医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 桜吹雪の中を歩きたい

 馬庭恭子


 夢のように1年が経つ。
 「入院生活をしていたなんて」と,鏡をみると,そこには黒々と碧の髪の私がにっこりしている。
 「今年は,『いつもにっこり,ゆっくり』をモットーにしていこう」と,元旦に訪れた温泉の湯煙の中でそう思った。
 「ああ,入院生活での上げ膳据え膳とは違って,こちらの上げ膳据え膳はなんと美味しいことか。ありがたい,ありがたい」と言いながら,あっという間に体重が増加してしまった。退院時と比較するともう6キロ増加している。
 「いけない!」と職場の行き帰りは歩いて通うことにした。
 この季節,帽子,マフラーは必需品。風は冷たいが,繁華街を歩いて仕事場に向かう。朝の空気はとてもここちよい。帰りには,念願であったデパートの地下にも寄り,時折は,近くにあるゲームセンターのUFOキャッチャーをする。
 「そんな,子どもがするみたいなこと……」と,笑われたりするが,私はUFOキャッチャーの名手なのだ。
 クマのプーさん,スヌーピー,ミッキーマウスのマスコット人形をたくさん獲って,訪問看護の際に,誕生日を迎えた子どもさんに,カードとともにプレゼントしたり,スタッフの子どもさんにお土産として持って帰ってもらったりしている。
 「予算も安く,自分も楽しめると一挙両得だわ。それにリハビリにもなるし」と,言うと,
 「なるほどね」と,感心(?)される。
 今も抗がん剤の副作用で,手のしびれが続いていて,微妙な感覚がわかりにくい。しかし,このUFOキャッチャーは,なぜかうまくできるのだ。夢中になってしまうと,しびれを感じなくなるのかもしれない。
 「病院のリハビリ室にゲームセンターがあれば,どんなにか進歩があるのでは」と,いつも思っていた。その思いはゲームをするたびに強くなり,「作業療法としては最高!」と,今では思っている。
 そんな行き帰りをしていると,少しずつだが歩く速度もついてきた。心持ち,太ももが硬くなってきたような気もする。上半身は今までとそう変わらないのだが,下半身は肉がぶよぶよしている感じで情けなかったのだ。ちょっとは減量の光がみえてきたので,この春に向け,またコースを変えて「歩け,歩け」をしようと思う。平和公園の桜並木は,絶好の散歩道。
 桜吹雪の中を,1年ぶりに歩いてみたい。