医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


胸腔鏡下手術の入門者,必見!

イラスト 胸腔鏡下手術
白日高歩 監修/岩崎昭憲 編集

《書 評》加藤治文(東医大教授・外科学)

 呼吸器外科の進歩は,手術侵襲の低減,摘出範囲の縮小など,患者のQOLを配慮した外科手技の変貌を急速にもたらしつつある。ことに近年の進歩は,新材料の開発,周辺器械の開発に帰するところが大きい。

急速な展開をとげつつあるVATS

 呼吸器の手術として,肺摘出が行なわれたのが1910年(Kummel),肺腫瘍の手術報告は,1921年(第22回日本外科学会,佐藤清一郎)であったが,以降肺癌の手術は,1942年に肺葉切除(Kent),1960年に気管支形成術(Grio)と縮小の方向へ進歩してきた。そして1990年代に胸腔鏡下手術法(VATS)が開発され,急速な展開をとげつつある。90年代前半はこの新しい手術手技の修得の時期で,90年代後半から症例の蓄積によりVATSの有用性が示され,各種疾患に対する適応と限界が検証されてきた。
 VATSの適応疾患は,当初より良性疾患である気胸,肺嚢胞,肺気腫,良性腫瘍などが主であったが,最近は転移性腫瘍,肺癌などにも適応が拡大されてきている。
 一方,1990年代にCTによる肺癌検診がわが国で試験的に開始され,微小肺癌の高発見率が証明されると,各地でCT検診が行なわれるようになり,その結果,微小結節陰影に対する診断的手法としてVATS生検の機会が増えている。もちろんそのような微小肺癌の治療面でも,VATSの利点が示されるようになっている。

定着してきたVATSをイラストでていねいに解説

 このようにVATSは,呼吸器外科に不可欠な手法として定着しつつあるが,適応と限界を正確に把握し,技術を正しく修得し,正しく履行すべきことは論をまたない。もとより技術の過信は許されない。肺癌に対するVATS葉切は,開胸に比べ予後が良好であるとの報告も出始めているように,胸腔鏡下手術は確かに利点は多いが,この手技を標準治療とするためには,多施設共同試験による有用性のエビデンスを世に示す必要があろう。
 白日高歩福岡大教授監修による『イラスト胸腔鏡下手術』は,こうした胸腔鏡下手術手技について基本的事項から個々の手術手技の実際面についてまで,詳細にイラストで解説されている。この要点をとらえたシンプルなイラストは,実際のリアルな写真の呈示に比べ大変わかりやすい。
 内容は,「胸腔鏡下手術の適応・術前管理」,「手術手技」,「麻酔」,「術後管理」,「手術器具」の各項を「総論」とし,「各論」には診断としての生検法から各種疾患,つまり「自然気胸」,「巨大肺嚢胞」,「肺良性腫瘍」,「原発性肺癌」,「転移性肺腫瘍」,「縦隔疾患」,「胸膜腔疾患」などの手術について,ていねいに解説されている。
 経験豊富な術者は,つねに独自の手術手技上のコツを持っているものであるが,文中随所に〈ワンポイント・アドバイス〉として白日教授のコツ,工夫が示されている。本書は,胸腔鏡下手術の入門者にとって必見書であると同時に,すでに技術を修得した者にとっても有用な参考書となるであろう。
B5・頁160 定価(本体8,000円+税)医学書院


研究成果を集積-循環器疾患と自律神経機能

循環器疾患と自律神経機能 第2版
井上 博 編集

《書 評》杉本恒明(公立学校共済組合関東中央病院長)

なぜ,循環器疾患における自律神経機能を学ぶか

 生体が置かれた状況・環境にしたがって,循環機能は刻々と変化する。これを調節しているのが,神経・体液性因子である。神経・体液性因子は中枢性,末梢性そして反射性の機転によって発動される。ただし,この働きは,生体を生理的な状況・環境の中で適応させることを目的とする。循環系に病的状態がある時,この調節目標は病的な状態において望ましい目標からはいささか逸れたものとなり,生体の負担をかえって増加し,循環不全を悪化させる。自然界の法則とは,病的となった生体を淘汰し,排除しようとするものなのである。われわれが,循環器疾患における自律神経機能を学ばなければならないのは,こうした自然界の法則に対して戦うためである。
 本書は,病的過程にある循環系における神経・体液性因子のこのような意味での役割の解説である。すなわち,循環器疾患がある状態で,自律神経機能がそれをいかに補い,あるいはいかに悪化させて,さらに新しい病態を作りだしていくかを述べている。

