医学界新聞

 

【座談会】

これからの診療録とは

診療情報管理士の役割とそのメリット

重田イサ子
(佐賀医科大学病院
診療記録センター)
鳥羽 克子
(聖路加国際病院
医療情報管理科)
中木 高夫
(名古屋大学/
司会)
中島 和江
(大阪大学
医学系研究科)


■1患者1カルテのメリット

中木 ぼくは,医学部を卒業して4年目に,滋賀医科大学附属病院の設立にかかわり,病院全体をPOS化する,つまり統一診療記録を作るまとめ役に携わりました。1患者1カルテ,そしてすべての退院カルテは中央の病歴部が保管をし,管理していくというシステムを作りあげていきました。幸いなことに,滋賀医大には米山貴子さんという,当時は診療録管理士という資格でしたが,その資格者のリーダーシップの下で,ぼくらがバックアップするという体制を取りました。
 しかし,診療情報管理士の存在とその働きについて,多くのナースが知らないのではないか,ということから本紙での座談会を企画しました。ですから,今日の座談会は,ぼくの非医学部門の出発点になった記念すべき仕事に関係する座談会ですので,非常に心が弾んでいます。
 診療情報管理士の鳥羽さん,重田さんからは,診療情報管理士の役割や,医師・ナースとのかかわり,そこでの苦労などについて,また,中島さんには,きちんと管理された診療録がない病院は近代的な病院とは言えない,というあたりのことをお話しいただき,診療情報管理士は,これからの病院にとって,またナースにとっても大きなメリットがあるという視点で話合いをしていきたいと思います。

診療情報管理で先駆的な役割を果した聖路加国際病院

中木 まず,日本の診療録管理の中央化にいち早く着手したのは聖路加国際病院ですので,鳥羽さんからお願いします。
鳥羽 私は,1976年に聖路加国際病院の,当時は「診療記録管理室」に勤務しました。病院はその頃からすでに,入院も外来も診療録は中央化され,「1患者1カルテ」になっていましたので,私はシステムを構築するという苦労は知らずにおります。しかしその当時は,「診療録は患者さんに提供されるもの」という意識ではなく,「医師のための診療録」という認識でした。それが近年「情報開示」がクローズアップされてからは,いろいろな方に提供できるような体制にと,意識も変わってきています。
 数年前に取ったデータでは,情報が提供される対象者は医師が約7割と圧倒的に多く,ナースは1割程度で,患者さんやその家族に開示される情報は非常に少ないというのが現状です。これは,カルテの記載も含めて,内容が理解されるにはまだ不十分なことが大きな原因ではないかと思っています。このことについては,私たちの側からいろいろな提言をしていかなければいけないと思います。
 このように,入職当時からのシステムでしたので,2002年になってもまだ,診療録が各科管理されている病院があるとうかがうと,何か不思議な感じがします。

診療情報管理士が天職!

重田 私は,佐賀医科大学病院が開院した1981年に就職しましたが,初代学長は開院当時から,「日本にも,患者情報開示の時代が近い将来必ずやってくる。だから,記録は今からきちんとしておかなければいけない」と言いまして,卒前卒後教育の時間にも記録の書き方の指導をしていました。そのためか,今は医師もナースも書きすぎるくらい,まずまずの読める字で書いています。
 私が考える診療情報管理士の仕事というのは,データや物の管理も大事なのですが,医師やナース,コメディカルが「書きたい」,「書かねばならない」という環境を作っていくことだろうと思っています。実際に,「ここをこう書きたいのだけど,どういう表現をしたらよいだろうか」とか,「SOAPのOにこれを書いていいのか」という質問がきます。それを指導していくことも,診療情報管理士の仕事だと思っています。
 私はこの仕事を天職だと思っているのですが,診療情報管理士が集まりますと,医師や婦長に「理解がない」ということをよく耳にします。でも,その時に私は「理解させるのはあなたでしょう。愚痴ではなく,前向きに次の手を考えなさい」と言いたくなるんです(笑)。そういうことで,アドバイスと言うとちょっと偉そうですが,年齢的にも指導する立場になりましたので,うちのスタッフも含め,若い人たちには,「前向きに考えていくとすごく楽しい仕事なのだ」と伝えていくようにしています。

