医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床指導医が知っておかねばならないエッセンスを凝集

臨床指導医ガイド
今井裕一 編集/今井裕一,遠藤正之,大生定義,吉岡成人 著

《書 評》西山信一郎(虎の門病院循環器センター内科医長)

間近にせまる必修化された卒後臨床研修への対応

 従来のわが国の卒後教育には一貫性がなく,特に大学病院では研究至上主義がまかりとおり,またマンパワーの不足もあり,卒後教育は片手間に行なわれ,研修医は単なる労働力,雑用係として扱われてきたのではなかろうか。また最近では専門医指向が強く,卒後ただちに自分の興味のある狭い範囲の専門分野の研究にのみ従事し,幅広い内科疾患全般に対応できない若手医師が増加していることも医療不信の原因の1つと考えられる。これらの反省からか,わが国でも2004(平成16)年から2年間の卒後臨床研修必修化が制定されたことは喜ばしいことと考えるが,必修化にあたっては,研修医の身分保障,給与の確保,研修内容,指導医の養成など多くの問題点を解決する必要があろう。
 いずれにしろ卒後臨床研修の必修化は,もう間近に迫ってきたわけであるが,指導する立場にある医師の心構えはできているであろうか。いざ指導医の立場に立っても,自分自身が受けてきた教育が悪ければ,今後研修医をどのように指導していけばよいのか見当もつかない,というのが現状ではなかろうか。
 このような状況で今回医学書院から『臨床指導医ガイド』が刊行されたことは,まさに時宜を得たものと言えよう。
 この本の内容であるが,前半は研修医からの「信頼を勝ち取るための基本編」として,「患者さんとの対応の仕方」,「病歴要約の記載法」,「回診での指導法」,「コンサルテーション」や「文献検索の方法」,「EBMの基本的な解説」,「患者や医療関係者とのトラブルの解決法」までが,執筆者たちの座談会形式やQ & A方式を取り入れて具体的に解説されており,今後研修医を指導する若手医師には,大いに参考になるものと思う。
 後半は,「信頼を勝ち取るための実践編」となっており,実際に研修医が遭遇する機会が多く,かつ初期治療が重要な疾患が厳選されており,指導医の知識の整理に役立つよう組み立てられている。

臨床指導医として適任の執筆者

 執筆者は,編集された今井先生をはじめいずれも20年間にわたり臨床と研修医の教育に従事してきた内科専門医であり,まさに臨床指導医ガイドとして適任の方たちである。彼らがよき臨床体験を積んできたことは,随所に挿入されたコラムを読めば理解されよう。本書は,指導医には恰好のガイドブックであり,研修医をいかに指導しようかと悩める卒後数年目の若い医師だけではなく,卒後研修にかかわる各科の専門医や上級医師にも一読をお勧めする次第である。
A5・頁224 定価(本体2,800円+税)医学書院


きわめて要領よくまとめられている肝癌診療上の問題点

肝癌診療 A to Z 国立がんセンター東病院の治療戦略
国立がんセンター東病院肝臓グループ 編著

《書 評》山岡義生(京大教授・消化器外科学)

ここまでマスターすれば,研修医合格

 国立がんセンター東病院肝臓グループによる『肝癌診療A to Z』が,刊行された。
 本書の各頁に占める図と表のスペースはかなり多いが,それぞれの図表が無秩序でなく意図を持ってならべられていることが,一瞥してわかる。それは,頭だけで考えた構成でなく,実際に診療の上で直面した問題点を研修医にわからせるためには,どのような順序で図表を使って説明するかの答えを出しているからである。外来レベルでの問題点,診断に至るまでの検査の進め方と,つい上医に聞いてしまいそうなところが,これを読んでいれば順序だてて対応できる。しかも,一番大切な「どんな所見の時に治療が必要か」まで,きわめて要領よくまとめられている。ここまでマスターすれば,研修医合格である。