魅力的な青刷りの囲み

 本書を拝見していて気づいたことがあった。各章,各節の見出しの下にある青刷りの囲みである。旧版にもあったのであるが,あまり目につかなかった。各章を担当する執筆者の強調したいことを凝縮させた短文であり,この部分を追ってみるだけでも楽しかった。以下にその中から,魅力的と思われた語句を拾ってみた。
 交感神経と迷走神経は,それぞれ独自の細胞内情報伝達系によって作用を発揮するが,互いの情報伝達系はその間で影響し合っている。受容体の機能や密度は,状況に応じて変動する。生体は,循環系の構造的要因に加え,応答の速い反射性調節,持続の長いホルモンおよび腎による体液貯留を動員して血圧変動を防いでいる。運動時に動員される神経調節系には,中枢活動,圧反射,運動筋代謝が重要な役割を持つ。心筋の健常部と虚血部の自律神経に対する反応性の差も不整脈発生に結びつく。除神経と過剰反応は,不整脈発生に関係している可能性がある。長時間心拍変動解析による予後予測には時間領域の分析法が,短時間心拍変動解析による自律神経機能評価には,周波数領域の分析法が用いられる。心筋123I-MIBGシンチグラムにみる洗い出し亢進は,交感神経活動の亢進状態を反映する。心臓迷走神経機能が障害されると,致命的不整脈発生に対する抑止力が減弱する。循環システムの主要な目的は,血圧の維持にある。心不全時の交感神経活動の亢進は,圧受容器反射の障害だけでは説明できない。心不全では,交感神経末端でのノルエピネフリンの取り込み効率も低下している。心不全では,腎交感神経活動の亢進の意義が大きい。洞不全症候群では,重症化するほど自律神経の影響を受けにくくなる。発作性心房細動には,交感神経,迷走神経のそれぞれの関与の大きいタイプがある。心室頻拍における自律神経指標の関係は,特発性と拡張型心筋症とで異なる。不整脈の発生は,血行動態の変化を介して交感神経活動に影響し,不整脈の増悪に関与する可能性がある。神経調節性失神の機序の1つとして,静脈収縮反応低下がある。交感神経活動亢進によりインスリン抵抗性が増悪する。
 一部に表現を言い換えたので,正確ではないところがあるかもしれない。しかし,これには多くの方々が興味を持たれるのではなかろうか。
 本書の8人の執筆者のうち,4人が編者井上教授が主宰する富山医薬大の教室の方々である。本書のテーマが,教授の個人的なライフワークとしてばかりでなく,教室の重点的な研究課題の1つとなっているように思った。本書の成功は,教室活動を大きく評価することでもある。心からお慶びし,今後の一層の発展を期待したいと考える。
B5・頁220 定価(本体8,200円+税)医学書院


代謝,循環器両者からアプローチした糖尿病最新情報

糖尿病と心機能障害
坂田利家 監修/犀川哲典 編集

《書 評》原納 優(甲子園大教授・栄養学)

 糖尿病の死因の第1は心疾患であり,大血管障害としての冠動脈硬化症の早期診断,管理と病態理解は,糖尿病専門医・療養指導士にとってますます重要性が増しており,必須事項である。
 一方,循環器医師・コメディカルの方にとっても,狭心症あるいは心筋梗塞の2-3人に1人は糖尿病またはその予備軍であり,両領域の医療従事者にとって,格好の書物が出版された。

要望される代謝,循環器
両者協調の糖尿病診療

 本書は,「基礎」および「臨床編」から構成されており,前者は,糖尿病病態生理,診断,治療など最新の基本的事項が理解しやすい図表を中心に,Side Memoも活用し要領よくまとめられている。また心疾患理解に必須である,エネルギー・電解質,特にKチャネル,Ca代謝,インスリン感受性,AGEと血管障害について,臨床にも役に立つ最新の情報が記載されている。
 「臨床編」では,心筋症,糖尿病・肥満・高血圧・心肥大と心機能,自律神経障害と心,脂質代謝異常,特に食後高脂血症と小粒子LDL,高血圧と冠動脈疾患,123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心自律神経障害の評価,不整脈,治療など糖尿病を有する心疾患の理解と管理について,非専門領域の方にも要領よく,しかも,質の高い学術レベルを保ちつつ記述されている。
 代謝,循環器それぞれの書物はよくみられるが,両者を1冊にまとめた書物は少なく,両者協調しての診察が要望されかつ必須である現状にとって推奨に値する良書である。
B5・頁200 定価(本体4,700円+税)医学書院


