医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


病院管理者にとってきわめて使い勝手のよい労作

病院経営のための在院日数短縮戦略
長谷川敏彦 編集/長谷川敏彦,加藤尚子,堀口裕正 著

《書 評》池上直己(慶大教授・医療政策管理学)

 医療環境は,日増しに厳しさを増している。病院管理者にとっては,自院の将来の方向性を見出すことが最大の課題となっており,急性期型病院をめざすなら,その最も重要な指標は,「在院日数の短縮」である。こうした観点から,本書は誠に時宜を得ており,「理論編」,「実践編」,具体的な事例を含めた「資料編」を1冊の本にまとめて,きわめて使い勝手のよい労作である。

「在院日数の短縮」は重要な指標

 まず「理論編」では,在院日数をなぜ短縮するべきかがマクロ的な健康変革や医療環境の変化の中で解説される。その中で,いかに「新入院患者」を増やせるかが大きなポイントであり,地域における疾患の発生率は大きく変わらないことから,限られた患者をいかに自院に確保するかが課題となる。そして,それが困難であったらダウンサイジングの必要性を指摘している。
 つぎに,「実践編」では,トップダウン式に経営戦略を練り,ベンチマーキングによる具体的な数値目標をかかげて経営者として取り組む必要性,およびそのための手段としてクリティカルパスおよび連携があげられている。
 最後に「資料編」として,28の公私の様々な病院における短縮の実践例が,院長などのコメントと短縮のポイントとともに掲載されている。また,現場として短縮化に取り組む上で不可欠な,疾患ごとの在院日数の全国値が示されており,編者らの研究実績が大いに役立っている。
 筆者の研究者の立場からは,国際比較をする際には,「看護職員」の定義や役割が国によって異なるので,職員全体で比較したほうが適切であった可能性がある点,クリティカルパスを導入しない(あるいはできない疾患)でも,作成しない限り減点の対象となる入院診療計画によって入院時より退院計画が可能である点などを指摘したい。また,例えば図3・12(本文57頁)で「長期ケア」に対応して「福祉施設」,「末期ケア」に対応して「緩和ケア病棟」にみられるように,施設ケアとしての取り組みに重きが置かれているので,改訂時には,在院日数短縮のための亜急性期在宅ケアの必要性についても頁が割かれることを期待する。しかしながら,病院経営の立場からすれば,本書は現在最も知りたい内容を網羅しており,医療にかかわる者全員に本書を勧めたい。
B5・頁176 定価(本体3,500円+税)医学書院


“最良のX線写真を撮る”を目標に馬場塾苦闘のドラマ

馬場塾の最新胃X線検査法
馬場保昌 編集/佐藤清二,富樫聖子,坂東孝一,松本史樹 執筆

《書 評》今村清子〔横浜市立市民病院がん検診センター,日本消化器集団検診学会・胃X線撮影法(間接・直接)標準化委員会委員長〕

 「プロジェクトX-挑戦者たち」というNHKのドキュメント番組が高視聴率を得ていると聞く。不況の世の中になって初めて,さまざまな夢をなしとげた無名の人々のドラマが,人の心を打っているのかもしれない。また,感動の涙の後に,何か1つの目標に向かって力を結集させると,とてつもなく大きな成果が上がることを,人々が改めて認識したからであろうか。この例えを借用させてもらうならば,今回,書評を依頼された『馬場塾の最新胃X線検査法』は,10年間にわたって“最良のX線写真を撮る”ことを一意専心のテーマとして挑戦し続けてきた馬場保昌という熱血漢の医師と,その指導のもとに馬場塾を支えてきた放射線技師たちのプロジェクトが織りなす苦闘のドラマとも言える。

くぎづけになる良質な早期胃癌画像

 とにかく一読していただきたい。少なくとも胃癌検診に一度でも携わったことのある医師,放射線技師の諸兄姉であれば,いたるところに掲げられた早期胃癌の画像にくぎづけになるであろう。間接撮影・直接撮影を問わず,これほどまでに良質な画像が描出可能になったプロジェクトの功績には頭が下がる思いがあるが,それも40年以上にわたる胃集検の歴史的背景を踏まえてのことであり,その記載を忘れていないことに対しても敬意を表する。しかし,現在普及しつつある高濃度・低粘性バリウムを使用した最新の撮影法は,二重造影像を主体としたものであり,発見疾患のターゲットは早期癌あるいは,進行癌の中でより早期の段階のものである。X線検査は,進行癌を見逃さなければよいとした時代は去り,“内視鏡に匹敵する”あるいは“内視鏡で見えるとは限らない”癌を発見する撮影方法の確立を迫られている。その目的を達成するために,2002年春には,消化器集団検診学会の新しい胃X線撮影法(間接・直接)の答申案が出される予定である。この本に紹介されている撮影法は,そのモデルの1つになるであろう。従来の充満像による辺縁の変化ではなく,微細な粘膜像の変化を捉える撮影法と読影法に慣れるためにも,病変の描出能の優れた写真に接する努力を怠ってはならない。また,撮影時の些細な注意やアドバイスもいたるところに述べられている。そのきめの細かさにも驚かされる。

