医学界新聞

 

OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室
 編集:松岡 健(東京医科大学霞ヶ浦病院第5内科教授)


第10回 気管内挿管

執筆:東京医科大学 救急医学 太田祥一,神山知子,行岡哲男
協力:東京医科大学病院救命救急センター 東京消防庁委託研修生(救急救命士)
   綾部好一,三橋啓一,田中 武


《ポイント》

気管内挿管は臨床医にとって大変重要な手技です。いつでもできる自信が大切です。この機会にしっかりと覚えておきましょう。

■手順

(1)器材のチェック
 ↓
(2)気道確保
 ↓
(3)挿管

■解説

器材のチェック

気管内挿管チューブ(スタイレット挿入済),シリンジ,アンビューバック,喉頭鏡を確認する。

◆実際の臨床場面では
気管内挿管チューブ,スタイレット,シリンジ,アンビューバック,喉頭鏡,聴診器,バイトブロックや固定用のテープが用意されているかを確認する。喉頭鏡のライトが点灯するか,気管内挿管チューブのカフ漏れがないかをシリンジを用いて確認する。また,吸引チューブが吸引瓶につながれているか,アンビューバックが酸素につながれているかを確認する。気管内挿管チューブ先端およびカフ部にキシロカインゼリーを塗布する。チューブにスタイレットを入れ,スタイレットの先がチューブの先端から出ないように長さを調節し,適切な曲がりをつける。

気道の確保

気管内挿管を施行する前には,下顎挙上法にて気道確保する。

◆実際の臨床場面では
気管内挿管を施行する前には,バッグマスクによる換気を行なっているのが一般的である。この際にも下顎挙上法にて気道確保し,バックマスクによる十分な換気を行なう。

《下顎挙上法》
傷病者の頭側に位置し,両手の2指と3指を下顎角に,両拇指を下唇の少し下に当てて口を開く写真2。下顎歯列が上顎歯列より前に突出するまでを目安とする。バッグマスクをはずし,右手の1指と2指を交差して十分に開口する写真3。十分に開口することが大切である。

 

挿管の方法

(1)左手に喉頭鏡のハンドルの付け根を持ち,喉頭鏡のブレードを右口角より挿入する(写真4)。
(2)舌の右側に沿ってブレードを進めた後,正中まで舌を左側に圧排する。
(3)喉頭蓋谷までブレードを進め,喉頭鏡を上・前方に引き上げる(写真5)。この際,手首でこじ開けず,前方に持ち上げるようにして行なう。
(4)喉頭鏡を上・前方に引き上げることにより舌根と喉頭蓋が挙上され,声門が直視できるようになり喉頭が展開される
(注意:このとき喉頭鏡をてこにしない,歯を支点にせず当たらないようにする)。
(5)声門を直視したまま挿管チューブを右手に持ち,先端を声門より通過させ気管内に挿入させる(写真67)。
(6)適当な深さ(21-22cm程度)挿入したら,スタイレットを抜去し,シリンジでカフに空気を入れる(写真89;
カフの圧は15cm H2O以下=大体耳たぶの硬さにする)。
(注意:実際は声門を通過したらスタイレットを抜去し,その後適切な深さまで挿入するのであるが,蘇生法教育人形では滑りにくいのでなかなかうまくできない)
(7)挿管チューブを左手でしっかりと保持し,アンビューバックを接続して換気する。
(8)換気している時,両肺の胸の動きを確認し,確実に気管内挿管されていること及び片側挿管でないことを確認する(写真10)。

◆実際の臨床場面では
挿管チューブを左手でしっかりと保持し,アンビューバックを接続して換気する際に,両肺の胸の動きを確認するとともに,呼吸音を聴取する(特に両上肺野,確認のため腹部でも聴診する)。これにて,確実に気管内に挿管されていること及び片側挿管(胸の動きと呼吸音が左右同じかどうかを両上肺野で確認する)でないことを確認する。確認後,補助者がバイトブロックを挿入し,挿管チューブを固定する写真11

 
 
 

先輩からのアドバイス

 挿管がうまくできるか否は,開口がうまくできるかどうかにかかっています。喉頭鏡を用いて喉頭展開して,気管(声門)が見えたら,絶対に目を離さないようにしましょう。

OSCE-落とし穴はここだ

 OSCEで用いる蘇生法教育人形の口をしっかり開けるには,ある程度の力が必要です。また,挿管チューブを挿入する時やスタイレットを抜く時にも,ある程度の力が必要です。

●調べておこう
 -今回のチェック項目

□気道の解剖
□気道異物
□気道異物の除去方法
□救急救命士が用いる気道確保の器具
□挿管チューブのサイズの目安