再認識する必要がある心エコー・ドプラ法

心エコー・ドプラ法の臨床 第2版
大木 崇 編集/大木 崇,他 著

《書 評》吉川純一(大阪市立大学院教授・循環器病態内科学)

 大木崇先生の編著による『心エコー・ドプラ法の臨床』第2版を目の前にして,編著者の心エコー図にかけるなみなみならぬ情熱が伝わってきます。大木先生と私とは,古くは心音図学に傾注し,続いて登場した心エコー図に熱意を燃やし,今も燃やし続けるよき仲間であります。私たちの共通の理解は,心エコー図が類まれなる優れた臨床検査手段であり,したがって,私たちは,本法を用いて数々の疾患の診断を正確に行なうことに嬉々とし,さらに病態を解明することにも情熱を傾けてきました。
 さて,この心エコー図を臨床で駆使するためには,一定の知識と技術が必要なことは言うまでもありません。そのために最も近道なのは,まず的確な教科書を選ぶことにあると考えます。このテキストが,第1版と比べてまったく違う点はテキストの中の図が一新され,きわめて美しいイメージで統一されているところです。ドプラ心エコー図は,第1版からとても素適で,第2版も優れた記録から構成されています。さらに,読者の理解を深めるために,美しいシェーマが随所に配置されています。また,必要に応じてMモード心エコー図も掲載されております。私が,こんなところにこだわる理由は,優れたテキスト,特に画像診断のそれは,美しい図で構成されるべきだという信念を持っているからです。解説も平易で正確です。若い先生方には,このようなテキストで勉強してもらうのが最良と考えます。

求められる心エコー図のさらなる普及

 しかし,優れた教科書としては,上記のことを満足するだけでは十分ではありません。編集責任者や著者のフィロソフィーというか,考えが込められているものであるべきだと考えています。さて,大木先生の考えとは何であろうか,ということになります。序文の中で,大木先生は,「心エコー・ドプラ法は多くの循環器検査法の中でも形態および血行動態異常の両者に関する情報が,非観血的かついとも簡単に手に入る数少ない手技であり,われわれはこの利点をもう一度再確認する必要がある。循環器疾患の病態を診断する作業の中で,未知なるものに対して真実を探究することにロマンを抱くことは,科学者あるいは真の臨床医をめざす者にとって不可欠な資質であります」と述べております。真に,そのとおりであります。私もまったく同じ考えでおります。このようなコンセプトをもった本書が,多くの読者に愛され,心エコー図がどんどん普及することを願ってやみません。
B5・頁472 定価(本体19,000円+税)医学書院


著者の気力に溢れる神経眼科の好書

神経眼科 臨床のために 第2版
藤野 貞 著

《書 評》本田孔士(京大大学院教授・視覚病態学)

 CTやMRIがなくても,上手な問診や簡単な(著者は「ポケットに入るほどの」と形容している)小道具で,神経眼科はここまでわかるということを示した好著(1991年)の改訂版である。

小気味いい割り切った記述と診断フローチャート

 文章は要点箇条書きのサブノート形式をとり,余計なことは一切書かれていない。したがって,全巻328頁ではあるが内容が非常に濃い。この厄介な分野で箇条書きに言い切るには,著者の頭の中で物事がよほど明解に理解されていなければならないわけで,割り切った記述と診断フローチャート(decision tree)が実に小気味いい。いろいろな例外を記して大枚の頁を費やすより,よほど大変な作業だったと思い,著者の努力に頭が下がる思いである。
 挿入図も写真でなく,著者が1つひとつを確認して手描きしており,心がこもっている。だから文中に示された解剖図や神経路は,決して美しくはないが,とてもわかりやすい。今回の改訂ではカラー版も含め,数も内容もさらに充実した。
 ここで著者が唱えている「患者にできるだけ負担をかけない」という視点は,現在,われわれが高度な検査にあまりにも安易に依存しがちな傾向に竿さし,とても輝いて,かえって新鮮にみえるから不思議である。臨床症状から病巣決定まで,診察は頭でするものだ,ということを改めて思い起こさせる。文献として,本邦で手に入りやすいものをあえて選んでいるところも親切である。大学の図書館にいかねばみられないような外国文献を羅列しても,多くの読者にとって実用的でない,という著者の判断によるのだろう。その数も,厳選されたものばかりで過不足がない。

