医学界新聞

 

第99回日本内科学会開催される

「更なる100年-納得できる医療を求めて」をテーマに


 さる3月28-30日,第99回日本内科学会が,早川哲夫会頭(名大教授)のもと,名古屋市・名古屋国際会議場で開催された。同学会は本年,明治36年の設立から100周年を迎え,今学会から来年の第100回学会開催まで,多数の記念行事が企画されている。
 記念すべき今学会では,早川会頭による会頭講演「慢性膵炎の疾患概念の変遷と今後」や,中澤三郎氏(藤田保衛大,山下病院)による特別講演「内科学の100年」に加えて,宿題報告は,松澤佑次氏(阪大)による「動脈硬化と関連する新しい病態とその分子機構の研究」や,外山淳治氏(愛知県立尾張病院)による「抗不整脈薬から心不全治療薬へ向けて」など5題。またシンポジウムは,(1)「消化器領域の分子病態」(司会=産業医大 大槻眞氏,山口大 沖田極氏,以下カッコ内は司会),(2)「血管新生の臨床」(徳島大 曽根三郎氏,東大 永井良三氏),(3)「老年期の痴呆-医療と介護の現況と発症機構研究の到達点」(三重大 葛原茂樹氏,慶大 福内靖男氏)の計3題,その他に教育講演18題,ポスターセッションによる一般演題などが行なわれた。


医学を志す若者へのメッセージ

 同学会では,学会創立100周年を記念して,アジア圏に生まれて医療を志し,アメリカに渡って確固たる地位と業績を築かれた3名の講師による講演会「医学を志す若者へのメッセージ」(司会=東女医大 神津忠彦氏,愛知医大 野田愛司氏)が実施された(後援=愛知県教育委員会・岐阜県教育委員会・三重県教育員会)。この講演には学会員の他に,医学に関心のある中学生,高校生,大学生が招待された。また,招待学生は「1日内科学会員」として会場見学などもなされ,将来の医療を担う世代との対話の場が持たれた。
 本セッションには,フィリピン出身のヴェイ・リャン・ゴウ氏(カリフォルニア大ロサンゼルス校ヒト栄養センター所長),韓国出身のウィリアム・チョイ氏(ロチェスター大消化器疾患科学研所長),また日本で生まれ,15歳からアメリカに留学し現在にいたるタダタカ・ヤマダ氏(グラクソ・スミス・クライン研究開発部門代表,ミシガン大客員教授)の3人が講師として登壇自身の幼少時代のエピソードや,医学を志したきっかけ,なぜアメリカをめざしたのか,などを語った。
 さらに,パネルディスカッションでは,2004年から開始される臨床研修必修化を鑑み,「新世紀の卒後臨床研修-更なる100年に向けて」(国立名古屋病院 齋藤英彦氏,慶大 猿田享男氏)を企画。行政・大学医学部・研修病院のそれぞれの立場から参加者が集い,きたる臨床研修必修化に向けての議論がなされた(本紙2面参照)。
 また,内科専門医によるCPC(三重県立総合医療センター 小西得司氏,名大 岩瀬三紀氏)では,「原因不明の出血を初発症状として,心症状が進行性に出現し死亡した71歳男性」の事例をめぐって,ディスカッションがなされた。一方,認定内科専門医会(第5回評議会,第13回講演会,第25回総会)も開催された。
 なお,第100回を数える次回学会は,名和田新会頭(九大)のもと,福岡市の福岡国際会議場,他で,明年3月31日-4月3日に開催される。


