医学界新聞

 

新シリーズ《女医のキャリア・アップと生活を考える》第1回

【覆面座談会】

女性研修医は語る―――仕事と生活 この現実


 先ごろ発表された2000年度の医師数調査によれば,29歳以下の医師の女性比率は30.9%に達し,初めて3割を突破した。今後も女性比率が上昇するのは確実であり,医学・医療界でもより一層の女性医師の活躍が期待されている。
 しかし一方で,高い専門性を持ち,使命感も要求される医師は,厳しい研修や勤務に従事しなければならないため,家庭生活に十分な時間を割けない状況もある。特に女性医師にとっては,妊娠・出産をどう迎え,夫とともに育児にどう取り組むか,ということは大きな問題であり,悩むところでもある。
 そこで本紙では,シリーズ「女医のキャリア・アップと生活を考える」を企画し,今後数回にわたり掲載していくことにした(不定期)。第1回は,医師としてのキャリアを積み始めた4人の女性研修医に,現在の「仕事と生活」について率直にお話いただいた。

座談会出席者
A美(某国立病院研修医2年・ローテーション中)<司会>
B子(某国立病院研修医2年・産婦人科)
C代(某大学附属病院研修医1年・外科)
D奈(某医療センター研修医1年・ローテーション中)


多忙な研修生活の中でプライベートは大切

A美 私は,医学部の5年生ぐらいまで,研修医というのは24時間を患者さんに捧げて,病棟を走り回っているものだと思っていたのですが,実際にポリクリが始まってみると,「今日は,友だちと約束があるからちょっと朝から飛ばすかな」とか言って,ガーッと仕事をやり,7時ぐらいには帰ってしまう先生がいて「なんてひどいんだ!」と思った時期がありました。
 ところが,自分が研修医になったら,「やはり,プライベートも大事だ」ということを実感しています。
B子 私もプライベートは重要だと考えていて,用事がある時にはなんとか自分の時間を作るようにしています。次の日に「なんでやってなかったの?」と言われるようでは駄目ですが,きっちりと仕事をやったうえであれば,何も言われないと思います。
C代 私は外科ですが,外から思われているほどには仕事は大変ではありません。案外夜に呼ばれることもないですし,思ったよりは楽な感じです。ただ,夜は遅いです。もうちょっと自分の時間がほしいと思うんですが……。自分の要領の悪さを責めてしまいますね。
 朝は7時前に行くことも少なくなく,夜は早い時でも8時……,遅い時は,手術の後処理があったりするので,気がつけば「終電逃した!」ということも(笑)。

どちらがいい?
主治医制と当直医制

A美 土日はみなさんどうですか。
B子 私のところは当直医制なので,自分が気になる患者さんがいれば行きますが,デューティではありません。
A美 いいなぁ。基本的には呼ばれないのですね。
D奈 私のところは主治医制ですから,「担当している患者さんは基本的に診に行かなくては」というところがあります。診療科によっても異なりますが,土日でも朝から行って夕方まで,夜までいる時もあります。休日は基本的にないですね。
A美 私のところでもないのが基本です。
 勤務のシステムには当直医制と主治医制がありますが,アメリカは基本的に当直医制をとっていますね。だから5時になったらすべての患者さんを当直医に申し送って,例えば5人チームであれば,あとの4人はポケベルを切って帰宅できて,明日の朝までは呼ばれないという時間がある。その代わり,4日に1回は当直が回ってきて,当直中は外来も診なければいけないし,病棟の急変も診なくてはならないため,すごく忙しい……。
 しかし,研修医の私生活を守るにはよい体制です。その体制の導入がなぜ日本では進まないのか。文化の違いもあるのと思うのですが,どう思われますか。
C代 そのようなアメリカのやり方には憧れるけれど,何かひっかかります。ポケベル切って,「はい,プライベートです」と言われても,「大丈夫かなあ」と,かえって気にしてしまうかも。
 いまは,ポケベルや携帯で,何かあったら連絡がくるから,逆に,「いざとなりゃ連絡くるでしょ」ぐらいに構えられる。呼ばれなかったら安心もできる。ポケベルを切ってしまって,次の朝「まあ,大変!」というのは嫌だというのが,私の本音です。
D奈 当直医制では十分に対応できないという,人手の問題もあるのかなあという気もします。