払拭できる消化管造影に対する偏見

 狭い胃の中であるが,病変の病態は多彩である。現在,消化器診療の領域における内視鏡偏重は,画像診断の目からみるとバランスを欠いた部分がかなりある。X線画像の読影が未熟の状態での内視鏡診断は,危険である。この優れた書物が出版されたことにより,消化管造影に対する偏見を払拭できる多くの読者が出ることを期待したい。
B5・頁228 定価(本体4,700円+税)医学書院


タイミングよく発刊されたガイドライン

重症頭部外傷治療・管理のガイドライン
日本神経外傷学会 編集

《書 評》大和田 隆(北里大教授・救命救急医学)

 このたび医学書院から『重症頭部外傷治療・管理のガイドライン』が発刊された。本書は,日本神経外傷学会が中心となって作成されたものであるが,最近Evidence-Based Medicine(EBM)を基盤としていろいろな疾患で治療や管理のガイドラインが作成され,標準化された治療,管理をする方向性にある。
 1995年に米国のBrain Trauma FoundationからEvidence-Based Guidelinesが発表され,閉鎖性重症頭部外傷の成人例のGlasgow Coma Scale3-8を対象として,転帰に大きく関与する14項目について述べられている。また1997年にEuropean Brain Injury ConsortiumによってConsensus-Based Guidelineが発表された。主として,受傷現場からICUに至るまでの具体的な管理と治療法に関するものと,Neuro ICUでの集中管理に関するものである。

EBMに沿ってのガイドライン

 このような一定のEBMに沿っての重傷頭部外傷のガイドラインは,本邦に存在せず,救急医療のシステムからは,特に重症頭部外傷患者が搬入されてくる(救命)救急センターで仕事をする脳神経外科医や救急医にとって,そのようなガイドラインは強く待望されていた。
 一般に,重症頭部外傷についての治療や管理について標準化された一定のガイドラインのもとで診療が行なわれると,(1)治療の全般的な質の向上,(2)不必要な治療,管理の減少,(3)医療コストの削減,(4)卒前・卒後教育の充実,(5)共通したデータによる新しい治療法の開発や将来への研究テーマの展望が開ける,などが利点として考えられる。
 特に本邦では,重症頭部外傷は,(救命)救急センターに搬入されるが,脳神経外科のspecialityを有した救急医がすべての患者の治療,管理に対応しているとは言えない。むしろ初期治療は,脳神経外科学を研修していない医師が対応せざるを得ない例のほうが多いと言える。また,外傷を専門としているグループの「日本外傷学会」では,頭部外傷の臨床研究発表も少なく,外傷外科医の多くが今回発刊された「ガイドライン」を待望していた。

求められる標準化された治療・管理の確立

 本書は,このような本邦の救急医療体制の中で,(1)ガイドライン作成の緊要性に応えた書であり,標準化されることにより受傷早期の治療,管理により転帰の差が施設によって起こることの解消に役立つ,(2)本書は本邦独自の10年間の文献に基づいている,(3)脳神経救急の領域では,本邦初のガイドラインである,(4)内容がコンパクトで歯切れよく書かれており,ハンディサイズである,などの特徴を有しており,救急医療の第一線で取り組んでいるすべての医師に推薦したい。特に救急医,集中治療医,外傷医,開業医はもちろんのこと,脳神経外科医,さらには脳神経外科および(救命)救急センターにて臨床実習を行なっている医学生にもテキストとして推薦する。
 本邦の死因の上位に位置する「不慮の事故」の約半数が頭部外傷であること,そして受傷早期の治療,管理によって転帰に大きな差が出てくることを認識する時,本書のような「ガイドライン」がタイミングよく発刊されることに敬意を表したい。
三五変・頁112 定価(本体1,800円+税)医学書院


