医学界新聞

 

〔連載〕How to make

クリニカル・エビデンス

-その仮説をいかに証明するか?-

浦島充佳(東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室)


2483号よりつづく

〔第28回〕クラスターする子どもの白血病(3)

インタビュー

 インタビューは質問用紙に従って行なわれました。まず1979年以前にウーバンに家族の誰かが住んでいたかどうかを尋ね,住んでいなければそこで質問を中止します。住んでいた場合,1920年以降に生まれた女性に関して1969年から1982年の間に終了した妊娠があれば,妊娠時の母親の年齢,喫煙歴,分娩時の状態,児の体重,性,そして先天奇形について質問しました。さらにその子どもたちのアレルギー性疾患など慢性的あるいは繰り返される疾患について質問しました。

汚染された水を飲んだかどうかについて

 汚染されていた井戸水2つの水源は同じでした。それぞれ88フィートと84フィートの深さがあり,全部で8つある井戸水はそれぞれつながっていたため,多かれ少なかれ混合した水を摂取したことになります。その混合の割合は地域によって異なっており,当然のことながら,汚染された井戸付近での水が最も汚染されていました。汚染されていた井戸は1964年から1979年まで使用され,ウーバンの住民の23%に水を供給してきたことになります。そこで汚染された水がどのようにウーバンで分布したかをまとめ5つの地区に分けました。1970年を境に工場が増えているため,時間的にも分けてあります。

小児白血病

 汚染された井戸を飲料水曝露と小児白血病の間には相関関係が存在しました(p=0.02)。例えば,ある子どもは1969年に生まれ,ウーバンには1979年に診断がつくまで住み,その間の累積曝露量は2.41でした。1969年ウーバンで生まれ,1979年まで住んだ子どもの数は164人であり,その子どもたちのうち31%が汚染された水を飲み,平均蓄積曝露量は0.73でした……といった具合に検討していき,最後には累計して期待値と比較したのです。汚染井戸水を飲んだことと白血病になる危険性の間には相関がありました。しかし,原因-結果の関係と言うにはp値も大きく,症例数も少ないと思われます。また井戸水汚染だけではウーバンにおける白血病増加をすべて説明できるわけではありません。研究者は並行して調査した子どもの病気から何をつかんだのでしょうか?
 既存のリスクファクターをコントロールした後で解析したところ,汚染された水を摂取したことと,1970年以降の周産期死亡,中枢神経奇形/染色体異常/口蓋裂/腎泌尿器疾患/呼吸器疾患発症の間で相関関係が認められました。この相関関係から因果関係を言うには何が必要でしょう。

曝露の評価法

 例えば,「喫煙しているか否か」といった0か1で曝露を表わすこともあります。しかし,それでは不正確です。1日あたり何本吸っているか,それを何年間続けたのか,という評価法もあるでしょう。もう1つ評価の際に注意するべき点は,曝露による疾患発生のリスクが時間の経過とともに変化する場合です。例えば,10歳から20歳までの喫煙と60歳から70歳の喫煙では意味が違います。ましてやダイオキシン類を妊婦(胎児)が摂るのと,50歳の成人が摂るのでは,疾患発生のリスクがまったく違ってしまうはずです。

井戸水閉鎖後のストーリー

 汚染が強かった地区ではその井戸閉鎖後の1980年以降,周産期死亡,眼/耳異常,中枢神経/染色体異常/口蓋裂に関しては異常発生を見なくなりました。これは,汚染水摂取とこれらの病気との因果関係を示唆しています。しかし,汚染されていた井戸を閉鎖した後も,白血病はバックグラウンドより多い状態が続いていました。その後も同地区の水道水から高濃度の砒素とクロミウムが検出されており,特にこの地域にクラスターする子どもの白血病に関してすべてが解決されたわけではありません。
 ハーバード・スクール・オブ・パブリックヘルス(HSPH)のグループは,化学物質が小児白血病を中心とする病気の原因であると断定していませんが,論文はそれを強く示唆していました。その結果を受けて,8人の白血病の子どもを持つ家族が化学物質汚染の元凶をつくった会社を相手取り,400億円の訴訟を起こしました。最終的に化学物質汚染が免疫異常を誘発し,これが間接的に白血病発生につながったとする原告側の主張が通り,会社は白血病患者さんの家族に8億円の賠償をしたのでした。これはその後の環境汚染関連訴訟のマイルストーンになったことは言うまでもありません。しかしながら汚染水を飲んだことが,本当に白血病の原因だったのでしょうか?