デメリットの少ない1患者1カルテ

中木 診療情報管理士の活躍の場を整備していくということについて,もう少しお話ししていきたいと思います。
 鳥羽さんは,「1患者1カルテ,診療録の中央管理がないのは不思議」とおっしゃいました。そうではない病院というのは,まだ多くあるのでしょうか。
重田 それはたくさんあります。新しく建てる病院でさえ,診療情報管理士を置かないところは多いです。
中木 滋賀医大ができた時には,京都大学,大阪大学,京都府立医科大学という,3つの老舗の大学の先生たちが3分の1ずつ入ってきました。そこで,中央システムが導入されると,「今までのように自分勝手なカルテの扱いができなくなる」,といったトラブルが起きました。佐賀医大はどうだったのでしょうか。
重田 ありました。全国から医師が集まりましたが,医師たちは自分がいた病院の方式が最もよいと思っています。ですから,こちらの方式に向かせるためには喧嘩もずいぶんしました(笑)。と言っても議論ですが,医局に出向いて1対1でわかりあうまで話し合いましたね。それを1年くらい続けたでしょうか。そうすると先生方から,「考えてみたら,このやり方っていいよね」と言われるようになりました。
中木 1患者1カルテは,どちらかというと外来のチャートですよね。
重田 いいえ,入院患者も同様だと思います。
鳥羽 今は,入退院と外来とを分けていますが,将来的には1本化されると思います。そのためにも,こちらには入院時からデータを集めるという姿勢があります。
中木 ぼくは,大きな流れは外来チャートの中にあって,特に濃い医療を必要とした部分が,別冊的に入院チャートとしてあるのではないか,という印象を前から持っていました。と言うのも,入院診療録は1つの診療科が濃厚にかかわっているので,かなり完結した世界がそこにあります。それに対して外来診療録は,多くの診療科が共同利用することが多いわけです。それで滋賀医大の場合は,まず患者IDや病名記録,対診録などの共通部分が前にあり,後ろには各種検査報告書,処方録などが共通部分として置かれ,その間に問診から始まる診療記録が各診療科ごとに挟み込むという方法をとりました。ですから,経過記録も各診療科ごとに編集されていくことになるのですが,阪大病院の場合にはそれぞれが一緒の経過用紙に書いていますね。
中島 ええ,1患者1カルテになっており,診た順番に時系列で記録しています。ただし,外来カルテと入院カルテは別になっています。
中木 1患者1カルテの場合,その1冊で患者さんへの診療内容がすぐに把握できるのがメリットですが,ではデメリットは。
重田 カルテ記載形式のメリット・デメリットについては,松岡順之介先生が一覧にしたものがあります(下表参照)。
鳥羽 各科別々のカルテで運営をしている施設に,そのメリットを聞くのも1つの手ですね。おそらくは,手近なところに,必要な時にすぐそこにあるということがあげられるのではないかと思います。中央化していると,どうしてもある程度距離がありますし,「ちょっと見たい」という時には不便かもしれません。
重田 埼玉県立がんセンターは,癌告知率が98%ということがあるのでしょうか,全部患者さんに持ってもらっているそうです。これは開示の最たるものでしょうね。
中木 名古屋協立総合病院もそのシステムをとっています。受付近くに診療情報管理部があり,そこで患者さんにカルテを渡して各科に,自分の記録を眺めながら向かうということもいいことかもしれませんね。

