医学界新聞

 

第14回日本アレルギー学会

春季臨床大会開催される


 第14回日本アレルギー学会春季臨床大会が,今野昭義会長(千葉大教授)のもと,さる3月21-23日に,千葉市・幕張メッセ国際会議場,他において開催された。本学会では,現在の臨床アレルギー学が抱える問題に対応すべく,「難治性免疫・アレルギー病態の臓器特異性と共通性」,「アレルギー疾患に関するエビデンスの集積」,「免疫・アレルギー疾患に関する近未来の治療戦略」をメインテーマに,多彩な企画がなされた。(関連記事


 今学会では,今野会長による会長講演「アレルギー性鼻炎-病態の対応上の問題点」,また白川太郎氏(京大)による「アレルギー疾患の遺伝学的研究」,谷口克氏(千葉大)による「自然免疫系によるアレルギー制御」の2題の特別講演,また教育講演では,すでに公表されている(1)小児気管支喘息,(2)成人気管支喘息,(3)アレルギー性鼻炎,(4)アトピー性皮膚炎と4つの「アレルギー疾患・予防・管理ガイドライン」をめぐっての議論がなされた他,「アレルギー疾患と心の問題」などのトピックスが取り上げられた。そのほか,海外から招待講演,シンポジウム10題,教育セミナー15題,サテライトシンポジウム9題が企画された。
 最終日には同会場において,GINA世界喘息デー2002が開催。第1部では医師向けの,第2部では市民公開講座「最新のアレルギー対策」が行なわれた。

アレルギー鼻炎の現状

 今野会長の講演「アレルギー性鼻炎-病態と対応上の問題点」では,最初にアレルギー性鼻炎をめぐる問題点として,(1)アレルギー性鼻炎における鼻過敏症状の発現機序,(2)鼻粘膜におけるアレルギー性炎症と鼻粘膜過敏性亢進のメカニズム,(3)感作・発症・症状増悪の修飾因子,(4)アレルギー性鼻炎の治療の4点を提示。
 特に治療の側面から,スギ花粉症は60歳代には有病率が低下することから,調査の結果,40歳代以降の発症では自然寛解がみられることが明らかとなったことを報告。現在,本症発症の低年齢化が進行し,今後は自然寛解が期待できない患者が増えることが予想され,日本全体にさらに大きく広がる可能性があると述べた。このような状況を鑑み,近未来に期待できる治療法として,(1)危険因子の予知と発症予防,(2)抗IgE抗体やCCR-3受容体抗体などのIgE抗体またはアレルギー性炎症の抑制を目的とする抗体の開発,(3)ペプチド療法やDNAワクチン療法などの免疫療法,(4)遺伝子療法の4点をあげた。


近未来のアレルギー疾患の治療戦略

第14回日本アレルギー学会臨床大会シンポより


 第14回日本アレルギー学会臨床大会最終日には,シンポジウム8「近未来におけるアレルギー疾患の治療戦略-研究開発の現状と将来展望」(司会=福島医大 棟方充氏,日大先進医学総合研究センター 羅智靖氏)が行なわれた。議論の開始にあたっては,「近年は分子,遺伝子,蛋白分子などの研究成果はめざましく,新しいアレルギー病態のターゲットが次々と発見され,論理的な戦略に基づいた薬剤開発が始まった状況を鑑みて,今後の方向性や将来的展望を議論したい」との司会の言葉で開始された。

議論が深まる喘息の炎症論

 最初に棟方氏は,肺特異的・臓器特異的な分子をターゲットにした治療をめざして,氏らが発見したCC16(Clara cell Stretary Protein)の関連蛋白「UGRP1」について言及。本遺伝子のプロモーター領域-112番に存在する多型の発現頻度を喘息患者と非患者とで比較したところ,患者に有意に多型が多く,また変異型の遺伝子を有する場合,喘息のリスクが4倍以上高くなることが明らかになり,「将来的には治療戦略の1つになるだろう」とした。また治療については,5-リポキシゲナーゼやロイコトリエンC合成酵素の遺伝子多型,β2アドレナリン受容体などが,有効な治療のターゲットになる可能性を示唆した。
 続いて,佐藤由紀夫氏(福島医大)は,「DNAワクチンのアレルギー疾患への応用」と題して講演。DNAワクチンに含まれる微生物由来のプラスミドDNAに存在する非メチル化CpGモチーフは,IL-12などのTh1型の免疫反応を誘導させ,ISS(immunostimulatory DNA sequence)と呼ばれる。Th1細胞とアレルギーの病態に大きく関与するTh2細胞は相互に抑制的に働くことから,マウスを用いて,アレルゲンの遺伝子を組みこんだISSを有するプラスミドを用いたDNAワクチンを施行したところ,IgE抗体産生抑制が可能となり,アレルギー反応を抑制する効果を提示した。
 さらにプラスミドDNAの経鼻投与を施行したところ,有意に効果が認められ,さらにプラスミドDNAの経鼻投与は,気道アレルギーの抑制に有効である可能性を示唆した。

アレルギー疾患の治療ターゲット

 次いで,好酸球のシグナル伝達を標的とした新しい治療法については,足立哲也氏(秋田大)が,(1)好酸球のコントラヴァーシィ(2000年,Leckieらが報告した「抗IL-5抗体の投与により,好酸球浸潤は抑制されるが,気道過敏性は改善しない」という説を受けて議論が紛糾している),(2)好酸球特異的受容体CCR3を介した好酸球のシグナル伝達,(3)PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)γと好酸球の機能の3点について言及。特に(2)について,ERK1/2経路,Rho-ROCK経路,p38などが好酸球のCCR3を介したシグナルで活性化していることから,シグナル伝達に関与する分子活性を阻害して,好酸球機能における役割を検討した結果を報告した。氏は,好酸球の機能抑制に関与する分子が解明されつつあることから,「将来的には,IL-5およびCCR3のシグナル伝達の抑制,PPARγの阻害剤などを用いることで,好酸球浸潤を抑制するような治療が期待できる」と述べた。

抗IgE抗体療法の可能性

 「抗IgE抗体療法の現状と展望」と題して,大田健氏(帝京大)は,1991年に作製されたヒト化抗ヒトIgE抗体(omalizumab)が,IgE抗体とマスト細胞や好塩基球の表面にあるFcεRI(高親和性IgEレセプター)の結合をブロックし,アレルギーを抑制する機序を解説。本抗体を用いて,欧米で行なわれた喘息と季節性鼻炎に対する臨床治験では,喘息患者成人例および鼻炎において,プラセボでの改善も高いが,有意に有効性が得られたことを報告し,この抗IgE抗体療法は,「コストやプラセボとの関連など問題はあるが,最近の研究から,本治療法は重症度の高い喘息患者さんにより有効である可能性がある」と示唆した。
 最後に羅氏は「IgE-FcεRI-マスト細胞パラダイム-感染防御のフロントラインからアレルギーまで」と題して,マスト細胞がアレルギー反応の即時相のみでなく,自身の産生するサイトカインをメディエーターとして遅発相の誘導にも関わることが明らかになったことを指摘。さらにマスト細胞が炎症局所でIgE産生そのものを増強するという,アレルギー増悪サイクルのコンダクターとして働く事実を説明した。また,IgEの受容体FcεRIα鎖の遺伝子解析により,FcεRIα鎖の発現制御およびマスト細胞,好塩基球の発現抑制の全貌が解明されつつあることを示唆した。氏は,「現在,マスト細胞の研究は急速に拡大し,これまでの概念を変えてしまうような事実が明らかにされている」として講演を結んだ。