医学界新聞

 

【投稿】

世界中の医学生との交流が財産に
――UCSD医学英語コース参加体験記

相馬みちる(和歌山県立医科大学・4年)


アメリカの医療や医学教育を実際に見てみたい


医学英語コースの参加者全員と(上段右が筆者)
韓国,イタリア,ポーランド,台湾,スペイン,インドネシア,メキシコと出身がさまざまでした。主に医学生,医師,歯科医,他に看護学生
 
 私が,海外臨床留学に興味を持ったのは,2年前のアメリカ旅行の体験に端を発します。知り合いの紹介でシアトルのアメリカ人小児科医と話して,国が違っても医療の話題を共有しあえることに感動しました。また,その人は,今まで会った日本の先生とはまったく異なる雰囲気を持っており,どこからその違いが生まれるのか不思議に思いました。漠然と医学留学を考えるようになったのはこんないきさつからです。
 しかし,母国とは異なる世界で医学留学をすることは,現実とはかけ離れたことのような気がしました。そんなわけで,アメリカの医療や医学教育を実際にみてみたいと思っていたところ,昨夏,カリフォルニア州立大学サンディエゴ校(UCSD)で医学英語のコースを受講する機会に恵まれました。

UCSDの医学英語コースとは?

 このコースは,医学英語のマスターと会話能力の向上が目的の4週間のコースです。アメリカの医療システムや歴史・診断法・プレゼンテーション・代表的な疾患・サイエンス系の話題などが学習内容です。さらに課外自習として病院見学ができ,希望によっては病院実習や,救急車に乗ってレスキュー現場を見ることなども可能でした。参加者は,多くが医学生と医師で,他に歯科医,看護学生,生物学科生がいました。出身国は7か国にわたり,医療という同じ道に向かいながらもバックグラウンドの多様な13人で構成されました。
 医学英語といっても,terminology,臨床で使われる言葉,問診の取り方など多岐にわたりました。Terminologyとは,例えばpericarditisならperi-はaround,cardi-はheart,-itisはinflammationを意味し,inflammation around heart(心外膜炎)というように,単語の成り立ちから医学英語を学んでいくことです。発音練習も含め,看護婦だった先生が実経験のエピソードを交えながら進めてくれました。
 テキストは,解剖から臨床の分野ごとにまとまったものでした。内容はすでに大学で習ったものでしたが,これを英語で学び英語で考えるため,新しい知識を得ているような新鮮な感じがしました。同じものを学習するにも,日本語から英語と違うフィルターを通してみてみると,こんなにも違う受けとめ方ができるのだということに驚きました。

情報のinteractionこそが最も効率的な学習方法

 自己をアピールする大切さは,私が,参加型の授業形態の中で痛感したことです。授業の半分は,先生のリードのもとに進められたのですが,その中でも活発に意見が飛び交っていました。特に各々のプレゼンテーションでは,発表後にクラスメートとの意見交換を通して,より深い考察が重ねられました。
 例をあげると,自身のプレゼンテーションでは,postpartum psychosis(産後精神病)という神経症で,子どもを殺害してしまった母親Yatesさんについてとりあげました。以前は看護婦だった彼女は,産後にホルモンバランスを崩してこの病気になり,事件に及んだのです。精神的に障害をきたした人が罪を犯した場合の責任問題について問いかけると,何人かが各国の法の紹介を交えて盛んに意見を出してくれて,理解を深め合うことができました。
 ここで気がつくのは,このような時に盛り上がる意見交換がディスカッションの醍醐味なのですが,多様な意見が飛び交うのは,国際色の豊かな学生でクラスが構成されているからです。この点が,バックグラウンドが似かよった学生が多い日本と決定的に違うところです。日本でディスカッションを行なった場合,どうしても幅に限界があるような気がします。いずれにせよ,情報のインタラクションこそが最も効率的な学習方法なのだと痛感しました。
 同じことを医療の場でも感じることがありました。知り合いの先生の好意で,小児病院のカンファレンスに参加した時です。教授・医師・医学生の10人ほどで,担当患者の症例検討会が行なわれました。積極的に意見を交換し,その様子は今まで体験したことのないカジュアルな活気に満ち溢れていました。質問しやすい雰囲気で,上の先生方が質問に熱心に答えられている姿や,また,医学生がチームに戦力として参加している姿が印象的でした。先生→生徒という日本の教育システムに慣れている私にとってこれはとても新鮮な体験であり,同時に自分が慣れ親しんだ世界との違いに驚きました。
 病院見学は,2つの病院をそれぞれ1日ずつ視察しました。政府運営のサンディエゴ海軍病院(Naval Medical Center)とScripps Memorial Hospitalという市民病院です。海軍病院では軍という日本にない独特の空気に圧倒されましたが,どちらも清潔でシステムもよく,大変居心地がよかったです。医局や臨床現場をまわって,病院に勤めるさまざまな職種の人のお話を伺うことができました。しかし,やはりクラークシップなどで,月または週単位で実際に医療に携わったほうが,もっとよくアメリカ医療が見えてくると思いました。