表 各科別/全科共通記載カルテのメリット・デメリット
○=メリット ●=デメリット
各科別カルテ全科共通(時系列記載)カルテ
○自分の科だけとしては見やすい●他の科の記載事項が入ってきて自分の科だけとしては見にくい
●他の科が認識しているデータを見ることは通常行なわれず,自分の科の限られたデータだけで判断するために,ミスの可能性が多い○他の各科のデータを必然的に見ることで,データの増加→ミスの可能性の減少,診療内容の質的向上
●1つの科だけの判断で診療○1科のミスも他科の監査(意見)で防げる
●記載は専門別にバラバラで全人的総合判断が困難○総合的,全人的医療の実現(がん,糖尿病などの成人病の診療には不可欠)
●他科に学ぶことが少ない○他科に学ぶことが多い
●自分だけの主観的なメモになる可能性大
 →科学的資料として利用しにくい
○いつ,誰がみてもわかる記載が要求される
 →科学的資料としての利用(保管)価値大
●チーム医療になりにくい○チーム医療がしやすい
●病院全体の協力体制への寄与はない○病院全体の協力体制の強化に寄与する
●各医師,科の互いの信頼に寄与しない○各医師,科の信頼,親愛感の向上に寄与する
○現在の各科別診療録制からの移行に対する抵抗は少ない●現状からの変化は大きく抵抗あり
●各科別診療録から全科共通診療録への移行ありとすれば,きわめて困難○全科共通診療録から各科別診療録への移行ありとすれば比較的に容易
●類似したアナムネを各科ごとに何度もとらねばならない・資料は多くない・医師の時間と労力を多く要す・患者も似たことを何度も応えねばならず疲れて大変○初めに診察した医師のアナムネを利用・必要あれば追加,補充でデータ追加・医師の時間をとらず,労力が少なくて済む・患者も楽,医師への信頼感深まる
●重複する資料が多くなる○重複する資料は少ない
●資料の量の割に用紙が多くなる○同じ資料の量で用紙は少なくて済む
●各科ごとに余白が必要○余白は少なくて済む
●分厚くなりやすい○分厚くなりにくい
●途中に用紙を挿入する機会が多い○途中に用紙を挿入する機会は少ない
●検査,処方の重複する可能性大○検査,処方の重複の可能性少(被爆やリスクの減少)
●他科受診時,依頼および返事の用紙が各科に重複して必要○他科受診時,依頼および返事の用紙不要・診療録に1度記載するだけで済む
●他科受診時,医事係の手続き複雑(患者の申し込み,表紙作成,関係事項の記入,等)○他科受診時,医事係の手続きが比較的簡単(患者の申し込み,僅少事項記入だけ)
●医事紛争時,主観的傾向のためわかりにくく,説得力が少ない可能性あり○医事紛争時,客観的でわかりやすく,有力
※本表は,松岡順之介氏(前佐賀医大診療記録センター長)の資料より,本紙が再編成した

■カルテ記載の方式

統合患者記録を実施して

中木 阪大病院が,大阪市内から現在の吹田市に移転する時に,カルテはずいぶん周到に準備したとうかがっています。中島さん,そのあたりをお話しいただけますか。
中島 阪大病院は1993年に移転しました。私は,その頃留学をしていましたのでその苦労を知らないのですが,1患者1カルテ,中央管理のためのシステムを構築するのは大変なプロセスだったと思います。病院移転の2年前から,様式の統一や診療科の枠を設けない時系列記載方法などについて討議を始めました。そして,新病院開院直前に,50人がかりで3週間かけるという人海戦術で,各診療科に分かれていた患者さんのファイルを1つに合冊し,保管作業もしたと聞いています。
中木 阪大では,以前は医師とナースの記録が別でした。今は「統合患者記録」ですね。それは,どういうきっかけからですか。
中島 1患者1カルテ,オーダリングシステムの導入,電子カルテの開発・導入のプロセスを通して,「情報の共有が大切」という意識改革がなされてきたことがきっかけではないでしょうか。ナースはナースで,医師は医師というのでは,真の情報共有はできません。医師のカルテ,ナースの看護記録,その他のコメディカルの記録を一体化した「統合患者記録」は2000年7月からです。しかし,急に今のシステムに変えたのではなく,1998年4月から,ある病棟で治療(cure)と看護(care)の統合をしようという試みをはじめました。記録用紙の左側を医師,右側をナースが書くのです。ところが,ナースはたくさん書くけれど,医師はそこまでの分量にならずに空白の部分ができる。その結果,経過用紙は左右に分けるのではなく,時系列に診た順番に書こうということになりました。
 統合患者記録を導入してみると,ナースも医師もお互いの記録をとてもよく読んでいることがわかりました。また,医師がこれまであまり記載していなかったいくつかの部分も埋められるようになっています。さらに,医師とナースの記録内容の重複も減り,齟齬についてもすぐに気がつくためなくなっています。異なる職種が互いに見ていますから,これがプレッシャーとなり,記録のクオリティがあがったと言えます。
 一方デメリットとしては,大学病院という性格から,医師の回診やカンファレンス等が多いため,ナースがみたい書きたいという時に診療記録がない,ということがあります。これには,医師がこまめに所定の場所に返すという方法で対処しています。しかし,全体としてはメリットのほうがはるかに大きいと,皆が感じているようです。
重田 佐賀医大は,診療以外に,カルテをナースステーションから持ち出してはいけないことになっています。したがって,回診もカルテなしです。「受け持ち患者の把握をしておくこと!」という感じです。
中木 教授回診の時もですか。
重田 はい,そうです。その場合には研修医が説明しますし,その前後にカンファレンスがあります。ですから,回診の時にはチャンスとばかりナースが書いているのではないですか。
中木 なるほど(笑)。
中島 今はナースが不便さを我慢してくれている部分もありますが,診療記録は少しずつ電子化されていっています。将来的にはこの問題は解決されると思っています。

ナースと医師の記録は別々との指導が?

