医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


患者のQOLの評価に関する説明を詳細に紹介

臨床のための
QOL評価ハンドブック

池上直己,福原俊一,下妻晃二郎,池田俊也 編集

《書 評》高久史麿(自治医大学長)

 昨年,池上直己,福原俊一,下妻晃二郎,池田俊也の4氏の編集による『臨床のためのQOL評価ハンドブック』が医学書院から刊行された。患者のQOLという言葉が医療の現場で使われるようになってから久しいが,QOLがキィ・ワードのような形で使われることが多く,その定義は必ずしも明確なものではなかった。QOLを問題にするならば,当然その評価が必要であり,現在国際的,国内的に広く用いられている評価方法が存在しているが,臨床家の多くは評価の尺度として有名なSF-36などについてもあまり知識がなく,漠然とした概念でQOLという言葉を使っているのが現状である。
 本書は,そのQOL評価のためのハンドブックとして刊行されたものであり,上記の4人の編者と20人の執筆者(編者も含む)によってQOLの評価に関する説明が詳細になされている。
 本書の内容は3部に分かれており,第1部の「総論編」では,「いまなぜQOLか-患者立脚型アウトカムとしての位置づけ」とQOL測定理論について,第2部の「包括的尺度」のところでは,SF-36を中心とする健康プロファイル型尺度と,EQ-5Dを中心とする選択に基づく尺度のことが説明されている。また第3部の「疾患特異的尺度」では,「がん」,「呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患,気管支喘息など)」,「糖尿病」,「慢性腎疾患」,「泌尿器疾患(排尿障害,男性性機能障害)」,「消化器疾患(胃食道逆流症,アカラシア,炎症性腸疾患,慢性肝炎,慢性膵炎など)」,「精神科領域(うつ,睡眠障害)」,「神経内科疾患(てんかん,アルツハイマー,パーキンソン病,片頭痛)」,「リウマチ疾患」,「骨粗鬆症」が取りあげられ,これらの疾患におけるQOL評価法が紹介されている。疾患特異的尺度というと,多くの人はまずがん患者のQOLを思い浮かべるが,実際には上記のように数多くの疾患でQOLの評価が行なわれていることに驚かれる方が多いと思う。

今後ますます強調されるQOLの評価の重要性

 「患者中心の医療」という言葉が最近よく使われるようになったが,生活習慣病に代表される慢性疾患の患者が増加している現状を考えると,治療の効果を患者の視点から判定するQOLの評価の重要性が,今後ますます強調されるようになると考えられる。その意味で,今回医学書院から本書が刊行されたことは誠に時宜を得たものと言える。私も目を通してみたが,専門的なことに関してもわかりやすく説明されており,臨床の現場にある医師たちにぜひ本書を一読され,患者のQOLということを新しい観点から考えていただくよう要望したい。
A4・頁160 定価(本体2,800円+税)医学書院


コロノスコピーを通じての「内視鏡道」を提唱

プラクティカル コロノスコピー 第2版
岡本平次 著

《書 評》武藤徹一郎(癌研究会附属病院長)

 大腸内視鏡検査(コロノスコピー)が始められた頃,誰が現在の状況を予想したであろうか。コロノスコピーによらず,数々のテクノロジーの進歩に伴う医療の変化には驚くばかりである。そして,1970年ロンドンのセント・マーク病院でコロノスコピーを行なったことを思い出している。その器械は70cm,アングルは2方向に120°ぐらいしか曲がらず吸引も内蔵していない代物で,最新のビデオスコープと比べたらとても内視鏡とは呼べない性能しかなかったが,注腸造影で見落とされたS状結腸癌を発見するくらいの働きはしたのである。その後,ずっとましな機能を有する長いスコープを入手して,プッシュするだけの検査を行なっていたが,帰国途中に当時からすでに高名な新谷博士の引き技と回転技に接し,目からウロコが落ちたことを鮮明に思い出す。

見事なコロノスコピーの定本

 本書の著者,岡本平次博士はその新谷博士の元へ留学され,その技術の粋を学びかつ盗みとって,帰国以来,コロノスコピー一筋に活躍を続けている,この道の超専門家であることはつとに知られている。当時,学会では1人法,新谷法の強力な推進者であるとともに,盲腸までの到達時間○分○秒,到達率○%という記録を更新することでわれわれをつねに驚かせていた。確かに,コロノスコピーは盲腸まで挿入できなければ話が始まらない。しかし,挿入することだけが目的ではなく,疾患と病変に応じて検査の目的が異なることが,コロノスコピーの難しさでありおもしろさであろう。従来のコロノスコピーの成書は,ややもすると技術あるいは疾患に偏重したものが多かったが,本書は実によく両者のバランスがとれていることが特徴である。
 それにしても,見事な本ができたものである。岡本博士と言えば,電光石火のごとく速いコロノスコピストという印象ばかりが強かったが,これは大変な誤解で,コロノスコピー全般,ポリープの取扱いの達人であり,あとがきでも述べられているように,その経験を通して世の中,社会の全体が見えてくる域に達した人である。著者は,これをコロノスコピーを通じての「内視鏡道」と提唱している。