理学療法士としての専門的判断基準を提供

〈標準理学療法学 専門分野 全8巻〉
理学療法評価学

奈良 勲 監修/内山 靖 編集

《書 評》田中正則(国立療養所再春荘病院・リハビリテーション科)

 1999年に横浜での世界理学療法連盟学会を成功裡におさめたことは,わが国で理学療法士によって理学療法学が確立したことを証明する機会となった。2001年1月1日という新世紀のはじまりと同時に奈良日本理学療法士協会長をはじめ,臨床・研究・教育の第一線で活躍されている理学療法士の執筆による教科書シリーズが刊行されたことは,執筆関係者の卒前教育に対する熱意がうかがわれる。特に本書は専門家として行なうべき「評価」という行為を体験する学生が,臨床実習で取り扱いやすいように総頁376というボリュームの中に簡潔にまとめられており,実習指導者にもありがたい教科書であろう。

理学療法における評価の重要性

 本書では従来の検査・測定の解説本ではなく,理学療法士としての専門的判断基準を学生にも理解できるように工夫されている。
 まず,各評価項目に具体的な学習目標が設定してあることは,そのまま臨床実習に役立つであろう。また,理学療法評価で用いる特殊検査・冠テストおよび主な徴候の128検査を読めば,本書が掲げている理学療法専門領域のスタンダードが,いかに質の高いものかを実感していただけることであろう。
 さらに,特筆すべきは動作分析と日常生活活動を同じ章で取り上げていることであろう。学生は,本書を学ぶことで動作分析においては医療保健分野での運動障害評価の核として病態運動学が理解できるように,また日常生活活動は,介護保健分野でのサービス受給者の身体運動機能・精神活動・意志交換能力を包括的に評価できるようになるであろう。
 最後に学生諸君には,「統合と解決」の章で述べられている方法論としてのKJ法を実践して,問題点を解決する能力を身につけてほしい。

教育の自由化と社会から求められる専門家像

 旧厚生省は,1999(平成11)年に理学療法士教育の大綱の見直しを通じて,国家の役割の再考を行なった。履修カリキュラムの自由化は,教育・保健医療システムの諸問題を自らの力で解決するように,理学療法職域すべてに突きつけたのである。困難な時代にもかかわらず卒前教育,とりわけ臨床実習を実践することで,現代の専門家像を模索する学生・指導者諸氏には座右の書として推薦でき,一読されることをお勧めするものである。
B5・頁376 定価(本体5,800円+税)医学書院


クリニカルパス導入のためのたしかな指針

医師とクリニカルパス 臨床各科の実際例
小西敏郎,阿川千一郎,深谷 卓,坂本すが 編集

《書 評》武藤徹一郎(癌研附属病院副院長)

 最近でこそクリニカルパス(パス)という言葉は,医療関係者なら誰でも知っている用語になった。もし知らなければ時代遅れと笑われても仕方がないであろう。本来,工業界における品質管理,生産コスト管理のために用いられたクリティカルパスの概念が,医療界に導入されたのはごく最近のことであり,アメリカでのDRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)の導入がそのきっかけであった。医療界の流れの常として,アメリカから日本へと輸入されたこの概念は徐々に日本に広まり,クリティカルパスよりはクリニカルパスの名称で親しまれるようになってきた。癌研究会附属病院でも一部ながらパスが導入されているが,それも,本書執筆者の中心人物である小西敏郎博士の学会での講演を2年前に拝聴したのがきっかけであった。入院患者のほぼ100%が悪性疾患である癌研病院で,医療の標準化をめざすパスの導入が可能かという危惧があったが,看護部がすでに前から興味をもって準備を進めていたことと,医師の中にも導入に積極的な人が何人かいたことが幸いして,導入に成功し2年目を迎えようとしている。これも,小西博士をはじめとして何回か講演会を開き,病院見学も行なっての結果であった。
 導入までとその後の苦労を振り返ってみると,本書は実によく書かれた本であると感心するばかりである。導入時にこの本があればどれだけ有用であったかと思わざるを得ない。