EBMに基づく肝癌診療

 「治療法の選択」においても,各種治療法の概論と各治療法に期待できる範囲を,自分のデータを根拠に述べた後,国立がんセンター東病院としての基準が出されている。最近,患者さんへの説明について,「担当医はEBMが実行できているのか?」との疑問が出されているが,まさにこの基準は施設としての良識というべきである。
 最後に,カンファレンスが掲載されているが,読者はこの姿勢をよく学ぶべきである。多くの施設で,最初の治療選択は単一の科で方針を決め実行し,その結果が,経過とともに複雑化した時点で共通のカンファレンスに出して,良策を聞きたいとするものがよく見られる。ここに出されている4症例は,読者に理解しやすい症例が選ばれていると考えるが,雰囲気は十分伝わっている。誰が見ても外科適応でないと言えそうなものでも,「外科的なら?」と一旦は振られている点に外科に対する信頼と,それぞれの科の良識を強く感じさせられる。このような病院で治療を受けられる患者さんは,幸せである。
 文献も過不足なくあり,根拠となるところを,研修医が調べることが可能なていねいな編集である。準備から発行までに少し時間がかかったせいか,直近の文献がないのが残念である。この世界も日進月歩なので,すぐに改訂の準備に着手されることをお勧めしたい。

肝癌チーム医療の結実

 わが国においては,将来的構想として,肝臓学会を中心に,肝臓癌の撲滅運動,発癌予防対策などが着実に運動として盛りあがってきており,その成果が期待されている。しかし,日常の診療においては,現にたくさんの患者さんが闘病しておられ,一線の病院では,毎日が目の前の肝臓癌との戦いであると言っても過言ではない。まさに,国立がんセンター東病院もその最前線の1つであり,また,専門家集団として認知されているだけに多くの患者さんが押しかけている。その中にあって,肝臓グループとしてカンファレンスを重ねて,1人の患者さんへの対応の仕方を決定していく仕組みを作り上げられたことに敬意を表したい。ここに至るまでに,内科,放射線科,外科の個々の努力,そしてその成果の上に立って,お互いの信頼関係を持てる状態に至るまでの基礎づくりが並大抵のものではなかったことは想像に難くない。このようにグループができてしまうと,あたり前のような毎日の診療であっても,出発時は必ずしも関係が円滑にいかないものである。その時点でお互いにずいぶんと譲り合いの気持ちがあったこと,そして,単に医師団の努力だけでなく,コメディカル,秘書,事務の方々の協力もあったことが推察される。
 肝癌に取り組むすべての臨床医とチームに本書を推薦するとともに,このグループのさらなる発展から得られたデータに基づく改訂版を期待する。
B5・頁216 定価(本体8,500円+税)医学書院


「死」を直視し,同時に生きる尊さも感じさせる力作

〈総合診療ブックス〉
死をみとる1週間

柏木哲夫,今中孝信 監修/林 章敏,池永昌之 編集

《書 評》五島朋幸(訪問歯科医師/NPO法人「生と死を考える会」副理事長)

 『死をみとる1週間』,なんとエキセントリックな書名のタイトルだろうか。これまで「緩和医療」,「緩和ケア」というタイトルはいくつか見てきたが,このようなタイトルに驚きを隠せないものがあった。それとともにこのような本が出版されるという時代を感じた。

人が迎える死に,1つとして同じものはない

 誰もが例外なく迎える死。にもかかわらず,これまで医療にとって「死」とはどこか敗北のようなイメージでとらえられていた。しかし,本書は,「死」と真正面から向き合い,それと同時に生きる尊さも感じさせる力作である。
 人が迎える死に,1つとして同じものはない。死因,年齢,性別,社会的地位,そして家族など,その人間の死をつかさどる多くの因子があり,その人の死は唯一のものである。そのような「死」を教科書的,総論的に論じなければならない難しさがすべての著者から感じられる。それと同時に,経験豊富な臨床家たちの人間味あふれる文章は,単なる「How to本」とは異なる重みも感じさせる。

希望の光を感じる本書の出現

 本書は,多くの具体例をあげ,その対応法をわかりやすく解説してある。「みとりの時のコミュニケーション・スキル」,「臓器提供を希望されていた人の死」,さらには「遺族が病棟に挨拶に来られた時」など,大変興味深いタイトルがならぶ。また,終章に掲載されている「いのちを癒す:スピリチュアルケアを学ぶ人へのアドバイス10」という対談は,医療関係者必読の内容である。
 病院で迎える死が多い現代,市民感情としては,まだまだ「死」は医療によって管理されていると感じてしまう。一番大切な別れの瞬間に家族が病室から出されてしまったり,誰の意思かわからぬまま延命治療が施されたり。しかし,このような医学書が出てきたことに希望の光のようなものを感じる。
 最後に,この本を手にした臨床家にとって,単なる「How to本」にならないことを切に願う。
A5・頁180 定価(本体3,700円+税)医学書院


