医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


今後の精神科医療グランドデザイン構築に一石

精神科医療のストラテジー
伊藤弘人 著

《書 評》仙波恒雄((社)日本精神科病院協会長)

 現在,日本は医療制度改革の最中にあり,精神科医療に関しても,これまでの医療法改正,精神保健福祉法改正を通じ,これからの精神医療福祉政策のあり方について議論が続けられてきた。しかしながら,現在までに明確な形での改革の精神科医療グランドデザインは,いまだできていない。

将来の精神科医療供給体制は,いかにあるべきか

 少子高齢化を迎えて,社会保障制度の抜本的構造改革に迫られ,医療福祉領域においても聖域なし,と医療費の抑制が行なわれ,2002(平成14)年度の診療報酬改定は,史上初めてのマイナス改定が行なわれるなど,将来が見えない不安な状況におかれている現状であるが,それだけにむしろ将来の精神科医療供給体制は,いかにあるべきかを明示することが,緊急課題となってきている。この時にあたり非常にタイムリーに,『精神科医療のストラテジー』という本書が出版された。著者は,新進気鋭の精神科医療政策通である伊藤弘人氏である。
 著者は,現在のホットな課題について,きわめて明快に日本の精神科医療を解析し,その特質と問題点を多くの資料を持って簡潔明瞭に述べている。また,著者はハーバード大学マクリーン病院での留学体験から,最新の諸外国の精神医療のあり方を紹介し,「日本の精神科医療の優れている点を維持・推進しながら,改善するべき現状と原因を把握し,よりよい医療を提供できる方法を提示することである。そのために,日本の精神科医療の利点と問題を公平に評価し,問題点をいかに改善するかについて考える」と述べ,読者をして納得させるものがある。現状と課題については,「1.入院患者層の2極化」,「2.高齢化」,「3.機能分化」をあげ,特に長期在院者問題を詳細に取りあげその対策を述べている。

精神科医療・相談活動に関わる実務家に最適

 ストラテジーとしては,よりよい医療を提供する方法として,機能分化の視点から時間軸・患者特性から急性期医療と慢性期医療の問題をとりあげ,チーム医療については,クリニカルパスの問題,根拠に基づく説明責任ではアウトカム測定,患者の満足度について述べている。全体で4部,15章にわたり日本の精神科医療の全体像にわたり,積極的かつ具体的な実践書となっている。したがって,本書は,精神科医療・相談活動に関わる実務家に最適の書であるし,また,精神科医療政策を論じるにも最適の好書である。本書が,精神科に関心のある方々にも広く読まれることをお勧めする。
B5・頁168 定価(本体3,300円+税)医学書院


学校医の外来診療や生活指導に最適の1冊

学校医のための小児腎臓病のみかたと指導
内山 聖 編集

《書 評》村上睦美(日医大教授・小児科学)

 本書は,読者を実地医家に絞っており,内容的にも外来診療や生活指導を中心に記載されている。本書は,意図するところが明確であり,非常に読みやすいテキストになっている。また,腎疾患児,尿異常児に対する考え方が一貫しており,多くの著者による共同執筆とはとても思えないほどである。このため学校医ばかりではなく,実地医家の一般診療,研修医の小児腎疾患に対する教育用としても最適な1冊であろう。もう1つ付け加えるならば,ベテランの小児科医が知識を整理するために電車の中で読み流しても,おもしろく読み終えることができるほどに仕上がっている。

読みやすさを助けるフローチャート

 フローチャートが多用されていることも読みやすさを助けており,症候から診断にいたる過程がわかりやすく示されている。同時に図表も多く,知識を整理するのに便利になっている。また小児では,成人と異なり健常状態の基準値が年齢によって異なっているが,本書ではその点を明確にしている。血清クレアチニン値,尿酸値などは年齢によって基準値が異なるので,それらについては表を用いてその年齢の正確な値が得られるよう記載されている。例えば,血清クレアチニン値は筋肉量に比例しているため,身体が小さい小児では低値を示し,成人の基準値を用いて判断すると腎不全状態を見逃すことになる。身長100cmの小児の血清クレアチニン値が,成人の基準値である1mg/dlを示した場合には,クレアチニン・クリアランスの計算値は55ml/minになり,この場合には,腎機能はかなり低下していると考えなければならない。
 内容的には,この頁数の本としては記載されている疾患名や検査項目が多く,本書は辞書的に用いることも可能である。このことは同時に,本書から各項目の詳細な知識を得ることの困難さを示しているが,「学校医のための」と銘打たれていることを考えると,むしろこのような記載法は読者にとっては最善の選択であろう。学校医を対象とした他のテキストでは,むしろ病名や検査項目は抑えめにして,学校医はここまで知っていればよいとしているものも少なくない。このようなテキストと比較すると,本書は項目数が多いので,さらに知識を増やしたい場合には,その項目を専門書で検索することで容易に行なうことができる。

