医学界新聞

 

「整形外科 21世紀への飛躍」をテーマに

第75回日本整形外科学会が開催される


 第75回日本整形外科学会が,さる5月16-19日の4日間にわたり,井上一会長(岡山大)のもと,岡山市のホテルグランヴィア岡山など,市内3会場で開催された。
 今学会では,「整形外科 21世紀への飛躍」をテーマに掲げ,基調講演が「医療における国際化とグローバル化の意味」(生産開発科学研究所 山室隆夫氏)など2題,明石康氏(前国連事務次長)による記念講演をはじめ,招待講演24題,特別講演6題が行なわれた。また,シンポジウムは12題,パネルディスカッション17題,ワークショップ5題の他,教育研修講演は34題。さらには併設して「アジア・パシフィック整形外科会議」,「国際ロボティック&テレサージェリーシンポジウム」,市民公開講座も企画されるなど,同学会の国際的役割や専門性の充実と拡大の方向性を示す豊富なプログラムが盛り込まれた。なお,一般演題は口演723題,ポスター発表は155題に及んだ。
 本号では,これら豊富なプログラム企画の中から,パネルディスカッション「整形外科医として代替療法を考える-国民の立場で」の内容を報告する。


 パネルディスカッション「整形外科医として代替療法を考える-国民の立場で」(座長=竜操整形外科医院 角南義文氏,山口大 河合伸也氏)では,整形外科医(以下,整形医)と代替医療としての柔道整復師(以下,柔整師)との関連を問うべく,10名の演者が登壇した。

整形外科医と柔道整復師の問題

 櫻井充氏(参議院議員)は,議員超党派による「代替医療を考える会」事務局長の立場から発言。欧米では大学教育として認められている代替医療が,日本では医療者側の理解が少なく,代替医療を望む患者が受けられないでいる現状を述べ,患者の多くが経験している代替医療に関し,「欧米と同様に大学教育の中でも取り入れていくべき」と主張した。また,桧田仁氏(桧田病院)は,1906年に始まる日本の「整形外科」の歴史や,古来からあるものの1920年に公認された「柔道整復術」の歴史的背景,それらに従事している人数,医療費などが国民に知られることなく現在至っていることなどを解説した。
 藤野圭司氏(藤野整形外科医院)は,「柔整師による施術の問題点」として,「患者が治療の内容を確認できない,患者が医師との違いを理解できないこと」を指摘。また,整形医が圧倒的に不足していた1935年に制定され,現在も優遇措置扱いされている柔整師の「受領委任払い制度」の矛盾を追及し,「患者に誤った治療が施されないためにも,制度の再考が必要」と述べた。さらに服部良治氏(服部整形外科)は,日本臨床整形外科医会(JCOA)が2000年にまとめた「医業類似行為による国民(患者)の被害実態調査」結果を報告。不適切な施術により受療者に何らかの傷害を与えた業種のうち,柔整師に関する報告が全体の2/3を占めたこと。その被害内容は,「骨折,脱臼を捻挫,打撲等と判断し,長期施術をした」が最も多く,施術による症状の悪化や神経麻痺などの傷害が顕著であったことなどを述べた。
 川岸利光氏(高岡整志会病院)は,柔整師と市民と医師会,3者間の関係調査結果を報告。調査は富山県医師会員401名から回答があったもので,「柔整師の業務範囲を知っていた」は125名(31%),「柔整師から施術の同意が求められた」は102名(25%)で,そのうち「同意した」者は56名(55%)であったこと。また,患者(1645名)へのアンケート調査からは,整形医受診の前に整骨院で施術を受けた患者は383名(23%)であり,その理由としては「自宅の近所だから」が79%を占めたことを明らかにした。これらの結果から氏は,市民の医療と健康を守るために整形医が行なうべき対応として,「整形外科医療を市民や医師会員に正しく理解してもらうために,日本整形外科学会(JOA),JCOAが中心となって一般社会への啓蒙活動を行なう。柔整師の受領委任払い制度の再検討,柔整師療養費の審査体制の充実を厚生労働省に要望する」などをあげた。長田明氏(オサダ整形外科クリニック)は,整形医と柔整師の保険給付や支給決定権などの審査上の比較を行なった上で,柔整師による療養費の今後の対応策として,「行政に対しては,審査権限の法的整備,柔整師に対しては,業務範囲を逸脱せず,節度のある施術,保険者に対しては,頻繁に療養費通知を行ない不正を取り締まること」と指摘した。

大学教育が始まった柔整師養成

 「柔整師の養成システム」を口演した浜西千秋氏(近畿大)は,「柔道整復術とは,柔道場の応急施術であり,定義できる確立された内容はない」とした上で,1998年には14校にすぎなかった柔整師養成校が急増し,本年4月現在49校4020名の定員となった現状を報告。また,社会人や大学新卒者,作業療法士が入学し,夜間コースの定員が約1800名と半数近くを占めていること,学校の乱立による教員不足,義務化された臨床実習がないこと,1999年より厚生労働大臣免許となった柔整師の教育は,本年4年制大学に「柔道整復学科」が認可されたことから,「ありもしない『柔道整復学』が認められた」と述べ,今後の大学院化などを憂慮する発言を行なった。
 また,2005年には国家資格者が3000名以上になることから,「柔整師が扱える疾患は,『打撲・捻挫と応急の手当てとしての骨折・脱臼であり,すべて急性期のものに限る』との法を遵守するよう,関係各方面に改めて徹底願いたい」などを趣旨とするJOAの提出要望書(案)を提示した。
 信原克哉氏(信原病院)は,日本柔道整復師会の2001年実態調査から,取り扱い件数が約1600万件,医療費総額1735億円,会員平均年収約1000万円であったと報告。また同会の展望として,(1)理学療法関連制度の整備に伴う医療職への参入,(2)整形外科医の協力による柔道整復・接骨医学会の発展と学術の振興,(3)大学設置による指導的人材の確保,医療福祉社会への積極的参加を紹介し,JOAが取組む課題には,(1)理学療法制度の一元化,(2)柔整師の指導,(3)指導教員人材の育成,研究支援をあげた。
 マスコミからは,高橋治子氏(東京新聞社会部)が,自らの体験である「柔整師による療養費不正請求問題を取材して」を口演。水増し請求があった実態を述べる一方,「医師に見放された,重い肩こりや腰痛を訴える患者が救いを求めて整骨院にやってくる。不正請求の根底には,患者の要求と乖離している医療制度全体の問題がある」と指摘した。また,上田孝之氏(厚生労働省保険局)は,柔整療養費は受領委任支払いゆえの不備があることを認め,「法的規制がないものの,これまでに是正勧告などの局長通知を各県あてに出している」と発言。1999年通知のポイントは,(1)受領委任取り扱いの統一化,(2)事務処理の明確化,(3)不正への対応強化,(4)審査委員会の設置基準の明確化,(5)指導審査の基準の明確化であったと述べ,行政が積極的に指導・監査体制の充実に参画する必要性を説いた。
 なお総合討論の場では,「柔道整復学は存在するのか」をめぐって熱い激論が交わされたが,座長の河合氏は,「柔整師については問題点も多く見られるが,JOAも患者のニーズに対し的確に答えていく姿勢が必要。科学的な根拠が明らかにならない現在,柔整師の問題についてはまだ検討の余地はあるが,次世代に向けた適切な医療を提供するために,今後も議論を重ねていくことが重要」とまとめた。