患者にあった理学療法を創造するために必携

〈標準理学療法学 専門分野 全10巻〉
臨床動作分析

奈良 勲 監修/高橋正明 編集

《書 評》山本泰三(東京衛生学園専門学校・リハビリテーション学)

 診断名や障害名が同一であっても動作様式は,身体形態やもともとの運動能力によってさまざまである。臨床教育では,「片麻痺の評価をするのではなく,片麻痺を伴っているヒトを評価すべきである」と言われる。治療に結びつく動作の解釈を創造し,そのヒトにあった理学療法を創造する必要がある。マニュアル的な動作分析でなく創造的発想で動作を分析できる理学療法士が切望されている。
 創造的であるためには,環境や強いモチベーションの他,既存のアイデアの組み替えが必要であると言われている。既存のアイデアを模倣し,それを組み替えることで新たな発想が生まれる。「物理学の世界は,『創造的剽窃行為』によって進歩した」と言われ,数学者のガロアは,「創造は先駆者の業績に源泉がある」としている。
 教育学には,「自由放任で学生の自主性に任せることは創造教育ではない」という意見がある。創造的であるためには,多くの模倣とわずかな工夫(組み替え)が必要である。本書は,ヒトの動作を分析する過程で模倣すべき模範となる内容に満ち溢れている。

動作分析の必読書

 本書は,大きく3部門からなる。第1章は,「正常動作の観察と分析」について書かれている。動作を客観的に捉えるために有効な自然科学の理論を説明し,それに基づき正常動作を観察から分析へ深めていく過程がていねいに解説されている。自然科学の理論は,動作と絡めて説明され,正常動作が論理的に説明されており,創造性を発揮するために最も基礎となる章である。第2章は,「臨床における動作分析の進め方」について,的確なキーワードのもと分析を深めていく過程が説明されている。第3章には,「疾患の異常動作の特徴」が多くの写真とともに解説されているのでわかりやすい。第2章と第3章の大きな特徴は,臨床で患者の動作を見ている時の“理学療法士が頭の中で思考している過程”が説明されていることである。こだわりをもって,粘り強く動作分析を行なっている理学療法士の思考過程を模倣しながら,若干の工夫を加えることで患者の新たな潜在能力を発見することができると考えられる。
 本書は,患者の動作を理解し,患者にあった理学療法を創造するための必読書であり,動作分析を学び始める学校教育の場から臨床の場まで,常に手元に置いておきたい書籍の1つである。
B5・頁232 定価(本体4,700円+税)医学書院


日常診療にサイコセラピーを組み入れるための方法を解説

15分間の問診技法 日常診療に活かすサイコセラピー
Marian R. Stuart,Joseph A. Lieberman III 著
玉田太朗 監訳/玉田太朗,佐々木将人,玉田 寛 訳

《書 評》吾郷晋浩(日本心身医学会理事長)

 本書は,Marian R. Stuart Ph. D.とJoseph A. Lieberman III, M. D., M. P. H.の共著による『The Fifteen Minute Hour:Applied Psychotherapy for the Primary Care Physician』(Praeger Publishers)を,日本女性心身医学会の理事長でもある玉田太朗自治医科大学名誉教授と同大学地域医療学教室のスタッフによって翻訳されたものである。

日常診療に必要なサイコセラピー

 本書の目的は,「日常診療にサイコセラピーを組み入れるとより多くの問題が解決され,治療成績も上がり,診療が楽しくなってくることを臨床医に納得してもらうことである」と著者らは序の中で述べている。これは,紀元前に,プラトンが「こころの面を忘れて,からだの病気を治せるものではなく,人間全体をみていないために治す術がわからない病気が多い。人間のこころをからだから切り離してしまったことは,今日の医学の大きな誤りである」とアテネの医師たちに発したと言われる警告に立ち返って医療を行なおうとするものである。
 わが国でも,このような医療の必要性にいち早く気づかれ,日本心身医学会(設立当初は日本精神身体医学会と呼称)の設立に尽力された故池見酉次郎名誉理事長が,かつて『精神身体医学の理論と実際』の総論(医学書院,1962年)の中で,精神身体医学(心身医学)とは,「正しい意味の心理学を取り入れることによって,医学の再調整をはかることを目的とする医学」であると定義されているが,本書はこれを実践する際のわかりやすい解説書ということもできる。
 また著者らは,G. L. Engel(1977年)が疾病の発症と経過に影響を与えているすべての因子を明らかにして診療を進めるためには,従来のbio-medical modelでは限界があるとして提唱したbio-psycho-social modelを支持し,「プライマリ・ケア医を訪れる患者の多くは,単に器質的な疾患の改善のみではなく,生活上のストレスや心の不調,社会的な孤独からの解放,あるいはそのための情報を求めているものであり,医師は受診の隠された理由まで読み取れる,人間性に対する明敏な学徒でなければならない」,「現在の生活状況の脈絡を抜きにして,症状についての情報のみを収集しても,ほとんど意味をなさない」と言い切り,プライマリ・ケア医はこれらのことに配慮した診療を可能とする基盤を備えているとして,患者の心理社会的な脈絡を明らかにするための簡単なプロトコールを提案している。

