医学界新聞

 

医道審議会保健師助産師看護師分科会
「保健師助産師看護師国家試験制度改善部会」報告書

――保健師助産師看護師国家試験の改善について

厚生労働省:2002年3月29日


はじめに

 保健師国家試験,助産師国家試験および看護師国家試験は(以下,国家試験=国試),それぞれ保健師,助産師,看護師として必要な知識および技能について行なわれるものであり,保健師国試および助産師国試では1952(昭和27)年,看護師国試では1950年に第1回の試験が実施されて以来,毎年継続的に行なわれ,看護職員の質を確保するために重要な役割を担ってきた。
 一方で,急速な少子高齢化に伴う疾病構造の変化,医療技術の進歩,国民ニーズの多様化,医療安全への関心の高まり等,看護を取り巻く環境が大きく変化している。このため,看護職員に対しては,これらの変化に対応した新たな看護知識や技能の向上はもちろんのこと,態度や倫理観についてもより一層高いレベルの期待を寄せられるようになってきた。
 また,旧医療関係者審議会保健婦助産婦看護婦部会および医道審議会保健師助産師看護師分科会(以下,分科会)においては,特に近年の看護師国試の合格率が変動していることから,早期に試験制度の見直しを含む種々の改善を求められているところである。
 これらを踏まえて,同分科会保健師助産師看護師国試制度改善部会(以下,部会)は,2001年7月から,保健師助産師看護師(以下,保助看)国試制度(必修問題の導入,合格基準のあり方,試験問題プール制等)について検討を開始し,本部会やワーキンググループを含め計7回の審議を行ない,今般,改善事項をとりまとめたのでここに報告する。
 これらの改善事項は,一部は2003年,その他の事項については,教育機関や受験生への周知を図る等の理由から,2004年(第93回看護師)の試験から適用するのが適切である。なお,試験問題のプール制については,できるだけ早い時期から体制を整えることが望まれる。

「保健婦助産婦看護婦国家試験制度改善部会」名簿
中島紀惠子 北海道医療大(部会長)
小田切房子 埼玉県立大短大部
後閑 容子 群馬県立医療短大
小松美穂子 茨城県立医療大
新道 幸恵 日本看護系大学協議会
永井 正規 埼玉医大
中谷 千尋 山梨県立看護大短大
永山くに子 富山医薬大
畑尾 正彦 日赤武蔵野短大
濱田 悦子 日本赤十字看護大
福井 次矢 京大大学院
古橋美智子 上尾中央医科グループ本部
前川 眞一 東京工大
矢野 章永 日本看護学校協議会常任理事
山西 文子 全国国立病院療養所総看護婦長協議会長


2003年からの改善事項

試験時間の延長
 今日,看護職員に対しては看護実践の場における思考・判断力とそれに基づく問題解決能力を求める傾向が高まっている。また,保助看国試については,従来から教育関係団体より,応用力試験(状況設定問題)を増やすべきとの意見が寄せられてきたところである。このような状況を受けて,保助看国試の一般問題(午前試験)においては,従来の単純想起型の問題に代えて,短い状況を付した応用力を評価するための試験問題が徐々に導入される傾向にある。このように問題の傾向が少しずつ変化していることに鑑み,受験生が解答のために十分な時間を使えるよう,2003年の国試から試験時間を適宜延長することが望ましい。ただし,総出題数は現行のとおり,看護師210題,保健師助産師各105題とする。

2004年からの改善事項

 本部会では,2004年からの試験制度の改善に当たって,看護職員の最も基本となる資格である看護師国試の改善について検討した。

必修問題の導入
 医療が高度・専門化したことにより,看護職員にも高度な知識が求められるようになってきた。近年の看護師国試においても,高度な知識・技能を問う問題が多く出題される傾向にあり,看護師として特に基本的な問題は,多肢選択式問題では簡単になりすぎる等の理由により,出題が控えられてきたところである。
 しかしながら,看護の社会的側面や倫理的側面に関する問題,看護の対象者および看護活動の場に関する問題,人体の構造と機能および健康障害と回復に関する基本的知識,看護技術についての基本的な知識等は,看護師として特に重要な基本的事項であり,看護師国試において必修問題として出題することが適当である。必修問題は30題程度出題することとし,将来的には出題数を増やしていくことが望ましい。
 なお,必修問題の導入に伴い,看護師国試出題基準に必修の基本的事項を定める必要がある。