重田 記録に関してはいろいろな施設から当院を見学に来ますが,「同じ用紙に記載となるとカルテの奪い合いになりませんか」という質問をよく受けます。私は,つい「先生のところでは奪い合いをするほど書いています?」と聞いてしまうんです(笑)。
中島 経過用紙に多職種で記録している場合,医師は日付用の縦線のすぐ後ろから,ナースはその1cm内側から書くというルールを採用しているところもありますが,その必要があるのかという質問を時々受けます。これに関してはどうお考えですか。
中木 読みやすいというだけですね。ぼくは目立ちたがりでしたから,ブルーブラックのボールペンで記録していました。それをルールにしている病院もあります。
鳥羽 当院では,自分のサインの後ろに「RN」とか「MD」と書くと職種が同定できますから,書き始めの位置は一緒です。
中島 阪大では,経過用紙の右側にサイン欄を設けました。ナースは通常,記録の最後の右側にサインをしていますが,医師は前に,つまり左側の日付欄にサインをする人も少なくないです。
中木 記録の書き方の教育は,ほとんどされていません。日本には,診療記録はこう書くのだというスタンダードがないからでしょうね。医師法に「遅滞なく記録する」とうたっているのに,それに対応するものを作っていない職能は何なんだろうと,弁護士さんに指摘されたことがあります。
中島 アメリカでは,記録すべき項目についても日本の医師法や医療法に相当する法律の中に,こと細かに列挙されています。日本の法規則では,「遅滞なく記載」ということと「診療を受けた者の住所・氏名・性別および年齢,病名および主要症状,治療方法(処方および処置),診療の年月日」しか書かれていません。ところで,「医師とナースの記録は別々にするように」と医療監視で言われた医療機関もあるようですが,これはどう考えたらよいのでしょう。
重田 確かにありますね。でも20年間,それをやってきました。
鳥羽 でも,それがなぜいけないのかは明確ではないですよね。
中木 岩崎榮氏(日本医大)が国立病管研にいる時に,カルテ監査をする人たちを集めて「そんなバカなことを言うな」と言ったと聞いたことがあります。ただ,監査する人も代わりますので,伝わっていかない。実際に厚生労働省に正式の見解を訊けば,「一緒でもよい」と言うと思いますね。
鳥羽 そう言うと思います。でも,監査は自治体レベルでやってますから,県によって違うようです。

■診療情報管理士の仕事とは

質が重要な診療情報

中木 カルテを充実させていくためには,診療情報管理士が重要な役割を果たしている,ということが見えてきました。ところで,日頃どのような仕事をされているのか,その内容をご紹介いただけますか。
鳥羽 聖路加国際病院の医療情報管理科は人数が多いということもありますが,ルーチンで行なうのは,まず日付やサインに洩れや誤記がないか,文意の違いはどうかのチェックです。最初に書いたものと後のものとで診断が違っていないか,追加や文字が違うというところも一通りチェックします。文書全体のチェックが終わると,今度はその内容から,患者さんに関し,どういう疾患で,どのような併存症・合併症を持っていて,それでこういう治療をした,という経過をデータ登録していきます。
 その時に,一緒に問題のあるケース,例えば褥瘡や院内感染を起こしている患者さんや医療的に何かトラブルがある方,ナースとの間に何か問題のある方などについても問題リストを別に作っていって,これは定期的に部長会や幹部会議に出すようにしています。また,病院は急性期医療をうたっているわけですから,3か月を超えると完全に「長期入院」となります。それらのケースについては全部ピックアップし,報告していきます。
中木 それは勧告として出すのですか。
鳥羽 そうです。「この患者さんは長期となっています」と,データを出します。特に褥瘡や感染のある患者さんについては,ナースにも同じ情報を提供し,ケアでの注意を促すようにしています。
中木 昔,ぼくが勉強した時には量的・質的チェックという言葉がありましたが,今の内容ですと,ほとんど質的なものになっていますね。そういう時代なのですか。
鳥羽 もちろんそうです。しかし,人数がいるから,それだけのことができるということはありますね。
中島 1999年度のデータですが,国立大学病院42施設中,診療情報管理士を専任として置いている病院は5施設,そのうち4施設が1名,1施設が3名でした。この3名の施設が佐賀医大ですね。
重田 はい。6人のうち3人が診療情報管理士で,聖路加国際病院と同じようなことをしています。
鳥羽 現在,全国で診療情報管理士は5374人います。病院は約1万施設ですが,普及というにはまだまだの数です。
 一昨年に,厚生労働省が出した診療情報の加算対象は,専任でカルテの管理をしている人がいれば,診療情報管理士でなくてもよいとされまして,1入院について30点加算されるようになりました。
重田 診療情報が診療報酬点数化されるとなってから,診療情報管理士をめざす人がぐっと増えました。今では受講生が3000人を超えていますので,今年中には,1万人を超えるだろうと言われています。

