医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


糖尿病と心機能障害の基礎と臨床の最新情報を詳述

糖尿病と心機能障害
坂田利家 監修/犀川哲典 編集

《書 評》島本和明(札幌医大教授・内科学)

 糖尿病患者に冠動脈疾患に代表される動脈硬化性大血管障害の合併が多いことは,よく知られていた。そして,糖尿病患者における冠動脈疾患の特徴として,多枝病変,心機能低下,他の脳・腎・大血管などの臓器障害合併例が多く,冠動脈疾患の予後を著しく悪くする要因となっていた。

タイムリーな優れた企画内容

 最近の本邦における生活習慣の変化による糖尿病の増加と冠動脈疾患の増加,そして両者の合併例の顕著な増加には,多くの臨床医が大きな驚異を持ち,またその対策を真剣に考えざるを得なくなっている。そのような折に,糖尿病と心機能障害のタイトルで,長年糖尿病・肥満等代謝面から多くの業績を残され,循環器系疾患にも造詣の深い坂田,犀川両先生による本著が上梓された。誠にタイムリーな企画と言えよう。
 本書は,まず「基礎編」において,糖尿病の病態をわかりやすい中にも詳しく述べ,さらに心筋のエネルギー代謝・心筋虚血電気生理学的異常など心筋代謝と糖代謝異常の関連をわかりやすく解説している。「臨床編」においては,これら基礎的な知識をベースに,虚血性心疾患,高血圧,不整脈などの具体的な循環器疾患と糖尿病の関連をまとめている。糖尿病と循環器疾患について,包括的にまとめた臨床医にとって大変有意義な著書と言えよう。
 特に,最近注目されるインスリン抵抗性についても項を設けて記述している点も,読者にとってはありがたい点である。また,本書の特徴として,ポイントとなる項に「サイドメモ」を設け,最近のあるいは臨床的に有用な事項をよりわかりやすく解説している。この点も非常に有用であり,優れた企画と言えよう。著者の科学的で几帳面な性格をよく反映した,内容がよく吟味されている良書である。
 一方で,この分野における基礎科学と臨床研究そして大規模臨床試験などは,近年急速に進展している。近い将来,新しい知見を加えた改訂版が出ることを併せて期待したい。
B5・頁200 定価(本体4,700円+税)医学書院


より質の高いCABGをめざす手術操作・手技の全貌を開陳

CABGのサイエンス
天野 篤,川上恭司,坂田隆造,高橋賢二,南淵明宏 著

《書 評》川副浩平(岩手医大附属循環器医療センター長/教授・外科学)

年々増加する冠動脈バイパス手術(CABG)

 冠動脈バイパス手術(CABG)は年々増加し,現在日本では年間2万件を超え,心臓外科手術のおよそ半数を占めるようになっている。全国どこの施設でも,循環器内科があればごく日常的に要求される手術であり,現役の心臓外科医には今や避けて通れない手術手技である。
 一方では,冠動脈形成術(PTCA)が長足の進歩をとげ,冠血行再建法の有力なalternativeとして発展してきた。特に日本では,PTCA施行施設数はCABGのそれの約2倍,施行件数は約6倍と,諸外国の実状とは大きくかけ離れている。この異常とも言えるPTCAの普及にはいくつかの共通した理由があり,またそれぞれの施設に固有の事情があるのであろうが,その1つに外科医に対する不信感が現に存在することも事実である。
 このような現実に奮起して,何人もの外科医がそれぞれの方法で自己研鑽に励み,CABGの成績の向上に力を尽くしてきた。そして,この10年間に,少なからぬ施設で欧米の先進国と比肩し得る手術成績が得られるようになっている。その中の若い世代の外科医たちが今日まで培った自らのアートを,その背景となるエビデンスをもって著したのがこの『CABGのサイエンス』である。本書を単なる手術書とせず,質の高いCABGを完遂するための,理論を伴った手術操作・手技の解説書として位置づけようとした意図がタイトルに込められている。