自然流コロノスコピーの勧め

 本書の優れた特徴をあげればきりがないが,まとめてみれば以下のごとくである。
 (1)すべて自らの経験に基づいて自らの言葉で述べられているので,わかりやすく説得力がある。
 (2)カラー写真とそれを補う適切なシェーマが多種多様にわたっており,理解を助けている。特に合併症の写真は,大変示唆に富んでいる。
 (3)21章からなる本書の隅々にわたって,コロノスコピー,ポリペクトミー,EMRにおける手技,患者,標本取り扱いに関する注意事項が詳細に,わかりやすく述べられている。
 著者は,「自然流コロノスコピー」を勧めており,決して自己流を押しつけようとはしていない。Burning effectを考慮した摘除法(80%切除法)や,5mm以下のポリープの取り扱い方についても,拡大内視鏡などを持ち出さずに日常診療の中で常識的に対処する方策を述べている。内視鏡医自身のケア,インフォームドコンセント,無床診療所におけるコロノスコピーについてまで述べられているのは,驚きと同時に著者のきめの細かい配慮に敬服の念を禁じえない。最後にあるQ&Aがまた適切で,多くの初心者が抱いているであろう疑問に見事に答えてくれている。初心者はまずここから読み始めるのがよいだろう
 本書は,まさにプラクティカルコロノスコピーの座右の書となる名著である。内視鏡道に達することなく引退してしまった筆者にも,“もう一度”という気を起こさせる気迫と内容に満ちた成書であり,すべてのコロノスコピストにお勧めしたい。
B5・頁296 定価(本体19,000円+税)医学書院


弁膜症のすべてをずっしり重量感あふれ記載

Valvular Heart Disease 第3版
Joseph S. Alpert,他 編

《書 評》坂本二哉(Journal of Cardiology創立編集長)

 本書の初版は1981年,二昔前のことである。当然ながら井上バルーン(1984年)もなく,カラードップラー法(1983年)も開発されていなかった。われわれが貪り読んだFeigenbaumの『Echocardiography』(Lippincott Williams & Wilkins)第3版も1981年の出版で,その頃からやっと断層心エコー図が臨床に広く応用されるようになり,それが心音図などとならんで弁膜症診断の主力となった。

読者の期待に応える力作の内容

 以来20年,弁膜症に関する出版物や専門雑誌が出され,関連学会も毎年開催されている。しかし,リウマチ熱の激減などもあり,心エコーでもない限り,弁膜症を診断できない若年医師が激増したとも言われる。その中にあって,本編全17章は,普通の教科書では味わえないずっしりとした重量感を感じさせる内容である。各章はいずれも力作で,「1章 病因論と病理」,「2章 リウマチ熱」,「3章 僧帽弁狭窄」,「4-6章 同閉鎖不全(慢性,急性,逸脱性)」,「7章大動脈弁狭窄」,「8-9章 同閉鎖不全(慢性,急性)」,「10章 連合弁膜症」,「11-12章 肺動脈および三尖弁膜症」,「13章 補綴弁」,「14章 細菌性心内膜とリウマチ熱の抗菌治療」,「15章 心内膜炎対策」,「16章 補綴弁の抗凝固療法」,そして「17章 弁膜症における心房細動の抗凝固療法」となっている。この中で,リウマチ熱のJones診断基準(1994年)に対する心エコー図の関与に関する記述は,大変興味深い(52-56頁)。また,急性僧房弁閉鎖不全の手術的治療について(第5章)は,記述は十全であるが,心エコー図の実物がないことが惜しまれる。続く僧帽弁逸脱症候群の項(第6章)は,詳しく,Journal of Cardiologyの論文も引用されている。急性大動脈弁閉鎖不全は,Alpert自身によるもので,大動脈解離も含む(第9章)。人工弁発祥の地,デトロイトのヘンリー・フォード病院のSteinによる抗血栓療法(第16章)は,歴史的なことから治療の最先端までよく書かれており,ブタ弁の電顕像も興味深い。
 本書は,この方面の著作が比較的少ない現況では,大変重要な書であり,書架の一隅を占め,折りに触れて参考とされるべきであろう。十分,読者の期待に応え得るものと信ずる。
(Journal of Cardiology Vol.39 No.4より抜粋転載)
B5・頁478 21,870円(税別) Lippincott Williams & Wilkins LWW医学書院扱い


