医学界新聞

 

〔印象記〕

「NANDA,NIC,NOC 2002」の情景

田中マキ子(山口県立大学看護学部・助教授)


看護言語の統一化が今後の趨勢に

 米・イリノイ州シカゴにおいて,さる4月10-13日の期間,「NANDA,NIC,NOC 2002-Developing, Linking and Integrating Nursing Language and Informatics」と題する国際学会が行なわれた。日差しは初夏を思わせるほどのシカゴであったが,「ウィンディ・シティ」と言われるほどに風は強く,冷たく,コートを欠くことができなかった。
 10日に行なわれたPre-Conferenceには,約100名ほどの参加があった。開催にあたり,「本学会には56か国から約300人の参加者が予定されている」と報告があり,クウェートからの参加も紹介された。NANDA(看護診断)・NIC(看護介入)・NOC(看護成果)が,徐々にながらも世界各国に浸透し,活動展開されている実態を示す証しと言えるだろう。
 今回の主催者であるDorothy Jones氏(ボストンカレッジ)や,Joanne McCloskey-Dochterman氏(アイオワ大)は,「情報科学社会が伸展する今日,臨床・教育現場・調査研究においては,看護言語としての看護診断・介入・成果の統合が,将来の趨勢となるだろう」と述べ,本学会の重要性を強調した。昨年までは,「NIC,NOC,NANDA」て開催されていた本会であるが,今年から「NANDA,NIC,NOC」となった。看護ケアを実施する上での自然な思考の流れに沿う「看護診断・介入・成果」として統合化の動きを進めることが,学会レベルにおいて合意された意義は大きかったものと思う。

看護診断をめぐる新たな動向

 なお,M-Dochterman氏は口演の中で,コスト削減や入院日数の短縮化,クリティカル・パスの導入など,変化する医療状況に合致するためにも,標準化された看護用語を確立することの重要性を述べた。
 また,昨年7月に開催された「第7回日本看護診断学会」で招請講演を行なったJones氏は,その際にも紹介された「機能的健康パターンアセスメント・スクリーニングツール(FHPAST)」の開発・改良状況を報告。FHPASTは,Marjory Gordon氏が開発した,患者・家族・地域情報として組織的に収集するためのツールとして用いられている「11の機能的健康パターン」を改良したもの。看護専門職者に必要とされるデータ収集を行なうためのすべての機能的健康パターンを,瞬時にスクリーニングするためのツールとして考案され,すでに複数の言語に翻訳されている。
 一方でGordon氏は,Jones氏の成果を受けてか,これまでの機能的健康パターンの定義をよりスリムにしたものを発表していた。
 なお,NANDAの方針としては,情報科学社会において証明されたデータを示すために,Taxonomy II(分類法 II)におけるコード構造の確立を完全にさせたいことを示唆していた。こうした報告を聞き,看護診断・介入・成果の流れが,着実に新たな方向へ進んでいることを確信した。

筆者の発表をめぐって

 さて学会の様子であるが,口演による一般演題は90題,ポスター演題は32題であった。内容は,介入分類を使用しての臨床評価や成果分類に基づく患者評価の実態など,各臨床場面における評価(evaluation)やTaxonomy II の臨床・学術的評価,教育課程における教育方法の検討など,さまざまであった。
 筆者は,「The Reality of Spread and Permeation of Nursing Diagnosis in Japan and Its Issues Related to Their Development」と題するポスター発表を行なった。日本の看護診断の普及と浸透の現状や,看護診断に対する看護師の課題に関して,看護診断を導入し常時使用するグループと,使用していないグループへの看護診断に対する意識調査の報告である。筆者は,この調査結果から,「看護診断の導入は難しいと捉えているが,看護の専門性を高めるためには必要なものとの認識がある」と考察した。
 この発表に対して,ロシアの参加者からは,「ロシアも日本と同じ状況であり,看護診断を使っている施設は少ない」とコメントをいただいた。また,「医師は看護師が看護診断をすることをどのように感じているか」と質問され,迷いながらも「好ましくは思われていない」と回答したが,医師の看護診断に対する考え方は,両国とも共通しているようだった。
 また,米国の参加者からは,日本における介入・成果分類の現況について訊ねられた。米国では,訪問看護の有効性を効果測定するために,5年間にわたり患者を継続的に追跡評価し,介入分類を基に患者の評価を分析した結果,高い効果が得られたとのことである。この説明には何もコメントできず,逆に調査の手続き上の疑問を質問するに終わってしまった。

国際学会ならではの出会いも

 筆者は,今回,学会発表をすることによって,日本と他国の現状の違いを直視することができた。介入・成果分類を基に診断したことの質評価を積極的に展開している国も多い中,日本は「診断する」こと自体なかなか浸透せず,実践もおぼつかない状況下にある。介入・成果分類に至っては,筆舌に尽くしがたい現状を鑑みると,日本における看護診断の位置づけや方向性について,さらなる充実した議論の展開が必要と考えた。診断に至る過程での吟味・分析に意味・意義があると筆者は考えるが,表面的なやりとりに終始するだけで,本質的な議論が行なわれない日本の課題は大きいと感じている。
 この他,国際学会ならではの出会いが嬉しかった。前述したが,日本になじみの深いGordon氏と話をすることもできたし,一緒に写真を撮る好機にも恵まれた(写真)。これは,本学会に同行した江川隆子氏(阪大教授)の引き合わせによるものであったが,Gordon氏は,NANDAの主要メンバーとしてその存在意義は大きい。彼女は,今学会でも積極的にさまざまなセッションを回り,たくさんの意見を報告者へ投げかけていた。「NANDA,NIC,NOC」の,新しい世界を築くための研究者の姿勢として,学ぶべき点も数多くあった。
 今回の学会で得た示唆を,今後の教育・研究に活かしたいと考えている。「遅れている」という観点からではなく,日本の現状を見つめながら,日本の看護界にあっては何が課題であり,1歩前進するためには何が必要なのかを,足元から再考していきたいと思う。