感嘆する著者の神経眼科臨床の力

 著者は第11章で,自分の白衣のポケットの中味を披露して,小道具の使い方を述べているが,この簡単な道具が手品のように診断に役立つからおもしろい。実際,その小道具が巻末に付録としてついているのも親切である。入門書として読まれた方は,こんなに明解にパズルが解けるのかと,著者の神経眼科臨床の力に感嘆するだろうし,きっとこの分野が好きになると思う。その意味で類をみない好著と言える。一方,著者が最初に述べているように,このような診察で手に負えない症例に出くわした時は,それなりの病院へ紹介し高度な検査に委ねるべきことは当然で,手作り診察の分限を弁えるべきことも諭している。この本に述べられた神経眼科は,神経内科,脳外科医にも格好のボリュームであり,眼科の診療装置を持たない方にとっても,きわめて有用であろう。
 初版には,「亡き父母に,そして妻寿に」との献辞があったが,今回の改訂では,「亡き妻,寿(Toshi)に」とされており,先日他界した寿氏(MD)への著者の深い思いやりを感じる。藤野氏は,最近,若手臨床家を育てるために,寿さんの名を付した多額の基金を日本神経眼科学会に寄贈しており,氏の神経眼科への思い入れがいかに深いかがわかる。藤野氏こそ,疑いもなくこの分野の日本の代表的Founderである。私は,氏の気力に溢れるこの好著書を,視覚の神経異常を扱うすべての臨床医の座右の書として強く推薦したい。
B5・頁328 定価(本体9,500円+税)医学書院


実り多い外来小児科実習を楽しく

小児プライマリ・ケア 虎の巻
医学生・研修医実習のために

日本外来小児科学会 編集

《書 評》内山富士雄(内山クリニック・PCFMネットワーク

 書店で本書を手に取ったら,まず,パラパラと中の写真を見てください。写真の登場人物は医師であれスタッフであれ,つき添いの家族,見学の学生,これから予防接種を受ける幼児まで,みな明るい表情をしていることに気づくでしょう。微笑み,喜び,輝いているのです。

実感できる笑顔に満ちた医療現場

 「そのような写真ばかり選んだのだろう」などと勘ぐる人は,ぜひこの本の ix 頁にある日本外来小児科学会のホームページ(http://plaza4.mbn.or.jp/~shimada_chc/gairai-index.html)にアクセスして,小児プライマリ・ケアの現場を訪れてください。そうすれば,あなたもきっと笑顔に満ちた明るい医療現場を実感できるでしょう。
 子どもだから?そうとも言えません。私たち内科プライマリ・ケアでも事情は同じです。そこでもやはりたくさんの(皺くちゃの)明るい顔が溢れています。
 大学病院などと同じようにたとえ3分間診療でも,入室の時には顔を曇らせていた患者や家族が,晴ればれとした顔で診察室から出ていくのをプライマリ・ケア実習の学生は,驚きをもって体験します。その差は,どこから生まれるのか?あえてここでは書きませんが,いろいろな要素が関係しているでしょう。それをみにあなたも実習に出てください。
 本書は,そんなあなたが小児科クリニックや市中病院小児科へ実習にいく前に読むように書かれた案内書です。あらかじめ本書で予備知識を持って,「何をみたいか,体験したいか」を意識し,指導医に事前に伝えることで,短期間の実習もオーダーメードのそれになります。
 文字は大きく文章は平易だが,奥は深く,指摘には時に手厳しいことが含まれています。
 「……子どもの『せんせい,おはようございます』にまったく反応しない医者,『忙しいので,ついでの話は聞かない』といった医者,彼らには厳しい批判が向けられた」
 「……医師は,患者さんとその家族から,いつも観察され採点されているのだ。その点数配分は,診療の的確さもさることながら,実は患者との接し方のほうが大きい」
 いずれも本書「小児科クリニックに行こう 第1章 診療のアート」からの抜粋です。

魅力的な「若い人へのメッセージ」

 最終章は,ズバリ「若い人へのメッセージ」。「なぜ小児科を選んだのですか?」,「卒業後どのような道を歩んできましたか?」,「なぜ開業したのですか?」,「どんなときにやりがいを感じますか?」,「もうかりまっか?」の疑問に答える形の,この学会のオピニオンリーダー山中龍宏先生のメッセージも,本書をより一層魅力的にしています。ぜひ皆さんに読んでいただきたいと思います。
(*PCFMネットワーク:プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる診療所医師のネットワーク)
A5・頁176 定価(本体3,000円+税)医学書院