仕事上で「女性」を意識する時

A美 ところでみなさん,忙しい研修の日々の中で,自分が「女性の医師」であるということを自覚する時って,あります?
C代 患者さんに,「看護婦さーん」って呼ばれた時(笑)。
B子 私は何回も呼ばれれば,「看護婦ではありません。医師です」と言います。
C代 私は,「何でしょうか?」と返事するタイプです。「では,看護婦さんに申し伝えますけど」って言うと,かえって患者さんに恐縮されて……。
D奈 私も,自分が医師だということをちゃんと患者さんにわかっていただけたらよいと思っています。仕事上,看護婦さんだと思われてしまっては困りますから。
A美 なるほど。私の場合は,お昼を食べながら結婚の話題などになると,「私って,そういえば女医さんだった」と思うことがあります。普段は,あまり女とか男とか,感じていないのですが……。
D奈 確かに感じていない時が多いです。
A美 しかし,まだ「女医さんは心配」という感覚の患者さんもいますね。
B子 私は産婦人科なので,基本的に患者さんは好意的ですが,稀に直接的ではないけれど,そう思っているのではないかと感じることがあります。
D奈 「そうは思わせないぞ」っていう気持ちがこっちにはあるのだけれど,例えば,年配の患者さんだったらそう感じてしまうこともあるでしょうね。改善できるものでもないので仕方がありません。
C代 そう思う人は思うから……。

医療界はセクハラに寛大?

A美 ところで,一般の会社だと,未婚の女性に対して,結婚の予定とか,結婚のことを話題に出すのは,ある種セクハラに入ると言われているようですが,一方で,医療界は,基本的にセクハラに関してはものすごく寛大ですね。
C代 寛大(笑)。
B子 そういう話題って多いですよ。
A美 下ネタとか,けっこう飲み会で言う先生も多い。そういうのセクハラになるんですよね。訴えられる対象になるのだけど,私たちは,それでからかわれるのは当たり前のような現状があるのは確かです。
D奈 まあ,別に嫌じゃないし……。
C代 別にかまわない。
A美 私は,けっこう嫌な時があるけど……。すこし話がずれますが,ある大学病院の外科系の医局では,外科医としては難しい症例も診たいのに,結婚するとそれが優先的に同期の男性に割り当てられるようになってしまうとか。
B子 それは,結婚したから? 子どもができたというわけではなくて?
A美 「結婚したらどうせ子どもを産んで辞めるんだろう」ということだそうです。私も一時期その科に進むことを考えたことがあったのですが,その先生に,「そういう現状に耐えていけるのだったらいらっしゃい」と言われました。
D奈 ひどい話ですね。
A美 女性に対する差別のようなものは,私たちの身近なところではだいぶ減っていますが,古い体質が残る医局にはいまだに残っているようですね。

変わってほしい男性側の意識
深まってほしい研修医への理解

C代 最近,かわいそうな話を聞きました。ある外科系の医局でのことなのですが,男性の先輩医師が後輩の女性医師に好意を寄せ,付き合いが始まった途端,突然,掌を返したように,「やっぱ,女は皮膚科か眼科じゃなくっちゃな」と言われたそうです。
A美 結構そういう話は聞きますね。
D奈 それに似たことを言う人は多いですよ。
A美 実際,学生時代に彼氏から「皮膚科とか,眼科に行く気ない?」と言われたこともあります。皮膚科や眼科のような,比較的,生活と仕事のマネジメントがしやすい診療科を選んでくれたら嬉しいということを,医学生の彼女に言う男性は少なくない。
B子 家庭も仕事も両立したいから皮膚科や眼科を選ぶ人がいても,それはその人の生き方だから構わないと思いますが。
A美 「女は眼科か皮膚科」というような考え方を持たれるのは問題。基本的にどの科でも活躍すべきだと思います。また男性には,「女性は家にいてほしい」という考えの人が,まだまだ多いのは残念な気がします。そう考えると,自分が女性であり,医師であることによる不利や困難は仕事上というより,むしろプライベートで生じている気がします。
C代 世間の女医差別が……(笑)。
A美 女医さんだからって引いてしまう医師以外の男性も多いだろうし……。
D奈 デートの最中に,「あ,ごめん。呼ばれた」と言って引き返していく人をみてどう思うか?!。
A美 そう。それを,「しょうがないね」と思えるか……。研修医の状況を理解してくれる人は,非常に少ないでしょうね。看護婦さんの仕事が大変だということは,メディアでも取り上げられるのに,研修医の生活の大変さについてはまだまだ世間に理解されていないと思います。
D奈 「(当直)明け」があるし,休みでも呼ばれるし,しかもこの安月給……。
C代 「研修医の過酷な労働実態が入院して初めてわかった」と患者さんによく言われます。「(勤務形態が)看護婦さんとまったく違うんだね」と驚かれます。
A美 世の中の認識がすごくずれていると思います。女性医師に対しても,研修医に対しても。楽してると思われがちで……。
C代 「お給料,いっぱいもらっているんでしょう?」とか,患者さんにはっきり言われて,「私,ボーナスも有給休暇もないんです」「エッ!月給いくらなの?」「言わせないでください。言うと愚痴になりますから」って(笑)。