より効果的な心身医療を行なうための多くのヒント

 本書は,訳者らがその序の中で述べているように,受付係や看護師に対する教育やねぎらいの言葉にまで触れながら,良好な医師-患者関係を確立・維持して患者中心の医療を進めていくための方法について,初診から再診,終結に至るまで順を追って具体例をあげながら“Cook book”的に懇切丁ねいな解説がなされている。
 すでに日常診療の中で心身医療を実践しておられる先生方であっても,特に,受診患者が多く1人ひとりの患者に十分な診療時間を割くことができず,理想的な診療が行なえないことを悩んでおられる方にとっては,限られた時間内に,より効果的な心身医療を行なうための多くのヒントが得られる訳書と言えるであろう。ぜひご一読をお勧めしたい。
A5・頁280 定価(本体3,000円+税)医学書院


臨床睡眠学の知識を,平易に理解しやすく

一般医のための
睡眠臨床ガイドブック

菱川泰夫 監修/井上雄一 編集

《書 評》挾間秀文(安来第一病院長)

30年間に集積された臨床睡眠学の知識

 本書は,本格的な睡眠研究が開始されて以来30年間に集積された臨床睡眠学の知識を,平易に理解しやすく,また一般臨床で役立つように仕組んだ実用書である。すなわち,睡眠専門医でない一般医がPSG(睡眠ポリグラフィ検査)などの面倒な検査法を必ずしも用いることなしに,睡眠障害のかなりの領域にわたり,的確に診断し,適切に治療が実施できるように作られたガイドブックと言える。

睡眠障害に対して,要を得た解説

 本書では,難解な睡眠機構や病態発生に関する仮説の詳細な記載にあまりこだわらず,一般医が実地臨床で数多く対象とする睡眠障害に対して,要を得た解説がなされている。本書を臨床場面で生かすためには, 個々の症例について,睡眠日誌などを用いた十分な問診を行なったうえでの臨床像の的確な把握が不可欠であると思われる。
 書評としてあえて2,3の問題点をあげてみることにする。
 睡眠障害国際分類の中で,現在病因の把握が十分でなく,適切な治療手段が確立されていないものの多くは睡眠随伴症に分類される各種障害である。本書で取りあげられた睡眠随伴症の項目は少なく,レム睡眠行動障害以外は,小児の睡眠障害の中で幾つかがまとめて触れられているに過ぎない。せん妄,錯乱性覚醒,睡眠・覚醒移行障害などは高齢者に多いのであるから,高齢者うつ病,痴呆,パーキンソン病,脳血管障害など高齢者介護でてこずる各種睡眠障害を高齢者の睡眠障害の項目として解説してほしかった。
 睡眠障害の中で最も多いのが不眠症,その代表的なものが原発性不眠症と言われるものであろう。それらは精神生理性不眠,特発性不眠,睡眠状態誤認などと言われるが本態不明である。一般医が数多くの「不眠症者」を対象として説明に苦労する一群であり,安易な眠剤の使用に至ってしまう。すなわち投与量も投与期間にも一定方式を欠いたまま各種眠剤の漫然とした使用の結果,常用量依存と言われる状態や,睡眠覚醒リズム障害,睡眠覚醒移行障害,睡眠呼吸障害の増悪,あるいは不適切な睡眠衛生など,さまざまな二次的睡眠障害を起こすことにもなる。このあたりの事項について専門家からの厳重な警告をしてほしかったと思っている。
 最後に,各論全般にわたり治療に関する記載が公式的で,ややもの足りない印象をもった。経験豊かな専門家でないと言えぬ治療法のノウハウの披露があれば,一般医にはありがたかったのではあるまいか。
A5・頁240 定価(本体3,400円+税)医学書院