医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


第一線の臨床家が共感できる経験を盛り込んだ1冊

〈総合診療ブックス〉
高齢者の外来診療で失敗しないための21の戒め

宮崎 康,佐藤元美 編集

《書 評》水戸部秀利(全日本民医連副会長・医療活動部長/長町病院長)

 本書は,東京都内の民間病院で住民参加の地域医療を実践してきた宮崎康氏と,岩手県内の町立病院で町ぐるみの保健・医療・福祉サービスを構築してきた佐藤元美氏の両編集者の対話に始まって,高齢者の日常診療で遭遇しやすい問題を,それぞれの分野の第一線の臨床家が平易に解説した実用書である。

濃厚に盛り込まれた診療のエッセンス

 「失敗しないための21の戒め」の表題のように,具体的,教訓的事例をあげ,それらに関連する診断や治療上のチェックポイントや診療基準,メール形式のQ&Aで構成されている。そしてところどころに筆者らの強調したいエッセンスも織り込まれている。
 全身を総合的に診る診察の基本,薬物療法,手術適応の考え方に始まり,食欲低下,感染症,貧血,息苦しさ,胸痛,黄疸,腹痛,意識障害,腰痛,運動障害,排尿障害,痴呆症状,嚥下障害などの日常よく遭遇する症候について教訓をまとめ,さらに高血圧や糖尿病の治療の注意点,生活習慣改善への取り組み,全身性疾患の留意,コミュニケーションのとり方,老年期女性のホルモン補充療法まで200頁強の小冊子に欲張りすぎと思われるほど濃厚に盛り込まれている。
 本書は,ベテランの医師や看護師にとっては,「そう,私も失敗した,経験した」という内容が随所に含まれ,再確認するきっかけになり,若手にとっては日頃悩んでいる高齢者の診療について,先輩からの貴重なメッセージになると思う。
 「失敗から学ぶ」,高齢者を生物学的側面からだけでなく「地域や社会の生活の中で」,「人生の先輩として」,「闘病の主体者として」とらえる見方が本書の基調であり,単なるノウハウ書にとどまっていない。
 最近,EBMが強調され,経験に基づく指針はランクが低く見られがちであるが,第一線の臨床医が共感できる経験は,貴重なエビデンスである。むしろ,このような経験が積み上げられることによって,患者の個性を捨象しがちなEBMが個別性,多様性にさらに接近できるようになると思う。
 医書一般に共通することであるが,せっかく手軽に読めて普及したい本であるのに値が張るのが残念である。
A5・頁208 定価(本体4,000円+税)医学書院


神経眼科一筋30年,著者研鑽の結実

神経眼科 第2版
臨床のために

藤野 貞 著

《書 評》大庭紀雄(鹿児島大教授・眼科学)

学際的研究進む神経眼科

 「神経眼科」という学際的な診療研究領域があるのをご存じだろうか。視覚系には,網膜から視覚皮質までの入力系,瞳孔運動や眼球運動系などの出力系がある。精緻かつ複雑な神経回路網のどこかに機能的あるいは構造的な異常が発生すれば,視覚生活に支障をきたすであろう。物を「見る」といった原初感覚の異常から,「認知し解釈し記憶する」といった高次感覚の異常まで,さまざまなタイプの疾病や病態が診療現場に持ち込まれてくる。視覚系の異常を専門とする眼科の診療は,眼光学(ophthalmic optics)・内科的眼科学(medical ophthalmology)・外科的眼科学(surgical ophthalmology)を中核とするが,そこに隣接するのが神経眼科学(neuro-ophthalmology)である。眼科の固有領域と異なって,神経内科,脳神経外科,精神神経科,耳鼻科などと連携して問題の解決に立ち向かう必要がある。こうした観点に立って,先進諸国,ことに米国では,高度医療施設にサブスペシャリストneuro-ophthalmologistが配置されて,講座や診療科を横断して診療のみならず教育と研究に活動している。専門医の多くは眼科を基盤として,神経学関連領域の研修を受けて活躍している。わが国では,さまざまな理由から独立した診療部門の設置にはいたっていないが,学会活動は活発に行なわれており,25年の歴史を持つ日本神経眼科学会は,1000名を超える会員でもって国際レベルを維持している。