随所に手技のコツあるいは落とし穴の解説

 「第 I 章:CABGにおけるグラフト選択のロジック」では,静脈グラフトと4種類の動脈グラフトの特性が要領よくまとめられている。選りすぐった文献に一流の外科的見識が加えられて,グラフトの順位づけと使用法が明快に示され,大いに参考となる。
 「第 II 章:吻合系のかけ方と吻合形態」と「第 III 章:心拍動下CABG」は,CABGのテクニックを噛み砕くように,随所に手技のコツあるいは落とし穴を散りばめて,懇切ていねいに解説している。豊富な経験を基にした技術論で裏づけされたテクニックは,数少ない手術書としての価値を本書に与えている。
 「第 IV 章:CABGにおける体外循環と心筋保護」と「第 V 章:CABGと脳合併症」は,体外循環下のCABGを安全に行なうために,いかなる方策を取るかについて基礎から解説されている。いずれも,自らのデータをもって科学的に述べられて,誰にも納得でき,CABGに限らずすべての体外循環下手術に役立つ実践的内容である。
 また,「あとがき」をはじめ本文中のところどころに心臓外科医としての,著者それぞれの思いが率直かつ情熱的に語られていて,読者にほのかな親近感を与えている。
 手術書によって外科手術ができるようになるものではもちろんないが,本書には,手術のイメージが他の参考書以上に浮かびやすい要素があるように思われる。完成された外科医が改めて気づくところも少なくなく,発展途上にある外科医にはぜひ読んでもらいたい1冊である。
B5・頁160 定価(本体9,500円+税)医学書院


新人言語聴覚士のための先駆的教材

言語聴覚士のための
失語症訓練教材集 [ハイブリッドCD-ROM付]

立石雅子 編集

《書 評》半田理恵子(桜新町リハビリテーションクリニック部長)

あふれる新人への温かい思いやり

 もう随分と昔のことだが,私が国立身体障害者リハビリテーションセンター附属の学院を卒業し,まったくの新人でありながら,総合病院のリハビリテーション科の開設に直面した時,その準備のためのオリエンテーションをしてくださったのが,本書を編集された立石先生である。勤務されている慶應大学病院の言語室で,日々ご多忙にもかかわらず,新人の私に,開設にあたってどのような準備が必要であるかを,臨床現場で実際に使用されている検査類,あるいは絵カード類を呈示されながら,親身に説明してくださった。その中で特に鮮明に印象づけられたのは,先生自らが作られた教材の数々であった。確か,見開きの棚であったと記憶しているが,「こんな風に,それぞれの患者さんに合わせて,教材を作らなければいけないのです」と,新人の私には,その教材の深く意味することなど恥ずかしながらわからなかったが,少し圧倒されるような気持ちで,棚の中から出される教材を見つめていたことを記憶している。
 あれから20年余りが経過し,今この『失語症訓練教材集』を手にした時,今も変わらぬ立石先生の新人に対しての温かな思いやりに,改めて触れたような気持ちになった。

現場で困らないように工夫された内容,群をぬくデジタル素材

 さてこの書は,その「まえがき」にも書かれているが,読み手として,「日々の臨床に孤軍奮闘している,日の浅い言語聴覚士の皆さん」を対象としている。したがって,内容はより実践的で,すぐにでも教材として使用できるようにさまざまな工夫や配慮がなされている。
 まず,1章では失語症の方の訓練を開始するにあたって,注意すべき問題点が述べられ,そこを踏まえた上での「言語機能」の障害のレベルと訓練の流れについて,フローチャートを利用し,きわめてわかりやすく説明がなされている。
 また2章では,およそ90頁にわたり教材例が紹介されているが,いわゆる聴く,話すなどの「言語様式別」の紹介方法ではなく,「言語音」・「文字のレベル」,「単語のレベル」,「文のレベル」など,「処理の単位」にしたがって分類されていることが,特徴的である。また,教材使用にあたっての,対象,ポイント,使用法,留意点,応用の内容なども,それぞれ詳細に説明が加えられ,読み手である新人の言語聴覚士が,実際の訓練場面で困らないように工夫されている。
 そして,最後にこの書の最大の特徴,それは,付属のCD-ROMに多くのデジタル素材が収載されていることだろう。例えば,音声素材は25点,絵カードに至っては,名詞絵336点,動作絵274点,情景絵54点,形容詞18点,計682点の絵が含まれている。つまり,パソコンさえあれば,教材として必要な絵がすぐにCD-ROMからプリントアウトでき,また教材の内容に応じて,それらの絵をさまざまに編集することも可能というわけである。そのような「付録」がありながら,1冊4700円で購入できるというのは,決して宣伝するわけではないが,手ごろでまた今後のこのような専門書のあり方としては,先駆的な試みとも言えるのではないだろうか。
 そのような意味で,新人の言語聴覚士の皆さんだけではなく,広い世代にわたって,手にしていただきたい本とも言える。
B5・頁120 定価(本体4,700円+税)医学書院


