医学界新聞

 

あなたの患者になりたい

からだにしみついた習慣

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


 ある大学病院の新研修医オリエンテーション実習でのことです。国家試験に合格,新社会人として意欲に燃え,熱気に満ちた実習でした。患者さんとのコミュニケーションでも,4年生の頃に比べると自信が感じられます。
 気を失って救急で運ばれた患者さんのご家族から,倒れるまでの経緯についてお話を聞く,という設定でした。模擬患者は家族の役を演じていました。家族は当然ながら気が動転しています。心配でたまりません。大切な人を助けてもらうために今家族にできることは,祈ることと医師からの質問に答えることだけです。

家族がどうしても気になること

 ゆったりお話する状況ではありませんので,医師役も額に汗を浮かべながら必死です。別室でスタッフが懸命に処置をしていますが,意識が戻るまでは,その家族から得る情報が鍵を握っています。その場のコミュニケーションは医師と家族との共同作業です。
 必死で答えながらも,家族には気になることがありました。質問を受けてから記憶をたどって答えを考えている間じゅう,医師の手もとでペンが華麗にクルクルと回り続けているのです。こちらはこれほど真剣なのに,なぜこの医師はこんなことをするのだろう。まじめな顔で身を乗り出してくれてはいるが,話をきちんと聞いてもらえているのだろうか……家族としてはいささか戸惑ってしまいました。

接している相手への配慮

 たかがペンを回すだけのこと。全国どこの学校でもふつうに見られる光景なので,誰も気にしていません。しかし,学校時代に講義を聞く時の習慣が,社会人として責任をになう場に,どれほどふさわしくないかは誰も教えてくれることがなかったのでしょう。この実習で研修医は自分ではまったく気づいていませんでした。緊迫した場面の内容に集中したために,無意識に出てしまったようです。
 専門知識を覚え高度な技術も練習を重ねて身につけて国家資格を得たわけですから,こんな些細なことで患者さんやご家族の信頼を損なうとは考えにくいと思います。しかし,その些細な動作や,ふと見せた表情,服装や態度や言葉遣いのちょっとした配慮不足が,大切な人の命をあずける家族にとっては心配の種になるのも事実です。自分ではどうすることもできないので,よけいに敏感になるのかもしれません。
 ペン回しが原因で相手先に激怒されたことで,みずから習慣を克服した人の実話があります。常に人と接する仕事である以上,相手にどう受け止められるか考え,日常の何気ない振舞いにも気をつける必要があるのではないでしょうか。

●東京SP研究会 連絡先変更のお知らせ
東京SP研究会の連絡先が7月1日より以下のように変更になります。

FAX 03-5985-0506(7月1日より)