神経眼科を身近にさせてくれる心憎い工夫の数々

 神経眼科の対象疾患は多岐にわたるが,白内障や眼底病のようには手にとるように見えにくいのに加えて,治療が困難な事例が多いといったことから,眼科の中でも敬遠されがちである。だが,対象となる患者は決して少なくないから,その知識は日常診療では欠かすことができない。本書は,30年にわたって神経眼科一筋に研鑽を積んでこられた藤野博士によるものである。
 本書の初版から10年,診断技術,病態理解が進んだ。筆者には初版でも書評を書く機会があったが,本書刊行の意図と目標は,初版の書き出しに明解である。「神経眼科は難しいという。本当でしょうか。『山登り』と聞き,ロッククライミングを連想すると,その技術の高度さに,自分とは無縁のものと思うでしょう……」。第2版の序はこうである。「神経系病変には,しばしば眼の異変が現れる。問診と,眼の所見,患者の状態の注意深い観察で,主病変が何処にあるか,何の異変か,見当をつけられることが少なくない……しかし,傍ら患者さんの望む,治療,対策,予防,カウンセリングなどに,素早く対応できるように心掛けたい」。まず地図(解剖図)をそろえ,簡単な検査から診断へのディシジョン・ツリーを作成し,対象となる疾病をくまなく取り上げて要点を記載し,ポケットに入るほどの診察器具を付録とする,といった神経眼科を身近にさせてくれる工夫は心憎いほどである。眼科の研修医のみならず,神経疾患に接する多くの方々が診察机をそなえておけば,大いに役立つにちがいない。
B5・頁328 定価(本体9,500円+税)医学書院


定評ある軟部腫瘍の世界的教科書

Enzinger and Weiss's Soft Tissue Tumors 第4版
Sharon W. Weiss, John R. Goldblum 編

《書 評》橋本 洋(産業医大教授・病理学)

初版以来,軟部腫瘍のバイブル

 1983年の初版以来,軟部腫瘍のバイブルとして病理医のみならず整形外科医および放射線科医に必携となっている『Soft Tissue Tumors』の第4版が出版された。今回まず驚いたのは,編者がSharon W. Weissと若手のJohn R. Goldblumになり,第3版まではsenior authorであり,軟部腫瘍を学ぶ多くの人が尊敬しているFranz M. Enzingerの名前は新版のタイトル,『Enzinger and Weiss's Soft Tissue Tumors』に見られるのみとなったことであり,軟部腫瘍学の歴史を感じる。
 前版までと大きく異なり,挿入図のほとんどすべてが白黒からカラー写真に替えられている。各腫瘍での多彩な組織像の良質の写真を満載したスタイルは,前版までと同様で読者に対して大変親切であることに変わりはないが,カラー写真によってさらに組織学的所見が理解しやすくなっている。

伝わる著者らの改訂エネルギー

 EnzingerとWeissは,AFIPに収集された膨大な数の軟部腫瘍の経験を基に,軟部腫瘍に関するアップツーデートな情報と客観的な見解を漏れなく,しかもわかりやすく執筆してきたが,第4版においてもその姿勢は貫かれている。頁数が,第3版の1120頁から1622頁へと大幅に増加していることからも,その意欲がうかがえる。
 近年,軟部腫瘍においても急激な進歩が見られる「染色体解析と分子生物学的分析」の章をはじめ,「臨床的評価と治療」の章,「放射線診断学的評価」の章および「免疫組織化学的解析」の章はさらに充実し,また最近,診断への応用が可能になってきている「Fine needle aspiration biopsie」の章が新しく加えられ,それらの章では,その分野でのエキスパートが著者として招待され執筆している。
 軟部腫瘍の疾患単位は,この数年間においても徐々に増え,また腫瘍の種類によっては,組織発生や生物学的態度の解釈が少しずつ変わってきたものがある。新しく加えられた「Extragastrointestinal stromal tumors」の章は,胃腸管のstromal tumorと同様の腫瘍が大綱,腸間膜および後腹膜などにも発生することを詳説している。今回新たに加えられた疾患単位の中で,良性腫瘍としては,giant cell angiofibroma,desmoplastic fibroma(collagenous fibroma),良悪性中間群腫瘍としては,soft tissue giant cell tumor, retiform hemangioendothelioma, Kaposiform hemangioendothelioma,pleomorphic hyalinizing angiectatic tumor of soft parts, inflammatory myxohyaline tumor,悪性腫瘍としては,sclerosing epithelioid fibrosarcoma,良悪性にまたがる腫瘍としては,solitary fibrous tumorや前述のextragastrointestinal stromal tumorなどがある。また前版までは,良悪性中間群腫瘍として記載されていたspindle cell hemangioendotheliomaは,spindle cell hemangiomaの名前で良性腫瘍に分類されており,中皮由来の章で記載されていたsolitary fibrous tumorは,「Perivascular tumors」の章でhemangiopericytomaとの異同ないし関連を含めて詳説されているなど,今版で追加・改訂された部分をあげれば枚挙にいとまがなく,著者のエネルギーが伝わってくる。
 少し重たくなり過ぎた感じがしないでもないが,1巻本のほうが日常の診断では使いやすい。この1冊があれば,軟部腫瘍を学ぶ病理医および臨床医の疑問が解決できる。座右の教科書として推薦したい。
A4変・頁1622 47,200円(税別)
Mosby社/医学書院