多いナースからの転職

中木 診療情報管理士は,ナースからの転職者も多いと思います。また,この記事を読んで「私もやってみたい」と思うナースが出てくるやもしれませんが,どのようにすれば資格がとれるかを教えてください。
鳥羽 確かに,受講生はナースが多いですね。最終的に認定をするのは日本病院会ですが,2年間の通信教育によります。受講資格は,短大卒以上の学歴を有する方で,1年目は基礎医学,2年目は専門課程となっており,かなりたくさんのレポート提出が課題とされます。
重田 膨大なレポート数です(笑)。
鳥羽 それに加え,年間6日のスクーリングがあり,1年目の終わりには進級試験が,卒業時には資格審査試験があります。これが一般的なコースで,他には国立病管研や,川崎医科大学や日本福祉大学などの4年制の大学にも学科があります。それでも,日本病院会の認定証をもらうためには資格試験を受けなければいけません。
重田 現在は団体が認定する資格ですが,国家資格になればという希望はあります。
中木 ナースなら受講が1年で済むというような特典はないのですか。
鳥羽 あります。基礎は免除されます。ただ,この制度は近々廃止する方向だと聞いています。また,現在は全体のカリキュラムも見直しをしているところです。
重田 カリキュラムの中に情報管理が入るようですし,カリキュラムの変更にともない,試験もかなり難しくなるという話もあるようです。

情報提供が容易に

鳥羽 先ほど,情報提供の話をしましたが,提供にはいろいろなスタイルがあって,生の情報をそのまま渡す場合と,こちらである程度分析して,加工した形で渡す場合があります。例えば,ある疾患に対しての治療でも,医師によって差はありますから,その際の比較,評価をして結果を渡します。聖路加国際病院の場合は,以前から医師のランクづけができるようになっているのですが,年俸制の資料としての評価にもなっています。診療情報管理士の役割としても,最終的にそのようなデータの使い方もしなければいけないと思います。
中木 おお怖い!(笑)
中島 私の専門である公衆衛生研究では,アウトカムに関するデータとともに,アウトカムに影響を与えるさまざな要因を補正しなければ真の評価はできません。医療の質の評価でも,そういったデータをデータベースとして蓄積することが必要ですよね。ICDのような疾患のコードを入れるのは診療情報管理士の仕事となるのですか。
鳥羽 はい。退院のサマリーからだけではなく,全カルテから拾っていきます。記載洩れなどをチェックしている時に,同時に疾患コードも拾っていくのです。経過をずっと追っていますから,この疾患にこういう治療をしていると期間が長くなるとか,やたらに検査が多い場合には,何かが起きている時,との判断はつきます。ある疾患に対して通常と違う医療行為をしている場合には,合併が起きていると判断してそこを拾う。また,対診で引っかかってきている問題も拾っていきます。もちろん,合併症と言っても,患者さんがもともと抱えているものもあるし,医療的な問題で起きているものもありますので,両方を拾っていって,最終的にそれを評価として使います。
中島 治療行為のアウトカムを評価する場合に,年齢などの患者さんの要因,疾患そのものの重症度,さらにアウトカムに影響を与える合併疾患を考慮しなければなりませんが,例えばACバイパス手術をした患者さんでしたら,術前の心不全の程度がどのくらいなのかという情報を拾うためのチェックリストがあるのですか。
鳥羽 そこまでできたらすごいのですが,まだありません。
中島 では合併疾患,例えば糖尿病ですとか慢性閉塞性疾患といった情報は拾えるようになっているのですか。それはすでにコード化されて,データベースの中にあるのでしょうか。
鳥羽 ええ。その上で,医師には「先生がほしいと思う情報を診断として書いていただかないと,ここから情報は出せません。合併症を含めてきちんと診断名をつけていただければ,その情報は後から出すことができます」と言っています。
重田 佐賀医大も同じです。
中島 となりますと,例えば学会前に「うちの病院の治療成績を発表したいから,あれとこれのデータをほしい」とリクエストをすると,必要な情報がポンと出てくる?
鳥羽 はい。
中島 それはすばらしいですね。
重田 ある意味で,それは日常業務になっています。
中木 それを病院規模で行なえてしまうというのが,中央に人を置く最大のメリットですね。