役立つパス導入に必要なノウハウの数々

 本書は,NTT東日本関東病院のパス導入に直接携わった医師・看護婦が中心になってまとめられたもので,パスの概念,意義,メリット,デメリット(きわめて少ない)が詳しく記述されている。パス導入・作成の実際を医師と看護婦の立場から述べ,具体的な内科系疾患,外科系疾患についての記述があり,最後にパスによる医療システムの変革についても言及されている。パスの導入に必要なノウハウの,ほとんどすべてが含まれていると言っても過言ではない。著者らも指摘しているように,パス導入の最大のメリットは,医療人の認識向上と医療システムの変革にあり,治療法の単なるマニュアル化ではないことは明らかである。それは情報公開と,医師・看護婦の協調によるチーム医療の遂行によってもたらされるものである。NTT東日本関東病院でも,病院長の強力なリーダーシップのもとに,医師・看護婦・事務が一致協力してパス導入が行なわれた様がよくわかる。これからパスの導入を計画している施設は,本書に記載されている疾患別パスの実例をそのまま取り入れることから始めるのが早道であろう。ただ胃癌・食道癌のパスがあるのに大腸癌のそれがないのは気になったが,おそらく紙面の関係で除かれたのだろう。

パス導入とその継続は必須

 著者らも指摘するように,パス導入の最大の障害は,医師の反対または無関心であるが,これは著者の病院でも経験していることである。しかし,今後わが国の病院が患者中心の本来の病院としての機能を取り戻すためには,パス導入とその継続は必須のものになるであろう。
 本書はパス既存の有無を問わず,あらゆる病院の医師・看護婦にとってクリニカルパスに関する確固たる指針を示してくれる名著である。
A4・頁160 定価(本体3,000円+税)医学書院


対応の難しい患者の医療面接のコツがいっぱい!

困ったときに役立つ医療面接法ガイド
困難な医師-患者関係に対処するコツ

Frederic W. Platt,Geoffrey H. Gordon 著/津田 司 監訳

《書 評》福本陽平(山口大医学部附属病院教授・総合診療部)

 三重大学医学部附属病院総合診療部教授の津田司先生が監訳をされた『困ったときに役立つ医療面接法ガイド 困難な医師-患者関係に対処するコツ』は,『Field Guide to the Difficult Patient Interview』(Frederic W. Platt, Geoffrey H. Gordon)の翻訳書であり,副題にもなっている“困難な医師-患者関係に対処するコツ”のハンドブックとして,日常診療で役に立つ本である。
 良質の医療を行なっていくために必要な「良好な医師-患者関係」の構築には,十分なコミュニケーション能力を身につけておくことが必須の条件である。しかし,わが国の医学教育においては,コミュニケーション技能や医療面接法を修得するための学習が,これまでほとんど行なわれてこなかった。欧米でも,最近になってようやくこの分野の研究が急速に進展し,医療面接法の必要性についての理論的根拠が提出されるにいたっている。
 良好なコミュニケーションは,患者の満足度の向上のみならず,正診率や治療効果(アウトカム)の改善,訴訟問題の減少などに結びついてくる。そこで,このコミュニケーション技能や医療面接法をいかにして学び,さらに磨いていくかが臨床医として診療を行なっていく上で重要な鍵となる。

日常診療で役立つ医師と患者の対応のシナリオ

 医療面接法の基本的技能についての教科書は,すでにいくつか出版されているが,実際の診療において医師が神経をすり減らし,精神的な負担を感じるのは,対応の難しい患者(difficult patient)である。本書ではまず,効果的な医療面接の基本から始まり,診断や治療について医師と意見が合わない患者や,これまでの診療に不信感をもっている患者といったdifficult patientへの対応の仕方へと進んでいく。また,怒りをもって診察室に入ってきた患者や,悲しみや恐れを抱いている患者,あるいは悪い知らせをいかに伝えるかなど,患者の感情面への対応の手順についても記述されている。さらに,身体症状化(somatization)を示す患者や,ターミナルケアの場面での医師の態度など,病気と喪失に関する問題が述べられ,治療方針を守らないノンコンプライアンスへの対応や,家庭内暴力,飲酒の問題など日常よくみられるケースに対する指導法が紹介されている。最後には,症状のリストを作る患者や文献をもってくる患者など,最近の医療環境の変化による問題にも及んでいる。
 いずれの項目についても,医師と患者の対応のシナリオが書かれ,その場面における問題点や患者へのアプローチの原則,面接を円滑に進めるための技法,避けるべきこと,簡単なポイントが提示されている。すでにこのような患者を担当している場合はもちろんのこと,これまでにそのような経験のない医師もいつ困難な場面に遭遇するかわからないので,対応の難しい患者との医療面接にも方法やコツがあることをあらかじめ知っておくことは大切である。本書は,日常診療に携わる医師のみならず,看護婦や薬剤師などの医療関係者にもぜひ推薦したいテキストである。
A5変・頁248 定価(本体3,400円+税)MEDSi