統計が苦手な人のため最終解決書

統計学入門 第7版
杉田暉道,杤久保 修 著

《書 評》小田清一(厚生労働省医政局政策医療課長)

 25年前の役人としてのスタートが厚生省統計情報部であったため,いくつかの看護学校で統計学の講義をさせられた。当時は,まだコンピュータによる統計解析も一般に行なわれていない時代であったため,テキストにも多変量解析などの手法は記載されていなかった。しかしながら,この頃に学んだ統計学の基本的な考え方は,その後いろいろな分野での企画や行政調査をする上で大きく役立った。その後,コンピュータの機能は著しく向上し,各種の高度な統計解析ソフトが利用できるようになった。考えてみれば,現在私の机の上にあるパソコンは,当時統計情報部で使っていた最新鋭のコンピュータ以上の能力を有している。コンピュータの機能は,これからも想像を超えるスピードで発達していくのであろう。

本書を読んで統計学がわからなければ,打つ手なし

 現代の医療界のトレンドの1つに,Evidence-Based Medicine(EBM)がある。しかしながら,特に日本の医学分野では,このEBM評価に耐え得るRandomized Control Trial(RCT)に基づいて企画,実施された研究は非常に少ない。その他の医療関連分野の状況も推して知るべしである。このことについては,現在国をあげての組織的な取り組みが検討されているところであり,今後は,RCTも計画的に実施されていくことであろうし,EBM情報の集約と提供のための体制も早晩整備されるであろう。
 わが国でRCTに基づいた調査研究が遅れている理由はいろいろとあげられるが,その1つにRCTの重要性を理解すべき統計学的知識の普及が,臨床研究者の間で十分でなかったことがあると考えている。この一因として考えられるのは,適切な統計学書が存在しなかったことである。一般の統計学書には,統計学的な公式や記号が多用されており,数学が苦手だった人はそれだけでやる気を失ったり,ついていけなくなってしまう。
 本書には,統計学の基本的知識を統計学的な記号や難解な用語がほとんど使われておらず,公式や記号はすべて日本語で簡潔にわかりやすく解説されている。言い方を変えれば,本書を読んでもなお統計学がわからない場合は,まず他に手の打ちようがないとも言えるほどわかりやすい内容である。

奥の深い統計学テキスト

 また,本書は入門書であると同時に,現代の統計分析に必要不可欠な多変量の解析についても,その考え方,活用の仕方を,適切な例を示して簡潔に説明している。つまり本書は,統計学の入門書であるだけでなく,その後さらに統計学への興味を発展させる方向に導いてくれる,奥の深いテキストと言える。このような特徴から,本書は医療界はもとより,看護界,薬学その他の分野でも統計学の入門書として多いに役立つであろう。
 本書によって統計学を学び始めた人々が,必ずや日本の今後のEBMの向上と発展を担う人材に育ってくれるであろうことを期待したい。
A5・頁184 定価(本体2,400円+税)医学書院


認知障害一般の評価と治療のすぐれた成書

失行・失認の評価と治療 第3版
Barbara Zoltan 著/河内十郎 監訳/河内 薫 訳

《書 評》里宇明元(埼玉県総合リハビリテーションセンター部長)

版を重ねるごとに厚みと重み

 小生が,リハビリテーション医学の道を志したのは1979年のことであるが,翌1980年に出版された本書の第1版は,当時まとまった情報が得られにくかった失行・失認分野のハンディなマニュアルとして日常臨床で大いに重宝したものである。当初は,A5判,113頁のサイズで,ポケットに入れて持ち歩くのに便利な本であったが,この20年間に,第2版がA5判,202頁,今回翻訳された第3版が,B5判208頁と,版を重ねるごとに厚みと重みを感じさせる本格的な書物に育ってきたことに改めて感慨を覚えさせられる。
 各版を並べてみると,この間の失行,失認領域における進歩が積極的に取り入れられてきたことがわかる。さらに,第2版からは,失行・失認の枠組みを越えて,注意・記憶,遂行機能障害(訳書では実行機能障害)など,今日「認知障害」として注目を集めている問題が扱われるようになり,時代の流れが先取りされている。