オーダメードの治療

中木 鳥羽さん,重田さんは,診療情報管理士としては第1世代になりますね。次の世代にはどのようなことを望まれますか。
重田 診療記録の基礎を作られた方々が第1世代でしょうから,私たちは第2世代になりますね。
鳥羽 現在は,例えば年齢で判断して薬が出されたり,この病気だったらこの治療という原則的なものがありますが,「この患者さんにとっての最適な治療,最適な薬品」という「オーダーメードの治療」の形があると思うのです。年齢からというデータは今はどこにもないと思いますし,オーダーメードの治療をしているところも聞きません。しかし,こちらが持っている情報を活用することで,ある程度の方向には進むのではないかと期待できます。そこが次の世代の役割になるかなという気がします。
中木 このことは今流行のEBMとは逆行しているように聞こえます。EBMはオーダーメードではないと思うのですが。
中島 医療政策レベルのクオリティは,限られた資源(予算)でクオリティの高い医療をより多くの人たちに,と考えるわけですから,クオリティを評価する際には,分母に費用のことが必ずあります。これは効率と言う意味でのクオリティです。また,現場レベルでも医療行為には裁量やさまざまなバリエーションがあるわけですが,根拠のないバリエーション,すなわちバリアンスはどこからなのかということの判定にはEBMが必要です。その一方で,個々の患者さんへの最良の治療法の選択というレベルになると,さまざまな遺伝子情報が解明されていく時代にあっては,「同じ高血圧の患者群でもこの人にはこれ」という治療がなされていくのではないでしょうか。
鳥羽 今,オーダーメードの話をしましたけれど,そのほうが,結果的にはむだな医療資源を使わないで済みますから,私は効率があがる気がします。わからないから,やたらと薬を出し,治療をする。でも,結果的にだめだったでは,医療資源のむだ使いとなるだけです。確実によくなる可能性を考えるべきです。
中木 もちろんそうですね。

データセンターの可能性

中島 最後にもう1つだけ教えていただきたいことがあります。先ほど聖路加国際病院ではチャート(診療記録)から把握された,問題があると考えられる症例や長期入院の症例を部長会に報告する,というお話がありました。情報の流れや組織全体でのクオリティマネジメントの視点から,それらをどのように活用し,また現場にフィードバックしているのですか。
鳥羽 実のところ,管理者によって使い方が違っていると思います。データベースから,どう料理していこうかという発想,姿勢が管理者によっても違ってきます。
中島 組織全体としては,明確なルールがあるわけではないのですね。
鳥羽 そうですね。データは出すけれども,最終的にこれを取り上げて決定を下すのは多くの病院が院長ですから。
 病院という施設の中で仕事をしている限りは,どうしても管理者に提出するところで留まってしまうという傾向があると思います。そこで,将来的には,第三者としてのデータセンターが設立されて,そこに蓄積される情報は掛け値なしで利用でき,それをまた還元していく,というものができないといけないのではないかと思います。私たちは,今は院内のスタッフですけれども,そうなればそこに従事することも考えられます。
中木 国をあげてとなると難しいかもしれませんが,大きな団体が率先してデータ化していけば,例えば患者さんが病院選びをする材料となるかもしれませんね。
 話は尽きませんが,今日は診療録情報管理士の役割から,病院のデータベースの利用法まで話が発展したところで,お開きにしたいと思います。診療情報管理士の重要性がしっかと理解できました。今日はどうもありがとうございました。