徹底したディスカッションに基づく肝癌診療の方策を開陳

肝癌診療A to Z
国立がんセンター東病院の治療戦略

国立がんセンター東病院肝臓グループ 編集

《書 評》小俣政男(東大教授・消化器内科学)

 本書は,長年肝癌の治療の現場で携わってこられた竜崇正氏,吉野正曠氏ならびに森山紀之氏の責任編集(国立がんセンター東病院肝臓グループ)による『肝癌診療A to Z-国立がんセンター東病院の治療戦略』と題された参考書であります。

まさしく肝癌治療のすべてを記載

 内容はまさしくタイトルに示されたごとく,肝癌診療のA to Z,すなわち高危険群の設定から肝癌の診断治療までが20名の執筆陣によって分担執筆されています。その特徴は,肝臓内科医,肝臓外科医および放射線科医の3者の徹底したディスカッションに基づく第一線での肝癌治療のための方策が,書かれていることであります。
 責任編集者の竜氏は,外科医として長らく肝癌を切除されてきており,きわめて豊富な臨床経験を有しておられます。私どもの先達であり,学生時代から尊敬している外科医であります。一方,執筆陣の中には若手の内科医も含まれています。
 先端医療施設(国立がんセンター東病院)としての特徴を生かして,すでに癌になられた患者さんに対する治療法について詳細に記載されており,これは大変重要なことであると思います。
 また,肝臓癌の治療対策を考える際の重要な点は,他の癌と比し前駆する疾病ならびにその高危険群が明確になっているところであります。C型ならびにB型肝炎ウイルスを病因とし,肝の線維化の進展により癌が発生した際の肝癌の結節の治療は,他の領域の癌とやや趣きを異にします。すなわち癌結節に対する根治的療法のみならず,その癌の発生をも考慮した肝癌治療,つまり背景肝をも含む2つの疾患に対する治療がよりよき肝癌治療であることが,私は大変重要であると考えております。
 その観点から考えますと,本書はその高危険群の設定から精査,入院,治療法の選択につき,豊富なスタッフによってシステマティックに記載されています。
 また画像診断の分野においても,森山氏を中心としてこの執筆グループは,十二分な経験を有しておられます。

到来した肝癌が治る時代

 現在肝癌切除による5年生存率は,約6割と推定されます。しかしながら非切除例を含める5年生存率は,約4割前後と考えられます。前述の2つの疾病を治すという視点から,肝癌治療は今後5年生存率は,7割あるいは8割をめざしうる疾患と考えられます。その意味から本書は肝細胞癌のみならず,背景肝をもいかに見るか基本的な考え方に貫かれており,推薦に値します。
 その自然史から見ても,実に肝癌が治る時代がまさしく到来していると考えられます。
B5・頁216 定価(本体8,500円+税)医学書院


広く多様な読者のニーズに応える泌尿器科外来処方の決定版

泌尿器科外来処方マニュアル
秋元成太,堀内和孝 編集

《書 評》鈴木唯司(弘前大教授・泌尿器科学)

求められる安全な医療情報提供

 私ども医師は,患者さんにできる限り安全な医療を提供する義務があります。しかし,実際には医療の専門家としての必要な知識に欠けたり,経験が不足しているために起こる事故も少なくありません。医療人としては,このような未熟さをなくすために不断の努力が求められています。一方では,「人間であれば誰でもエラーを起こす」のは,医療人においても事実であり,医療組織としてエラーを誘発しない環境や,起こったエラーが重大な事故に発展しないシステムを作っていくことが求められていますが,第1には,1人ひとりの診療における慎重さが必要なのです。例えば,医師が外来で診療をする際に,ちょっと薬剤の常用処方量や禁忌を思い出せなかったり,処方薬剤の副作用を一部忘れていることは,あり得ないことではありません。忙しさにまぎれ,確認を怠ってしまい,小さなエラーと思われていたことが,重大なアクシデントを引き起こす事例が報告されています。このような時に,白衣のポケットからちょっと取り出して,処方について確認できるハンドブックがほしいものです。
 秋元成太,堀内和孝両先生が編集にあたり,多くの泌尿器科を主とする専門家が執筆に携った『泌尿器科外来処方マニュアル』は,このような使い方にぴったりのハンドブックです。

