医学界新聞

 

〔連載〕How to make

クリニカル・エビデンス

-その仮説をいかに証明するか?-

浦島充佳(東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室)


2469号よりつづく

〔第22回〕ストップ・ザ・狂牛病(6)

vCJDクラスター

 1998年11月,イギリス南部のQueniboroughで4人のvCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病)が発生し(その付近でもう1人発生している),うち3人が12週間という短い間に全員死亡した事実があります。市の保健所は地区の調査にのりだしました。なぜなら,全員半径5km以内に居住していたからです。そして,調査員は1人の患者に対して同じ年齢の30人をコントロールとし,1980年代の子どもの食生活からどこの店で肉を購入しているかなどインタビューしてまわりました。そして,共通点としてある1軒の肉屋が浮かび上がったのです。この肉屋では,自分の畜殺場で畜殺した牛を,週に3頭食肉用に解体していました。しかも,まず脳を分離した後,同じまな板の上で同じ包丁を用いて食肉を捌いていたのです。
 結局コントロールと比較して,この肉屋の肉を食することにより,vCJDに15倍罹患しやすいことがケース・コントロール・スタディで判明しました。人数は少ないものの,このエピソードは真実を示しているようにみえます。しかし,vCJDの要因すべてを説明できるものではありません。

肉の種類とvCJD

 Cousensらはイギリスを4つの地区に分け,肉食品によるvCJDリスクについて検討しています(Lancet2001;357:1002-7)。 その結果は,肉そのものの料理より,バーガー,ソーセージ,肉ペーストを多く食べる地区でvCJD発症が増える事実を示していました。おそらく食肉は脳脊髄から遠いところが使用され,このような加工品では,その製造過程や味の問題等から脳脊髄を混入しやすい性質を有するのかもしれません。
 それでは,子どものほうがハンバーガーや肉加工食品を多く食べるからvCJDの発症頻度が若年なのでしょうか? それはちょっと受け入れがたい説明です。むしろ,脳も身体も成長期という子どもの生物学的特徴のなせる結果なのではないでしょうか? 前回示した通り,狂牛病感染のウインドウタイムが1歳以前だとすると,人間でも乳幼児期に感染している可能性が考えられます。
 また,彼らは従来型のCJDがイギリス北部南部で均等に分布しているにもかかわらず,vCJDは北部に多く(2倍)みられる点を指摘しています。スコットランドを含むイギリス北部では,ハギスという牛の脾臓など諸々の臓器を一緒にして食べる料理があると聞きます。イギリスの北と南で肉料理に違いがみられるかもしれません。また,イギリスのハンバーガーでは1%の割合で脳脊髄を使っていたとする風評もあるようです。

vCJD発症年齢からの考察

 ヨーロッパでのvCJDは100人を超えました。をみてもわかるとおり,vCJDとCJDとでは完全に発症年齢が分離しています。すなわち,vCJDは若年者で,CJDは高齢者で発症しています。しかし,最近は70代のvCJDの報告もあり,高齢者では病理解剖がなされにくい現状が影響しているのかもしれません(観察バイアス)。
 vCJD発症平均年齢が26歳であるとすれば,長くて平均潜伏期はせいぜい20-30年であり,もしそうだとするとすでに狂牛病がピーク時より10分の1以下に減少したイギリスでは,今後3000人のvCJDが予想されます。仮に潜伏期間が20年以下だとすると,600人程度ですむかもしれません。vCJDのピークが過ぎ,年間発症率が減少しはじめれば,今までの仮説が大筋で正しいことになり,現状を維持すればいずれvCJDの発症をみなくなるはずです。
 しかし,日本でどのような結果が待っているのかは,現在のところ誰にもわかりません。