医学界新聞

 

第39回日本リハビリテーション医学会開催

「リハ医学の実証と発展」をテーマに


 第39回日本リハビリテーション医学会が,さる5月9-11日の3日間,三上真弘会長(帝京大,写真)のもと,東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて開催された。メインテーマには「リハビリテーション医学の実証と発展」を据え,テーマに添った多数の企画がなされた。
 今学会は,三上氏による会長講演の他,木村淳氏(アイオワ大),養老孟司氏(北里大),松下隆氏(帝京大)による特別講演をはじめ,シンポジウム3題,パネルディスカッション,教育講演などが開催された。また,リハビリテーション(以下,リハ)セミナーでは,リハ医学の実証と発展における理学療法士,作業療法士のそれぞれの役割を議論する機会も設けられた。(関連記事
 三上氏は,「21世紀におけるリハビリテーション医学」と題した会長講演で,リハの発展に必要となる要素について,(1)基礎医学の充実,(2)エビデンスの集積,(3)新しい医学やテクノロジーの導入,(4)医療としての確立の4点を提示。
 特に(2)に関して,EBMの重要性が叫ばれる中にあっても,リハに関するエビデンスが多くないことを指摘し,各疾患に対するリハの効果については,「学会主導で積極的にエビデンスを作り出し,社会および他科の医師に提示する必要」と強調した。

ロボット技術がリハに与えるインパクト

 パネル5「リハビリテーション医療・福祉分野における近未来ロボット技術のインパクト」では,ロボット工学技術のリハ医療への応用について議論された。
 藤江正克氏(早稲田大)が,ロボット技術を応用した「歩行訓練システム」や「歩行支援ロボット」などリハ応用例を提示。四宮葉一氏(松下電工)は,「乗馬療法」にヒントを得た「VR(ヴァーチャルリアリティ)乗馬療法システム」と「簡易版ジョーバを解説。榊泰輔氏(安川電機開発研究所)は,脳卒中患者の急性期から回復期のリハに対応する「下肢機能訓練システム」を紹介。
 後半は人間とロボットとの共存について,「AIBO」開発者の石田健蔵氏(ソニー)や「ASIMO」開発者の広瀬真人氏(本田技研研究所),大森繁氏(テルモ研究開発センター)が,指定発言には人型2足歩行ロボット「isamu」を発表した川田忠裕氏(川田工業)らが私見を述べた。


第39回日本リハ医学会の話題から

痙縮への対応,介護保険下の地域リハ,他


痙縮への新しい治療法を提示

 パネルディスカッション2「痙縮の新しい治療法」(座長=東女医大 堀智勝氏,横畠由美子氏)では,多くの疾患に認められ,従来は内服薬での治療が主であった痙縮について,4人の演者が新しい治療法を紹介し,議論を交わした。
 根本明宜氏(横浜市大)は,「バクロフェン髄腔内投与」と題し,中枢性筋弛緩剤であるバクロフェンを,植込み型持続注入用ポンプを利用して,髄腔内へのカテーテル留置によって持続的に投与する方法を紹介した。欧米ではすでに1980年代より行なわれてきた手法であり,日本では現在治験中であるこの療法について,重度の痙縮に対して著効であることを強調し,今後の認可を強く期待する一方,感染症やカテーテルが外れることによる薬剤の途絶などのトラブルも紹介した。
 外科的な手術法として平孝臣氏(東女医大)は,「顕微鏡下選択的末梢神経縮小術」と題し,局所の痙縮に対してこれまで行なわれてきた薬剤の注射は感覚障害を引き起こす可能性があると指摘し,運動神経のみを選択的に電気刺激で同定しながら神経縮小を行なう手法を紹介。フェノールブロック等の手法に比べ,効果の持続性やコストの面からも有用であることを強調した。また,小児の場合は術後の十分なリハによって再発を防ぐことができることも加えて述べた。
 続いて,師田信人氏(国立成育医療センター)は,「機能的脊髄後根切断術による痙直型脳性麻痺小児の治療」と題して,特に脳性麻痺児に対する術後の回復の様子を,ビデオを用いながら紹介した。会場内からはこの手法に対して「切りすぎる場合もあるのではないか」との指摘も上がったが,師田氏は「術中に電気刺激によって確認し,神経生理学的に異常な反射をみせる神経のみを選別する」と述べ,手術の安全性を強調した。
 一方,佐藤史江氏(北大)は,「ボツリヌス毒素治療」と題し,その筋弛緩作用が注目されているボツリヌス毒素の痙縮治療への利用を紹介。従来の療法であるフェノールブロックとの比較データを示し,「施注後2週間では効果に有意差が認められる」としたが,数か月で効果は減退することも合わせて述べた。
 会場を含めての議論で林氏は,脳神経外科医の立場として「手術をして痙縮はよくなっても麻痺はとれない」と述べ,術後の整形外科医,リハ医などとの協力体制をつくることがとりわけ重要であることを強調した。