多くの困難を克服し工夫と経験をふまえ硝子体手術を集約

硝子体手術入門 Book & Video
竹内 忍,荻野誠周,樋田哲夫,小椋祐一郎,田野保雄 編集

《書 評》堀 貞夫(東女医大教授・眼科学)

 1970年代の前半に試作され,その後半に少しずつ臨床応用されてきた硝子体手術は,1980年代と1990年代の20年間に眼を見張るほどの進歩をとげた。その中身は,器機の開発と手術手技の向上,そしてそれによる手術適応の拡大である。さまざまな器機が開発され,さまざまな手技が考案され,今日に至っている。その中では新たな技法に置き換えられて消えていったものもあり,さらに便利な器機の陰に隠れていったものもある。硝子体手術の進歩を初期の頃からみてきた私は,vitreous surgeonは実によく考えて工夫を凝らすものだといつも感心している。ただし,これらの工夫は奇抜な発想やひらめきによるものではない。対処するのが困難な網膜・硝子体疾患の病態を見きわめ,それを克服する何かよい手だてはないかという工夫である。
 この『硝子体手術入門』は,現時点で硝子体手術の適応となる疾患を治療するにあたり,必要不可欠なセットアップと手術手技を紹介している。ここに書かれている内容は,この20年間に執筆者たちを含めた多くのvitreous surgeonが,対処が難しかった病態を克服するために,工夫と経験を積み重ねて修得したものの集約である。硝子体手術がなかった時代,また今は硝子体手術で治療している疾患が,まだ硝子体手術で治るとは思われなかった時代,新たな治療方法の開発に挑んで試行錯誤をさかんに積み重ねて,さらに改良を加えてできてきたものである。今はカタログから選んで簡単に手に入る器機も,多くのものは苦労や失敗を背景に工夫されて試作され,皆に認められて現時点で残っているものと言える。

明日から応用できる盛りだくさんのアドバイス

 本書は,硝子体手術を新たに手がける人のために書かれたことを建前としている。しかし,すでに硝子体手術を相当数経験しているvitreous surgeonにとっては,初心者よりももっと興味深く読むことができ,また明日からすぐに応用できるアドバイスが盛りだくさんに書かれている。
 白内障手術とは違って,硝子体手術には型にはまった術式というのはほとんどない。直面した病態にどう対応するか,多くの操作は応用問題である。応用問題の解き方を,本書は多く語ってくれている。読んでみて,「ほう,そんなやり方もあるのか。自分のやり方とは少し違うが,ちょっと試してみようか」と思うことがしばしばあった。ことに一体となっているビデオでは,文章では読みとれない実際の操作がつぶさに見えて大いに参考になる。初心者のみでなく,もうすでに相当数手術をしている人も,自分は硝子体手術のエキスパートと思っている人も,ぜひ読んでいただきたい書である。
B5・頁224 定価(本体22,000円+税)医学書院


活用できる実地肺炎治療指針

ガイドラインをふまえた
成人市中肺炎診療の実際

河野 茂 編集

《書 評》河野修興(広島大教授・内科学)

重要な課題,肺炎の重症度評価

 欧米に習い,わが国でも疾患ガイドラインが,相次いで示されている。2000年3月には,日本呼吸器学会から『呼吸器感染症に関するガイドライン 成人市中肺炎診療の基本的考え方』が出版された。肺炎は,わが国の死因順位の第4位(約8.5%)を占める重要な疾患である。そればかりでなく,第1位の悪性腫瘍,第2位の心疾患,第3位の脳血管疾患の合併症として肺炎は,最重要疾患である。死に至らなくても,QOLや予後を大きく左右する疾患である。したがって,この時期に日本呼吸器学会が成人市中肺炎のガイドラインを出版したことは,時宜にかなっていると言えよう。特に,肺炎の治療方針を考える上でもっとも重要な課題である重症度評価を,一般臨床において普及する効果は抜群のものがあろう。ところが,現状は強力で十分なエビデンスが少ないので,オーソリティの意見の妥協産物による部分が,ガイドラインに含まれることはやむを得ない。このような部分では,言い過ぎを恐れるあまり,明解さに欠けるところがある。また,個々の症例を治療する際の裁量権は主治医に帰属し,あまりに細かい指示を行なうことはガイドラインの使命ではない。したがって,多くの「ガイドライン」にはさらに「ガイドラインのためのガイドライン」が必要になる。