新世紀の卒後臨床研修のあり方を模索

第99回日本内科学会パネルより


2年後に控えた臨床研修必修化

 第99回日本内科学会2日目には,2年後に控えた卒後臨床研修必修化をめぐってパネルディスカッション「新世紀の卒後臨床研修-更なる100年に向けて」(司会=齋藤氏,猿田氏)が企画された。
 最初に,村田貴司氏(文部科学省)は,卒後臨床研修の前提となる卒前教育における現在進行中の医学・歯学教育の抜本改革について概説。2005年実施に向けて,今年からトライアルが始まった臨床実習前の学生評価のための共用試験システムの概要や,全国医学部長病院長会議がまとめた「卒後臨床研修の制度設計の基本骨格(提言)」にも触れ,各大学に設置が予定されている「卒後臨床研修センター」の役割などを説明した。
 続いて,中島正治氏(厚生労働省)は,臨床研修の現状と,これまでの臨床研修制度をめぐっての議論の経緯を説明。さらに,実施に向けての具体的論点として,(1)研修施設の基準,(2)研修プログラム・研修の場(大学病院とプライマリ・ケア),(3)医学教育との連携,見直し,(4)研修医の処遇,(5)研修場所の確保・選択,(6)アルバイト問題,(7)大学医局との関係(研修後の就職,専門医研修との連携),(8)厳しい財政状況などを各項目ごとに説明。「国民に納得してもらえる医療を提供するために,さらに議論を深めて,よりより臨床研修の構築を図りたい」と強調した。
 次いで,福井次矢氏(京大)は,望ましい内科卒後臨床研修プログラムについて,(1)カリキュラム,(2)ローテーション,(3)指導医の役割,と3つの視点から概説。特に,「卒後臨床研修のレベルは指導医で決まる」と指導医の役割の重要性を強調し,指導医が果すべき役割として,(1)知識とその検索方法,(2)診療の原理・原則,(3)臨床手技(スキル)を指導して,(4)精神・心理面への配慮,(5)研修到達度の評価,(6)ロールモデルとなること,の6点を提示。中でも評価の重要性と,教えるのが難しいとされる研修医のモチベーションの向上・維持や,医師としての倫理感などは,指導医がよきロールモデルとなることで教育効果が得られることを指摘した。

よりよい臨床研修のシステムを構築するために

 宮城征四郎氏(沖縄県立中部病院長)は,35年間にわたって,アメリカのおける臨床研修プログラムの特長を取り入れて多くの人材を輩出した経験から,「アングロアメリカ方式の臨床研修」と題して登壇。
 同病院の臨床研修プログラムの特徴として,(1)スーパーローテーションによるコモン・ディジーズを中心としたプライマリ・ケアの重視(ジェネラリストとしての素養の育成),(2)研修医の年間受持ち患者数は200-300人,(3)救急医研修の重視(初期臨床研修2年間は終始,救急当直の義務を追う),(4)徹底したチーム医療と自由討論(主治医制度は採らない),(5)上級医が下級医の指導義務を負う(屋根瓦方式)の指導体制,(6)相互の診療内容監視(peer review)システムと指導医,研修医の双方評価,(7)各科の壁の撤廃と自由闊達なコンサルテーション,(8)どの分野であれ,同分野専門科のローテーションによるジェネラルスペシャリストの育成をあげた。最後に宮城氏は,「沖縄県と一緒に進めてきたこの研修プログラムには,年間3億円の予算を投じている。しかし,よい教育には資金が必要なのである」と結んだ。
 最後は,松尾清一氏(名大卒後臨床研修センター)は,「大学病院も研修病院の1つ」という考え方から20年以上にわたって行なってきた,大学・関連病院・学生の三者による臨床研修マッチングシステム(名大病院関連病院卒後臨床研修ネットワーク)を紹介。これは,研修先は学生が決め,最低1年間は非入局でスーパーローテート研修を行なうというもの。氏は今後の大きな課題である「研修病院決定のための全国マッチングシステムの構築」に対して,本ネットワークの経験から,(1)研修希望者への研修病院情報の提供を徹底させる,(2)研修希望者の自由意志による応募の実現,(3)研修医採用システムと採用基準の明確化,(4)合理的な研修病院の設置,(5)研修医の身分・待遇の一致,の5点を提言として述べ,講演を結んだ。
 演題終了後の,フロアを交えた議論では,(1)臨床研修のしくみ,(2)カリキュラムの内容,(3)経済的側面の3点を議論。会場からは,医師の倫理観やプロ意識をどう研修内容に組みこめるか,また臨床研修における大学病院の役割は,問題はマンパワーと予算ではないか,などの意見が出された。
 最後に司会の猿田氏は,「インターン制度を廃止させた経緯からも,21世紀の臨床研修カリキュラムは財源的にしっかりとした制度を作る必要がある。さらなる議論が必要」と述べ,議論を締めくくった。