介護保険と介護・地域リハの方向性

 介護保険制度が開始されてから2年が経過したことを背景に,シンポ2「介護保険と介護および地域リハビリテーションへの提言」(司会=旭神経内科病院 旭俊臣氏,東八幡平病院 及川忠人氏)では,4人の演者が登壇し,介護保険制度下におけるリハおよび介護提供体制のあり方をめぐって議論が展開された。
 最初に石川誠氏(初台リハビリテーション病院開設準備室)が,今年4月に出された第4次医療法改正の内容と,回復期リハの病棟調査を行なった結果から,現在の平均的な回復期リハ病棟の姿を提示。さらに現在,回復期リハ病棟は141病院162病棟,7378床で,月に6病院程度が新規に届けであることを紹介(2002年5月)。しかし十分に供給するためには,人口10万あたり最低50床,全国で6万床必要にもかかわらず,現状では必要病床数の整備に15年を要することになると指摘。利用者のためには,回復期リハ病棟を「小規模でも全国に展開することが必要」と強調した。
 また,在宅ケアにおけるリハサービスを担う訪問リハは,訪問看護に比してその数は圧倒的少なく,訪問によるリハの担い手の95%が看護職で,訪問PT・OTの深刻な不足や地域格差を数字で示し,早急な訪問リハの整備計画の必要性を訴えた。
 続いて及川氏が,各施設間の連携の重要性を,自施設で展開している介護老人保健施設,介護老人福祉施設,在宅介護支援センターの活動から説明。さらに6町村で構成される盛岡北部行政事務組合での介護保険制度への取り組みや,地域リハ広域支援センターの今後の課題などを指摘した。
 また行政の立場から,外口崇氏(厚生労働省老人保健課長)が,介護保険の状況と地域リハの推進の2点を中心に,今後の方向性を示した。介護保険は3年ごとに見直しが義務づけられ,来年(2003年)は制度開始以来はじめての見直しの時期にあたる。氏は来年に予定されている(1)要介護認定ソフトの改訂版の使用開始,(2)市町村の介護事業の見直し,(3)介護報酬の見直しについて基本的な考え方を概説。また地域リハについては,平成10年度(1998年)から開始された「地域リハビリテーション支援体制整備推進事業」について触れるとともに,地域リハ・コーディネーションの重要性や人材養成が急務であると強調した他,三重県,岩手県など各地域の具体的な取組みを紹介した。
 余命数か月と宣告された父親を7年間介護した経験から,行天良雄氏(医事評論家)は,「介護は体験しなければわからない。家族で24時間365日対応する体制を組んできたが,リハとはこれだけ繰り返し行なってはじめて効果が現れるもの」と述べた。最後に,「どのような医療・介護を受けるかを決めるのは自分であるという認識が必要だが,簡単なことではない。日本に課せられた大きな課題」と結んだ。
 また指定発言として,アメリカでリハ医として活躍する吉田清和氏(ウィスコンシン大)が,「アメリカには介護保険がなく,日本の動向に注目している」とコメント。さらに,アメリカにおける慢性期医療における医療費支払には,MDS(minimum data set)が用いられているが,評価者および認知機能評価などに関する問題点が指摘され,2006年までにMDS使用の継続に関する決定がなされる予定であるなど,アメリカの動向が報告された。

障害者と介助犬

 ワークショップ2「介助犬法制化とリハビリテーションの関わり」(司会=日本介助犬アカデミー 高柳哲也氏)では,昨年12月に身体障害者補助犬法案が提出されたことを受けて,利用者,リハ医らが参加し,今後の方向性が模索された。悪質な業者の存在なども指摘される中,現在,理学療法士,作業療法士へのトレーナー育成研修も進められ,医療関係者の積極的な関わりの必要性が強調された。介助犬「オリーブ」のデモも行なわれ,理解を求めた。(本法案は5月22日に参院本会議で可決)