価値が高い実地の肺炎診療ガイドライン

 河野茂氏編集の『ガイドラインをふまえた成人市中肺炎診療の実際』では,そのガイドラインのわかりにくいところを明解に解説してある。実際にベッドサイドで必要な胸部単純X線写真の読影法や,グラム染色所見が明瞭な写真で示されており,実地臨床において身近に置いておく価値が高い。また,実際に使用した経験を示し,ガイドラインの問題点を明らかにしている。日本呼吸器学会のガイドラインには,将来計画として発刊3年後に改訂する予定であることがうたってある。編集者は,ガイドラインの作成委員の1人であるため,本書の出版は改訂に向けての作業の一環として当然の作業と言える。
 編集者は,米国のAmerican Thoracic Society(ATS)のガイドラインやInfectious Diseases Society of America(IDSA)のガイドラインを熟知していることが,この書の端々から読み取れる。VI章の「培養同定が困難な原因菌の検査法」とVII章の「特殊な原因菌の治療法と注意点」では,いずれにおいても,レジオネラを真っ先に取り上げている。レジオネラ肺炎は,頻度は低いものの,致死率がきわめて高く,臨床医にとって忘れてはならない肺炎である。このあたりに,編集者の感染症専門医としての力量が表れている。
 本書は,実地の肺炎診療において研修医から専門医まで活用できる良書である。
B5・頁240 定価(本体4,600円+税)医学書院


求められる輸血医療の安全向上に寄与

輸血のABC
Marcela Contreras 編集/池田久實 監訳/霜山龍志 訳

《書 評》星 順隆(慈恵医大附属病院・輸血部/造血細胞治療センター/小児科)

 交通手段,通信手段の発展により,国際的基準で考えることの重要性が強調されている今日,多くの分野でグローバル・スタンダードが構築されつつある。輸血および血液製剤の供給もその1つであるが,輸血医療は国の事情によって異なる発展をしてきた。わが国では,長年輸血は主治医の裁量権で行なわれてきた。血液製剤によるエイズ感染を契機に全世界的に輸血および血漿分画製剤の見直しがなされ,基準にしたがった医療が重視されている。わが国においても,1989(平成1)年に「輸血療法の適正化に関するガイドライン」が厚生省より提示され,方向性の修正が行なわれた。さらに1999(平成11)年には,「輸血療法の実施に関する指針」と改定されて,輸血医療の基本的ルールとなっている。

参考になる英国の輸血ガイドライン

 40年以上前から整備されてきた米国の輸血システムを,ただちにわが国に導入することには多少無理がある。米国ほど厳格でなく,さらに狂牛病でもっとも苦しんだ当事国である英国の輸血ガイドラインは,われわれにとって大変参考になる。
 本書は,英国の輸血臨床家向けの手引書である。内容は,16章に輸血のすべてを網羅している。献血での血液の収集から,献血血液の安全を保証する検査,輸血を実施する場合の注文の指針,各成分の輸血指針が示されている。続いて,血液成分による副作用とその対策について簡潔に述べられている。さらに治療的アフェレーシス,赤血球代替物など新しい分野の解説が続き,最後は供給と需要について,将来的問題点を示すことで締めくくっている。

身近に置いて活用すべき参考書

 本書は,教科書でもなければハンドブックでもない。あえて言えば,参考書(アンチョコ)である。これを訳者の霜山先生が,わが国と異なる部分には注釈をつけて理解しやすいように表現している。さらに重点は,「囲み」にきわめて簡潔に記載され,本文を読まなくても重点を確認できるように工夫されている。カラー写真が多用され,説明も明確である。訳者の注釈も適切である。
 難を言えば,もう少し字と写真が大きければ見やすいと思われるが,これだけの内容を約120頁に抑えて,価格を下げるためにはやむを得ないのかもしれない。内容・価格からみると大変価値のある参考書である。輸血を実施する臨床医の身近に置いて活用すべき参考書であり,わが国の輸血医療の安全向上に寄与する書物であると確信する。
B5・頁120 定価(本体3,800円+税)医学書院