本当に便利なテキスト

 診療において最も大事な疾患は,ポピュラーな疾患であると言われていますが,本書に取り上げられている疾患は,ほとんどが泌尿器科外来の日常診療で頻繁に接する疾患で,一部を除きまれな疾患はありません。疾患ごとに具体的な処方例,薬剤や処方についての解説が簡潔に記載されています。当然処方禁忌,副作用についても知ることができます。疾患以外にRI,X線造影剤,麻酔などや消毒液までの記載もあり,小児投与量の計算式まで見られるなど大変役に立ちます。記載も記憶を思い起こすに十分な量であり,もし本書に記載がないまれな疾患や重大な疑問があれば,改めて文献を繙けばよいのです。
 さらに主な剤型が,本の末尾にカラー写真入りで掲載されているのも親切な配慮でしょう。ひょっとして処方した薬剤が,どんな型をしているか知らない医師もいるのではないでしょうか。薬剤の処方が,このハンドブックだけでもちろん十分とは言えませんが,経験のある泌尿器科医の備忘録として,研修医が自分の処方が正しいかどうかを再認識する時,また医学生がBSLに参加して,受持ち患者にどのような薬剤が処方されているかを簡単に知る時,さらに看護師さんが処方内容について知るためにも,これは本当に便利なテキストで,白衣のポケットに入れておきたいものです。なお,本書は,小さい本であるにもかかわらず,近眼で老眼の私にも読みやすかったことを申し添えます。
B6変・頁156 定価(本体3,800円+税)医学書院


一目瞭然,理解しやすい質の高い写真による体表解剖

触診解剖アトラス 下肢
Serge Tixa 著/奈良 勲 監訳/川口浩太郎,金子文成,佐藤春彦,藤村昌彦 訳

《書 評》吉元洋一(鹿児島大教授・臨床理学療法学)

教授することが難しい体表解剖

 理学療法学課程の講義の中でも,視診や触診を必要とする体表解剖は,学生に教授することが難しい科目の1つである。学生同士でも簡単に視診や触診ができる骨・筋・腱・神経・動脈などは別であるが,解剖学的知識が不十分な状態では,触診が困難な場合が多い。筆者は,学生の身体を個別に触診し,学生自身に確認させ,その後に学生同士で触診を行なわせている。しかし,この方法では自己学習させることはできない。
 解剖学の本は種類も多く,中にはカラー版のものまである。しかし,過去に数冊出版されている体表解剖関係の本は,写真を使用してはいてもわかりにくいものが多く,学生の教材としては紹介しづらいものであった。
 本書は,訳書であるにもかかわらず,一読して非常にわかりやすい。その理由の1つは,写真の質の高さにあるのだろう。写真のモデルは,実に視診・触診しやすい体表解剖向きの体つきをしており,例えば,日常の臨床では神経の視診は困難なことが多いが,本書では脛骨神経,総腓骨神経,腓腹神経などが一目瞭然であり,視診だけでも十分判別できる。カメラアングルや照明なども工夫されているのだろう。
 また,検者の手の位置にも気を配っている。筋や腱によっては,それらのボリュームがわかるように手を配置しており,見るだけでも参考になるし学生にも理解しやすい。

学生にも理解しやすい多数の写真による構成

 本書は,下肢を「股関節部」,「大腿部」,「膝関節周囲」,「下腿部」,「足関節および足部」の5つの章に分け,385枚の写真を用いている。各章の最初に部位別のシェーマが提示され,章の内容を把握しやすいように工夫されている。さらに部位別に骨学,筋学(筋,腱),関節学(関節および靱帯),神経および血管について説明されており,学生にとっては体表解剖を学ぶ上で勉強しやすい構成になっている。また,解剖学用語にはルビがふってあり,巻末には和文と英文の索引があるため,体表解剖の辞書としても使えるように配慮されている。
 本書は,監訳者の広島大学医学部奈良勲教授が「日本語版監訳にあたって」で述べているように,解剖学を学ぶ理学療法学課程,作業療法学課程,医学課程の学生をはじめ,他の分野の学生や臨床を始めたばかりの医療関連職種にとって,大変参考になる書である。特に理学療法学課程,作業療法学課程の学生や新卒の理学療法士・作業療法士には,ぜひ購読されることをお勧めしたい。
B5・頁228 定価(本体4,800円+税)医学書院