実用性高い「専門医に送るタイミング」の記述

 治療に関しては,実地医家の先生方が遭遇する機会が多い疾患については,詳細に記載されており,頻度が低い疾患,入院治療を要する疾患については,簡明に記載されている。このような態度は,本書の基本方針と思われ,項目立てにおいても「専門医に送るタイミング」が作られており,そのような面からも実用性は高いものと思われる。
 また,この頁数の本では,内容はできるだけコンパクトに作りたいが,本書ではスルホサルチル酸法の判定基準,血尿,ヘモグロビン尿,ミオグロビン尿の鑑別法など基本事項を表で示すなど多くの部分を割いており,本書が医療行為の基本を大切にしている様子がうかがわれる。同時に最新の情報も含まれており,2002(平成14)年度の学習指導要領の変更に対応した新学校生活指導表も記載されている。
 このように本書は,学校医の先生方には非常に有用な1冊になろう。
A5・頁232 定価(本体3,200円+税)医学書院


問題解決型の手頃な診断書

PO臨床診断マニュアル 第7版
H. Harold Friedman 編集/日野原重明 監訳

《書 評》阿部正和(慈恵医大名誉教授・内科学)

 日野原重明先生がわが国における「医療と医学教育」の革新をめざして,熱い情熱をもって「POS(Problem Oriented System)」を施行されたのは,今から30年も前のことである。先生は,それまで医学教育の底流にあった昔からの古い考え方を捨てて,Weed教授が提唱された新しいシステム(Problem Oriented Medical Record:POMR)を採用した病歴書の出現を強く期待されたのであった。そして,その後は,漸次POMRがわが国の医療界に浸透していった。

洛陽の紙価を高めた名著

 以上の気運の進展にいっそうの拍車をかけたのが,1975年のFriedman教授の『PO臨床診断マニュアル』の初版本であった。この本の日本語版は,いち早く1977年に上梓され,多くの臨床医家の歓迎するところとなった。本書は,以来洛陽の紙価を高め,版を重ねること6回に及び,このたび,5年ぶりに第7版が刊行された。再び日野原先生の監訳のもとで,臨床の第一線で活躍している錚々たる方々14名が,それぞれの専門領域を分担して翻訳されている。
 原著では,実に39名の専門家が日常しばしば経験する,症候と徴候および日常的な臨床検査結果について,患者の問題点を把握し,全人的な立場に立って診断を進めていく手順が,きわめて手際よくしかも簡潔に解説されている。完璧な病歴の聴取と周到な身体的検査,適切かつ有用な検査項目の選択が,それ以後の正確な診断決定へと導いていくプロセスが,わかりやすく述べられている。実際的かつきわめて有用な名著と言えるだろう。
 かつて私が若き日に愛読したMacBrydeの『Signs and Symptoms』(Lippincott)を,さらに実際に即して解説している。その上,一般的臨床検査および機能検査の正常値,略語のフル表記と訳語が付録となっていて便利である。

本書を利用してPOSの推進を

 私自身は,診療の第一線から退いて,もう18年の歳月が流れた。したがって,本書を実地に活かすことはできないが,POSに基づいて診断を進めるために,問題志向型の診療録を作成すべきであるという強い願望は今でも持っている。その点では,人後に落ちないつもりである。年老いた私には,本書の活字が小さく,やや読みにくい点が唯一の欠点であると指摘しておきたい。しかし,これは,勝手な話であるかもしれない。
 医学教育に携わる多くの指導的立場にある医師の方々はもちろんのこと,若い臨床医,医学生諸君,さらにコメディカルの方々が,本書を座右において活用されることを心から切望したい。
A5変・頁576 定価(本体6,900円+税)MEDSi


時間とともにますます深まっていく優れた臨床家の知恵

神経眼科 第2版
臨床のために

藤野 貞 著

《書 評》岩田 誠(東女医大脳神経センター所長)

