医学界新聞

 

「日本成人病(生活習慣病)学会」への名称変更について

杉下靖郎 日本成人病(生活習慣病)学会・理事長


 日本成人病学会は,本年1月の総会において,その学会名称を「日本成人病(生活習慣病)学会」に変更することを決定した。以下,本学会のこれまでの経緯および今後の活動について述べる。
 「成人病」という名称は,日本独自のものであり,昭和31(1956)年3月に厚生省に最初の記載がされ,翌年2月の成人病予防対策協議連絡会(厚生大臣の諮問機関として設置)第1回会合の議事録の冒頭に,その見解として「成人病とは主として,脳卒中,がんなどの悪性腫瘍,心臓病などの40歳前後から急に死亡率が高くなり,しかも全死因の中でも高位を占め,40-60歳位の働き盛りに多い疾患を考えている」とされた。成人病の英訳語は,“Adult Diseases”が用いられている。
 本学会はそのような成人病学の進歩・普及を図ることを目的として,昭和45(1970)年に,上田英雄・石川浩一両先生を代表として,「日本成人病研究会」の形で発足し,その4年後に「日本成人病学会」に改組されたものである。本学会発足の頃は,わが国の高度経済成長期にあたり,経済発展がわが国の最大目標とされていた。そして,それを支える「働き盛り」の壮年期の人々の健康維持が社会全体において求められていた。

「成人病」と「生活習慣病」

 その後,社会経済状況が変貌し,当初の壮年者が年齢を重ねるのと時期を同じくしてわが国の平均寿命が伸び,今度は高齢化の問題が現れ,世の中の関心が壮年期よりもそちらのほうに移動した。その時,われわれは「健やかに老いる」ことを目標に掲げ,高齢期の前段階としての壮年期における成人病の管理の重要性を唱え,またそれと対照的に,人口が減少して負担が増える若年層の健康管理の必要性も指摘した。
 そして平成8(1996)年12月,厚生大臣諮問機関である公衆衛生審議会成人病難病対策部会より,「生活習慣病(life-style related diseases)」という概念が提唱された。それは,「食習慣,運動習慣,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣が,その発症・進行に関与する疾患群」とされた。すなわち,この概念は,原因またはその一部が生活習慣に関連している疾患を示す。
 一方,成人病は原因について触れていないので,遺伝因子などによるものも含み,概念としては生活習慣病もその中にある。しかし,一般報道には「成人病は生活習慣病に変わった」とされることもしばしばあり,また概念的には異なるとしても,現実には両疾患が重複する部分もかなりある。
 そこで,冒頭に述べたように,今回,本学会名称を「日本成人病(生活習慣病)学会」に変更するに至った(英訳語は従来通りに「Japan Society of Adult Diseases」である)。これは,本学会の対象の主体は従来と同じく成人病であり,生活習慣病もその中にある,ないしそれにほぼ近いと言う姿勢を示すものであり,それにより対象を明確にして本学会がより大きく発展することを願ったものである。

「老いても健やかであること」に貢献したいと願う

 成人病も生活習慣病も,他の疾患名と異なり,各々の時代を背景にして厚生大臣諮問機関より行政用語として各々の立場から提唱されたものであってみれば,社会状況の変動により,その受け止め方に多少変化があるのはやむを得ないかもしれない。
 しかし,医学の基本的使命が人類の疾患の治療・撲滅であるならば,学問的追求とともに,その時代に合った広い視野からの臨床医学の推進・普及が,われわれの責務であろう。つまり,わが国独特の成人病・生活習慣病としての疾患の捉え方・その立場を理解し,成人期に頻度の多い疾患について,臨床的レベルの向上に努め,本学会が日常診療に密着した討論の場となり,臨床家の役に立つものとなることを望むものである。そして,日本国民が「老いても健やかであること」に貢献したいと願う。
 また,両疾患とも,厚生大臣諮問機関より提唱された奥には,国民に広く存在する病気の予防を念頭に置いたとされる。すなわち,両疾患の発生・進展の予防も本学会の重要なテーマである。さらに,「成人病・生活習慣病」という言葉は,とかく一般人向けが先行しがちであるので,それを医学者の立場から正しく導き,かつ啓蒙するのも本学会の務めであると考える。