休暇は月に0-4日,施設・診療科で大きく異なるその実情

A美 ところで,みなさんは自分の病院の有給休暇制度や結婚,出産に関しての休暇制度などを知ってる?
C代 知らないです。
A美 私も知らないです。ヤバイよね(笑)。
C代 そういうことはどこの誰に聞けばいいのでしょうか。医局長? 果たして知っているのかというと不安です。
D奈 でも,病院によっては,施設や医局の紹介文書にちゃんと書いてあります。
C代 私は見たことないです。
A美 一般の会社では,どこの部署でも共通の規則があるようだし,有給休暇は年に最低10日は出さなければならないことが法律で決まっています。生理休暇もありますよね。出産の休暇ももちろん産前/産後それぞれ6週/8週あるはずです。
B子 病院もきっと同じように定めているはずです。
C代 ただ,実際それが気持ちよく取れるかというと怪しい気がしてならないなあ(笑)。
A美 一般企業だと,就業規則とか,労働協約という形で明記されているようなのですが,見たことないですよね。そういう規則を知らせない病院側も問題ですが,知らないで平気な私たちにも問題はある。
 でも,現実的には,そもそも休暇なんて取れないですよね。
C代 うちの科は,3チームでローテーションを組んで休暇を取っています。
A美 何日ぐらい取れるの?
C代 多くて,月に2日です。
A美 いいですね。私のところは基本的に,毎日出勤しています。まあ,土日は検査とかがないので,午前中で帰れる時もありますが。
D奈 同じです。
B子 私はたいてい,土日のどちらか,月に2回は当直が入るので,土曜日に入ると日曜日の朝までいて,そこから当直明けだから日曜日も診ていると,結局,土日はずっといたりすることにはなりますが,土日のどちらもいない時もあります。あるいは,土曜日の午前中に行って,「日曜日はお願いね」という時もあります。つまり月4日くらいは休めますね。
A美 それだったら1泊2日で,どこかへ出かけられる! いいなあ,ずるい(笑)。

病気の時はどうする?

A美 病気をした時などはどうですか? 程度にもよると思いますが,私の場合,熱がちょっとあるくらいだったら,ふつうに病院に行って,坐薬を入れていつもどおりに仕事をしています。でも,1度,「どうも調子がおかしい」と思ったら,40度の熱があって,その時は先生が気を利かせて入院させてくれました。
 ふつうにいたら絶対に仕事を振られるし,休むと雰囲気が悪くなる。そこで入院することになったわけです。
C代 私は,1度,朝から少し具合が悪いなと思っていて,朝から手術に入ったら,目の前がクラクラしてきました。「ヤバイ」と思ったら,術者の先生が「おまえ,大丈夫か?」と気付いてくれて,「駄目みたいです。なんだか寒いです」と返事をしたら,「手を下ろして休んでていいよ」と言ってくれたのです。でもその後,そのままひっくり返ってしまいました。4時間くらい意識が半分飛んでいて,もちろん仕事にならず,当直室で布団を引っ張り出してきて,気がついたら,オーベンと看護婦さんに笑顔で点滴されて……。
D奈 そういう時は,上の先生が気を使ってくれるという感じですね。
A美 病気なのに,無理やり引っ張りまわすことはないですね。思ったよりは,具合が悪い時に休ませてくれたり,「早めに帰っていいよ」と言ってくれたり,気を遣ってくれていると思います。