 藤野先生の本が改訂されたので書評を頼みたいという依頼を,私は2つ返事で引き受けてしまった。しかしその後になって,私はこれまで同じ本の書評を2度も書いたことはないことに気がついた。私は,すでに藤野先生の書かれたこの教科書の初版の書評を書き,そのすばらしい内容に対して賞賛の意を表したのである。その私が,同じ書物の改訂第2版に対する書評を書くとすれば,それは当然,初版との比較にならざるを得ない。またその改訂版は,初版よりも格段に優れたものであってくれねばならない。書評というものは,その対象となった書物が,買うべき本かどうかということを,買おうか買うまいか迷っている人に示して,その判断を助けるためのものだからである。ちょうど10年前に出版された藤野先生の本が,その時点ですでにすばらしく完成された内容のものであっただけに,その改訂が一体どのようになされるのか,そして初版本を持っている人に対しても,改訂版を買うことを勧め得るかどうか,その点についていささかの不安をおぼえたのである。

数段読みやすくなった第2版

 そんな気持ちで第2版を手にした私は,今度の版が,藤野先生の巧みな工夫により,初版本より数段読みやすくなっていることに気づき,大変驚いた。赤・青の入った3色刷りになったせいか,冒頭の図譜の部分からして,初版とは随分変わった感じであり,格段と見やすい図に変わっている。また,本文中の説明図も随分増えていて,記述だけではやや難解なところも容易に理解できるようになっているのがありがたい。それに加えての傑作は,藤野先生がところどころに挿入されている,ユーモアあふれる漫画風のイラストである。これらの絵を見ていると,かつて東大病院でさまざまな患者を診ていただき,1つひとつの所見についてていねいに教えていただいた頃を思い出す。難しい問題をも私たちにわかりやすく,そして楽しく教えてくださったあの頃の藤野先生のお姿そのままが,この書物に見えてくる。本書の初版の書評の中で,私は,「優れた臨床家の知恵というものを読み取ってほしい」と書いた。そしてこの第2版を読んだ私は,優れた臨床家の知恵は時間とともにますます深まっていくことを知った。その故をもって,この書物は,これから神経眼科学を学ぼうとされる方々にお勧めできるだけでなく,すでに初版本によって神経眼科学を学ばれた方々にも,私は自信を持って改訂版に買い替えることをお勧めしたいと思うのである。
 よく見ると,初版本では「妻に」とあった中扉の献辞が,「亡き妻に」と変わっていた。藤野先生の臨床家としての知恵を支えられた奥様のご冥福をお祈りしたい。
B5・頁328 定価(本体9,500円+税)医学書院


総合外来における熟達の初診の心得を集約

〈総合診療ブックス〉
総合外来 初診の心得21か条

福井次矢,小泉俊三,伴信太郎 監修/松村真司,北西史直,川畑雅照 編集

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院名誉院長)

 今般,医学書院から『総合外来 初診の心得21か条』と題したA5判304頁で,〈総合診療ブックス〉の中で14冊目の本が出版された。
 本書は,日本の医学校において総合診療部門をいち早くスタートすることに貢献された京都大学の福井次矢教授,佐賀医科大学の小泉俊三教授,名古屋大学の伴信太郎教授の3人の監修のもとに発行されている。開業医として,また病院の外来部門で遭遇することの多い一般内科および皮膚科,整形外科,耳鼻科,泌尿器科なども含めた内科的疾患を中心に,患者の問題をていねいな問診により正確に見出して,診断に効率的な検査をどう選び,緊急度の高い,頻度の高い,また見逃せない疾患および病態を,病歴とルーチンのテストによりどう見抜き,タイミングよい治療に入るか,そのコツがきわめて平易に書かれている。
 成人を対象として,内科領域をみる臨床経験のある医師には,自信を持って要領のよい患者中心の医療ができるように導き,または自信を持って確認できる知識と技能を与えるポケットブックと言えよう。