必修問題の考え方とその内容
 必修問題の考え方とその内容については,以下のようにする。
必修問題の考え方について
 看護師にとって必要な知識および技能について行なわれる国試のうち,看護師として特に基本的かつ重要な試験問題を必修問題とし,専門基礎分野および専門分野から出題する。
必修問題の内容
○看護の社会的側面および倫理的側面に関する問題
 看護の社会的側面および倫理的側面の基本的な理解を問う。例えば医療・看護制度,インフォームドコンセントと患者・障害者の自己決定,医療事故などや,看護師の法的責任および患者・障害者の人権擁護等の責務が含まれる。
○看護の対象者および看護活動の場に関する問題
 看護の対象者については,個人,家族および集団等の特性についての基本的な知識を問う。例えば,健康段階,発達段階,心理過程および社会的影響等についての基本的な理解に関する問題が含まれる。また,看護活動の場に関する問題では,病院,施設および在宅等の看護活動が展開される場とその特性について知識や,関係職種との連携等についての基本的な理解を問う。
○看護に必要な人体の構造と機能および健康障害と回復についての基本的知識に関する問題
 看護に必要な,解剖・生理,代表的(高頻度)な病態のメカニズム,生命の危機への対応,臨床でよく出会う症状の病態とその対応に関する知識や,疾病の予防および健康の維持・増進についての基本的な理解を問う。
○看護技術についての基本的な知識に関する問題
 患者・障害者の自立支援,あるいは安全・安楽を促進する日常生活援助技術や,診療の補助に伴う看護技術および人間関係を発展させる技術に関する基本的な知識を問う問題で,当該技術を選択する根拠および原理・原則に関する問題が含まれる。

出題数および試験時間の変更
 必修問題を30題程度導入することに伴い,看護師国試の総出題数を現行の210題から240題とし,試験時間を延長する。ただし,必修問題の導入により受験生の拘束時間が長くなることが予測されるため,早期に試験時間の割り振り等の調整を行ない,受験生の負担が大きくならない方向で改善することが望ましい。

合格基準
 看護師国試は資格試験であり,看護師として必要な知識および技能を有しているか否かを評価するものである。その中でも必修の基本的事項については,免許を有するにふさわしい最低限度の知識と臨床能力を有しているか否かという絶対的基準をもとに合否を判定することが必要となる。
 しかし,看護師国試において,看護師として業務を開始するに当たり必要な知識および臨床能力を評価するには,基本的な必修事項だけではなく,広い範囲でさまざまなレベルの出題が必要になってくる。この領域については,望ましい到達目標が必ずしも明確ではないことから,試験問題の難易度が変化しやすくなる。
 したがって,到達すべき目標の明らかな必修問題に対しては絶対基準(一定のレベルに達しているか否かを判定),その他の問題については平均点と標準偏差を用いる相対基準を設定することが現実的である。
 なお,必修問題については,その他の問題とは異なった合格基準が設定されることから,どの試験問題が必修問題であるかを受験生に明らかに示すことが望ましい。
 今後は,受験生のレベルの変動に対応できるように,過去の問題を一定数出題するなどの方法で,受験生のレベルを把握することが望ましい。また,試験問題の質を一定に保つために,修正アンゴフ法1),修正イーベル法2)等による検討も随時行なっていくことが望ましいと考えられる。

その他の改善事項

試験問題の公募およびプール制の導入
 試験を出題するたびに,試験委員が問題を作成・修正する従来の問題作成方法では,試験問題の質や難易度を一定に保ち,かつ出題数を増やすことに対応することが難しい。このため,出題する前に試験問題をあらかじめ蓄えておくこと(プール制)が有用と考えられる。試験問題を大量にプールするためには,2002年より,全国の保助看養成所,実習施設,元国試委員,教育関係団体等に,試験問題の作成について協力を依頼するとともに,広く一般から試験問題を公募することが望ましい。
 公募して収集した問題については,試験委員会で選定・修正を行ない,出題できるような試験問題の形式を整えることが必要であると考えられる。
 このような手続きを経て,今後数年のうちに,保助看とも数千題の問題をプールすることを目標として体制を整えることが望ましい。

試験委員の増員
 看護師国試における必修問題の導入や,公募問題の選定・修正等,試験委員会の役割が増えることに鑑み,現在,保助看法施行令で定められる試験委員の数(47名)を大幅に増員することが必要である。

引き続き検討すべき事項

看護師国試における禁忌肢の導入
 看護師国試における禁忌肢の導入の必要性については,本部会でも検討を行なったが,必修問題の導入と同時であることにより受験生や試験委員に大きな負担となること,看護師として禁忌である内容が何であるかについて,十分に時間をかけて検討することが必要であること等から,今回は見送ることとした。次回部会において,再度十分に検討することが必要と考えられる。

保健師助産師国試の改善
 次回の部会においては,保健師助産師の国試のあり方について,必修問題の導入の可否等を含めて検討することが必要と考えられる。

おわりに

 本部会での報告を踏まえ,今後は,保助看国試出題基準の改定作業が進められることになるが,保健医療に対する国民のニーズが高まる中で,国民の期待に応じる資質の高い看護職員を今後とも確保する一方で,看護基礎教育の形態が多岐にわたる現状のもと,看護職員として必要な知識および技能を適正に評価できる試験問題の作成が可能な出題基準となるよう期待する。
 また,保助看国試の改善については,定期的に改善部会を開催して,試験制度を評価し,さらなる改善方策について検討を加えることとする。
〔注〕
1)修正アンゴフ法:試験の各設問ごとに,合否境界水準にある受験生のうち,正解する者の割合を平均設定したものを,合議に基づき合否判定として設定する方法
2)修正イーベル法:試験の各設問ごとに,その内容の必要度(内容妥当性)と難易度を加味した上で,合議に基づき合否判定として設定する方法

〔編集室より〕
 上記の内容は,「看護教育」(43巻5号)にも掲載。また,同誌上では「第91回看護師国家試験」の分析も紹介している。