仕事と結婚・出産・育児

A美 さて,次に研修中に結婚や出産は可能かということを考えてみたいと思います。私のところでは,結婚した人はいますが,出産した人は聞かないですね。結婚の場合,結婚式の休みと新婚旅行ぐらいですから,その程度の休みは取得できます。
C代 私の病院は2週間くらい取れるようです。
A美 すぐに復帰できますから,夏休みと同じ感覚で結婚はできそう(笑)。でも,これが出産となると,話はまったく別ですから心配ですよね。
 両立は可能だと思いますか。
C代 うーん。科によるけれど,研修医の間は無理そうですね。
A美 これは,研修修了後の話だと思うのですが,ある教授になった先生は「完全にどちらも自分の理想を実現させようと思ったら無理だけれども,片方が大変な時は,もう片方は低空飛行ということを覚悟して,完璧よりも両立することを第一に考えれば必ずできるわよ」と言っていました。産婦人科ではどうですか?
B子 仕事もキャリア・アップをめざしてやり,かつ育児もしっかりやろうとしたら,やはり研修中はもちろん,研修修了後であっても難しいと思います。ある程度,親に協力してもらえるとか,そういう状況があれば可能だと思うのですが。
D奈 私は,1年でも3年でも状況に応じて休んで,それからまた復帰できればかまわないと思っています。復帰できるかどうかは,また自分自身の問題ですし。
A美 施設によると思いますが,小児科で3年間完全に休んで戻ってきた先生がいます。しかも育児中なので5時にはお帰りになられています。施設によってはこのような勤務も可能なようです。
B子 外科系だと,例えば私がこの2年の研修後に出産のために辞めて,3年間育児のために休んで,その3年後にいまの生活に戻れるかといったら,きっと戻れないと思います。技術的なこともあるし,体力的なこともあります。そう考えて「では,認定医を取るまでは……」とがんばっていると,30代にはなってしまいますね。
C代 内科でも厳しいですよ。私の母親は内科医でしたが,私は生後半年から幼稚園に入るまで,祖父母にあずけられ,親とまともに暮らしていません。出産・育児と重なる30代はどの科でもキャリア形成に重要な時期だと思うので,非常に難しいと思います。

我慢せずに必要なことは主張しよう

A美 どんなに出産や育児をサポートする社会的な制度がよくなっても,完璧に両立は無理ですよね。経験がものを言う職種だから,現場を離れた時点で,技術的,知識的に劣ってくる面があります。しかし,法律や制度によって守られ,柔軟性のある職場が増えれば,ストレスなく休暇が取れるということはあると思うんです。
D奈 確かに,休暇を取りやすいとかなり違うと思います。必要な時には取るのが当たり前,というふうになるとよいのですが。
C代 「女性だから…」というのは,出産にかかわることではどうしても出てきますから,それは仕方のないことですね。
A美 結婚・出産・育児については,ぜひ先輩医師に聞いてみたい点ですね。私たちは結婚もしていないし,出産もしていない。そのような局面を経た先生方のお話を聞きたいですね(→【編集室註】本シリーズでは今後,先輩女性医師のご意見などを紹介していく予定です)。
 研修医の生活は楽ではないし,女医として出産・育児とキャリア・アップを両立させるのも難しいですが,例えば育児や出産をサポートする社会の法律や制度,資源などを知らない医師・研修医が多いのもよくないと思います。私たちが権利を主張しないから医療界や社会が準備しようともしないとも感じるのです。「どうなっているんですか?」と訪ねる人が増えていったら,「これはまずい」と思いはじめて,少しは体制が整備されるのではないかと思います。
 過労死など,深刻な問題も報道されています。そして報道されている以上に過酷な労働を行なっている医師・研修医が山ほどいます。医師である前に生身の人間ですから,健康な生活が送れるような体制は必要ではないでしょうか。研修医の側も我慢してばかりでは危険です。働き方にしても休暇にしても必要なものはどんどん主張したほうがよいのではないかと思いました。
 本日はありがとうございました。

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