認知障害の定本の1つに成長

 訳者が序文で述べておられるように,本書はこれまで共著であったが,第3版では,Barbara Zoltanの単著となり,彼女の臨床家としての経験と理論的考察を集大成した認知障害の定本の1つに成長してきた足跡がうかがえる。
 内容を見てみよう。まず,第1章として新たに「評価と治療の理論的背景」が設けられ,ここでは,「治療的アプローチ」(感覚統合アプローチ,Affolterアプローチ,神経発達アプローチ)と「適応的アプローチ」の理論が詳細に解説されている。本章で展開された治療理論は,各種の神経心理学的障害を扱った各論における治療法に関する記述の底流をなすものである。
 「第2章:評価の諸問題」では,評価の信頼性と妥当性や評価法の選択などが扱われている。多くの(必ずしも標準化されていない)評価法が氾濫している認知リハビリテーションの分野において,評価法についての吟味はきわめて重要な課題であるが,本書の記述はやや表面的な感をまぬがれず,もっと突っ込んだ議論が欲しかったところである。
 第3章以降は,各論として,「視覚情報処理技能に関連した障害」,「失行症」,「身体図式障害」,「視覚弁別技能障害」,「失認症」,「見当識・注意・記憶」,「実行機能障害」,「失計算」が順次扱われている。それぞれの障害について,まず概念が解説され,評価法の紹介,そして治療法の解説と続く。この構成自体は,前2版とほぼ同様だが,記述に最新の研究成果が取り入れられており,特に治療法については,第1章で解説された理論的枠組みを踏まえて,詳しく具体的に述べられており,患者を前にどのようにアプローチしたらよいかわからずに頭を悩ませてきたわれわれ臨床家にとって役立つ内容となっている。
 最終章には,この分野におけるコンピュータの利用に関する解説が新たに加えられ,今後の方向性を示唆している。
 このように本書は,もはや書名にある「失行・失認の評価と治療」という範囲を越え,広く認知障害一般の評価と治療を扱った優れた成書と言えよう。読みやすい訳書を提供していただいた監訳者の河内十郎先生,ならびに訳者の河内薫先生の労力に心から感謝したい。
B5・頁208 定価(本体3,800円+税)医学書院


信頼できる待望の物理療法の教科書

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
物理療法学

奈良 勲 監修/網本 和 編集

《書 評》山田千鶴子(専門学校社会医学技術学院・理学療法学科)

現場の要望を満たす数少ない書籍

 数年前のことだが,新任の教員が物理療法の授業を担当することとなり,授業の内容について検討した。専門学校としては物理療法効果の理論的な背景はもとより,具体的な使用方法,注意点,適応と禁忌などの内容で,実際的なものがよいとのことになったが,他の専門教科同様に適当な教科書が見当たらなかった。養成校の教員のほとんどが,担当する教科の教科書を指定しても,足りない部分を補うようなプリントを配布しているのが現状と思う。これだけ多くの養成校ができた現在,あまりに専門的過ぎず,かつ学生レベルに合っていながら信頼できる教科書の出版は多くの学校で待たれているものと思う。
 今回医学書院から出された,〈標準理学療法学専門分野〉のシリーズ『物理療法学』は,前記のような教員が望むことを満たしている数少ない書籍の1つである。理論的な部分は図を多くしてわかりやすく説明されており,また実際的な方法では写真を多く取り入れ,機器に馴染みの少ない学生にとってもイメージしやすいようになっているところが,学生を指導する立場としてはありがたい。
 この本のさらに大きな特徴としては,マッサージを代表とする徒手療法の手技についてもかなり頁を割いていることだろう。自分自身の学生時代を振り返ると,マッサージは理学療法士にとってはさほど大事な手技として扱われていなかったような気がするが,臨床的には大変有効であることを実感したし,アメリカの理学療法士は,徒手療法を大変大事にしていることが印象深かったものである。

授業の横のつながりが容易に

 最後に本書のもう1つの重要なポイントとして,疾患別物理療法プログラムの掲載があげられる。学生の教育に携わってしばしば困惑するのは,学生の知識が立体的に構築されていないことである。物理療法の授業で学習したことが,実際の理学療法プログラムの中にどのように取り入れられるのか。細分化された科目と複数の教員による授業では,俗に言う授業の横のつながりを持たせることはなかなか困難である。このプログラムによって,学生は他の理学療法と物理療法の併用を容易にイメージできることだろう。
 上記のような特徴を持つ本書は,理学療法士をめざす学生や指導する教員にとって,1度は目を通してみてほしい本の1冊と言える。
B5・頁264 定価(本体4,700円+税)医学書院