自信を持って患者中心の医療を先導するための心得を集約

 本書は,臨床の第一線で働いてきたプライマリ・ケアを掌握した医師が,今までの経験した症例をまとめ,POSのシステムにしたがってSOAP順に執筆されている。すなわち,
・教育的症例がまず示され,
・何を患者から聞くか(患者やその周辺からの情報の取り込みsubjective,objective)
・何に注意して診るか(objectiveな情報)
・何を考えるか(SOAPのassessmentにあたる)
 の順で初期治療が進められ,専門医のコンサルタントの立会い診療のタイミングの重要性も指摘されている。これにはEvidenced-based Medicineを体得されている総合診療医の松村真司医師,北西史直医師,川畑雅照医師ほか17名が執筆している。
 「総合外来初診の心得」は,21か条に分けられて書かれている。すなわち,「1.面接法」,「2.診察方法」,「3.問題解決法」,「4.こころの問題」,「5.上気道の症状」,「6.発熱」,「7.かゆみ,発疹」,「8.腰痛と肩こり」,「9.腹痛」,「10.めまいとふらつき」,「11.胸痛」,「12.手足のしびれ」,「13.不眠」,「14.体のだるさ」,「15.頭痛」,「16.動悸」,「17.便秘と下痢」,「18.吐き気と無食欲,やせ」,「19.頻尿,尿失禁」,「20.手足のむくみ」,「21.リンパ節の触れ」など。

過去14年間の日本総合診療医学会の成果

 症例に即しての教育的事項が,メール・アドバイスとして書かれ,それに文献が付されている。最後に,日本総合診療医学会の歴史が京都大学の福井教授により述べられている。ここには総合診療の理念が表示されている。
 本書は,過去14年間の日本総合診療医学会の成果として,プライマリ・ケア医学の先覚者,教育者によって書かれた実のあるガイドブックとして高く評価されるべき著書と思い,推奨したい。
A5・頁304 定価(本体4,000円+税)医学書院


患者のための最善の臨床決断とは何かに答える1冊

臨床決断のエッセンス
不確実な臨床現場で最善の選択をするために

今井裕一 訳/秋田大学医学部EBM研究会 協力

《書 評》大生定義(横浜市民病院部長・神経内科)

不確実な臨床現場での臨床決断を実例を通してわかりやすく解説

 このたび,秋田大学第3内科今井裕一助教授の手によって,『臨床決断のエッセンス-不確実な臨床現場で最善の選択をするために』が翻訳出版された。この原著者のRichard Gross先生のセミナーは,私が昨年米国内科学会に出席した折に受講し,原著である『Making Medical Decisions-An approach to clinical decision making for practicing physicians』(American College of Physicians-American Society of Internal Medicine)もすでに数年前に購入して一読しており,この方面については一定の理解はしていたつもりではあった。しかし,今井先生のこの本はまさに訳書を超えている。原著とあるいはGross先生との共著と呼んでもよいと私は考える。初心者や日本の読者にとってわかりにくいところ,もう読むのを止めようかと思うところに,ちょうど今井先生の注釈やサイドメモがあり,興味をつなぐ工夫がある。
 本書を読ませていただき,おかげさまで私自身も頭の中が整理されてきたことを実感する。「臨床決断(あるいは判断,今井先生はこの本では決定と訳されているが)分析」は,大変重要とは思うものの,一般臨床医にはとっつきにくい分野である。今井先生は,Gross先生との見事な共同作業でこの難問を解決されている。今井先生とは,『臨床指導医ガイド』(医学書院)などの出版の前からも,内科専門医会での卓越した発言・提言に個人的にも心からの尊敬を感じていたが,この本の中にもその一端がちりばめられ,読者の方々にも随所できっと私に共感していただけると確信する。

臨床疫学や医学診断学の最適教科書

 本書の要点は,「はじめに」に書かれている。一部を引用しよう。
 「……本書のテーマは不確実性である。(中略,決定分析の基礎を理解してからは)不確実性は一緒にいて心地よい同伴者のように思える。つまり,たとえ不確実性が存在していても,患者に対して自信を持って助言するにはどのようにすればよいか知っている。また,不確実性を少なくしようとして積極的に検査を行なったり,治療法を選択している時も,それが患者を助けることになるであろうと考えて行なっているのであって,決して医師である自分自身の安心のために行なっているのではない,とわかっているのだ……」
 このテーマについて実例を通しながら,わかりやすく説いているのがこの本である。中には,表や図も多い。私のまわりの研修医にも,英語はどうも,計算はどうもと尻込みする先生が多く,臨床疫学や医学判断学のよい教科書がなくて困っていた。医学生,研修医,指導医など医療の決定に関わる人々,さらにこの方面に関心を持っている方々に大変すばらしい贈り物が誕生したことを喜びたい。
A5・頁152 定価(本体2,200円+税)医学書院