世界の医学生たちと知り合える

 このプログラムのよいところは,クラスメートが世界各国から集まってきていることでした。クラスメートとの会話を通して,アメリカのみならず,いろいろな国について知ることができました。逆に日本についていかに自分が知らないかも自覚させられました。医学教育や医療の違いのみならず,各国の医学生の抱負や人生観を聞けたのは,貴重な体験でした。このようにインターナショナルなネットワークを作ることができたのは,大きな収穫だったと言えます。
 UCSDに行こうと決めのは,この大学が医学部も有する総合大学であり,同じ進路をめざすアメリカの大学生と知り合ったり,外国の医学生である私が参加できるプログラムやクラークシップについて情報を集めやすいと思ったからです。
 アメリカ人の知り合いを作るのは難しいかと思いましたが,本屋で立ち話をしたりというような小さなきっかけが続き,幸運にも何人かの医学生と知り合うことができました。彼らはMCATやUSMLEの勉強方法や受けた感想を教えてくれ,またUCSDでローテーションしているドイツ人医学生の話をしてくれたりしました。海外の医学生にもオブザーバーとして,あるいはクラークシップを通じて,アメリカの医療に触れる機会が思ったよりあることがわかりました。もちろんある程度の英語力は前提となり,また病院によりプログラム内容は異なるため,自分の望むものを自分で探していかなくてはなりません。私のエンドレスな質問に,みな親切に接してくれ,夢に向かって進む者を快く受け入れてくれるアメリカの懐の深さを肌で感じました。
 アメリカ人の学生についてまず気づくのは,彼ら1人ひとりが自分の個性を重んじ,それぞれが自分の方向性を強く認識していることや,生活をエンジョイすることに貪欲な点です。けれども,一緒に過ごす時間が長くなるにつれて,驚くほど共通点が多いことにも気づきました。国は違っても学生という立場は同じであり,学生生活の悩みや将来の夢には,似ているものもけっこうあるのです。自分の国の友だちと同じくらい心を開けるのは驚きでした。進路の相談をしていた時に,「それが自分にとって本当に価値があるならやるべきだ,Michi, it may be difficult, but it's not impossible.」という助言は,私にとって忘れられないものであり,このような友人を得たことは本当によかったと思っています。

さまざまな人々と交流し,世界の見え方が変わった

 この旅行を終えて,私が得たことは以下の2つに帰着すると思います。
 まず,多様な人々との交流を通して,今までと異なる角度から世界を見れたこと。世界は1つだけど,その見方は人の数ほどあり,視点を変えることによって世界は自分の前に違った姿を見せてくれるのです。また,自分が何をしたいのかを自覚して行動することの大切さに気づきました。拙い英語力にもかかわらず,このプログラムに参加したのですが,好きなことをしているという自覚は,数多くのハンデも負担に感じさせません。自分がしていることを楽しんでこそ,積極性と行動力が生まれ,人はそれを受け入れてくれるのではないかと思います。
 この期間中に出会った人々から多くの貴重な経験をさせてもらいました。ここで得た経験が,この先どのように影響していくのかはまだわかりませんが,いろいろなことを気づき考えさせられるきっかけとなりました。これを少しでも今後の人生に生かしていきたいと思っています。
 最後に,家族,英語のおもしろさを教えてくれた先輩方,かけがえのない友だちになったXiaomangとEdward,サンディエゴでお世話になった足利洋志先生,齋藤昭彦先生に心から感謝します。