,多くの時間を割かれたであろうことに敬意を表する。しいて言えば,博士が最も得意とされている泌尿器系に比べて,婦人科領域は少し訳が硬い感じがするが,問題となるわけではない。
 本書は,泌尿生殖器の画像診断の習得をめざす医師はもちろんのこと,泌尿生殖器を専門とする医師にとっても,楽しみながら学習できる良書であると考え推薦する。
A4変・頁284 定価(本体7,200円+税)MEDSi